IS~一人の転生者、報われる日は来るのか?   作:姫百合 柊

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第十八話・気持ちの行方です。順序を間違えずに閲覧してください。

ラウラ、シャルロット編はこれでお仕舞いになります。次話からは福音編になります。

では、第十八話どうぞ。


第十八話・気持ちの行方

『教官はその弟のことが好きなのですか?』

 

思い出されるのは昔の記憶。教官との思いでの一つ。昔教官に投げ掛けた言葉の続きだ。

 

『姉が弟に、家族に惚れるものか、馬鹿者』

 

ニヤリと微笑みながらそう言われてしまって、私はますます落ち着かなくモヤモヤした。

 

しかし、今ならそれが何だったのか分かる。

 

――羨ましかった。そう、羨ましかったのだ。それが今なら分かる。私にとって母のような存在だった彼女が何となく取られてしまったと思ったのだ。あのモヤモヤしたものはちょっとしたヤキモチだったのだ。

 

織斑一夏に会って自分の間違いに気が付いた。しかしそれを気付かせてくれたきっかけをくれたのは長崎司のおかげだ。

 

 

 

◇◇ ◇◇◇

 

 

 

暖かい、何かに包まれているような感触がして私は瞼を開けた。何処かの天井、それが朱に染まっていることからそれなりの時間なんだなということがわかった。

 

「――ぅ、ここは……」

 

「ここは保健室だ。気が付いたか」

 

誰の声かはすぐに分かった。間違うはずがない。

 

「……教官」

 

体を起き上がらそうとするが痛みが走り、起き上がれなかった。

 

「無理はするな。ナノマシンによって体を保護、回復させられたとは言え全身に無理な負荷がかかり、筋肉が疲労を起こしている。火傷などの傷はほぼ完治しているらしいがまだ休んでいろ」

 

「……何が……起きたのですか?」

 

両の眼でまっすぐに千冬を見つめる。右目は赤色で左目は金色のオッドアイ。よく見ていた教え子の瞳がまっすぐに問いかける。

 

「……ふぅ、これは機密事項だからな、他言はするなよ」

 

ここだけの話だと言うことを告げるとゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「VTシステムは知っているな」

 

「はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。……過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを模倣するシステムで、確かあれは……」

 

「そうだ、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている代物だ。それがお前のISに積まれていた」

 

「…………」

 

「操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思、いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会から強制捜査が入るだろう」

 

千冬の言葉を聞いてギュッとシーツを握りしめる。たださきの言葉の不審点が思い起こされ、うつむいていた顔をバッと上げた。

 

「ナノマシン……?」

 

おかしい。頭の中にあるVTシステムの情報と照らし合わせてもそんなものはないはずだ。

 

「あぁ、たぶんという域を出ないがな。VTシステム自体は事が終わった時、消えていった為本当の意味で調べることは出来なかったがシュヴァルツェア・レーゲンとラウラ、お前を調べて分かった」

 

――それは、どういうことだろう。本来なら、ない物までが願望によって実現した。それは私の願望だ。私が教官に、織斑千冬になりたかったから。

 

しかし、ナノマシンは?私はそんなもの望んでは……。

 

「ぁ……」

 

「そうだ、気付いたか。お前は力が欲しいと願い、私になりたいと思った。しかし、それと同じように守ることも欲した。力だけが全てじゃないと気が付き、人を守った」

 

千冬が一歩横にずれ、後ろを見た。私もそれを追うようにしてみた。

 

長崎が眠っていた。死んでいる訳ではない。胸が上下に規則正しく動いているのでただ寝ているだけなのだ。良かった、私は守れたのだ。

 

「ここ暫く、お前を見ていてずっと考えていた。お前に教えたことは間違っていたのではないかと」

 

そんな、そんなことはない。間違ってもそんなことはない。私が貴女から教えて貰ったものは私の宝物だ。

 

「ただ、今のお前を見てそれは思い違いだと言うことが分かった。良かったよ、ラウラ」

 

その言葉を聞いたとき、私の胸を何かがついた。ポタリと何かが落ちる音がした。胸から何かが広がっていく。目尻が熱く、視界がぼやける。それを抑えることが出来ず、どんどん溢れ、私は声を上げた。

 

生まれて初めて、声を上げて泣いた。

 

千冬は何も言わずただ側に居ただけだった。子供をあやすようにラウラの髪を撫でながら。

 

 

 

◇◇ ◇◇◇

 

 

 

「――――ん」

 

うっすらと目を開く。人工の明るい光と平面的な壁が見えた。

 

「おや、気が付いたかね?」

ぼんやりとした頭を使って、声のした方へ体を動かそうとしたが途端に痛みが走り、呻き声をあげそうになったが何とか声を絞り出した。

 

「……ソフィア、先生」

 

「まだ無理はしない方がいい。ナノマシンが体内組織を修復したとは言え重傷なのは変わりない。もっとも、内蔵の傷は殆ど無くなったと言っていいくらいだ。あとは骨折と打撲くらいだろうね」

 

「……ナノ、マシン」

 

 

なんのことだろうか、全く記憶に無いことだ。

 

「あぁ、そう言えば君はずっと寝ていたんだったね。ではまず、君の、長崎くんの体内にはナノマシンが流れている」

 

「……は」

 

思わず変な声が漏れた。俺の体の中にナノマシン?

そんなの……ってあぁ、一回ソフィア先生に入れられたな。あれがまだ残っていたとか。

 

「言っておくが前に私が君に入れたナノマシンじゃないよ。君の中にあるのはボーデヴィッヒくんのナノマシンだ」

 

ボーデヴィッヒさんの?ますます分からん。いかん、混乱してきた。

 

そんな司の様子を察してかソフィアはその先を話した。

 

「ボーデヴィッヒくんから成った闇のヒトガタ。それは詳しくは機密だから言えないが彼女の願望でそうなった。彼女が織斑先生に成りたいと願ったからあの姿になった。しかし彼女は違うことも思った。守る力が欲しいとね。それが体現されたのがナノマシンという訳だよ。それが君の体内に入り、傷を負った箇所を修復していた、という訳だよ」

 

「……ボーデヴィッヒさんは?」

 

ソフィアは右手にあるカーテンに手をかけて引く。それに釣られて顔を左に向けるとそこにはラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

 

「まだ寝てるよ。疲れたんだろうね、精神的にも肉体的にも」

 

本人の姿を見たら安堵の息がふと漏れた。

 

「…………良かったです」

 

「良かった?」

 

「えぇ、無事で良かった。気になってたんです、あの後ボーデヴィッヒさんがどうなったのか。俺は分かりませんでしたから。だけど今見て、無事だって分かってほっとしたんです」

 

織斑とデュノアさんはちゃんとやってくれたんだな、と思った。その後織斑とデュノアさんは無事なのか聞いたら、『無事だよ。少なくない怪我は負っていたがね、二人とも。まぁ、あれくらいならすぐに治るさ』と言っていた。

 

「君とボーデヴィッヒくんはここで寝るといい。許可は取ってある」

 

「あ、はい。どの道あまり動けないので有り難いです」

 

荷物を手に立ち上がり、ソフィアは振り返って告げた。

 

「疲れているだろうからもう休むといい、お休み」

 

「はい、ソフィア先生もお休みなさい」

 

電気を暗くしてから保健室を出ていく。足音が遠ざかるのを耳にしながら、暗くなってぼんやりとした輪郭しか分からなくなったボーデヴィッヒさんを一度見た。

 

静かになった部屋には彼女の規則正しい寝息が聞こえる。

 

視線を戻し、再度思う。『良かった』と。

 

そうして司は瞼を閉じて眠りに落ちていった。

 

 

 

◇◇ ◇◇◇

 

 

 

翌日、起きると隣にボーデヴィッヒさんの姿はなかった。まぁ起きた時間が以外に遅かったので当然と言えば当然と言えた。

 

まだ痛む体を労りながら自室に戻って制服に着替えて、教室に向かった。

 

そこにはもう既にボーデヴィッヒさんがいた。俺と同じように頭や手などに包帯を巻いているが思ったより元気そうなので嬉しかった。

 

周りの人たちに『おはよう』と挨拶すると怪我のことを聞かれた。『もう殆ど痛くないし大丈夫。心配してくれてありがとう』と返すと、ほっとしながらも挨拶を返してくれた。

 

「おはよう、ボーデヴィッヒさん」

 

流石に、いきなり過ぎて挨拶は返されないだろうなと思って席についた。まぁ、用は自己満足だ。

 

「…………おはよう」

 

幾分遅く、そしてそっぽを向き、小さい声だったが確かに聞こえた。それを聞き、顔に笑みが生まれた。

 

 

「み、みなさーん……おはようございます」

 

と、疲れた顔をしながら教室に入って来た山田先生。皆頭にクエスチョンマークを浮かべながら話を聞く。

 

「えっとですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 

へぇ転校生か。多いなこのクラス。にしても山田先生の顔が嬉しそうじゃない。どちらかと言えば困惑が強い気がする。何でだ?

 

「じゃあ、入ってきていいですよ」

 

「失礼します」

 

あり?この声ってまさか……。と思っていたところ、一人の女子が入ってきた。

 

デュノアさんにすごく似てる女子。ってかあれ、まんまデュノアさんだわ。

 

「どうも、シャルロット・デュノアです。皆さん、改めて宜しくお願いします」

 

そう言ってペコリとお辞儀をしたスカート姿の女の子。シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアらしい。俺だけじゃなくて他の人もポカンとしている。このタイミングで正体明かすの。マジか。

 

「えー、はい……デュノアくんはデュノアさんでしたす。……はぁぁ、また寮の部屋割りを組み直す作業の始まりです……」

 

なるほど山田先生に元気がなかったのはそれが原因か。ってなんだ?すごく辺りがざわざわとし出したな。あのHR中だよ?

 

「え?デュノアくんって女……?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

 

「って、あれ?織斑くん、同室だから知らないってことは――」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

誰かは分からないがそう言った瞬間、先程までの喧騒は無くなり、しんとなった。

 

そしてグルンと勢いよく一斉に織斑の方を向いた。そして何故か数人の女子がこちらを見た。何で?いや、俺大浴場使えるとか知らなかったんですけど。しかも、昨日はずっと保健室に居たんですけど。

 

まぁ、俺は大丈夫だとしても織斑がヤバイな。状況的に。助けてやるか。

 

そう思い、早速行動する。ノートを開き『HRが終わったら全力で走って逃げろ』と書く。そして紙飛行機を作る。翼の部分に『開け』と書くのも忘れない。

 

織斑の方へ向けて、紙飛行機を飛ばす。飛行機は良い起動で織斑の頭に当たり、落ちた。気が付いた織斑が飛行機を拾い、中を読む。よしよし、計画通り。

 

だれがやったのかすぐに気付いたらしくそっとこちらを見て頷いた。

 

そんな緊張した空気を裂くようにチャイムは鳴った。皆ピクリと動き、チャイムが鳴り終わるのを今か今かと待っている。そして鳴り止むと一斉に一夏の下へ殺到する。勿論、オルコットさん、篠ノ之さんもだ。

 

だが、一夏も甘くはなく、すぐさま廊下に出ていった。捕まらなきゃ良いけどなぁ、捕まったら大変だ。

 

まぁ、俺の所に来た女の子も居たが『俺はその時保健室にいて寝ていたし、知らなかった』と言ったらすごく納得された。布仏さんは当然のように居て、ふんふんと話聞いてるし、相川さん、鷹月さんは何かチラチラこっち見てるし……疑われてる?

 

『一夏ぁぁ!』

 

うわ、廊下から怒号が。一夏も大変だなぁー。

 

『うわっ、鈴!?ISの部分展開はないだろ!?』

 

部分展開かー、鳳さん大丈夫かな、織斑先生に知られたら大変なんじゃないだろうか。

 

「……くっ……ふふっ」

 

どこからか笑いを噛み殺した声が聞こえ、周囲を見てみるとボーデヴィッヒさんが笑っていた。

 

周囲もビックリだが俺もビックリした。そんな視線に気が付いたのか若干恥ずかしげな表情になる。

 

「……あ、いや、織斑一夏は大変だと思うと、何だか笑えてきてな……つい」

 

織斑には悪いが遠巻きに見ている分には、実に面白い。

 

「良いと思いますよ。自分に素直な方が。その方がボーデヴィッヒさんらしくて」

 

不思議な場所でボーデヴィッヒさんと話したことを思い出し、ついとそんなことが漏れた。

 

「……ラウラだ。ラウラでいい」

 

小さくしかし聞こえる声でそう告げた。

 

「え、えっと……」

 

「私はお前のことを司と呼ぶ」

 

「あ、はい」

 

ふん、と鼻を鳴らすように言った。しかし、顔は若干反れている。

 

「あー、えっと、ラウラ…さん」

 

名前呼び、慣れないな。しかも何だか気恥ずかしい。

 

「ラウラだ」

 

しかも、今度は顔を反らさずこっちを見て、ちょっと強い口調で言った。

 

「ラ、ラウラ、これから宜しく」

 

「あぁ、宜しく、司」

 

そう言ってボーデヴィッヒさんは微笑んだ。

 

 





壁 |ω・)⊃タグ

はい、何かヒロインっぽいですね、つかもうヒロインです、ヒロインでいいんじゃね(錯乱)

すいません、あんだけヒロインしないとか言ってたのにヒロインになりました。

ラウラのほかには……増えるのかなぁ?
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