「お邪魔します」
そう言いながら玄関に入ると、廊下の奥から風花の母であろう人が出てきた。
「あら、いらっしゃい。晴路君かしら?」
「はい……そうです」
名前が知られていることに驚きつつも、肯定を返した。
すると段々とこちらに近づいてきて、俺の右手が両手で掴まれた。
「風花によく話を聞いてるから、ずっと会ってみたかったのよ」
「はは……。晴路ごめんね、こんな親で」
風花は苦笑いしながら、耳元で囁く。
「娘の好きな人が来て、きっと、すごく嬉しいの」
どうやら風花の母にも、風花が俺を好きなのはバレているらしい。
俺は一瞬、誰の言葉も耳に入らなくなった。
掛田家として歓迎ムードなのは、とても安心した。
それと同時に緊張が湧いてくる。
「2階に上がりなさい。お菓子でも持って行くわ」
やっと聞こえた風花母の言葉で、俺たちは階段へと足をかけた。
上って行く途中、背後から「
どう言う意味か――。
分かりたくなかったが、分かってしまった。
どうやらそれは風花も同じだったらしく、「お母さんがいるときには、しないよ!」と反論していた。
ん……?
お母さんがいるとき『
「ほら、行くよ」
少し考え込んでいると、そう言われて手を握られて引っ張られる。
風花の手は熱かった。
…………。
ベッドに二人隣で腰掛けている――。
起きてしまう沈黙も、辛いとは思わない。
逆に、心地よいとまで思ってしまう。
「晴路――。朝はあんなことみんなに言っちゃってごめんね」
俺が棚の一角を眺めていると、風花は話しだした。
「いや、……ううん。ちょっと驚いたけど、風花がそうするって決めたなら全然いいよ」
「ありがと――。まぁ、わたしも少しは後悔してるんだけどね」
「そうなんだ」
意外だ。
昼の対応を見ていても、それでよかったと思っていそうだったし、計画通りと思っていそうと感じていた。
「でも、ね。みんなにバレちゃったんだから、もう隠さずに晴路とイチャつける。それはするしかないなって……」
「イチャつくって、意味が――」
それは付き合ってるってことじゃないか?
そう言いたかったけど、言わないことにした。
なのに――。
「付き合ってるんじゃないかってこと?」
風花からそう言われてしまえば、正直に答えてしまおう。
「まぁ、そうゆうこと」
「ふーん……。じゃあ、わたしと晴路がしてた行動は、付き合ってるに等しいんだよね」
「そう、なるのか」
間違っていそうなのに、正しいとしか思えない。
きっと、まさしく正論なのだろう。
すると風花は、頭を下げて俯いた。
「なら、付き合ってくれたらいいのに……」
そんな掠れた声が聞こえた。
風花は俺に告白まがいなことを何回かした。
特に一番初めは、「俺も」と応えれば完結する、完全なるものだった。
俺が行動しないといけない。
それは明白だ。
「今週末でもすぐに、どこか遊びに行こう」
「……ん」
風花は顔を上げて俺を見た。
「少し遠いところに行こう。特別な思い出にしたいから」
「いいよ、行こう」
「それなら……」
俺は場所を思いついていなかったことに気づいた。
こういうのは、どこでするべきなのだろうか。
「神戸とか、良いわよ」
風花の母の声が聞こえた。
「お母さん? なんでいるの? ノックぐらいしてよっ」
「五回くらいしたのに、反応なかったから入っちゃったの」
「えぇ、ほんと?」
風花は信じられないという様子で言った。
「集中した話してたんでしょ、気づかないものよ」
多分、嘘じゃない。
風花も信じたらしい。
「これお菓子と飲み物。晴路君も遠慮なく食べてね」
そう言って、風花母は廊下へと消えていった。
隣で風花がスマホを触り始めた。
「神戸か……。いいね、行きたいっ」
風花は俺に画面を見せてくる。
そこには、おしゃれなガーデン園が映っていた。
「それなら、神戸に行くか」
「うん! それで、詳しくは晴路が考えてくれるの?」
「そのつもりだけど……」
「じゃあ、よろしくっ」
家に帰ったらすぐに、計画を立てようと思った。
…………。
「そうだ、晴路。今日のわたしって、うざかった? 嫌じゃなかった?」
唐突に不安そうな顔を浮かべる風花。
なぜ急にそんなことを聞いてきたのか――。
それは考えても分からないから、とりあえず風花を安心させないとと思った。
「そんなことない」
「ほんと?」
「ほんと。もっとされたいぐらいだった」
言った後に、失言だったと気づいた。
風花に念を押されて聞かれて、思わず答えてしまったのだが、よく考えてみればとんでもないセリフだ。
「いや――、別に深い意味は、なくて……」
「いいよ。明日からは頑張るね」
少しだけ、風花が俺の方に近づいてきた。
腕と腕がぶつかっている。
そして俺の手の甲に、風花の手の甲を押し付けられている。
「バレちゃったんだし、側から見たら付き合ってるって思われたとしても、しても良いよね」
「…………」
次のデートまで待ってくれ、そこで言うから――。
とは、決して言えなかった。
なにをされるのか。
不安よりも楽しみがまさっている気がした。