現代ホラーの中で順当にハクスラしてたらいつの間にか都市伝説化していた。 作:細々した胡麻
「サバ缶美味っ。」
こんちゃっ!台所勝手に漁りまくってます!こちとら怪物退治でつかれてるんでコレくらいのご褒美は許してくださいな。この終点の館にはろくなセーブポイントがない。
本来であれば、チュートリアル的な短めのダンジョンであるから当たり前ではあるのだが、それにしたって長く滞在する人の事を考えてなさすぎる。今度建設会社へ文句言ってやろうかと考えるぜ。
しかし、最近収穫があった。この終点の館のボスエネミー『扉の怪物』からとうとう目当ての素材を剥ぎ取れたのだ。長かった…………この館に入ってから数週間位かかったぜ。
いやぁ、女の子が丁度扉の怪物に舌で巻かれてくれたお陰でちゃんと剥ぎ取れた。食われかけてくれたあの娘には足向けてれねられねぇな、何処の誰だか知らないけど。
あ、あのあとあの女の子は満身創痍で半気絶状態ながらも外へと逃げていきました。館の外なら館の中の怪物も手出しできないんでもう安全だと思います。在野の怪物に襲われない限りは。
そうなんよ、この世界普通に外でも怪物がおるんよ。廃墟とかトンネルとか普通はそういういかにもな心霊スポットに怪物が出るんだけど偶にそのへんの路地裏に怪物がスポーンするから恐ろしいわ。
ダンジョンじゃないから安全!と思って瀕死状態で街うろついてたら怪物に襲われてゲームオーバーとかそこそこあったからな。まぁ、再生者になった俺にゃ関係ないけど。
つか、怪物殺して返り血を一定量浴びることで再生者のスキルゲットって怖すぎるわ。でも同時にお手軽でもある。近接メインにしてりゃ程度の差はあれど返り血まみれになるからな。
スキルポイントの成長が使えないのが残念だけど。まぁ俺の場合は近接戦やりすぎて大分再生者スキルのレベル上がったが。
因みに総じてこの『鏖殺』に出てくる怪物は大勢の人に見られるのを嫌がるから人通りの多い場所に行けば問題ないんだけどね。大勢いても密室とかだったら襲われる可能性あるけど。
なんか体育館密室にしたら怪物が現れて全校生徒消えるみたいな話もあったような無かったような。まぁいいな。そこは。
っと、そうこうしてる間に燃料補給完了。サバ缶食い終わりました……っと。さて、作業するか!
「サバ缶美味かったな。まだ残ってたらいいけど……さぁて、まずは壊れかけの対怪物特攻の付いた手斧を二本用意します!」
そしたらば!怪物の長舌という素材を使っていい感じに修復します!こう……ロープみたいに巻き付けて使うんですねぇ!
ぐるぐると外れかかってるところに巻き付けて縛り直して……はい修復完了!
わずか十行足らずで終わらせてるけど、これが結構加工も巻くのも大変で手がつるほどにきつい作業だったぜ。
「ふぅ、完成だ。」
これで、ある程度上位の怪物とも渡り合える。対怪物特攻、対怪異特攻、ありとあらゆる化け物を叩き切れる手斧!
「試し斬りをしてぇな……っしゃ。」
さぁ!今こうしている間にもドアをガンガンと叩いてやかましい外の怪物を叩き斬りに行きますか!ドアを蹴破ってェ!ぶち殺ぶち殺タァァァァァァイム!!!
「縺雁燕縲∵?悶>縺雁燕縲∵?悶>――」
「縺雁燕縲∵?悶>縺雁――」
「一発!はい二発!」
うん、明らかに今までのしょぼい素材よりも圧倒的に火力が上がってる。出てきた怪物もそこそこ耐久力はあるタイプだったが、一発で落とせた。
だけど、コイツラなら今まででもそう労せず倒せた。もっともっと強い怪物が居ねぇかな……と言っても、ボスエネミーの扉の怪物もそこまで苦労はしなかった。
もっと歯応えのある
だって、館にいると面白いくらいバンバンエンカウントするんだもん、最近はなんかエンカウント率少なくなってきたけど……。
まぁ、いいやぁ!そろそろ屋敷にこもるのも潮時だって思ってたし、外に出てみよう!外ならもっとヤバい怪物がうじゃうじゃいるからな!チュートリアルから卒業する時だ!
「っし、そうと決まればサバ缶ありったけカバンに詰めとこう。」
俺の身体は八割はサバ缶。
もう2割は鏖殺で出来ている。
さぁて、早く準備しよう!もっともっと怪物鏖殺するんだぁ!何のために?念の為に。
T県B市F区、時間帯は深夜……そのとある一角は、かなり広い屋敷となっている。山奥に建てられた屋敷は昔はとんだ令嬢の住む館だったそうだが、今では全く使われておらず心霊スポットとして大人気らしい。
化け物が出る噂や、斧を両手に持った斧男なる都市伝説まで生まれる始末だ。
今宵、この『終点の館』に足を踏み入れんとするのは四名。どちらも近所の高校に通う学生で同級生だ。
一人は第1ボタンを開けた見るからにチャラそうな赤髪『ユキト』。
一人は色黒金髪なイマドキ珍しいほどにギャルギャルとした容姿の少女『サラ』
一人は気弱そうで他の面々と比べて若干背の低い黒髪のナード『ヤマジ』
一人は白髪赤眼のロングヘアーを持つ無表情でミステリアスな少女
彼女達は、この終点の館に肝試しに来た一行。だが、彼女らを知る者から見ればこう思うのは確実だ。
『鏖殺のキャラクターだ。』
少なくとも、鏖殺と言うゲームをプレイした人間はこの感想を抱く。鏖殺の主なストーリーの目的は、ユキト、サラ、ヤマジ……彼ら大事なご友人達を守ることにあるのだから。
「ここか……噂の終点の館ってのは……ネーミングセンス終わってんな。」
「まーまー!細かいことは良いじゃん?」
「ふっふっ、震えが止まらないですね……これぞ肝試しの醍醐味!」
「……ワクワクだね。」
多様な反応を見せる4人だが、その誰もが友人と肝試しすることを楽しみにしていた。4人は着々と館の敷地内を通り抜けていき、その扉の前まで歩いていく。
ユキトがため息混じりに扉の取っ手に手をかけて、勢いよく開く。すると、少しほこりが舞って粘膜を突く。
館の中は薄暗く、入っただけで背筋が凍える感覚に襲われた。だが、友人たちと一緒にいるからか、そんな危険信号を鈍く感じているのが今の四人だ。仲間と一緒にいるということはそれだけ安心感を覚えさせる。
「な、なんか変な雰囲気……」
「いいから行こうぜ。懐中電灯は持ってきてるんだろ?ヤマジ。」
「無論!ここに!……あれっ?点かない……?」
本来であれば、怪物達はもっとじっくりゆっくりと獲物を狙う。怪物達にとって人間は養分……だが、それ以上に恐怖を与え愉しむ存在なのだ。
奇妙な話だが、養分として人を食わなければならないのにもかかわらず、喰らうことより恐怖を与えて喚き叫ばせ、殺す事の方を好む。それが普通の怪物だ。
この意味の分からない思考サイクルこそ、怪物が怪物であることの証明にほかならない。それが原作『鏖殺』と言うゲームに出てくる怪物の特徴。
しかし、この世界は鏖殺の世界観を持った世界ではあれど、鏖殺と言うゲームではない。その最たる例が原作に居ない男である、館に住み着いているハクスラの怪物……都市伝説の正体、斧男。
彼の存在は鏖殺と言う決まったストーリーを持つ作品を大きく変えるだけの力を持っていた。良い方にも悪い方にも。
本来、この鏖殺と言うゲームでの終点の館の役割は、物語の始まり、チュートリアル。その流れは序盤は館に入るところから始まり、怪物達から友人達と共に逃げると言うパニックホラゲーの様なパートから始まる。
それができるのは、怪物達が『食べる』前に『恐怖を与える』というスタンスを見せるからだ。
だが、今この館にいる怪物は皆飢えすぎている。
斧男と言う訳の分からない男に住み着かれ、無尽蔵に増える仲間はバンバンと無尽蔵に殺され、彼の手斧の素材にされている。
お陰で、入ってきた人間を襲う隙もない。
飢えは、既に怪物の矜持を捨て去るほどに肥大化していた。もはや、見境無く恐怖を与える隙も無く、入ってきた獲物を喰らう程には。
「……ヤマジ、大丈夫?」
「おら、早く行くぞ〜!」
「どったのよさ?」
「いや、何故か懐中電灯の電源が点かな――」
メシャリ。
天井から現れた『口』は、問答無用で懐中電灯を付けようと苦心しているヤマジを頬張ってしまう。独特の咀嚼を鳴らして、ヤマジの上半身は怪物の胃の中だ。
もはや、その場に居た誰もが唖然とした。突然起こった魑魅魍魎の殺戮に、言葉すら発する余裕はなかった。
鏖殺のプレイヤーが見たとしてもそれは同じだ。本来
鏖殺はストーリーの分岐なんて殆ど無い一本道の物語、友人の誰かが死ぬなんてルートは本来ありえないはずだった。
皮肉なことに斧男の存在が、斧男が加入するよりも早く原作を崩壊させてしまったのだ。
そして、こういう時のお決まりがある……悲劇は、連鎖する。
「っ!!」
ユキトは咄嗟にサラとマオの手を引いて入り口まで駆け寄り、扉に手をかける。身体が咄嗟に動いたのだ。二人を見捨てるのではなく、手を引いて走った所にユキトの人の良さが見え隠れする。
流石は原作で『主人公よりも主人公している男』とまで言われたことはある。それだけユキトは正義感や善良さのある人物なのだ。
「っ!扉開くぞ!早く逃げよう!」
「えっ……あっ……えっ……?」
「うん、早く……逃げよう。」
扉が開くことに安堵するユキト。目の前で起こったことに完全に錯乱状態のサラ、そして原作でも怪物を見ても一切動揺の見られなかった
ユキトは歓喜のまま扉を開く。そして、外には生い茂る木々と靡く風が………
「ばぁ。」
広がらず、代わりにあるのは怪物の口内だ。だが、既にユキトは駆け出していた。
反射的に駆け出してしまったのだ。そこが怪物の口内で引き返そうとしたときには……既に遅かった。
「やば」
バタンと、扉が閉まる。目の前で二人の友達が死んだ。それも、訳の分からない怪物に食われた。その現実は、まだ幼い普通の女子高生のサラには、耐え難い感覚だった。
「あ……あぁぇ?あえっ?死ん……食べら……なん、で?い……やぁ……」
「サラ、兎に角隠れよう、ここに居たら危険だよ。」
なぜお前はそんなに冷静なのだマオ。
だが、原作でもこの怪物レベルの冷静さとドライさは据え置きだ。
鏖殺が語られる場では、無個性主人公にするあまり、もはや一種の化け物と化していたとまで言われていたほどだ。
だが、マオも内心は恐ろしくてたまらなかった。うまく感情を表に出せない性格のせいでこうなってしまっているが……彼女もこの世界を生きる普通の人間なのだ。
だが、その様をみて不気味がらない人間は居ない。こんな状態なら、尚更だ。
「なん、で……なんでそんなに落ち着いてるの?なんで!?なんで!?なんで!?ヤマジが、ユキトも死んだのよ!?なんでそんなふうに居られるの!?」
「……私だって怖い。」
「ならなんで!」
「でも、私がここで可笑しくなったら、サラに何が起こるかわかんないから……だから……こわいの、我慢してる。」
「サラにまで、死んでほしくないから……」
「ま……お……」
こう言われたら、流石にサラも少しだけ落ち着ける。最初は発狂のあまり目の前の女の子が怪物と同じナニカなのではとまで考えたが、その泣きそうな瞳が、それはないとサラの感覚に訴えてくる。
「……ごめん、マオ。ちょっとおかしくなってた……」
「大丈夫だよ、早く逃げよう。」
「……うん……」
二人はその場から一刻も早く離れようとする。マオはサラへと手を伸ばす。サラも、その手を取ろうとする……次の瞬間だ。
「マオ。逃げよ―――」
サラは突然地面に出来た穴に落ちていった。
……それは穴ではなくて、さっきヤマジを食べた口と同じものが床に出来ただけなんだが。
「えっ?」
残ったのは何もわかっていない
「……なん、で。」
マオはそうつぶやくと、その視線の先には無数の肉片のような怪物が波のごとく押し寄せていた。逃げなくては……しかし、脚は上がらない。手を差し伸べてくれる友達も皆死んでしまった。
感情を表に出すことが出来なかったマオを、友達として輪に入れてくれた友人たちも……皆死んだ。何をする気も起きずに、その肉の波が自身を飲み込むのを待つことにするのだった。
だがその肉の波は、マオの身体を飲み込むよりも先にひき肉のように叩き斬られてしまう。肉の波は避け、まるでモーゼの海割りの様になり……その奥から一人の青年が現れる。
両手に手斧を携えた、明らかに常人ではない雰囲気をまとわせた男……都市伝説の正体、斧男。
「良い切れ味だ……」
恍惚の顔で己の手斧を眺める斧男、その隙にいくら怪物に襲われようとも片手間に斧を振るい切り裂く。
マオはその光景をただ観ることしか出来ない。いや、魅入っていた……の方が適切か。
怪物を狩るその姿はもはやただの化け物でしかなかったが、マオはその姿に心打たれるものがあった。
憧れ……それに近い感情を持ってしまうのだ。『鏖殺』と言うゲームの主人公として。怪物を狩るハクスラの化け物としての血が、目覚めようとしていた。