読者の皆さま方、大変お待たせいたしました!!やっと完成した第六話です!
こんな更新が遅すぎる小説でも読んでくださってありがとうございます!
アクセル数が2万件超え、被お気に入りがもう少しで400件を行こうとしていることに驚きました。大変嬉しいです。
それでは第六話、どうぞ。
ボーデヴィッヒさんが言っていた落ちこぼれという言葉が妙に頭に残り、司はほぼ眠れないでいた。眠れても見るのは悪夢ばかり。
その中でも特に良く見るのは左目の傷のことだ。左のこめかみからの酷い裂けたような切り傷。目を縦に走る鋭い切り傷。これは司が幼少期から中学に至って付けられた傷である。
俺は幼少の頃から父親に好かれていなかった。母親は俺のことを嫌っておらず寧ろ好いてくれていたが、それが返ってまずかった。
父はそれが気に入らなかったのか母の見えないところ、居ない時に殴ったり蹴ったりしてくるようになった。ある日、俺は酒ビンで左のこめかみあたりを殴られた。割れたビンでも殴ってきて、傷は深く酷い物になった。出血も酷く、帰って来た母は大慌てだったらしい。近所の人から聞いたのはあんな声を初めて聞いたと言っていた。その時は傷だけで、まだ目も見えていた。
だがそこからだ。俺の目が見えなくなることが起こったのは。
その事件が起こってから父と母は離婚。当然と言うか俺は母に引き取られた。父にもう息子と私に近づかないという誓約書まで書かせて離婚したらしい。その頃はまだ小学3、4くらいだったから流されるままに母に付いて行った。それから数年たって、中学に上がる頃には何となく理解していたし、母にも私とお父さんは離婚して、その傷はお父さんに付けられた傷だよ、と聞かされた。別に傷のことはどうでもよかった。あっても無くても俺に優しくしてくれるのは母だけだったし、早く大人になって母に楽をさせたかった。だがそんな俺の前に再びあの男が現れた。
学校からの帰り道、誰かか後を付けて来ているというのが分かった。その頃は少々敏感になっていたし、何よりヒタヒタと妙な足音が聴こえていたからだ。気になって後ろをチラリと見た。そこには40代後半くらいの男が居て、靴は無く裸足。息が荒く、髪がボサボサ、髭も手入れをしていなく伸び放題。衣服は所々ほつれていた。手には包丁、オマケに目が血走っていた。その格好にビクリとしたが、自分には関係がないと思い、無視した。しかしその男はいつまでも自分の後を付けて来る。試しに曲がって見ても付いて来る。なので家には帰らないようにして、遠回りをした。そして決して悟られないように追いつかれないように注意して移動をしていた。またチラリと後ろを見た。すると男が何か口をパクパクとさせていることに初めて気が付いた。初めはただの呼吸だろうと思った。だが偶然か必然かその男が口にしていることが分かった。いや、分かってしまった。その瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。『おまえのせいで』そう男は口にしていたのだ。ついて来ている男は父だ。そう分かった瞬間、足に根が生えてしまったように動かなくなった。体が震え、呼吸が乱れる。ヒタヒタと後ろから足音が聞こえ、首をなんとか動かし、後ろを見る。そうして見えたのは父が包丁を振りかぶっている姿だった。その時その動きが遅く感じられ、ここで何かしなければ自分は死ぬんだと思った。強く、動けと念じた。体は動かなかったが、代わりに足の力がふっと抜け体が前のめりに倒れた。そのおかげでその凶刃の致命傷は避けることが出来たが、切っ先が左目を縦断したのだ。それで左目はもう使い物にならなくなった。
父と傷のトラウマ、受けた傷の痛みから意識を手放した。そして目が醒めたら病院のベットで寝ていて、父が捕まったことを知った。母さんにめちゃくちゃ怒られて、その後抱き締められた。こんなことになって正直、申し訳ないと感じた。おかしいかもしれないが入院費のこともそうだ。そのことも含め、母さんにもう一度ゴメンと言った。母さんは『司が生きててくれて良かった』と言ってくれた。本気で心配をかけてしまったと心から反省した。入院費のことはあなたが心配することじゃないわよと言って、手を頭に乗せて撫でてくれた。そして入院費のことは誰かか負担してくれたのだと言った。誰かとは誰と聞いたら知らないと言っていた。名前も言わずお金だけを置いて去ってしまったらしい。入院中に受付さんや看護婦さんにその人のことを聞いてみたら、その人は変わった格好をしていたそうだ。
見ず知らずの人に親切に出来るというのはどういう心持ちなんだろうか。例え、誰かが血を流していても俺には怖くてそんなことは出来ないと思う。ただその人には会って、ちゃんとお礼が言いたいと思った。
◆◆◇◆◆
「………ぅ…………」
目が醒め、またあの夢だと思った。しかしここ数日の夢と違うのは入院のところだ。いつもは気を失って目が醒めていた。
「………そう言えば、そうだったな。……何処に居んのかなぁ」
思い出すようにそう呟いた。
「……母さん、俺、しっかりやってるよ」
不思議と気分は全く悪くなかった。
◆◆◇◇◇
「…だいぶ遅く起きちゃったな」
時刻は7時18分。しかも今日は土曜日だ。十分早いと言えば早い。
「うーん、走るのは……食べてからで良いか」
予定が決まりベットから降り、キッチンへ向かう。途中で異変に気が付く。
「………何でベットから手が出てんだ?」
おかしい。確かに俺の部屋に寝られる所は二つあるが、俺はルームメイトはいない。しかもちゃんとドアに鍵を掛ける。………あれ?昨日掛けたっけか?…まずいな、忘れたかもしれん。つか思い出せない。
司は別のところに行きかけた思考を無理やり持って来させた。そして司は恐る恐るその毛布を掴みめくった。
「……むにゃむにゃ………すーすー」
とても安らかに眠っている女の子がいた。その顔を見てしまったら何だが起こすのが申し訳なくなってしまい、毛布を掛け直した。
「…まぁ、布団は使っていない方だから別に良いか」
そう言って朝食作りに取りかかった。休日も食堂は開いているのだが土日は自分で作ると決めているのだ。メニューはご飯に味噌汁、焼き鮭と漬け物。その動作は手慣れたものでテキパキと作っていく。
その匂いに誘われたのかペタペタとした足音がキッチンに近づいて来た。
「……ん~…なんか良い匂いがする~。かんちゃんって料理出来たっけ~?」
まだ眠いのか目を擦りながらそう聞いてきた少女。名前から察するにかんちゃんってのはこの子のルームメイトだろ?つかなんで俺の部屋に居たんだ?……おっと、まずは挨拶だな。
「おはよう」
「おはよう~……ってあれ~?かんちゃんじゃなくてなっきーだ~。なんで~?」
な、なっきー?名前なのか?それ。えーとこの子の名前は確か……。
「のほほんさん、でしたよね?」
正直名前ではないと思うがこの名前?しか知らない。
「そうだよ~。布仏本音、16さい~」
なるほど、本名は布仏本音さんというのか覚えておこう。と言うか歳はいう必要あったのか?
「えー布仏さんはどうして俺の部屋に?」
「うーん、分かんない。気が付いたらここにいたよ~。確か……お花を摘みにを行こうとしていたような~?していなかったような~?」
うーんと唸って腕を組む動作をする布仏さん。
お、お花を摘みに?表現を濁しているがしっかりその内容がわかってしまった。何だか聞いたこっちが恥ずかしくなってしまい考えないようにしようと思った。……と言うか気が付いたらってそれは大丈夫なんだろうか。俺の所に運良くたどり着けたから良かったものの。いや、良くはないが……。少し布仏さんのことが心配になって来ていると『ぐぅ~』っとお腹が鳴る音が聞こえた。俺ではないので、もしやと思い布仏さんの方を見る。するとお腹を押さえ、視線を下に向けていた。若干だが頬が赤くなっている気がする。
「……朝食、食べますか?」
「…いいの?」
そう言って顔を上げる。
「えぇ、少し多めに作りましたから布仏さんが食べても問題ないですよ」
「じゃあ、食べる~。ありがとね、なっきー。えへへ~♪」
布仏さんの顔が花が咲いたようにパッと笑顔になった。感情が豊かな人だなと思った。戻ったとはいえ自分はここまで感情を顔に出せない。少し良いなと思ったがその事よりも、目の前の布仏さんの笑顔を見られて良かったと感じてしまった。ただ純粋に笑う人を見たのは母さんの他には初めてな気がする。水面さんは純粋ではあったけど何かありそうな気がするし、織斑は……あんま見ないな。うん。つか、あんまり接点が無い気がする。まぁ…いいだろ。今は食事だ。
「では、食べましょうか」
「うん!手伝うよ~」
布仏さんが食器出しなどを手伝ってくれたが、ご飯を装う茶碗が一つしか無かったので布仏さんに使わせようとしたら、私が使うのは流石に悪いよと言い俺に使わせようとしたのだ。そこから誰が使うか話し合いになったのだが布仏さんが唐突に切り出した。
「おにぎり!おにぎりにしようよ~なっきー」
「おにぎり?」
「うん、おにぎり。それなら私もなっきーも茶碗を使わなくて問題解決だよ~」
確かに、おにぎりなら皿に並べて置けばいいし、茶碗も使わなくていい。
「じゃあ、おにぎりにしますか」
「うん!手伝う手伝う~!」
……手伝うと張り切っているのだがどうしても布仏さんが料理を作れる人に見えない。失礼だが。
「…あの、おにぎり作れます?」
「失礼な~!私だっておにぎりくらいちゃんと作れるよ~!」
と言っていたので取り合えずそのまま作り始めたのだが、まぁ結果は予想通りだった。
手を濡らさずに作り始めて手にご飯がついて握れず、熱がっていた。手を水で冷やしてあげて、水で手を濡らした方が作りやすいですよと言ったら、今度は濡らし過ぎておにぎりがべちゃべちゃになった。しゅんとしていたが、俺がまず作りますので一緒に作りましょうと言って一緒に作った。途中こうした方が良いなど解説を入れたが、その度ふんふんと布仏さんが頷いていた。作り終わる頃にはちゃんとした形に作れるようになっていた。
その後布仏さんとご飯を食べた。味噌汁などちゃんと出来ているか不安になったが美味しいと言ってくれてホッとした。こうして誰かと食べるのは随分と久しぶりな気がする。自分の作ったものを美味しいと言って食べてくれたのは嬉しかった。布仏さんがありがとうと言っていたが自分も聞こえないように布仏さんにありがとうと言った。
◇◇◇◇◇
食後、お茶を布仏さんと飲んでいたら、突然私の部屋にも来ないか?と誘われた。その提案は嬉しかったが女の子の部屋に入る気になれず断らせてもらった。まぁ、ルームメイトの人にも悪いなと思ったのもあるが。
布仏さんとしばらく話して一通り話終えた後、布仏さんは帰って行った。ドアまで見送ったのだが真向かいの部屋が布仏さん達の部屋だと知ったときは思わず驚いた。
布仏さんを見送り一息つく。考えてみれば久しぶりにあれだけ喋ったかもしれない。話易かったと言えば話易かった。布仏さんのあの雰囲気のおかげかも知れない。その後、少しいい気分で走りに向かった。
◇◇◇◇◆
日が暮れるまで走ったり、空手の練習に費やした。走ることはもちろん毎日やっている。しかし空手の練習は休日ぐらいしか時間が無いので走ることより多く時間を取っている。休日しかやらないのは、まぁ、人目に付きたく無いというのもある。それから空手と言っても型や技を練習しているだけに過ぎず、実戦ではまず使えないだろうと思う。そしてそれらのメニューが終わったら必ず打鉄の所へ行く。格納庫で打鉄に乗って動作確認や傍で瞑想をするようになった。少しでも長く打鉄と居られたらと思って始めたことだ。まぁ、打鉄がどう思っているかは分からないが。
日が暮れたので自室に戻った。シャワーで汗を洗い流し、着替えてストレッチをする。体が硬いと怪我も多くなると聞いたことがあったので走った後は欠かさずするようにしているのだ。
司がストレッチをしているとドアがドンドンと強く叩かれた。出るか出ないか少し戸惑ったが取り合えず出てみることにした。ドアを開け、出てみるとそこには織斑がいた。だがいつものような雰囲気はなく、真剣さが感じられた。
「……織斑か。どうした?」
取り合えず率直に用件だけを尋ねる。
「司……ちょっと俺の部屋に来てくれ」
「ここでは駄目な話なのか?」
織斑が頷き、声量を落として言う。
「あぁ、実はシャルのことでちょっと……」
「デュノアの?」
俺がそう聞くと頷いた。ちなみに言っておくと、俺たちが転校して来たときに織斑のところが引っ越しになった。篠ノ之さんがデュノアと入れ替わったそうだ。その時一悶着あったらしいが俺は知らない。それで織斑とデュノアは相部屋に。俺にもルームメイトの相談が来ていたが一人部屋が良いと言ってなんとかそうしてもらったのだ。山田先生には感謝です。
「……わかった。今行く、ちょっと待ってくれ」
部屋に戻り電気などを消して、織斑の元へ向かう。ドアに鍵を掛けて織斑と移動する。織斑の部屋にはすぐ着いたのだが少し変だと思った。自分の部屋なのにすぐ入ろうとせず、ドアをノックして自分の名前を言ってから入る。どう考えても不自然だ。そう思ったが何も言わず織斑の後に続いて入る。
部屋に入って見るとデュノアは毛布にくるまってゴホゴホ言っていた。わざとらしく。
「?。デュノアはどうしたんだ?風邪か?」
「いや、風邪では、ないんだが……」
どうにも歯切れが悪い。言葉に詰まっている織斑。一体何なんだと思い、織斑に俺を連れてきた理由を問うことにした。
「まぁ、風邪かどうかはこの際、置いておこう。織斑、話って言うのは何だ?」
「あぁ、さっき言ったけどシャルのことなんだ。司にも相談したくてさ」
デュノアのことで俺に相談?なんでいちいち俺に言うんだ?いつも一緒にいる女の子達に言えばいいんじゃないだろうか?
「別に相談なら俺じゃなくてもいいんじゃないか?いつも一緒にいる女の子の方が相談しやすいだろ?」
「いや…あいつらに言うのはちょっと不味いと言うか…言いずらいと言うか……兎に角、司にしか今のところ言えないことなんだ。同じ男として…」
「そ、そうか…それで、デュノアのことを話すのに肝心の本人があれじゃ分からんから、どうにかしてくれ」
そう、デュノアはこの暑いなかでも一向に毛布の中から出てこようとしない。織斑がデュノアの所まで行き、何か耳打ちをした。その時、デュノアの毛布が動いたので何かしらの反応はしたんだろうが、全く分からない。え?つか、お前俺に相談したいって言ってて耳打ちするんですか?俺帰っていいかな?
「司。実は――」
織斑が顔をこちらに向け、先程と同じように真剣な雰囲気を漂わせて切り出した。
お前が話すんかい。え?そこはデュノアだろ?
「シャルは女の子だったんだ」
「………は?」
織斑が言ったのはある意味とんでもないような事だった。
第六話、どうでしたか?今回のお話の流れは司君の左目のお話からシャルロットの男装といきました。
次回はそこから展開していこうかと思います。もしかしたら一夏とそのことで少し言い争いをするかもしれません。
では第七話で。ではでは。