読者の皆様方、お久しぶりでございます。姫百合柊です。生きてます。
大変遅くなってしまい申し訳ありません。中々、納得のいくお話が書けず、進みませんでした。この物語を書き始めた当初から出したかった『束の天才について』のことを司くんに言ってもらうことが出来て、嬉しい次第であります。
ラウラとこのような会話を当初は想定しておりませんでした。
では、お楽しみください。
ノイズしか聞こえない室内で、一番先に行動に出たのは箒だった。真っ先に部屋を飛び出して行く。その後に鈴、シャルロット、鷺ノ宮が続いていた。
そんな中、部屋に残ったのは千冬に真耶、束にクロエ。そしてラウラに司だった。
千冬と真耶は彼女たちのように動けるような立場ではないため。束は何を考えているか分からず終始笑顔のまま。クロエは束と同じく微動だにしておらず、ラウラはそのまま行っても二人と同じ轍を踏むと思い情報をさらに集めるために残った。――そして司は。
「――――――」
司は目を閉じて腕を組んでいた。殆ど普段と変わりない様子。だけど、ラウラは何となく司の様子が違うように思い声をかけた。
「……どうしたのだ、司?」
「――いや、何でもないよ。大したことじゃ、ないんだ。……ただ、自分の方で納得出来なかったことがあっただけだから」
「納得?」
司の言葉に首を傾げるラウラ。
「……うん。ISを戦争の道具にするってのは理に叶っていると思う。既存の兵器では歯が立たず誰も止められない。だから対抗するためにそれぞれがISを抑止力として持つ。……理解は出来るよ?ただ、そう言うのは何だか違う気がするんだ。例えそれがどんなものでも」
ISの創造主、篠ノ之束博士はどんな思いでISを創り、そして今どんな思いなんだろうか?そう思わずにはいられなかった。
「――ふむ、ねぇそこな少年」
そんな感情を吐露した司に束は言葉をかけてきた。
「君はその子達(IS)に乗ってどう感じた?」
「そうですね。……楽しさでしょうか」
少しだけ考えて、初めて乗って、動かした時のことを思い出す。
「――楽しさ?」
「はい、楽しさです。今までで経験したことのないことでしたから。風を感じて、広いただ広い空を普段よりも近くで見れた。それだけで楽しくて嬉しかったんです。また、一つ自分に出来ることが増えて」
司はその時に感じたものをまだ覚えていた。いや、忘れることはないと思った。忘れられるはずがなかった。
出来なかったことが少しずつ出来ていったときの記憶は今でも覚えている。そしてISを動かして今日に至るまで苦になったことなどなかった。大変だったことが多かったがそれを上回るように楽しさや嬉しいことが多くあった。それこそ前とは(・・・)考えられないくらいに。
「――――そっかそっか」
束はそう呟き、クロエを伴って部屋から出ていった。
襖が閉じる一瞬、司のことを一瞥していたのを千冬は見ていた。長く共に過ごして居なければ分からない程の微かな笑みを彼女は浮かべていた。
――良かったな、束。
誰にも聞こえないよう、声に出さず言葉を口の中で噛んだ。
◇◇ ◇◇◇
束が出ていった後、司たちも4人を追いかけるように出て、準備をする。
ISを展開して、不備がないかを出来る限り確認し武装もあるもので福音に対応できるように揃えていく。
「……司」
今、出来る限りの準備をし終えて再度、確認しているとボーデヴィッヒさんが話しかけてきた。
「ん、どうしました?ラウラ」
「……司は戦うことが嫌いか?」
躊躇いがちに、そう問うてきたラウラ。そうだなぁと言葉を置いて、思ったことを司は口にした。
「よく、分からないんだ。自分にそんな経験なんてないから。でも学園でISで戦うことは楽しかった。……だけど、それは競い合うことが楽しかっただけで傷付けることを楽しんだことはないよ。一度もね」
「……シュヴァルツェア・ハーゼ(黒ウサギ隊)。私は軍事施設でISを学んだ。私は、ISで人を傷付けることしか知らない。楽しんだことはなかったが、それが当たり前だと思っていた。…………司はこんな私をどう思う?」
酷く、辛そうな表情で語りかけてきたラウラを見て司は悟った。大広間で口にした自身の考えはラウラを少なからず傷付けてしまっていたのだと。
「――ラウラ」
「……ん」
俯いてしまったラウラに優しく語りかける。
「俺は過去の君を知らない。知っているのは、今のラウラだけだよ。だから俺には何も言えないし、言うことが出来ない。……それはラウラをよく知ってくれている人、織斑先生やラウラの部隊の人達くらいしか、そういう深い部分の助言を言えないと思う」
下を向いているラウラに合わせるようにしゃがみ込む。
「――だけどね、ラウラ。俺が知ってる君は優しい女の子だよ」
あの雨の中で見た、蹲って体を震わせていた女の子。けれども、意識せず自分を心配してくれた心優しい女の子だ。
顔を上げたラウラ。その瞳には涙が貯まっていた。
「これからだって大丈夫だよ。だってラウラはあの時、俺を守ってくれたじゃないか。傷付けることだけじゃない、人を守ることも出来るんだ。ラウラにもそういう戦い方だってできるし、シュヴァルツェア・レーゲン(その子)も分かっていると思うよ。ラウラが優しい子だって」
両手で顔を覆い、何度も頷くラウラ。司は慰めるように頭に手を置き、子供にするように頭を撫でた。
手の間から溢れて落ちた涙が数滴、砂浜を濡らした。
◇◇ ◆◇◇◆
あれから暫くは泣いていたボーデヴィッヒさんだったが泣き止んだ時、途端に真っ赤になって肩に顔を埋めてきた。とても小さな声で「……忘れてくれ」と言ったので決して言いふらしたりしないと約束した。
「……し、しかし司はよく篠ノ之博士にあんな風に堂々と意見を言うことが出来たな。ISの生みの親にして生粋の天才、そんな人にISのこと問われたら、思っていることはあっても言葉が出てこなくなってしまう」
司自身、束の凄さを理解している。けれど皆がするような畏まったりする感情は何故だか出てこない。出てくるのは年上を敬うような感覚、そしてもしかしたら彼女があの時の人なのかもしれないという疑問と恩義だけだ。
司はよく分からないんだと苦笑しながら、でもと言葉を続けた。
「でも、俺は思うんだ。天才だって人だよ。考え方が違っていて、知識が飛び抜けていて、実行できる行動力がある。それでも、どこまで行っても結局人は人なんだ。篠ノ之束博士も天才とか色々言われているけど同じ人だと俺は思うよ。今、天才なだけでいつか人に戻るんだと思うんだ。戻り方は人それぞれで歳をとったり、恋をしたりして少しずつ戻って、天才という枠から自分になるんだと思う」
そう言ってから『恥ずかしいし、篠ノ之博士に失礼だから言わないでね。内緒だよ』と口元に人差し指を持っていってそんなジェスチャーをする。そんな司を見て、ラウラは『私も同じだ。秘密を共有してしまったな』と朗らかに笑った。司もラウラを見て釣られて笑みを浮かべた。
「ラウラ、準備できた?」
「司、準備は終わりました?」
デュノアさんと鷺ノ宮が確認しながらこちらな寄ってきた。準備は既に出来ていたので、その旨を伝える。
ラウラも司の後に続いた。
「あぁ、万全かは分からないが今できるだけは出来たよ」
「私も出来ている。行けるぞ」
4人とも行けるようだが、篠ノ之さんはどうなんだろうと居る方向を向いたら既に完了しているらしく機体を纏ってこちらをみていた。
「――来てくれ、打鉄」
「――往くぞ、シュヴァルツェア・レーゲン」
「――起きろ、レフィル・リノ」
「――おいで、ラファール・リヴァイブ」
一足先に飛び立った箒を追うように、4人はISを纏って後に続いた。
年内にもう一話投稿出来たらいいなぁと思っている柊でございます。できるかなぁ……。