The Ash Eater   作:メイユエ

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八話

壊理side

 

わたしには、お友達がいる。

 

暗くて怖い檻の中で、

誰もそばにいてくれなかったわたしに

絵本を読んでくれて、

優しく頭を撫でてくれる

とっても素敵な友達。

 

⸻

 

その子は、焔ちゃんと言う。

 

猫みたいな耳と、

二つに分かれたふわふわの尻尾を持っていて、

尻尾の先には、

焔みたいにゆらゆら揺れる火が灯ってる。

 

冷たい部屋の中で、

あの焔はとても暖かいんだ。

 

⸻

 

一人ぼっちで、怖くて、悲しくて、

毎日が灰色だったわたしに

焔ちゃんは小さな色をくれた。

 

絵本の中の花の色。

お日さまみたいな甘いお菓子の色。

一緒に夢を見た、幻の海の青い色。

 

⸻

 

辛い実験の後も、

焔ちゃんがいるから泣かないって決めてた。

 

焔ちゃんが、

「大丈夫、大丈夫」って笑ってくれるから

わたしも大丈夫だって思えたんだ。

 

⸻

 

でも――

最近、焔ちゃんは笑わなくなった。

 

わたしの前では笑ってくれるけど、

あの尻尾の焔はとても小さくて、

すぐに消えてしまいそうで――

 

わたしは怖い。

 

⸻

 

2日に一回だった実験は、

焔ちゃんだけ毎日になった。

 

帰ってくるたびに、

顔に大きなアザを作ってて、

尻尾は床に落ちるみたいに元気がなくて。

 

心配でたまらないのに、

わたしは何もできない。

 

⸻

 

泣いちゃだめだ。

泣いたら、焔ちゃんを困らせてしまう。

 

だからわたしは、

大丈夫?って尻尾を握ることしかできない。

 

⸻

 

何も聞いてあげられない。

何も言ってくれない。

 

焔ちゃんは隣にいるのに、

どんどん遠くに行ってしまう気がする。

 

⸻

 

わたしたちは――

友達なのに。

 

焔ちゃんが、

すごく遠いの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

今日も、

焔ちゃんは朝早くから部屋の外へ連れて行かれる。

 

扉が開いて、

冷たい足音が近づいて、

焔ちゃんの小さな手首を掴んで、

連れて行こうとする。

 

⸻

 

いつも焔ちゃんは笑ってる。

 

「大丈夫、大丈夫」って笑う。

 

でも――

今日は、その笑顔がとても辛そうだった。

 

尻尾の焔も小さくて、

どこか頼りなく揺れていた。

 

⸻

 

どうしたらいいんだろう?

わたしは、どうしてあげればいいんだろう?

 

胸が苦しくて、

声が喉の奥で詰まった。

 

⸻

 

俯いて、

わたしは何も言えなかった。

 

⸻

 

その時だった。

 

柔らかい声が、

わたしの耳をくすぐった。

 

焔ちゃんの声だ。

 

⸻

 

「……かえったら……

いっしょに……ほん……よもう?」

 

⸻

 

しばらく一緒に読んでいなかった、絵本。

 

それを一緒に読もうと誘ってくれた。

 

それがどれほど嬉しかったか――

涙が出そうになった。

 

⸻

 

でも、

焔ちゃんの顔を見た時、

わたしは気づいてしまった。

 

焔ちゃんは、

すごく不安そうな顔をしていた。

 

⸻

 

“わたしが断る”――

焔ちゃんは、

そんなことまで怖がってるんだって思った。

 

いつも強くて、

優しくて、

わたしを励ましてくれる焔ちゃんが、

わたしと同じくらいに怖がってる。

 

それに気づいてしまった。

 

⸻

 

わたしは小さく、

でも力いっぱいに頷いた。

 

尻尾をそっと握って、

震えていた焔ちゃんの手に小さな声を乗せた。

 

⸻

 

「……読もう?

白い猫の絵本……!」

 

⸻

 

焔ちゃんの目が、

ほんの少しだけ安心したみたいに笑った。

 

まだ――

まだ焔ちゃんは、

わたしのお友達でいてくれる。

 

わたしたちは、

まだ“ふたり”でいられる。

 

⸻

 

部屋の外から、

鍵の音が鳴った。

 

焔ちゃんの小さな背中が、

部屋の外に連れて行かれた。

 

でもわたしは信じる。

 

白い猫の絵本を、

一緒に読めるその時を。

 

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