風花を抱きしめて少し経って、どちらからともなく力が弱まっていく。
なんだか視線を感じる。
首を自由に動かせるようになって、周囲を見渡した。
……あぁ、やってしまった。
顔が熱くなっていく感覚がある。
風花も気づいてしまったのだろう、顔を赤くしている。
なにに気づいたのか――。
周りにいる二人三脚に参加したペア、もちろんカップルばかりだ。
だから三組ぐらいは俺と風花みたいに、抱き合って努力を讃えあっていると思ったのだが、そんな人たちは誰一人としていなかった。
そして、俺たちはみんなから注目を浴びてしまっていた。
「晴路、みんなに見られてるんだけど――」
「そうだな、絶対に……」
もう身体同士は触れ合っていないけれど、15センチくらいの距離で見合ったまま話す。
「一位になった
そんな実況をされた。
本当はカップルじゃないが、今度こそはそう勘違いされてもなにも言い返せない。
「いやぁ。こんな熱い
そんなことが耳に入ってくる。
もちろん、全校生徒に聞こえてしまっているのだろう。
俺も風花も、より一層恥ずかしくなっていき、爆発しそうなほどだ。
風花は抑えられなくなったのか――。
「わたしたち、まだ付き合ってないです!」
そう大声を出した。
学校の外まで聞こえる勢いがあった。
一瞬、ここらへん一帯が無音になる。
「なるほど、将来に期待ってことですねっ」
静寂を切り裂いたのは、放送部員だ。
「では、二人三脚に参加した生徒は、もとの場所に戻ってください」
そう言って二人三脚は終了した。
俺と風花は立ち上がり、緑ブロックがいるスペースへと歩いていく。
あんな姿を見られて、解説までされて、クラスメイトからなにを言われるのか心配でしかない。
「はぁ、ほんとに……。晴路に抱きついちゃったわたしが悪いのかもしれないけど……」
「まぁまぁ」
風花が愚痴っぽく呟いたから、俺はそう宥めるように返した。
「二人とも、大胆だねー。みんなの前で、あんなことするなんて」
夏実がからかって、そう言ってきた。
顔はニマニマしていて、近所にいるすごくお節介なおばさんみたいな感じになっている。
「他のペアもしてると思ったんだよ」
俺はぶっきらぼうに返した。
「へぇー。それで風花と晴路だけだったんだ、してたの」
「一位ってわかった瞬間、嬉しい気持ちが抑えられなくなっちゃったの」
風花がそう言った。
それは言い訳にはならない気がする。
余計に、俺たちの関係が勘繰られる原因になりそうだ。
今も周りで聞き耳を立てている人たちが、何人もいるし――。
「晴路も嬉しかったんかな?」
夏実はここぞとばかりに、弱いところを突いてくる。
「まぁ。そりゃな、何回か二人で練習してたし、その成果が出たんだから……」
そう言っている途中、夏実が不思議そうにし始めたが、どこか変なことを言っただろうか。
「練習ってさ、体育のときしてたっけ?」
「あー……」
「晴路、夏実には言ってないの――」
「なるほど」
二人で秘密裏にしていたことは、夏実は知らなかったのだ。
「隠れてしてたんだ。みんなから見えないところで」
風花はそう言った。
風花の家での出来事は隠しておくつもりだろう。
「あぁ、そうなんだよ」
「ふーん……」
夏実は気に食わなさそうに相槌を打ってから、「まぁ、一位おめでとうっ」と言い放った。
あの二人、最近仲良いよね……。どうなんだろう――?
付き合ってないとか言ってたけど、本当かな――?
掛田ちゃん、まだとか言ってたから、そろそろってことかな――?
ってことは、風花ちゃんの方からってこと――!?
夏実との会話が終わると、周囲の人々が俺たちのことを話しているのが聞こえてきた。
その内容が気になって、思わず俺は耳を澄ませてしまう。
「掛田ちゃんが割ヶ谷くんを好きってこと? なんか、イメージなかったなぁ」
「でも、ああいうのもいいんじゃない? 最近、よく見るし」
「それって、あんたがいつも見てる深夜アニメの話じゃないの?」
軽快なテンポで、俺たちの関係が考察されている。
言ってしまえば、その考えであっている。
俺の気持ちは変わったから少し違うが、『ああいうのもいいんじゃない』という言葉のおかげで、周りから認められる可能性があると思って、なんだか嬉しい。
横を見ると、風花も聞き耳を立てていた。
笑っても、悲しんでもいない、そんな表情をしていた。
どういう感情だろうか、俺は気になってしかたなかった。
しかし、その顔には安心が含まれていた気がする。