私は悪魔です。
もう何世紀も地獄には帰ってませんけど上級悪魔でございます。だって、地獄にはスイーツがないのです!どこにいるのかって?次元の狭間で呼ばれるのを待つ日々です。
次元の狭間にはスイーツあるのかって?
………。
──さて!
今日も誰かが私を召喚したようなので、サクッと行ってきましょう。
***
今日の召喚者はスリザリン寮の地下で、小柄な金髪の少年です。その髪は陽光のように輝き、顔立ちは整っていますが、眉間に寄せられた皺が幼い必死さを物語っています。
名前は──おやおや、またマルフォイですか。
「召喚に応じ、参上仕りました。悪魔です」
私は軽く燕尾服の裾を摘み、一礼しました。紫の瞳を細めて少年を見つめると、彼はきゅっと顎を引き、名乗ります。
「僕はマルフォイ。ルシウス・マルフォイだ」
「おお、以前ご依頼くださったアブラクサスのご子息でいらっしゃいますね」
「……知っているのか?」
「そりゃあもう、あの時のシュガーボンボンの甘さは忘れがたく」
数年前からあのシュガーボンボンは届かなくなってしまって、とっても残念に思っていたところです。さてさて今回もいい具合に連続契約できたらいいですね。マルフォイ家なら財力もありますし今回も期待していきましょう。
「……今日は、その件でだ」
「シュガーボンボンのお使いで?」
「違う!」
顔を赤くして声を張るルシウス。おや、違いましたか。私は咳払いをし、気を取り直す。
「ごほん。失礼、ではご依頼の内容をどうぞ」
ルシウスは金髪をそっと撫で、困ったように視線を泳がせた。
「その……髪だ。」
「髪?」
「金髪の……この髪が……」
また髪。
もしかしてマルフォイ家は髪に執着のある家系なのですかね。
笑顔で続きを促せば、ルシウスは言葉を詰まらせ、拳を握りました。私は笑顔を崩さずに片手を胸に当てます。
「どうぞご遠慮なく」
「髪が……サラサラになるだけじゃなく……もっと光を放つようにしてほしい。」
「なるほど、光属性付与ですか」
「それだけじゃない……」
ルシウスはさらに声を絞り出します。
「父上の……前髪が……後退してるんだ」
沈黙が落ちました。私の笑みも凍ります。
「……はい?」
「最近、父上の前髪が……休暇中に戻るたびに少しずつ、少しずつ……後退しているんだ」
ルシウスは必死です。自分のおでこを指差しながら、顔を赤くして説明するのはまさに、真剣そのものでした。
「私は髪の輝きを失いたくないし、前髪が後退してほしくもない」
「……なるほど」
思わず笑みが深くなる。
マルフォイ家で繰り広げられるこの小さな戦い。まこと微笑ましい。
「よろしいでしょう。その願い、承りました」
「本当か?」
「ええ。ただし、対価の方を」
「これだ」
ルシウスは少し迷った後、小さな箱を差し出した。開けると中にはキャラメルサンドビスケットがぎっしりと詰まっている。しっかりとした上等な箱の中に詰められているし、やはり財力はバカにできませんね。
「……これでいいか?」
「素晴らしい品でございます」
私は目を輝かせ、一枚摘んで口へ放り込みました。濃厚なバターの香り、甘くとろけるキャラメルの苦甘さが口の中で広がります。
「いやぁ……染み渡りますねぇ」
「変な悪魔だな……」
「褒め言葉でございます」
私は笑い、指先に紫の光を灯します。さて、ちゃっちゃとやってしまいましょう。
「目を閉じてください」
ルシウスはぎこちなく目を閉じました。私が手を伸ばし、彼の金髪に触れると、光が静かに髪へ溶け込みます。
「はい、これであなたの髪は光を増し、湿気にも負けずいつでもサラサラです」
「……!」
ルシウスは目を開け、すぐさま鏡を取り出して髪を確認した。
金髪が光を受けて、微かにきらりと輝く。
「すごい……!」
「ええ、これで貴方は更に美しくなります」
「ま、前髪は?」
「もちろん、後退しないようにしました」
「本当か!?」
「本当でございます。ただし――」
私は指を立てて笑った。
「一週間に一度ほど、このキャラメルサンドビスケットを魔法陣に置いてください。そうすれば魔法は持続します」
「わかった。……ありがとう」
「どういたしまして。また、髪のトラブルがあればいつでもお呼びくださいませ」
紫の光が再び魔法陣を灯します。
立ち去る間際、私は振り返ってウィンクを一つ。
「──しかし、頭頂部ハゲには対応していません」
「な、なんだと!?」
光に包まれながら、私は笑い声を残して姿を消しました。
これで、しばらく甘味に困りませんね。