好きバレした掛田さんが可愛いすぎる話   作:冷泉七都

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第29話 おめでとう

 キーンコーンカーンコーン――とチャイムが鳴り、席替えとロング()ホーム()ルーム()は終わりとなった。

 いつもなら昼休みという時間だが、今日は二学期初日ということで、もう解散――放課後だ。

 

「晴路、夏実」

 

 すぐに風花はここにやってきた。

 夏実よりも先に名前が呼ばれたことに、内心すごく喜びながらもバレないように顔を取り繕って風花を見る。

 

「いいなー」

 

 風花が羨ましそうな表情をして、目線を向けるのは夏実の方。

 一瞬俺はどういう意味か分からなかったのだが、夏実は先に理解して言葉を発しはじめた。

 

「こればっかりは運だからね、許して」

「位置的には悪くないんだけど、なんか物足りなくて残念な結果だったっつーか」

 

 共感を求めるように、俺を見てくる風花。

 さっき夏実と約束を交わしたから、言わなければならない。

 もちろん、約束がなくても言うべきなのだが……。

 

「俺も残念だな、窓側の景色だけじゃ足りない何かがある」

 

 俺は風花の言葉を真似て言った。

 風花の目が、なんだか輝いた気がする。

 夏実が風花には見えないように、俺にだけ親指を立ててグーサインをした。

 

「席変われるなら、私、風花と交換したいよ」

「してほしいー」

 

 両手を風花に掴まれた夏実は、思わぬほど強い勢いに押し倒されそうになっていた。

 

「あー、そうだ。私、ちょっと行くとこあるんだった」

「ほんと? 時間とか大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、じゃあ行ってくるね」

 

 そして歩き出す直前、夏実は俺たちを振り返って見て、「風花、私のイスに座ってていいからね」と言い残すと、そそくさと教室を後にした。

 

 どこに行くのか聞きそびれた。

 何分掛かるのか分からないから、俺たちはここで待っておくべきなのかも分からない。

 あるいは、夏実は俺と風花を二人にしたくて消えていったのかもしれない。

 

 どちらにしろ、とりあえずはここにいることにしよう。

 

「そうだ、晴路。さっきの時間、夏実となに話してたの?」

 

 少し頬が膨らんでいる気がする。

 そしてそれが怒りっぽく感じて、嫉妬なのだろうか――という憶測が思いついてきた。

 そうだとしたら嬉しい。

 それとともに、風花を不安がってしまったという後悔が押し寄せてくる。

 

「なんでもないよ。特別なことは話してない」

「んー……本当かなぁ」

 

 そう言った風花は、「嘘吐いたらだめだからね」と付け加えた。

 それに耐えられず、秘密にすることでもないし、俺は少しだけ話した内容を伝えることにした。

 

「風花――って、下の名前で呼んでるのバレて、ちょっと色々言われた」

「あーね。夏実なら言いそうっつーか、わたしも実際に言われた」

 

 風花が笑って言ってくれて、俺は安心した。

 このままでは夏実と話すのさえ憚られるようになってしまいそうだったから、そこまで張り詰めた空気にならなくて良かった。

 しかし依然、教室では後ろから風花に見られる配置だから、過度に話しすぎるのは良くないと思った。

 

「そうだ、見て欲しい写真があるんだった」

 

 風花は服のどこかからスマホを取り出した。

 そしてタップやスクロールをしているのを3秒ほど待って、その画面が俺に向けられた。

 

 …………。

 

 俺と会わない間に行ったらしい場所や食べ物――だとか。

 無事、夏祭りのときに鼻緒で擦れた足が治った――だとか。

 そんな写真を見ていると、教室には誰もいなくなっていた。

 

「夏実遅いね」

 

 風花はそう言った。

 そのときちょうど、トン、トン――と足音が聞こえはじめた。

 

「用事終わったんかな?」

「でも夏実にしては足早くない?」

「確かに……」

 

 言われてみれば、かなり足音が違う。

 普段あんまり考えたことはなかったのだが、意外と違うもんなんだな。

 

 足音がだんだんと大きくなっていき、教室の半透明の窓に人影が見えはじめた。

 夏実よりも身長が高い、完全に別の誰かだと確信した。

 そして現れたのは――。

 

「晴路、と……風花」

「累――?」

 

 そう、累だった。

 知ってる人だとはまったく思っていなかったから、かなり驚いた。

 

「浅川、なにか忘れ物でも?」

「あぁそう。顧問に渡す封筒を机に入れっぱなしにしてたの思い出して」

 

 今の累は、野球部のユニホームを着ている。

 夏休み明け初日から部活があるとは、真面目ですごい。

 府大会で良い結果を残したのも、この努力の結晶なのだろう。

 

「累、準優勝おめでとう」

 

 机の中を覗こうとしゃがみ込んだ累にそう伝えると、顔をこちらに向けて「ありがと」と返ってきた。

 

「そっか、二位だったんだよね。すごいっ」

 

 風花も累に褒め言葉を言った。

 こんどの累は立ち上がって、俺たちに身体を向けた。

 

「ありがとう。あと一歩で悔しかったけど、みんなに話しかけてもらえて、嬉しいな」

 

 爽やかに言ってのけるから、俺は萎縮してしまう。

 

「充分だよ。府でそんな順位、なかなか取れないよ」

「そうか、ありがたい言葉だ」

 

 累は机から茶色の封筒を取り出した。

 そして累が俺にだけ手招きしてきた。

 

 俺が累の隣に行くと、耳打ちをされた。

 

「明日の放課後空いてるか?」

「空いてるけど」

「じゃあ、そのとき聞くから、放課後教室で待っといて欲しい」

 

 言葉足らずの言葉に、俺はきょとんとしてしまう。

 

「聞くって……?」

 

 それがなにに対してなのかわかったときは、すでに遅かった。

 

「風花に想ってる人がいるのか探ってくれてるんだろ。あんなに仲良くして」

 

 それだけ言うと、累は廊下へと消えていった。

 追いかければ解決する問題でもないから、俺はそのまま立ったままだった。

 

 明日、なんと言おうか――。

 

 そう悩んでいると……。

 

「晴路、なんて言われたの?」

「なんでもないよ。ただ、ありがとうって」

「んー、そっか」

 

 忘れ物を教室に取りに来た。

 聞き覚えしかないシチュエーションだと思った。

 

 もし、俺と風花と夏実のあの日――。

 あの日に教室へ来たのが俺ではなく累だったら、俺はここまで悩まずに済んだのだろうか。

 

 そんな無意味な思考をしてしまう。

 しかし少なからず、風花を好きになって良かった――それは思っておくべきだ。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 しばらくすると夏実が帰ってきて、そのまま俺たちは三人で帰路についた。

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