【第一話】運命の特異点
「私ね、エンジニアになりたかったんだ」
迷惑系動画配信者『MOB』(破壊の達人Master Of Break、通称モブ)。
その正体である東戸(ひがしど)イツキは、動画を撮っている時のハイテンションな道化とは別人のように静かにそう語った。
子供の頃にハマッたロボットアニメの影響で、自分もいつかあんなものを作りたいとエンジニアを志した。
しかし勉強についていけず実習でも初歩的なミスばかり。
決して高望みしていなかったレベルの志望校の試験にも落ちてしまった。
滑り止めの学校でも夢を捨てられず、実力とちぐはぐな言動を繰り返していたせいで孤立。
苛めにあった挙句に退学、スケバン(無所属武装組織)の一構成員に成り下がる。
ついに諦めて自棄を起こし、道化になりきって始めた迷惑行動の動画配信を始める。
これがどういう訳か上手く行き、それなりにファンを抱えてしまった。
冷やかしだらけなのも分かっていたが、止められなかった。これがエスカレートして今に至るのだと。
「どこが爆発したら大変なことになるか、何となく分かっちゃうんだ。……皮肉だよね。壊して誰かに迷惑をかける才能だけはあったなんて。創って誰かを助けたり、カッコいいと思ってもらえる事がしたかったのに」
何度目かの配信では、ブラックマーケットの建物の1つを狙い、半端な威力のお手製爆弾を用いて連鎖倒壊を誘発、中を瓦礫まみれの滅茶苦茶にした。
それが原因で極秘に運び込まれていた取引商品を台無しにし、ある大規模な犯罪シンジケートの幹部を激怒させたらしい。
あっという間に捕まり殺されるか売り飛ばされるかという段階になっても尚、抵抗する気持ちは沸いてこなかった。終わらせてくれるなら丁度いいとさえ思っていた。
偶々彼らを別件で追っていたシャーレに救出されなければ、このまま人生を終えていただろう。
「……話、聞いてくれてありがとう。先生。私はそろそろ、配信の時間だから――」
"――イツキ、シャーレに入らないかい?"
「……え?」
"勿論、迷惑系配信は止めてもらうことになるけれど。あそこには色々な学校の情報が集まってくるし、ミレニアムサイエンススクールの生徒も多く所属している。流石に君をあそこに強引に入学させることは出来ないけれど、それ以外の何らかの伝手を用意できるかもしれない。それに、あの娘たちと関りを持ち、在り方に触れることはきっと、君の『夢』にとって大きな財産になるはずだ"
「それって、もう一度やり直せってこと? ――こんな私が、やり直せるって、言ってるの?」
"土木工事の為に発明したダイナマイトが戦争の道具になってしまったように、どんな尊い発明や道具も、必ず悪用しようとする輩が現れるもの。――私はね、その逆もあると思っている。君の「壊す」才能は、決して迷惑をかけることしかできないものじゃない。君が望む『創る夢』に振り向けることだって、出来るはずなんだ"
これが『MOB』としての活動を無期限休止し、イツキがシャーレ所属となった経緯である。
ミレニアムで校外にも名を知られる有名な生徒も多く出入りしており、先生の取り成しで彼女達とも友人になり、様々な話を聞くことができた。
思いがけないことに、最先端技術の現場への同行も許され、憧れのロボット開発に携わることもできた。勿論不器用かつ外様の自分に重要な所は任されなかったが、それでも十二分に過ぎる体験だった。
"皆からの評判も悪くないよ。「確かに不器用だけど、イツキの目の付け所や発想は面白いし、構造上の欠陥を見抜く目を持ってる」ってさ"
もう一度夢を追いかけさせてくれた先生に、イツキは程なくして恩人以上の好意を抱いていた。
だが、自覚してすぐ、この恋が実ることはないだろうと冷静に理解していた。シャーレの生徒達は自分を除き憧れる程の素晴らしい実力者揃いで、その多くが自身と同じ目で先生を見ている。彼女達に何もかも叶わない自分に勝機など無いだろう、と。
"明日、この時間にいつもの所に来てくれるかい? ミレニアムへの編入について、話がしたい"
シャーレの当番業務にも慣れてきた頃、先生から耳を疑う話が飛び込んできた。先生やイツキのことを気に入った生徒達が、密かにそれが実現するよう働きかけてくれていたらしい。
最早、自分には過ぎた幸運だとイツキは思った。この上先生まで自分のものにしようとしたら、欲張った罰が当たるだろうとも。
改めてこの思いを胸に仕舞うことを決意したイツキは、夢に大きく近づく明日を思い心を躍らせるのだった。
待ち合わせ場所であるカフェで先生を見つけ、駆け寄ろうとした直後に響き渡った突然の爆音。
瞬く間にひび割れていく柱と天井を見て、次の瞬間何が起こるかその"目"で見抜いたイツキは走る勢いそのままに先生に抱き着き押し倒す。
"……っ、イツ……キ……!?"
「……どうやら、幸せのツケがついに回って来ちゃったみたいだね」
幾つ折り重なっているかも分からない瓦礫を支える背中が熱くて痛い。
"…………何、やってるんだよ、イツキ。……そこ、どいて、くれよ。あぶないん、だから……"
「やだ。っていうか、そうしたくとも動けないっていうか……。もう手足の感覚、ないんだわ」
肘と膝を立て、かろうじて先生を瓦礫から守る天井にはなれている。しかし、そこから先の四肢は瓦礫に埋もれ、意識が飛びそうなほどの激痛を頭に伝えるばかりになっている。それでもしみ出す真っ赤な血が先生のものでないことに、イツキは心から安堵していた。
このまま先生を瓦礫から助ける手段はない。ならば助けを呼ぶしかないとして、警察に通報して助けがくるまで持つかどうか。
「ねえ、先生。私の、端末、……っ、言われた、とおりに、動かして?」
無謀な賭けだった。
もし近くでこれを聞いている視聴者が居たら、皆でより速く先生を救ってくれるかもしれない、と。
起動したのは、休止していた『MOB』の生配信用チャンネルだ。
『イエーイ!皆ー!みってるー?』
痛みと疲労を誤魔化す為、MOBとして間の抜けた道化を演じ声を張り上げた。
『今先生に覆いかぶさる形で瓦礫の下敷きになってまーす! 今はまだ先生は無事だから安心しろよ!』