放課後になると、累はすぐさま俺のところにやって来た。
「どうなんだ――?」
「…………」
話しかけられて早々、その話をし始めるとはまったく思っていなくて、俺はすぐに言葉が出なかった。
「まぁ。こんな人がたくさんいる教室の中じゃ……、話しづらいよな」
「あぁ」
確かに、それはそうだ。
累は俺の考えとは違う方向で受け取ったが、その方が良かったかもしれない。
俺は、今どれくらい人がいるのか――と周囲に目を遣った。
すると、少し離れたところから、風花がこちらの様子を伺っているのに気づいた。
「じゃあ、場所移動するか?」
少し考えてから、累は提案して来た。
「そうしよう」
俺がそう言うと、累は歩き出した。
どこに行くのか分からなかったけど、俺はただついて行く。
教室から出るときに後ろを振り返ると、風花が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
歩くこと1分ほど――。
俺たちは特別教室が並んでいる校舎の最上階へとやってきた。
「ここなら、誰にも聞かれないよな」
「そうだと思うけど」
誰にも聞かれたくないのは、累だけでなく、俺もだ。
普段あまり人が来ない場所であるうえ、放課後で校舎にいる人も少なくなってくるから大丈夫だろう。
「でさ、聞いてくれたのか? 風花に好きな人がいるのか――」
俺は深呼吸をしてから、一度首を縦に振った。
顔を上げて累を見ると、なにかを噛み締めるような表情を浮かべた。
下の方から、なにかが割れる音がした。
この下は化学実験室があるから、ビーカーやフラスコを落としたのかもしれない。
「いるってさ」
俺はしっかりと言葉にした。
ジェスチャーだけじゃダメだと思った。
「はぁ……」
累は溜め息を吐いた。
それがどう言う意味か、俺には分からなかった。
すると累は「もしかしたら……」と、話しはじめた。
「もしかしたら、風花が好きなのは俺でした――とか。いや、そんなのありえないよな」
なんで、累はそんなことを思ったのだろうか。
いや、累が少しでもそう思っているなら、俺はそれに乗っかって「そうだよ」とか言えば良いんじゃないか。
「そう――」
「――でも」
俺の言葉に累の言葉が重なった。
そのせいで、累に俺の肯定は聞こえなかった。
それでよかった。
「でも、風花が俺を好きなわけないよな。一回振られてるんだし」
俺は勘違いしてしまっていたことに気が付いた。
なるほど、そういうことだったのか。
「まぁ……な」
そして累は自嘲しはじめた。
風花に好きな人がいなければ、あわよくばみたいな考えできたのに。
いざ好きな人がいると知ったら、絶対に無理だって実感が湧いてきて弱気になる。
それがなんだか自分でも嫌だ――。
そんなことを言っていた。
累は、そんなことばっかり考えていたらダメだな、と呟いて「風花を応援してあげないと」と言った。
俺は累がそんなすぐに諦めることを不審に思いながらも、頷いた。
「晴路は知ってるのか? 風花が好きな人の名前――」
やっぱり知っておきたいよな、好奇心だけでなく、応援したいと言うのなら。
今度こそ、本当のことを伝えられる瞬間だ。
しかし、そんなときにはさっきの勘違いみたいな手助けはない。
………………。
…………。
……。
なんと言えばいいのか……。
俺――と言えばうざいし、ムカつかれるし。
なにより、頑張れって言ってくれてたのに、それは嘘だったのか、と言われたらなにも言い返せない。
「まぁ、言わなくていいかも……な」
「……ぇ?」
「風花の行動を見てたら気づくだろうし――。今まで気づかなかったのは、俺がちゃんと風花を見ていなかったせいかもしれない」
今、風花は俺とやたら関わってくる。
それに累が好きな人と関連づけなかったのは、俺が風花からそれを聞き出そうとしていると思っていたから。
ならば、少し累に任せてしまう部分があるが、俺はこう言えばいいだろう。
「なぁ、累」
「なんだ?」
「俺、風花と関わっていくうちに、風花に対する思いが変わっていったんだ」
すこし気障ったらしい言い方になってしまったが、こういうのものだ。
「…………」
「だからもう、累を応援する気持ちで行動することはない」
「わかった。……頑張れ」
累は本当に認めてくれたのか分からないけど、一応は理解してくれたらしい。
「ごめん」
「いいよ。晴路の方が、俺よりも風花と仲良くできるだろ」
「そんなことないけど――」
俺がそう反応しても、累はいや違うみたいな顔をしてくる。
なにが、その思いを確かにさせたのだろうか。
「夏休みの間に、下の名前で呼ぶようになったのに?」
累のその言葉でハッとした。
昨日の夏実に対してとまったく同じことになって、注意不足だったと感じた。
「色々あったんだ」
「やっぱり、晴路の方が良いんじゃないか?」
「まぁ……」
流石に、これは否定できなかった。
廊下に響く足音は、微かにしか聞こえない。
窓から見える景色も、どこか遠い場所のもののように見える。
「「…………」」
そこから話は続かずに、どちらからとなくここの場所を離れることになった。
とあるフロアで、俺と累はわかれた。
累は野球部の練習があるらしい。
こんなにスポーツに熱心になる累の方が風花に似合っていると思う――なんて、とても言える状況じゃなかった。
だからそこ、俺は俺の気持ちを風花にしっかりと伝えようと思った。
明日じゃなくてもいいから、二年生が終わるまでには絶対。