お気をつけて!
「危なっ!?」
意気込んで望んだ禍霊夢との戦いは、2vs1でも押され気味だった。禍霊夢中心に展開される
色彩豊かな弾幕は、時々弾道を狂わせてやって来る。右斜め上からだったり、足元からだったり、背後からだったり……かなり危ない。
「どうして僕達を攻撃するのさ!」
「あんた達を消して、幻想郷を手に入れるためよ。」
わお、まさかの幻想征服と来ましたか……。
「はぁ……、あんたみたいのは幻想郷にいくらでもいるのよ。」
自身を囲むように結界を張る僕ら。そして、その結界の中で呆れて溜め息を吐いた霊夢。
「えぇ、そうね。でも……、だからこそやる意味があると思うわ。」
「まぁ、ありきたりだからこそやる意味があるって考えには共感できるけど、個人的にも博麗の巫女としての立場もあるわ。だから……今ここで止める!!」
そして、結界を壊して飛び出す霊夢。慌てて僕も飛び出す。が、霊夢と禍霊夢が格闘戦を始めたので、手出しが出来ない。
「やるわね。流石と言っておくわ。けど、これならどう!?」
霊夢の拳の勢いを貰って大きく後ろに吹き飛んだ禍霊夢は、お祓い棒を顔の前に縦に構えて、目を見開いた。次の瞬間、禍霊夢は四人に分裂。
「フォー○アカインド!?」
「ちょっと違うわね。あれは自分が一人という概念を狂わせて四人にしたのね。」
そのことに驚く僕に、理論をきちんと説明してくれる霊夢。優しい(確信)。
「「「「いくわよ!!」」」」
「面倒ね……。」
「霊夢!!……うおっ!?」
「あなたの相手は私!」
三人が霊夢へと集中し、残りの一人が僕へと来る。ガッ、と腕を交差させ、つばぜり合いをする僕と禍霊夢。
「退いてくれ!!僕は……僕は、霊夢のところへ行かなきゃいけないんだ!」
「なら、力づくで倒していきなさい!」
逆袈裟に振り下ろされたお祓い棒を腕を交差させて受け止め……切れず、地面へと紫の光の尾を出しながら激突した。
……威力を狂わせていたのか、くそっ!
よれよれと立ち上がりながり、降りてきた禍霊夢を一睨みして、霊夢の方をチラリと見ると、一人に急接近して、禍霊夢の腹に手を当てて、一人を撃沈させて残りは二人という状態だった。が、やはりというか少しだけ焦りと疲れの色が見える。それを見て僕は本能的に悟った。
このままじゃ霊夢が、確実に殺られる、と。
チート級の禍霊夢を三人相手にして無事でいられるはずもないし、狂わせる程度の能力で普段と全く違う戦闘で疲れはいつもの倍だというのに、少しだけというのは我慢してるからなのだろう。
だから、今すぐにでも駆け付けたいが、こちらも禍霊夢との戦闘中。一瞬も気が抜けない。
「はぁあああ!!」
拳を握りしめ、心の中で南無三!と言ってから禍霊夢へと拳を向ける。禍霊夢は、全力投球の僕の拳を掌で受け止めようとするも、衝撃を殺しきれず地面に跳ねながら吹き飛んだ。
「きゃああ!!」
……何で皆僕を悪人のような目で見るの?あれだよ?皆、仲間に化けた悪役を殴った主人公と同じ立場の僕をそんな目で見るなんて、主人公をそんな目で見てるようなものだかんね?
「やったか!?」
なかなか立ち上がらない土煙に紛れ込んだ禍霊夢を前に、僕はフラグみたいな言葉を言って待つ。すると……。
「がっ!?」
「痛かったわ、今のは。」
僕の肩を回して後ろを向かせて、首を絞めて足を浮かせた。
「な、なんで……。」
「位置を狂わせたのよ。」
何でもありか!
またも心の中で叫ぶ僕だが、どんなにジタバタしても首を絞める手に力を入れても禍霊夢の拘束はとけない。
「残念ね……。もう少し、遊んでいたかったのだけれど……。」
シュ、と空いてる片手を細くして、構えた。まさか……!冷や汗を垂らした僕の腹に、禍霊夢の手が……。
「……え?」
……突如現れた霊夢の腹に、鮮血を撒き散らしながら深々と突き刺さった。その事実を認識するのに、霊夢の返り血をビシャッと自分の頬と右半身に浴びてからようやく気付けた。
「嘘、でしょ……?れい、む……?」
どうして、ここに……?それに、他の禍霊夢は……?
そんな僕の複数の問いを示すように、にこりと優しく笑った霊夢は、ゴホッ、と血反吐を吐いて……。
「よかっ、た……。」
ドサッ、と倒れたんだ。
「嘘だよ、霊夢……!ねぇ、目を覚ましてよ、霊夢……霊夢ぅうう!!」
「あら……あんだけいたのに、もう倒したのね。まぁ、だから自分の体でしか防げなかったのでしょうけど。」
冷静に状況を言う禍霊夢。僕は、そんな禍霊夢に――心の底から、激怒した。
「お前……お前ぇぇえ!!」
どこかセーフティをかけていた僕は、怒りで我を忘れて禍霊夢へと向かった。光速に動いた僕を、目の前に現れてようやく視認できた禍霊夢は何か行動を起こそうとするも、腹に深々とめり込み、そして上に突き上げられた僕の拳のせいで、ただ上空へと高く吹き飛ぶしかなかった。
「がはっ……!」
それでも少量しか血をはかない禍霊夢。……まだだ、まだ、足りない!
「お前が流させた!霊夢の血は、そんなものじゃないッッツ!!」
《霊狐(れいこ)》を完全に纏った僕は、《霊狐》の拳で禍霊夢を地面へと打ち付けた。激しい土煙をあげながら、地面にめり込んだ禍霊夢を、《霊狐》を解除して着地しながら睨んだ。
「参っ、たわね……。侮り過ぎたわ……。」
「……まだ、生きてたのか。」
血溜まりを作って地面に倒れている霊夢をみやり、止めを差すべく禍霊夢へと歩み寄る。
隣に立ち、拳を振り上げて、構えた。
「……死ね。」
振り下ろした拳が、禍霊夢の腹に刺さることはなかった。境界から現れた手が、しっかりと僕の腕を掴んでいたからだ。
「……離してくださいよ、紫さん。」
境界を操る程度の能力の持ち主へと、憤怒と怨嗟が入り交じった声をかける。
そして、……紫さんは全身を出して言った。
「あら、なら霊夢を生き返らせなくてもいいの?」
「……は?」
「だから、その娘の能力があれば、生き返らせれるってこと。」
「本当に!?」
「えぇ。……ね?禍霊夢?」
「……出来ないことはないわ。」
先程の僕よりも弱々しく立ち上がった禍霊夢は、少し溜めていった。
「だけど、それは本来の自然の摂理の流れに逆らう行為。代償は必要だわ。」
「その代償は?」
紫さんが唖然とする僕の代わりに聞いてくれる。そして、禍霊夢の答えは……。
「……生きた一人の人間の命。」
「!!」
僕は、その言葉を聞いた途端、禍霊夢に詰め寄っていた。
「僕を……僕の命を使ってくれ!!」
「あら。」
「え?で、でも……。」
「本人が死んでは出来ないし、紫さんは妖怪だ。なら、必然的に僕でしょ?」
「そ、それはそうだけど……。」
紫さんは意外というよりやっぱりという感じだった。禍霊夢は、僕の剣幕にしどろもどろといった感じだった。
「お願いだ……、僕の命を、使ってくれ……!!」
僕の渾身の願いに、禍霊夢は一瞬目を閉じて、開いたときには覚悟を決めた目をしていた。
「分かったわ……。」
そう言って、禍霊夢は僕の心臓の真上に手をトンとのせる。
「紫さん。一つだけ、お願いします。」
「何かしら?」
「生き返った霊夢に……伝えてください。」
生きてる内に、言えなかった言葉を、紫さんに伝言を僕は頼んだ。
「会ったときからずっと……大好きだったって。」
「……必ず。」
思い出されるのは、霊夢の多様な表情。色んな表情の中、一際思い出せるのは、笑顔だった。僕の伝言を、必ず伝えると約束してくれた紫さんに小さく微笑んで、目を閉じた。
その瞬間、ストン、と体の重りが抜けた感覚がした瞬間、僕は――――
――――死んだんだ――――。
「……うぅ、う……。」
いきなりの夜の冷気に、目を覚ました。
「あれ、ここは……?」
私はそんな疑問を口にしたが、そうではなかった。本当は、腹を貫かれて死んだはずの自分が、どうしてもう一度ここにいるのか、と言いたかったのだ。
「おはよう、お目覚めかしら、霊夢。それとも、おかえりなさいと言うべきかしらね。」
「え、あれ?紫!あんたどこに行ってたのよ!!」
後ろからかけられた聞き慣れた声に後ろを振り向くと、私の友人、八雲 紫がいた。だから、立ち上がってズカズカと歩み寄った。
「あなた達の弾幕ごっこを見てたのよ。といっても、だいぶルールに触れた弾幕ごっこだったけれど。」
「そう、それよ!私死んだはずなのにどうして……って、あんた!生きてたのね!」
「酷い言い草ね。ま、殺した相手に無茶いうなってところだろうけど。」
その後ろには、どこか悲しげな表情をした禍霊夢がいた。
「ほんとよ!というか、私死んでなかったの?」
「……いいえ。確かに、あなたは死んだわ。けれど、生き返ったのよ。……その子の命を犠牲にね。」
「え?」
その子のから、禍霊夢は足元に視線を向けていたので、それを真似て下を見ると……倒れて、ピクリとも動かない、妖人がいた。
「妖人?何寝てんのよ。ていうか、敵を前に寝るってどういうことよ?ねぇ!」
何度揺すっても、何度近くで叫ぼうと、妖人が目を覚ます気配はない。それどころか、生気が感じられない。……そう、それは、まるで……。
「嘘、でしょ……?」
それは、まるで、死体のようだった。
「だから、言ったでしょう?あなたの代わりに、この子が死んだって。あなたの死んだという事実を狂わせて、この子が……妖人が死んだことにしたって。」
「そんな……何で、何で!」
怒りのあまり、胸ぐらを掴もうとしたが、次の言葉に私は動けなくなった。
「あなたは……彼の想いを、彼の決意を無駄にするの?」
「え……?」
「………妖人から、あなたへ伝言があるわ、霊夢。」
私が動かなくなったのを見計らって、紫が告げた。
「会ったときから、ずっと……あなたのことが大好きだったって。」
「……!」
紫から告げられた、妖人の遺言を聞いた私の胸に、まるで塞き止められていた水が一気に流れ出したかのように妖人への想いが溢れた。
私を見ていた妖人。私を誉めてくれた妖人。私と戦ってくれた妖人。私と笑ってくれた……私の大好きな、妖人。
「……!……!!」
膝を折って、正座のような姿勢で座った私は、服が土で汚れてるのも構わず、声にならない嗚咽と、大粒の涙を流し続けた。ほんの数分間なのに、私は数日間泣き続けたように感じた。
「……そろそろ、戻りましょう。」
「……えぇ、そうね。」
一通り落ち着いた私を見て、紫が言った。
「その前に、ここを元に戻してくれるかしら?」
「……餞別みたいであまり気乗りしないけど。」
禍霊夢は、手で空をそっと仰いだ。すると……。見る間に景色が変わっていく。普通は見ることのないこの空間に、唖然とするばかりだ。
「……終わったわ。」
そう言って禍霊夢が手を下ろした時には、もう殆ど私が知ってる現代の日本の景色だった。
「……ありがとう。あなたは、これからどうするの?」
涙を拭きながら立ち上がって私は聞いた。因みに、今が夜であることには変わらない。
「そうね……。」
どうするか決めていなかったようで、腕を組んで悩み始める禍霊夢。
「なら、うちにいらっしゃい。下手にうろうろされるよりかはいくらか楽だもの。」
紫が、あっさりと言う。かくいう私も、拒否をする気にはなれなかった。今の彼女からは、殺気というか、闘気が感じられなかったから。
「そうさせてもらうわ。」
「さぁ、帰りましょう。……それをどうするかは、霊夢に任せるわ。」
死体の妖人をそれ呼ばわりする紫に、腹を立てかけたが、怒る気分に私はなれなかった。
「……うちに持ち帰るわ。」
「そう、じゃあ帰りましょう。霊夢にとっては久しぶりの、幻想郷へ。」
私は、妖人を背負って、紫と禍霊夢の後に続いて境界の中へと入っていった。
――――――――
桜花妖人が死んだ。意中の人を助けるために、自らの命を投げ出して。彼は、多いに喜んだ。自分の最愛の人を助けられたのだから。
これにて……この物語は終わる。しかし、始まりに終わりがあると共に、終わりにも始まりがある。
これより始まる物語は、彼の体験した、死中の物語――――。
『東方冒険禄3(仮)』
なかなか彼の物語は、終わらないようですよ――――。
SEE YOU MAYBE NEXT STORY!!
どうでしたか?最終回は!
どうも、最終回を投稿し終えて清々しい気分の自分です。完結に数ヵ月もかかってしまい、すみませんでした。
はい、今回は色々波瀾万丈でしたね!というか、本来はこうなるとは思ってなかったんですよ。だから、完成したときには見事なまでにポルナレフやりましたね~。
とまぁ、話が少し逸れたところで別の話へ。
最後の方で予告した通り、東方冒険禄はまだ続きます!多分ね!
最終回の伸びがよければ作りましょう!多分ね!
それでは、もしかしたら次の物語で。
じゃあの!!