今年最後の投稿になります。皆様方、ありがとうございます。
「……勝った、のか?」
勝者を告げる声を聞いても実感が沸かなかった。そんな所にボーデヴィッヒさん、鷺ノ宮、篠ノ之さんが来た。
「くあー、負けました。強かったですよ、ラウラさん、司くん」
司くん!?何だその呼び方は。
「……鷺ノ宮、その司くんってのは何だ?」
おかしいな、こいつは俺のことを名前で呼んでいた記憶は無いんだが…。
「いやー、一夏とちょっと賭け事をしてましてね。一夏と戦う前に負けるとジュース奢んなきゃなんないんですよね。あと自分は+αで、な……司くんのことを名前で呼ぶと」
なるほど、そう言う訳だったわけだ。……え、なにそれ俺知らないんだけど。立案者(織斑)、絶対に許さない。
「……それは分かったが止めてくれ。名前をくん付けで呼ばれたことないから寒気が止まらん。何時も通りかせめて織斑みたいに呼び捨てで頼む」
「じゃあ、司」
いきなり呼び捨てなんだ…いや、良いけどさ。
「二回戦頑張って下さいね。当たったら一夏たちに勝っちゃってください」
「おう」
「ボーデヴィッヒさんも頑張って来てくださいね」
頷いたか頷いていないか辛うじてしか分からない肯定をしてからボーデヴィッヒさんは俺たちとは別に別れて行った。
◇◇ ◇◇◇◇◇
暗闇の部屋で少女が一人、いる。
時刻はもう夜だったが、月の明かりが彼女を照らしている。
長い銀髪をした少女、ラウラ・ボーデヴィッヒは思案顔で月を見つめている。その横顔は普段の雰囲気は成りを潜め、何処と無く幼子のようだった。
◇◇ ◇◇◇◇◇
胸のモヤモヤに気が付いたのは部屋に戻ってからだった。
部屋に戻っても何となく落ち着かず、気をまぎらわすためにナイフを研いでみたが何も解決しなかった。こんなことは初めてのことだ。
それと同時に私にもこんな感情があるのだなと驚愕した。
薄ボンヤリだが、何故モヤモヤとした感情が私の中で渦巻いているのか、原因はわかる。
――長崎だ。今日の試合にしても、今までではシュヴァルツェ・ハーゼ――通称黒ウサギ隊の面々と共に戦ったことはあった。
その時は何も思わなかったし、感じなかった。しかし、今はどうだ?戦い易かった、と思ったのではないだろうか。
私は戦闘時、長崎に何も言っていない。どう攻撃してどう守るかなど何も言っていない。だが、長崎はそんな私に合わせた。手数が足りない時に攻撃を合わせたきたり、度々鷺ノ宮の攻撃を防いでくれたりと、何だかとても戦い易かった。
そう、戦い易かったのだ。今まで一緒に戦う時が合っても、ペアなんて邪魔、居なくてもいい存在だと思っていた。私に合わせられる人(やつ)などいないし、合わせようとも思わなかった。
しかし、今日長崎とペアになって分かったこともある。
――全然そんなことはなかった、と。
「……長崎、司か」
ポツリとそう溢してから、ずっと見つめ続けていた月を視線から外し、明日に備えて布団に潜り込んだのだった。
◇◇ ◇◇◇◇◇◇
鷺ノ宮と篠ノ之さん、ボーデヴィッヒさんと別れてから司は向かった先があった。それは来賓やIS企業が座る場所であった。
「おーい、長崎くーん。こっちこっち」
「司兄ぃ、こっちだよー」
「つか兄ちゃん…こっち」
水面さんが大きな声で大きく手を振っている。その隣には藍に彼方が同じように手を振っている。
「お、来た来た。長崎ー、こっちだぞ」
「へぇ、あの子が社長が言ってた子ねぇ……本当に男の子だったなんて」
「ふむ、社長の言っていたことは本当でしたか。しかし、誠実そうな方ですね」
大葉が司に気付き、ウォーター・リリー社の方へ手招きする。その傍らには見知らぬ女性が二人いた。
「水面さん、三木さん暫くぶりですね。藍と彼方も元気にしてた?」
「うんうん、元気元気。あ、長崎君、さっきの試合良かったよー」
「司兄ぃ、カッコ良かったよ!」
「カッコ良かったよ……つか兄ちゃん」
「あぁ、良かったぞ。まさか【水仙】を二段階外すとは思わなかったが、良いものが見れたぜ」
「そうねぇ、今まで現場で自分の作ったものが使われてるのは初めて見るから新鮮だったわ」
「水面さん、どうもありがとうございます。藍、彼方、ありがとう、嬉しいよ。……ところで水面さん、三木さんそのお二方はどちら様で?」
そうだよ、見知らぬ人が二人いるよ。サラッと流してたけど。説明してくれるとありがたい。
「ん?おっと、そうだった。前に俺が他の二人とジャンケンして勝って司を見送ったってのは知ってるよな」
返事をして、肯定を示す。
「その時に、俺に負けた二人ってのがコイツらだ」
「そうねぇ、このバカ(三木)の言いかは兎も角として、初めまして長崎司くん。私はIS装備開発主任、日比野 花梨(ひびの かりん)よ。よろしくねぇ」
茶髪のウェーブがかかったセミロングな髪に三木さんと同じような作業着を着ている女性、日比野さんはそう言ってヒラヒラと手を振った。
……三木さんと同じ作業着を着ているが、開発主任?ってことは偉い人なのかな。
顔やしゃべり方、雰囲気もおっとりとしているのでそんな風に見えないが……。
どうでもいいと言うか、失礼な補足だが、お胸がおっきい。この中で一番かもしれない。
「では、私も。水面社長の秘書をやっている神崎 薄野(かんざき すすきの)と言います。先程の長崎さんたちの試合、良いものを見させて頂きました」
黒いパンツスーツに銀縁眼鏡の女性、神崎さんがそう言って微笑みを浮かべた。
◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇
「しかし、【蓮】の弱点、鷺ノ宮にバレてましたよ?たぶん……」
「あぁ、見ててわかったが、ありゃ後半からバレてるな」
「そうねぇ、改良したいのは山々だけれど【蓮】はこれで一つの完成形なのよねぇ……」
三人で、というか会話に加わってこないが水面さんや藍、彼方も【蓮】について考え込んでいる。
自己紹介が終わったあと、色々と話していたのだがいつの間にか【蓮】や【水仙】のことの話しになっていた。
「うーん……じゃあ今度は切り離しタイプじゃなくて、こう…打鉄に纏うようなパッケージはどうですか?」
「ふむ、纏う…か」
「って言うと、鎧とかみたいになっちゃうわねぇ……」
「うーん……纏う……鎧……無効化?……」
「……無効化して……爆発……で攻撃を……」
ブツブツと呟きながら考え込んでしまった。
「……うーん?んー、ん!ねぇねぇ、大葉ちゃん、花梨ちゃん、ちょっとこっち来て」
水面さんが何か思いついたようだ。二人の耳元に口を寄せゴニョゴニョと喋っていたと思ったら三人ともニヤリと笑いながらこちらを見た。な、なんだ?
「いやー、長崎くんのおかげで良い案が浮かんだよ」
「そうだな、このトーナメント中は長崎の試合があるから作れないが、いいものが出来そうだ」
「そうねぇ、出来るだけ早く仕上げて長崎くんに試させるわ」
「何だがよく分かりませんが、楽しみにしています」
と、そんな話し合いが終わったと見たのか、藍と彼方が遊ぼうとせがんで来た。
「司兄ぃ折角だから遊ぼうよー、もしくはお話しようよー」
「つか兄ちゃん…遊ぼう」
水面さんや三木さんに大丈夫かと許可を取り、暫く藍と彼方と話したりしていた。
小さい頃から藍や彼方を知っている為か大きくなったなぁと言う思いだった。
◇◇ ◇◇◇◇◇◇
俺とボーデヴィッヒさんは第一アリーナに出ていた。2回戦目の戦いがそこで行われるからである。
試合開始の合図(ブザー)を待っているような状態だ。対戦者も同じく待っている。俺はその対戦者をもう一度見る。
織斑・デュノア、ペア。
そんな俺が見えたのか織斑が通信を寄越して来た。回線はプライベート。
『まさか、2回戦目で当たるとは思わなかったな』
『そうだな、まさかこんなに早く戦うことになるなんてな……何か仕組んだのかねぇ』
『あ、あはは……』
対戦相手は完全ランダム性だ。一回戦で勝ったとしてもあみだくじのように上へ上がるのではない。そこから勝ち上がった者たちがシャッフルされ組み込まれる。3回戦も変わらない。真偽が分からず、織斑も笑うしかないようだ。
音と共に空中にカウントダウンが表示された。
『……司、とラウラにも伝えてくれ』
『ん?』
『絶対、負けないからな』
『あぁ、俺だって負けるのは嫌だね』
そこで通信は切れた。織斑の言葉をボーデヴィッヒさんに伝える。
「ボーデヴィッヒさん、織斑が『負けない』って言ってました」
「……ふん」
その言葉に鼻を鳴らして答える。
会話はそこで途切れ、全員が戦闘体勢に移行する。
―――5秒前。
一夏は【雪片弐型】を構え、シャルルはアサルトカノン【ガルム】を右手に、連装ショットガン【レイン・オブ・サタデイ】を左手に構える。
ラウラは右手のプラズマブレードを展開、レールカノンの照準を相手に合わせる。司は対BT・銃火気兵器【蓮】、【水仙】も加えて起動させて構えた。
――1、0秒。
ブザーが鳴り響いたと同時に4人が同時に動き、土煙が舞った。
ラウラは一夏と。司は一夏を援護しようとしていたシャルルを邪魔するように相対した。
――第2回戦が始まった。
少し早いですが、明けましておめでとうございます。今年め姫百合 柊をよろしくお願いいたします。m(__)m