好きバレした掛田さんが可愛いすぎる話   作:冷泉七都

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第10話 スタディー・ウィズ

 七月上旬の木曜日――。

 掛田さんとの関係は変わらず、知り合いのクラスメイトのままだ。

 

 来週の月曜からは期末テストが始まるから、新聞部の部活がない。

 だから、放課後を告げるチャイムが鳴るとすぐに帰ろうと思ったのだが……。

 

「晴路、今から暇? 暇だよね」

 

 自席で帰る準備をしていると、夏実がやってきて唐突にそう聞かれた。

 拒否権はないのか――。

 

「まぁ、暇だけど。どうかした?」

「私教室に残って勉強するんだけど、どうせなら一緒にしないかなって……」

 

 教室の中央を見ると、チラチラとこちらを確認してくる掛田さんがいた。

 多分――いや絶対、掛田さんと三人でっていうオチ。

 テスト前だとしても、夏実や掛田さんが真面目に勉強するイメージがなくて不思議に思うけど、どうせそういう理由だろう。

 

「別にいいけど」

「やっぱ晴路はわかってんねっ」

 

 親指を立ててサムズアップする夏実。

 何に対して分かっていると言ったのか――。

 気になったけれど、聞くほどではないな。

 

 じゃ――と言って、夏実は掛田さんの元へ戻っていった。

 

「晴路、良いってさ」

「まじっ? 最近関わることなかったし、やっぱ夏実は天使っ」

 

 さほど耳を澄ませていない俺にも聞こえるくらいの声で、掛田さんと夏実が会話している。

 わざとなのか、わざとでないのか。

 おそらく気づいていないのだろうけど、やめて欲しい。

 

「そろそろ風花から話しかけたりしたら? 私に頼りすぎてても、じゃない?」

「それはそうだけど……」

「だけど?」

「わたしから言うのは恥ずかしいっつーか……」

 

 照れている様子で俯く掛田さん。

 それを夏実が「可愛いなー」とあやしている。

 

「掛田さんどうしたんだろ?」

「ほんとだ、顔赤いし……」

 

 クラスメイトの男子たちが掛田さんのことで話しているのが聞こえた。

 確かに掛田さんの顔は赤い。

 

「なんかいつにも増して可愛いな」

「あぁ」

 

 思わず「だろ」とか言っていまいそうだ。

 俺と掛田さんの関係は、他の男子たちと同じだというのに。

 しかし、俺は不思議と嬉しい気持ちになった。

 特権――というもの、特別――というものを感じた。

 

 そう言えば――。

 ふと累のことを思い出して探してみるが、すでに教室にはいなかった。

 夏の大会があるとか、そんな話をしていた気がする。

 だから、今日も部活三昧なのだろう。

 累は俺よりも偉くて凄いな――そう感じた。

 

 

   / / / / /

 

 

「そこは、こうやって、こうやるの」

「なる、なる……。やっぱ、夏実分かりやすい」

「でしょ」

 

 尊敬の眼差しを向ける掛田さんに、夏実は自信満々に言った。

 だけど、なぜかムカつくとかはない。

 夏実の性格のおかげだろうか。

 

 三人以外いなくなった教室で勉強を始めてから一時間ほど――。

 すぐに気が散ってしまい、他のことをしてしまいそうと俺自身も思っていたのだが、俺たちは休むことなくひたすらできている。

 

 意外と言れば失礼だけど、意外と夏実は賢くて、俺が分からなかった数学の問題をいとも簡単に解いて、解説してくれた。

 小学校のときからは想像もつかないくらいだ。

 

「ごめん。そこの消しゴム、取ってくれる?」

 

 夏実が俺の右前にある消しゴムを指さして言った。

 いつのまに、こんなところに転がってきていたんだろう。

 

「あぁ」「うん」

 

 俺が消しゴムを取ろうと手を伸ばすと、同時に掛田さんの手も伸びてきた。

 そして、俺と掛田さんのちょうど中間地点で手がぶつかった。

 

「「あ」」

 

 軽く当たっただけで痛くないのだが、掛田さんと触れてしまったから声が漏れた。

 恥ずかしさを紛らわすために、夏実に謀ったなと目線を向けた。

 しかし、夏実も意図していなかったのか、口を手で塞いで驚いている。

 

 俺は次に、掛田さんに視線を移してみる。

 すると掛田さんは、自分の手を見つめているだけだった。

 こんなことは全く気にしなさそうな掛田さんが、固まってしまって何も言わないから、俺はもっと恥ずかしさに見舞われた。

 

 しーんとした空間を一番に破ったのは夏実だった。

 

「風花も晴路も、そんな顔を赤くしなくても……」

 

 俺はなんの言葉も返せなかったのだが、掛田さんは「いや――」と否定した。

 自分の左手を長く見つめて、沈黙を少しつくってから――。

 

「しょうがないじゃん……」

「「ん――?」」

「割ヶ谷の手に触れちゃったんだしっ! こうなるのも仕方ないっつーかっっ!!」

 

 まあまあの大声だった。

 夏実は思いもしない返しだったからだろう、持っていたシャーペンを床に落とした。

 俺も、こんな割り切るなんて思いもしなくて、苦笑いしかできない。

 

「割ヶ谷と隣にいれて、そもそも嬉しいのに……」

 

 掛田さんの声はいつも通りに戻って言った。

 

「割ヶ谷だって、分かりながら来てるし――。……二割ぐらいなら、ワンチャンあるってことっしょ」

「まぁ……。そう、なの……かも――?」

 

 痛いところを突かれて俺は、しどろもどろになってしまう。

 夏実は頭を抱えている。

 

「割ヶ谷もそんな()()じゃないでしょ」

 

 有無を言わさない気迫に、嘘は吐けず、俺は頷いた。

 俺は夏実の計画も、OKしたらどうなるかも分かりながら、ここに来た。

 

 言いたいことを言い終わったのか、掛田さんも黙ってしまった。

 俺も夏実も、どうすればいいのか分からず黙るだけ。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「そうだ、思い出した」

 

 夏実はそう言ってカバンに教科書やノートを詰め始めた。

 そして五秒も経たずに立ち上がってイスをしまう。

 

「じゃ、用事思い出したから」

 

 夏実は、教室をそそくさと出ていった。

 俺は今までで一番、夏実に近くに居て欲しいと思った。

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