お待たせしました。
中々書くモチベーションが起きずここまでかかってしまいました。
楽しんで頂ければ幸いです。
ではどうぞ。
『海だぁぁーー!!』
眼前に広がる大海原に向かってそう叫んだ大人数の女子生徒たち。そのあと海に向かって走っていく。
「……熱い」
「何言ってんだ、司。早く泳ごうぜ!なぁ鷺ノ宮」
「うおー、海だー」
いつにも増してテンションが高い織斑。そして若干テンションが高い鷺ノ宮。
「……あー、熱い」
皆、海ではしゃいでいる中、司はグロッキー状態だった。理由は少し前まで遡る。
◇◇ ◇◇◇
「あー!海!海が見えたぁ!?」
トンネルを抜け、バスの中でわいわいと女子たちが声を上げる。
臨海学校初日、天候にも恵まれて快晴。海の波は穏やかで日光を反射する水面はキラキラと輝いている。
「おー、やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」
「う、うん。そうだねっ」
バスで一夏の隣になったシャルロットだったが何処か上の空だった。返事も若干、生返事ですぐに視線を手元に移す。そして頬を緩める。理由は一夏がプレゼントしてくれたブレスレットだった。
「ん?それ、そんなに気に入ったのか?」
「う、うん。まぁ、ね……えへへ」
そんなやり取りをしていて幸せオーラを漂わせていると前からむすーっとした顔をセシリアがシートから出した。
「昨日、途中でふたりだけで抜け出していたと思っていたら、まさかプレゼントとは……不公平ですわ」
「あー……その、なんだ。セシリアのプレゼントはまた今度の機会にな?」
『ま、まぁ……それなら。や、約束ですわよ』と顔を赤くしながらも一夏と約束を取り付けた。
一夏、シャルロット、セシリアが話している最中、司はそんな精神状態ではなかった。
「…………う」
「だ、大丈夫か司。顔が真っ青だぞ」
吐きそうになっていた。吐いてしまわぬように口を結び、目を固く閉じる。司の隣に座っていたラウラはその様子を見ておろおろしていた。
「……大丈夫、ちょっと具合が悪くなっただけだから。少し休めば良くなるよ……」
実際、海に行くと聞いて若干テンションの上がっていた司だったが慣れていないバスでの移動で自分でも気付かぬ内にストレスになっていたようだった。
「横になれば少しは良くなるのではないか?」
とラウラはそう提案した。幸い司とラウラの座っている席は最後列の席であったし、一人分余っていたので横になれる余裕がある。
「……そう、ですね。そうさせて貰います」
そう言って体を動かし、横になろうとしていた司だったがラウラが司の頭を掴み自身の太ももへ頭を置いた。俗に言う『膝枕』である。
「……ふむ、これがクラリッサの言っていた『膝枕』か。日本人はこれが良いと言っていたがどうなのだろう……むっ、寝てしまったか」
安心したからか、心地良かったかは知らないが司はラウラの膝の上ですぐに寝息を立てていた。
周りにいたクラスメイトたちも何時もなら『ひ、膝枕……だとっ』などと反応するが司の様子は見て分かっているので静かにしていた。ただ、ラウラの行動力に度肝を抜かれていた。その後、目的地に着くまでラウラが司に膝枕をし、微笑みながら髪を撫でていた光景をクラスメイトたちは何とも言えない表情で見ているのだった。
◇◇ ◇◇◇
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
『よろしくお願いしまーす』
織斑先生の言葉の後、全員で挨拶をする。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
「どうも、長崎司です。三日間よろしくお願いします」
「鷺ノ宮一樹です。同じく三日間よろしくお願いします」
「あらあら、どうもご丁寧に。私は清洲景子です」
俺と鷺ノ宮がそう挨拶すると清洲さんは丁寧なお辞儀をする。その仕草は気品があり、想像していた女将さんよりずっと若々しい。
「織斑、挨拶をしろ。馬鹿者」
「いや、今しようとしたんだってっ。えっと……織斑一夏です、よろしくお願いします」
「不出来の弟でご迷惑をおかけします」
「うふふっ、弟さんには随分厳しいんですね」
『いつも手を焼かされておりますので』という愚痴?などのやり取りをしながら旅館の説明をされた。何でも別館があるらしい。
「ねぇ、ねぇ、なっき~」
「うん?何ですか、布仏さん」
服を引っ張られる感触と呼ばれる声が聞こえ、振り向いたら布仏さんがいた。
「なっきーのお部屋って何処~?一覧表に書いてなかったよ~」
「あ、本当だ。……うーん、わからないですね」
おいおい、まさか部屋無し?いや、外で寝るのは正直勘弁してもらいたい。せめて廊下で寝せてもらえたら有り難いかなー、なんて。
「織斑、長崎、鷺ノ宮、お前らの部屋はこっちだ。着いて来い」
布仏さんと話していると織斑先生からお呼びが掛かった。なので布仏さんには『またあとで』と言って別れた。
「織斑、お前は私と同部屋だ。長崎は山田先生と鷺ノ宮はブランケットさんと一緒の部屋だ」
説明をされながら暫く歩く。……しかし旅館の外見から歴史のある感じなのかと思ったらエアコンなどの最新設備とが見事に合った作りになっていた。うむ、すごいな。
「ここだ」
と、目的地に着いた。案の定ドアには張り紙で『教員室』と書かれている。何でも初めは個室もしくは3人で部屋を使わせようとしていたのらしいのだがそれだと女子たちが押しかけるだろうから急遽、ということになったらしい。
「教員の部屋にはおいそれと近づきはしないだろう」
「そりゃ、まぁ……そうだろうけど」
それぞれが部屋に入る。部屋の中は想像以上に広く、トイレにバス、洗面所まで個室だ。一応、大浴場も使えるらしいが時間交代性らしい。
「……広いですね」
「そうですねー、景色も良いですし。……あっと、長崎君、泳ぎに行ってもいいですよ。先生はまだ行けませんが織斑君や鷺ノ宮君が行っていると思うので。……それともまだ具合が悪いですか?」
司がバスで体調を崩していたことは同じバスに乗っていた全員が何気に気付いていた。もちろん先生たちもである。
なので千冬は同部屋になる摩耶に司のフォローを頼んだのだ。
「……あ、いえ、大分マシになったので大丈夫です」
正直なところまだフラフラするが風に当たっていれば大丈夫になるだろう。
さて、水着とタオル、下着をいれた鞄を持っていく。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
◇◇ ◇◇◇
更衣室に来たとき鷺ノ宮しか来ていなかったが織斑は俺の後に来た。何か疲弊してた。
「……どした?」
「……いや、何でも。やっぱり台風みたいな人だなって」
俺と鷺ノ宮は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
まぁいい。さっさと 着替えよう。先日買った水着をはき、半袖のパーカーを羽織る。父親から受けた傷が大小、身体にあるため、あまり肌を晒したくはなかったが数ヵ月前、ソフィア先生にナノマシンを打ち込まれたことにより傷は小さくなっていった。そしてVTシステムとゴーレムと呼ばれる無人機が襲撃してきたときに出来た火傷に傷。その時にもナノマシンと保護フィルムを使ったため殆ど身体にできた傷はさほど気にならないくらいになった。
先に出て待っていたがすぐに織斑と鷺ノ宮は出てきた。
「あ、長崎君に織斑君、鷺ノ宮君だ!」
「ふ、ふぅぉー!男子が三人で……最高っす」
「わ~、織斑君に鷺ノ宮君も身体かっこいい~。鍛えてるね~」
織斑と鷺ノ宮は細マッチョとまではいかないが無駄な脂肪がなく、引き締まった体つきをしている。というか二人とも群がられている。
「い、いや俺たちよりも司のほうが身体すごいぞ」
織斑お前。今そんなこと言ったら……。
「ほほぅ、良いことを聞いたなぁ」
「者共ぉ、であえであえ!!」
ほら、すごい勢いでこっちに来た。何だか目がギラギラしていたので逃げることにした。
「待て待てー!」
「……って足はやっ!?」
はははっ、そう簡単には捕まらんよ。ていうか捕まりたくない、何されるか分かんないから。
「……司、君、はぁ、はぁ……早いって、言うか……」
「あ、足が、砂で……はぁ、はぁ、走り、にくいっ」
おぉー、流石砂浜。走りずらいことに定評がある。女子たちはすぐに息があがっていた。しかし、そんな中でも一部の女の子たちは違っていた。
「はっはっはっ!甘いな長崎君。私たち陸上部を舐めないでもらおうか。砂浜など、既に攻略済みだ!」
砂に足も取られず加速してくる陸上部の女子たち。もう追って来られないだろうと気を緩めていたため、ダイブしてくる女子たちをどうにも出来なかった。
「なっ!?……うおっ」
「よっしゃあ!!捕まえたー」
「ムフフ、ではでは……むけーぃ」
どうやったのか分からないが一瞬にしてパーカーが取られていた。おかしい……パーカーにはジッパーが付いている筈なのに。
「……お、おぅふ。……こ、これは」
「腕を見ていて、筋肉凄いなーと思っていたけどここまでとはっ」
あの、そんな反応されると流石に恥ずかしいんだが……。しかも女の子たちは今にも鼻血を出しそうなのか鼻を押さえている。
ぜぇ、はぁと息を切らしながら追いついてきた女の子たちは視線をこちらをに向けたら、同じように鼻を押さえていた。
いや、一般の人よりは鍛えてると思うけどそこまでか?
「腕の筋肉すごーい」
「うわわっ、腹筋割れてるよー」
それから暫く女子たちに囲まれて触られていた。
やっとのことで解放されたら、織斑は海、ブランケットさんは鷺ノ宮と一緒に。というか鷺ノ宮はパラソルの下で寝ていた。……おい、いいのかお前。写真撮られまくってるぞ。良いんですか、ブランケットさん。
そんな感じでブランケットさんを見ると頷いた。……あ、いいんだ。ってか通じるんだ。
「ここまでついたら後は自分で歩けるから降ろして」
「本当か?無理してるんじゃないか?」
「本当よっ。いいから、降ろしなさいよっ……その、ありがと」
声が聞こえたのでそちらを見てみると織斑が鳳さんをおんぶして浜辺まで来た。何があったか知らないが皆注目している。
『焦ったよ、鈴が溺れかけていたから。でも間に合って良かったよ』と言いながらこちらに歩いて来た。
「そだっ、司!どっちが早く泳げるか競争しようぜ。一樹は……えー、寝てるし」
寝てる鷺ノ宮を見てスゴいものでも見たような顔をする織斑。気持ちは分かる。
「……いや、折角だが遠慮しておく」
「えー、何でだよ、泳ごうぜ。……あ、もしかしてまだ体調悪いのか」
「いや、体調は悪くない。……俺、泳げないんだ」
海見るのも初めてだったしなー。しかも皆スイスイ泳いでいるの見ててビックリしたわ。
「ふーん、泳げない……え、泳げない!?」
「あぁ、泳いだことないんだ」
ついでに海も初めて見たしな。海って凄いな。あと本当に青いな。
「……え?」
織斑が鷺ノ宮にしたような顔をこちらに向ける。おい、その顔やめろ。
だが、暫く考え込んでいた織斑だったが途端にニヤリと笑った。……嫌な予感がする、凄く。
その場で強く後ろに飛んだ。するとさっきまで俺のいた場所に織斑が掴むような格好でいた。
「……おい、一応何する予定だったか聞いてやる」
「いや、泳げないんなら俺が手伝ってやろうかと……」
そこまで聞き、俺は脱兎のごとく走った。つか逃げた。何が悲しくて男とお手手繋いで泳ぎの練習せにゃならんのか。
「あっ、ちょっ……何か待てー!逃がさんっ」
そうして俺と織斑の砂浜での鬼ごっこが始まった。
暫く俺がぶっちぎってつき離していたが、どんなに逃げてもずっと追いかけてくるので段々とこれは捕まるまで終わらないのでは?と思い始めた。そして面倒臭くなって身体を反転し、織斑の方へ向かって走った。
それに織斑は驚いていたが俺は織斑の胴にタックルをかました。と言ってもそのまま倒れるのではなく、銅体を掴んで持ち上げた。
「……ふんぬっ」
「えっ、ちょっ、おい司!?」
いきなりのことにバタバタと暴れる織斑。ふっ、無駄だよ織斑。その程度の抵抗では振り落としたりなぞせんよ。
そのまま織斑を抱えたまま海に行く。自分の太ももが海に浸かるくらいの深さまで行き、織斑を投げた。
意外に遠くまで投げることができ、大きい水飛沫が上がった。
ふぃ~、いい仕事したなーと思っていると『次私も!』と先程の光景を目撃していたであろう女生徒たちが手を上げて順番待ちをしていた。……何ぞこれ?
仕方がないのでアトラクションの如く放り投げることにした、お姫様抱っこで。やはり女の子だ、軽い。織斑よりも高く放物線を描き、着水した。
それから何人も投げたが全員が楽しんでいたので良かった。あと一夏、何故お前がいる。……なに、意外に楽しかったから?よし、投げてやる。けど次は鼻と耳に水が入ればいいのに。
◇◇ ◇◇◇
……つ、疲れた。何とか全員が満足してくれたから良かった。海から砂浜に戻るとデュノアさんがいた。何かキョロキョロしている。織斑のこと探してんのかね。
「デュノアさん、織斑ならもうすぐ来ると思いますよ」
そう言って先ほど投げた辺りを指差したら案の定、織斑がこちらに来ていた。
「っ、そ、そう」
何か気恥ずかしいのか織斑の方をチラチラと向いてはもじもじとしていた。織斑は織斑でその様子を見ながら首を傾げていた。
「む、司。ここに居たのか」
明後日の方からボーデヴィッヒさんの声が聞こえた。先に振り返っていたデュノアさんが驚きで噴き出していた。
「ふっふっふっ、どうだ」
「あれぇ、さっき見た水着と違う!?どうしたのさラウラ、僕と一緒に水着に着替えた時はちゃんと可愛い水着着てたじゃないか!?」
今、ラウラの着ている水着は紺を基調とし白のアクセントが入っている色物の水着。そう、スクール水着!しかもご丁寧に『らうら』と名前まで入っている始末。しかし、いつものように髪を下ろしているのではなく、髪を纏めていた。
「なに、早着替えだシャルロット。心配ないぞ、ちゃんと着ている」
そう言ってスクール水着を肩から腕を通して外し、脱いだ。いきなりのことに面食らい、咄嗟に顔を背ける司と一夏。シャルロットは『らっ、ラウラ!?』と声が上擦っている。
「ん?何をしている。ちゃんと着ているぞ」
『ほら、こっちを向け』と言って、見るように促すラウラ。
恐る恐る、視線をそちらに向ける。
先程とは違い今度はちゃんとした水着を着ていた。黒を基調としたホルターネックビキニ。しかし、それだけでなく所々に深い青色のフリルがあしらわれている。銀髪の髪と相まってとても似合っていた。
しかし、そうではない。ラウラに言わなくてはいけないことがある。
「ふむ、どうだ司よ」
自信たっぷりにしかし、ちょっとだけ不安な様子でそう聞いてきた。
「……ラウラ。駄目だよ、人前でそんなことやっちゃ。ラウラだって女の子なんだから」
そう言われてしゅんと落ち込んでしまうラウラ。水着のことを言われるのではなく怒られてしまたのだから。
「でも、似合っていますよ水着」
これは本音だ。似合っていてびっくりした。
「う、うむ、そうか!」
落ち込んでいるのから一転、喜色満面になりデュノアさんを誘って海に行った。
その様子を司は笑みを浮かべながらラウラを見ていた。