IS~一人の転生者、報われる日は来るのか?   作:姫百合 柊

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随分と投稿が遅くなってしまい、すいません。

何かと忙しく、中々筆が進みませんでした。申し訳ねぇ申し訳ねぇ<(__)>

では、第十七話どうぞ。

※ゼルガーさん、(´作`)(空牙刹那さんから指摘していただいた箇所を修正しました。


第十七話・暗闇から光へ

 

悲鳴が聞こえ、二人が振り向くとそこには人がいた。

 

否、人の形をした黒が、居た。

 

何処までも暗く、深い色をした黒。しかしどこか優しい雰囲気、色合いが出ていた。

 

そんな突然出現したヒトガタに気が付いていないとばかりに司を、一夏を、シャルルを襲いかかるゴーレム。その途端に纏っていた雰囲気は消え失せた。

 

熱線光を撃とうと両腕を出したら両腕が斬られた。いつの間にか出した、自身と同じ色をした刀で。両腕の関節部分を正確に斬ったのだ。

 

「―――――」

 

ゴーレムがそこでヒトガタに敵意を見せた。だがそれは遅すぎた。ゴーレムが何かしようとする暇もなくヒトガタが首を跳ねたのだ。

 

一夏、シャルルの両名は唖然とその光景を見ていた。

 

跳ねた首が音をたてて地面に落ち、それから胴体が思い出したかのように崩れ落ちた。

 

ヒトガタはゴーレムを一瞥してから一夏、シャルルに顔を、いや、それに顔は無くのっぺらぼうのようだがそれには何処か顔がどこに付き、どこに有るのかが分かった為、それがこちらを見たのだと気がついた。

 

ゴクリと喉が鳴った。どちらが鳴らしたのか分からないが緊張が走った。あれは敵なのか味方なのか分からないからだ。だが一夏は緊張とは別のまた違った感情が沸いた。

 

怒りだ。あのヒトガタの姿、形、風貌は自分の姉、織斑千冬にそっくりなのだからだ。

 

感情が爆発し、仕掛ける一歩手前でシャルルに手で制された。そうしてハッと我に返る。隣で心配そうな表情を浮かべているシャルルの顔を見て幾分冷静さを取り戻し、大丈夫だと合図を送ってから前に居るモノを見る。

 

数秒間の視線の交差、それは数秒には感じられないほど長く感じたが途端にそれは破られた。紅い閃光が激しく光ったのだ。

 

ヒトガタはその光が何か分かるように反応し、あろうことかゴーレムに覆い被さった。爆発を少しでも弱めようとするように。その数瞬後、紅(あか)が弾けた。

 

だが、ヒトガタによって殆ど威力は抑えられ司、一夏、シャルルの三名には爆風、爆熱の名残しか来なかった。

 

前と同じように爆発したゴーレムは跡形も残らなかった。では、強力な爆発をそこまで抑えたヒトガタはどうかと言うと無事ではなかった。

 

片腕が無くなり、体のあちこちから黒い何かが流れ出ている。だが依然として佇んだ。

 

『――――』

 

何か音が聴こえた。それは何の音だったのか分からない。だがそのあとヒトガタが動いた。残った片手で顔を覆い、何かから逃れるように頭を振り、苦しそうにし出した。

 

「―――――!!」

 

そして、おおよそ、人には出せない音域の音で叫んだ。それは不思議な音で悲鳴のようにも、怒号のようにも聴こえ、様々な感情を持っていた。

 

形成したであろう刀を振るった。それだけで風が薙ぎ、地面が蹂躙された。

 

「―――――!!」

 

またヒトガタは叫んだ。どこまでも強く、強く叫んだ。

 

 

◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆

 

 

――痛い。――苦しい。

――寒い。――寂しい。

 

暗闇の中に、一人。私はいた。

 

そこには冷たい雨が降っていた。

 

雨粒が私にかかる度、私は自身の感情に押し潰されそうになる。

 

雨粒一つ一つは私だ。私の感情、私の中にあったものだ

 

それが時に刃になって私に降りかかる。

 

私の過去、現在の感情。隠していた、貫いてきた、誰にも話さないできた、内に秘めていた、知られてはいけなかった、知りたくなかった。

 

私が私に降りかかる。その感情が凶器となって。

 

――闇が来る。夜が来た。怖い。どうしようもなく、怖くて辛い。

 

少し前まで私の隣にも人がいた。その人は強く温かかった。だが、もういない。私は一人だ。

 

一人の夜は怖い。一人の夜は寒い。

 

――誰か。誰か。

 

 私を―――。

 

 

◆◆◆ ◆◆◆◆◆

 

『―――――』

 

また、音が聞こえた。今度は何か分からない音ではない。水が一滴だけ水面に垂れたようなそんな音が聞こえた。

 

 

「………いったい、何なんだ」

 

「分からない、だけどアレって」

 

目の前で暴れているモノが何なのかは分からない。だがそんな二人でも一つだけ分かってることが有った。一夏とシャルルは確認するように声に出す。それは同じ答えだった。

 

「ラウラ、だよな」

 

「ボーデヴィッヒさん、だよね」

 

二人はラウラが何かに取り込まれてしまったのを見ていた。しかし正体が分かったとて目の前のモノをどう対処すれば良いのか分からない。二人に沈黙が落ちる。その沈黙に呻き声が聞こえた。

 

「………ぅ……ぁ……」

 

「!。司、気が付いたか」

 

「……ぅ……あ、あぁ……?」

 

一夏、シャルルは心配そうに司に駆け寄る。司はそれにぼんやりとしながらも答えた。

 

「……ぅぇ…ゲホッ、ゲホッ!……あぁ、絶対防御とやらは完全じゃないらしい。まさか痛みで気絶するとは」

 

今だ痛そうに胸を押さえる司。

 

「あぁ、鈴が言ってたんだが確か絶対防御が飽和するくらいの攻撃を浴びせれば絶対防御はなくなるらしい」

 

……何それ怖い。絶対って言葉の意味ねぇじゃねぇか。

 

「……あのよく分からんデカイISはどうなった」

 

気になったことを尋ねる。あんなにうるさかったこの場所が今は凄く静かなのだ。

 

「それは二つとも壊れたよ。二つとも殆どボーデヴィッヒさんがやったようなものだけどね」

 

「そうか……」

 

あのISがいなくなったことでホッとする司。だがあれっと思い辺りを見渡す。

 

「おい、ボーデヴィッヒさんはどこだ」

 

二人に向けて放たれたであろう言葉。それには返事ではなく、行動で示した。

 

いつの間にか暴れることを止めていたヒトガタに視線を向けて。

 

「……冗談だろ」

 

告げられたことに目を見開いて驚愕を露にする。だが顔は一夏たちの方へ向けず、ヒトガタへ向けていた。

 

『―――――』

 

音が聞こえた。滴のような音ではなく、ぽつぽつと何かが降り始めたような音が聞こえた。

 

司はほぼ無意識に体を動かそうとした。だが打鉄のエネルギーが殆ど無くなっている状態、尚且つ満身創痍の状態では、それはただ無駄な行為でしかなかった。

 

万全のコンディションの時ですら打鉄を動力無しで動かすのは楽なことではない。加えてシャルルのグレー・スケールとゴーレムのブラスターの直撃によって体力は著しく消耗、ダメージは蓄積、そして司は分かっていないが二つの攻撃を零距離で受けたことにより、胸骨、つまりあばら骨に罅が入っていた。

 

『―――――』

 

音がする。降り始めた雨のような音が。それは先程聞こえた音よりも強さ、激しさを増していた。

 

声が聞こえた。雨音に混じってだが、微かに。聞き逃してしまいそうな程小さな声が。

 

その声がどんな声でどんな内容なのかわからない。しかし、それを聞いたとき司は立ち上がろうと四肢に力を込めた。一夏とシャルルは司を止めようとする。しかし司は苦悶の声をあげながらも立とうとするのを止めない。

 

体が悲鳴を、激痛をあげたが出来る限り無視した。

 

骨が、筋肉が軋む音が聞こえた。そんな音を初めて聞いた。神経が、内蔵が歪んでいるような感覚に捕らわれた。錯覚だと思った。

 

体の危険信号を無視して司は立ち上がった。

 

 

◆◆◆ ◆◆◆◆◆

 

 

 

立ち上がった友人を見ながら一夏は呟いた。

 

「……司、どうして。……どうしてそこまで……」

 

――どうしてそこまでするのか。全ては口に出さなかったが。一夏はそう思った。

 

確かに一夏自身、ラウラを助けたいと思っている。黒い物体に飲み込まれるラウラを見てしまった。

 

相手から嫌われていてもそんなことを言っていられる状況ではない。ラウラも危険かも知れないのだ。

 

だが、司の場合は自身がボロボロになっているのに助けようとしている。そんな状態で自分より相手を優先すのは何故か、それが分からなかった。

 

肉親でも無ければ、特別親しい訳でもない。会ってまだそれほど時は経っておらず、仲が良いと言うわけでもない筈なのに。

 

そんな一夏の問いに司は少し考えてから、笑みを浮かべた。

 

「うーん……そうだな。織斑の考えてることも分かるさ。他人の為に危険を冒すのは馬鹿げてる、それは俺だって同じだ」

 

そこで一拍間を置き、『だけどさ』と言葉を続けた。

 

「俺はボーデヴィッヒさんの相棒(パートナー)だから。パートナーが危険になったら助けるのがパートナー(相棒)なんじゃないのか?」

 

 

それが然(さ)も当然だと言わんばかりに口にする司。一夏は何か口にしようとするが二の句が告げなかった。

 

「ただ、まぁ…協力してくれると助かる。俺だけじゃどう考えても厳しいし」

 

司は目でも訴えかけ、一夏はその目を見た。それは強制はしないと言っているようだった。

 

しかし、その目を見た瞬間に一夏の答えは決まった。

 

「あぁ、友達の頼みだもんな。やるよ、ラウラを助ける」

 

一夏に続き、黙っていたシャルルも答えを口にした。

 

「僕も手伝うよ。長崎くんの言葉を借りるならパートナーだしね。それに僕だってボーデヴィッヒさんのことを助けたいし」

 

そんな二人にありがとうと伝えてから、前を向く。体のコンデションは最悪だった。しかし気分だけは良く、やけに落ち着いていた。全身が痛いがまだ体は動く。動いてくれる。

 

自分でも何故ここまでするのかと言う思いはあった。それは先程織斑に言ったことと同じだし、実際そう思っているからだ。

 

しかし、それだけではない。あの雨の音と不思議な声を聞いたから。

 

聞こえる。雨はまだ続いている。雨音もどんどん強くなっていく。しかし不思議と声のようなものは聞こえている。

 

それから助けたい理由がもうひとつある。似ていたからだ。幼い頃に一緒に居た彼女と。容姿が、雰囲気が、白銀の少女に。

 

幼い頃に俺は皆からお兄ちゃんと呼ばれていて、それはその子も例外じゃなかった。まぁ、俺の場合はお兄様だったけど。……あぁ、そう思うと確かによく似ているよなボーデヴィッヒさんって。姉妹だったのかな?色々落ち着いたら聞いてみよう。

 

『―――――』

 

また聴こえた。雨音と声が。これは一体何なのだろうか。

 

「一夏、デュノアさん。俺がアレをなんとかするから二人はどうにかしてボーデヴィッヒさんの元へ行ってくれ」

 

暴れたりを繰り返しているヒトガタに視線を向ける。すると、何かを感じとったのかピタリと暴れるのを止め、こちらを向いた。

 

「でも、それじゃ……」

 

「司くんが……」

 

「俺のことは気にするな。今はボーデヴィッヒさんを助けることの方が先だ」

 

一夏とシャルルは司の身を案じた。その思いが分かりクスリと笑ってからそう告げた。

 

「……分かった。司に任せるぜ」

 

「……心配だけど、司くんに任せるよ。こっちは大丈夫」

 

「あぁ、こっちも心配はない。しっかり二人とも守るさ。守って二人とも無事にボーデヴィッヒさんの元に行かせてやる」

 

だから、と力が籠った口調で言った。

 

「ボーデヴィッヒさんを一夏とデュノアさんとで救ってくれ。俺じゃアレは切り裂けない。俺じゃアレは翻弄出来ない。【水仙】は折れちゃったしな、一夏のそれ(雪片)と剣の腕を、その機体(ラファール)とデュノアさんの腕を信じる。それだけだ」

 

前を見据える。残った僅かなエネルギーを打鉄の個々に分配する。全身がギリギリ動ける量、だが有り難い。動けないよりは良いし、だったら攻撃を受けなければいい。……あ、そうだ。

 

「ちょっとデュノアさんにお願いが」

「ん、何?」

 

「俺が攻撃を反らしたらアレの手に向かって杭を打ち込んでください。腕ごと吹き飛ばす気持ちで」

 

理由は織斑が攻撃をするときに刀を持っていたら厄介だろうなと思ったからだ。

 

若干考えた後、分かったよと返事をするデュノアさん。難しい注文の筈なのに嫌な顔すらしない。こりぁ、絶対成功させないとな。まぁ、俺が防げるのは精々初手目か、二手目が限界だろうし。けど、今やれることをやるだけだ。

 

「……ふぅー、すー……」

 

呼吸を整えろ。乱すな。強く息を吸って吐け。

 

「……すぅー、はぁー……ォー、ハァー……」

 

丹田を意識して呼吸をする。無駄な力を抜いていき、深く長く呼吸を繰り返す。

数回続いていた呼吸音がピタリと止み、ゆらりと司が構えた。

 

左手の平を前に出して高く上げ、右手を下げて腰付近まで持っていく。そして右足を下げる。司が行った構えは『天地の構え』と呼ばれるものであり、ちょっとした防御の構えだ。

 

チラリと後ろにいる二人をみる。織斑は刀をやや正眼よりに構えていて、デュノアさんは【盾殺し(シールド・ピアース)】をいつでも打てるように構えていた。

 

「織斑、デュノアさん行くぞ」

 

「おう、任せた」

 

「うん」

 

ヒトガタはこちらに歩いて来ていた。残った左手に握っている刀を揺らしながら。体から流れていた闇は止まり、吹き飛んでいた腕は再生が始まっていた。

 

雨の音が聞こえる。声が聞こえる。声は雨の音が強くて内容は分からないが、悲鳴に聴こえた。

 

――雨はまだ止まない。

 

 

 

◆◆ ◆◆◆

 

 

 

ゴーレムの襲撃を受けた時、教員たちは対応に追われていた。そのなかでも織斑千冬は迅速に動いていた。

 

「先生たちは二組、いや三組に別れて生徒、来賓の安全を確保してください。確保出来たのならその半数を残し第一アリーナへ。」

 

動ける先生はすぐに動いた。しかし、時間は掛かるだろう。今、IS学園の警戒レベルが上がっている状態だ。通路が封鎖されていて、隔壁が下りている。しかも生半可な攻撃では破れない仕様の壁だ。

 

「山田先生、防御壁の中にいる皆(みな)はどうなっていますか」

 

「はい、現在生徒問わず殆どの皆さんがパニックに陥っています

 

山田先生の報告を聞いてやはりか、と予想が当たっていた。

 

前に一度、ゴーレムの襲撃があった。そのと同じで突然過ぎる。それに生徒たちには徐々にそういう感覚に馴れていってもらいたいと思ってあまり言わないでいたのが裏目に出た。

 

いくらISを操縦出来るといってもまだ15、16の少女だ。その時の心構えなんかができている筈がない。

 

苛立ち紛れに舌打ちが出そうになったがその前にアラーム音と山田先生の慌てた声が聞こえた。

 

「お、織斑先生!ボーデヴィッヒさんのIS共に生体反応が危険域(レッドゾーン)に突入しました!加えて長崎くんの生体反応も警戒域(イエローゾーン)です!?」

 

殆ど悲鳴のような声が状況を告げる。それを聞いて弾かれるようにアリーナのディスプレイを見る。

 

「アレは……」

 

画面越しに私が居た。黒い、真っ暗な姿をした私が。……いや、あんなもの私ではない。しかし、姿、形を変えるなんてことはISでは出来ない筈だ。『一次移行(ファースト・シフト)』や『二次移行(セカンド・シフト)』で多少ISの形は変わるが姿までは変わらない。では、何故あんなものが現れているのか。

 

私はそこで暫く考え、答えを見つけた。

 

「VTシステムかっ……」

 

忌々し気にその名を口にし、山田先生が尋ねる。

 

「VT、システムですか?それは一体……」

 

「VTシステム。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。第一回、モンドグロッソの優勝者の動きをコピーすることでISの操縦技術向上と強さを目的として造られたシステムで、軍事転用も考えられていたらしいが、リスクが大き過ぎる為に、表には出てこなかったものです」

 

「そ……そんなものが何故ボーデヴィッヒさんのISにあったんでしょう」

 

「意図は分からない。ただ、ドイツの上層部あたりが怪しいだろうなと睨んでいる」

 

一年間ドイツにいたことを思い出す。あの時、私は一夏の捜索の条件としてドイツで新設されたIS部隊の戦力向上を計ることを言われた。

 

無事に一夏も見つかり、条件通り、私はドイツへ飛んだ。その後はラウラと出会った。

 

 

ただ、出会った当初は酷かった。成績が、などではない。ラウラ本人がだ。私が見つけた時に、己の目を潰そうとしていたのだ。だが、ラウラはそれが出来なかった。当たり前だ、10代そこいらの子供が自分の目を潰せるはずがない。

 

 

ラウラは決して『出来損ない』などではなかった。ただ『眼』によってもたらされた情報があまりに多すぎた為、処理仕切れなかっただけなのだ。

 

それから焦らず一つずつ教えていったら、すんなりと覚えていった。

 

『出来損ない』どころか優秀だったくらいだ。その後は、懐かれたようにラウラと一緒にいた。他愛ない話をして笑ったりしていて、何処にでもいるような女の子のように感じた。

 

そして1年契約が過ぎ、私は日本に帰った。だからその後、ラウラがどう過ごし、どのように思っていたかなど憶測でしかわからない。だが、私はラウラに間違った教えをしてしまったのだろうか。

 

 

何だか気分が重かった。それに落ち着かなかった。

 

「……ラウラ、一夏、長崎、デュノア」

 

ポツリと4人の名前が溢れ、その4人が映っているディスプレイを見つめた。

 

 

◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆

 

 

――暗い。

――寒い。

――恐ろしい。

――寂しい。

 

一人がこんなにも恐ろしいものだとは知らなかった。

 

一人がこんなにも寂しいものだとは知らなかった。

 

私は何時からここにいるのだろう。

 

私は何時までここにいるのだろう。

 

――真っ暗だ。真っ暗闇だ。

 

私はこんなにも弱かったのか。

 

私は私(雨)に当たっているためか無意識に押さえていた感情が直接私に流れ込んで来ている。

 

寒い。いつの間にか膝を抱いて蹲っていた。端から見たら子供のようなのだなと思った。いや、実際まだ子供なのだろう。教官の言っていた通りだ。私は舞い上がっていた。強いと思っていたのは嘘っぱちで、私は本当は弱かったのだ。

 

強さとは、一体何なのだろうか。何だったか。……もう、わからなくなってしまった。

 

織斑千冬(私の教官)なら何なのか知っているだろ。しかし、あの日にした質問をもう一度しても教官は『強さ』とはについて教えてくれないだろう。

 

私にとって、教官は母であり姉でもあった。冷たい機械の中で育った私にとって教官の存在は大きかった。厳しくはあった、しかし私にとっては嬉しかった。母とはこのような存在なのかと実感することができたのだから。

 

この学園に来て教官に再び会えた。そして、もうひとりの別な存在と会った。

 

――長崎だ。長崎司。不思議だった。あいつは私と同じような瞳をしていた。同じなのかと思った、私と。しかし、奴と私は違った。根本的に違った。当たり前だ、同じ人がいてたまるか。

 

それからふと奴のことが少し気にかかった。少しだけ話をし、相棒(パートナー)になった。訓練をした時、今になって思えば私は笑っていた。私は楽しかったのだろう、誰かに教えるのが。

 

ゴーレムが襲って来たとき、長崎がやられた。その時何も考えられなくなった。あの感情は何なのだろうか。その後何かに守る力が欲しいと告げた。私はそれを手に出来たのだろうか?ボロボロだった長崎は無事だろうか?

 

 

◆◆ ◆◆◆

 

 

『どくん、どくん』と自分の心臓の音がハッキリと聞こえる。それほどまでに自分の鼓動が高まっていただけなのか、それとも集中力が高まったのかは定かではないがどちらにしろ稀有な体験だなとどこか客観的にそう思った。

 

目の前には刀を上段に振りかぶったヒトガタ。後ろには織斑とデュノアがいる。成功させないとヤバイなこりぁ。

 

覚悟は当に決まっていたが、さらに気合いを入れ直して見据える。

 

ヒトガタの持っている刃が降り降ろされた。瞬きする間の時間アドレナリンの過剰分泌故かそれが数秒のように長くゆっくりに感じる。降り降ろされる刀の軌道に合わせるように上げていた左手を動かす。

 

緩やかになった刻を修正するかのように時間は動き出す。手刀のようにした左手が刀の側面に当たり、何とかその軌道を反らすことに成功した。

 

「今だ!やれっ」

 

「はあぁぁっ!」

 

攻撃を反らして数秒持ったが、やはり無理をしたのかISのエネルギーが切れてその場にダウンした。打鉄はよく持ってくれたと思った。

 

大きい音が続けざまに2発聞こえた。その後『バシャリ』と水風船が弾けたような音がし、見るとヒトガタの腕が肘の当たりから弾け飛んでいた。あるのは刀と手の部分である。

 

『――――!』

 

痛覚があるらしいのか、後退し、体を震わせながら激しく叫びだしたヒトガタ。

 

「うおおぉっ!!」

 

完全な無防備なときに一夏が雪片を解放して斬りかかる。

 

今まさに斬りかかろうとした瞬間、事は起こった。

 

打鉄から降りた瞬間、側にあった刀と手を模した闇が形を崩して司に向かった。

 

「なんっ……がぼっ!?」

 

あろうことかそれは司を覆い、体内に入って来た。

 

「長崎くん!?」

 

悲鳴に近いようなシャルル声が響き、続いて一夏がそれに気付く。

 

「司っ!?」

 

「ぐっ……何、だこれっ……ぐぼっ!」

 

溺れるような感覚がする。まるで水の中にいるみたいだ。意識が遠のいていく。

 

一夏とシャルルはヒトガタを警戒しながら司の方へ急いだ。もう殆ど司にヒトガタの闇が覆っている。

 

「俺の、事は……いいから、ボーデヴィッヒさんを助けろ……」

 

全身が闇に覆われピクリとも動かなくなった。時折、ボコボコと水中で泡立っているような気泡が出たりした。

 

「……司」

 

「……長崎くん」

 

現状司の事はどうすることも出来ない。だから司の無事を案じることしか出来ない。

 

「……くそ。司、無事でいろよ」

 

 

◆◆ ◆◇◆

 

 

 

そこは不思議な場所だった。水の中にいる感じがするのに、まるで雨の中にいるような感じでもあった。

 

声が聞こえた。それは前から聞こえていた声であった。

 

――あぁ、声の正体は彼女だったのか。

 

俺は蹲っている彼女の元へ歩いた。距離はあるが、なに、直ぐに近くに行けるだろう。

 

――暗い。

――寒い。

――恐ろしい。

――寂しい。

 

これは本当に彼女の声だろうか。だとしたら、少しだけ意外だった。彼女は強い人だと思っていた。力だけでなく、心も強いと思っていた。

 

『強さ』を求め、『力』を誰よりも求めていた。しかしそれでいて芯のしっかりとした女の子だと思っていた。そんな自分の勝手な想像に思わず笑ってしまった。

 

目の前の女の子の姿を見てなお、そのようなことが言えるのならそれは最早思い上がりだ。彼女はどこまでも女の子だ。

 

聞こえてくるこの声は彼女の心の声だろう。降っているこの雨は彼女の心の温度だろう。確かに寒いし、暗い。驚く程真っ暗で、驚く程何もない。一人でこの空間は耐えきれないだろう。だから現に彼女はこうして蹲って一人、泣いているのだ。

 

ラウラの元へ辿り着いた司は何も言葉を発しなかった。何も言わなかった代わりに行動した。

 

膝を抱えて蹲っているラウラの背中に司の背中を合わせるように座った。司がしたことはそれだけだった。後はその場には雨の音とすすり泣くような音が残った。

 

『冷たい』。それが背中越しに感じた感覚だった。それに微かに震えていた。

 

いつまでそうしていただろうか、時間の感覚が分からないが数分位は経ったと思う。すすり泣くような声はすっかり聞こえなくなり、身動ぎひとつしなかった彼女が体を動かした。頭を上げたようだった。司とラウラは背中越しに会話をする。

 

「…………司、私は強いか?」

 

「はい、ボーデヴィッヒさんは強いです」

 

少なくとも俺なんかよりはよっぽど強いと思う。普段の覇気のあるような声は成りを潜め、声は弱々しかったが俺は即答した。

 

「…………司、お前は強いか?」

 

「……俺は強くなんてない、俺は弱いです。どうしようもなく、弱い奴です」

 

昔を思い出して思わず苦笑いが漏れる。自身が強いと感じたことなんて全くと言っていいほどにない。弱かった自分に後悔しかない。

 

「…………司、強さとはなんなんだ」

 

「それは……俺も分かんないです。分かんないし、俺も探してます」

 

強さというものが何なのか、そんなもの分からない。俺は何時だって弱い人だった。それはISに乗ったところで変わらない。だからそれで自分が納得できるように行動しているだけだ。自分なりに強いとは何かを考え、行動する。

 

そうして考えた果てが強さとは無限にあり、一人一人求めるものが違うのではないかということだ。自分にはまだそれが朧気(おぼろげ)ながらにしか分からない。

 

「……だだ、やっぱり強いっていうのは『優しい』ことでもあるんじゃないかと思うんです。本当の意味で他人の為に、自分じゃない誰かの為に行動出来る奴が俺は『強い』んじゃないかと思います」

 

俺のその言葉を聞き、暫く考えた後、ボーデヴィッヒさんはまた質問を投げ掛けて来た。

 

「…………司、私は強いだろうか?こんな私は強いのだろうか」

 

「そればっかりは俺の口からは何とも。自分でないと分からないし、納得出来ないんじゃないかと。まぁ、それを探すことも含めての疑問ですよね、『強い』っていうのは」

 

『そうか』と言ってそこで会話が途切れた。

 

「――司」

 

声音が変わった。今までの弱々しいものではなく、何かが決まったようなそんな声だった。

 

俺は振り返る。そこには金色の片目をした女の子がいた。やっぱり綺麗だなと思った。

 

「――ありがとう」

 

立ち上がったラウラがそう口にした。

 

「――ありがとう、司。お前のおかげで私は進めそうだ。また、歩ける」

 

そう言って手を差し出して来た。その手を取って立ち上がり、ボーデヴィッヒさんの表情を見てふと思った。

 

こちらを見上げて笑みを浮かべている顔を見て彼女には笑顔が似合うな、と。

 

――雨はいつの間にか止んで、暗闇には光が差し込んでいた。

 

 

◆◆ ◇◇◇

 

『――――!』

 

「一夏っ」

 

気を取られていてヒトガタの接近に気が付かなかった。

 

「――ぐわっ!」

 

右腕は弾き落とされて無くなったが、再生した左腕をヒトガタは薙ぐように振るった。攻撃を受け吹き飛んだ一夏は大幅にエネルギーを削られた。

 

「一夏っ、大丈夫」

 

「……あぁ、大丈夫だ。それよりラウラを助けないと。司にも怒られちまうしな」

 

「ふふっ、そうだね。それにラウラさんは大事なクラスメイトだし」

 

シャルルの手を借り、立ち上がって雪片を構えた。構えは【一閃二断の構え】。

 

「シャル、俺に行かせてくれ。あいつは紛いものとは言え千冬姉を真似た。だったら弟として俺があいつに教えてらなくちゃいけないんだ」

 

ヒトガタから目を離さないが想いを言葉に乗せてシャルに言う。少しの間沈黙が流れたがため息と共に『分かった』と返事が返って来た。

 

「ごめん、我が儘言って後で何か埋め合わせするよ」

 

「そ、それって……」

 

「あ、司やラウラも誘って皆で行こうぜ」

 

『まぁ、分かっていたけどね』という言葉は囁くような声として出され一夏には聞こえなかった。

 

シャルルと軽口を言い合いながら自分は緊張していたんだと内心自覚した一夏。だが、シャルルとの会話のおかげで体の余分な力が抜け万全になった。一夏に応えるように百式も今の一夏の力に合わせ、それを引き出せるように【零落白夜】を発動していく。溢れ出ていたエネルギーは凝縮していき一振りの刃が形成される。

 

――ありがとう、白式。じゃあ行こうぜ。

 

「――――」

 

『――――』

 

一瞬の静寂。先にヒトガタが動いた。刀に模した左腕で一夏に斬りかかった。

 

奇しくもそれは千冬がするのと同じ速く鋭い袈裟斬り。だが決定的に違うのは意志がないこと。

 

「――全然なってねぇし、遅ぇ!」

 

横一閃に薙ぎ、刀を弾く。弾いた後、すぐ上段に構えて振り降ろす。これが【一閃二断の構え】だ。一足目に閃き、二手目に断つ。

 

ヒトガタの正面が切れ、ラウラが出てきた。落ちてくるといった感じだったので思わず抱き止めてしまった。

 

主を失ったそれは紫電を上げ、蒸発するようにシュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)を残して消えていった。

 

駆け寄ったシャルに司は無事かと聞いたら『息もちゃんとしているし、分かる範囲では大丈夫だと思う』と言っていたので取り合えず安心した。そして再度ラウラを見たら気が抜けた。

 

「……まったく、俺たちがこんなに苦労したってのに安らかな顔で気ぃ失ってるなぁ」

 

抱き止めてとっさにみたラウラの顔は今までの険がとれたかのように穏やかだった。

 

 

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