東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第九話】00との邂逅

勿論、今でも最先端技術には憧れているし、学ぶことも愛している。

しかしエンジニアに憧れたのは「創って誰かを助けたり、カッコいいと思ってもらえる事がしたかった」というところも大きい。

つまり、ただ特別なことが出来る自分になって、皆に認めてもらいたかっただけで、そうなれるなら何でも良かったのかもしれない。

当時考えもしなかった道を歩み始め、身に余る展開に戸惑いながらも決して【残念】とは思わなかったイツキはそう己を振り返る。

 

きっと、大人しく他のどこかの学校に通って学べていれば、以前のようにエンジニア第一志望の道に進もうとしていたのだろう。

しかし、【セトの憤怒】とやらが由来の体は、技術に憧れる切っ掛けとなったロボットアニメの主人公のような力をこの身にくれた。

迷惑配信をしていた頃は見て見ぬふりしか出来なかった路上の蛮行も、この時には地面のコンクリートを素手で引き剥がせる凄まじい膂力と、銃弾を不愉快な痛み位に済ませる耐久力にものを言わせて黙らせることが出来た。

離れて関わらないようにするしかなかった鬱陶しい騒ぎを、この手で収める度に言いようのない快感が体を満たし、止められなくなった。

何十人と束でかかられようと配信しながら片付けることのできる自分に、称賛され感謝される自分に自惚れた。

もしかしたら、キヴォトスで最強と称されるあの名高い生徒達にさえ、今の自分なら勝てるのではないかと。

 

 

――それが呆れる程間の抜けた勘違いだと知るまで、時間はかからなかった。

 

 

その日の相手は大掛かりな強盗を企んでいるらしい、戦車を中心に纏まった武装集団。どうやら今回は単なる有象無象ではなく、戦車を横流し出来る程のバックの付いた一筋縄ではいかない連中らしい。

流石に長丁場になりそうだといつものように銃弾を受けながらゴリ押しする交戦を開始して数分後、橙色の隕石のようにその少女は突如鉄火場に躍り出た。

サブマシンガンから吹く火の箒に薙ぎ払われる塵芥の如く、武装集団が蹴散らされていく。

戦車に至っては全力で後退して逃げながら彼女目掛け発射するという有様で、少女はそれをあっさり避けて追いつき、戦車のハッチをこじ開けて中の人員を引きずり出し無力化。

たったの数分で、警備との交戦も想定していたであろう武装集団が全滅。

少女が戦い始めてから、イツキは何も出来なかった。

 

 

(……格が、違う)

 

 

己が最強だと酔って振りかざした力なんて、所詮この少女の足元にも及ばなかった。そう認めざるを得ない程の鮮やかな蹂躙だった。

その時ふと気づく。誰の許しも得ずに戦っていた自分は今どのような立場なのかと。

嫌な汗が溢れ出る。彼女にとって果たして自分は敵か、味方か、護るべき市民なのか?

ぎらついた眼差しと悪鬼のような笑みが此方に向けられた時、それが最悪なパターンであったとイツキは知る。

 

 

(……勝てない……!!)

 

 

生まれたての小鹿の如く震える足に鞭打ち、少女に背を向ける事になる真反対の方向へ駆け出す。

最早自分では戦いにならないと認めてしまった以上、目が合ってしまった相手が狩人で、自分は獲物だ。

未知の膂力を全て逃走に振り向ければ、あの得体のしれない化け物からも逃げ切れる筈――

 

 

「――なん、でっ」

 

 

細い路地をジグザグに全速力で駆け、ようやく大通りに出ようという所で……もう一度あの悪鬼の如き笑みと相対する。

何をどうすれば自分の全力の逃走を前に先回りできるのか、理解できない。

もう一度反対方向に逃げれば、無防備な背中を晒すだけだ。

恐怖と焦燥に、冷静な判断力を根こそぎ奪われたイツキは、獣のような叫び声と共に強行突破を試みる。

 

 

「イイ根性だ、気に入った。――だが一つ言わせろ」

 

 

あっさり仰向けにされ、ショットガンは手の届かない遠くに転がっていく。

足を払われたことは辛うじて分かったが、そこからどうやって仰向けにされ抑え込まれたのか速すぎて分からない。何をされたのかさえ分からず、一切抵抗を挟ませてもらえない程に技の差がかけ離れていた。

 

 

「何だ、テメエのバカ丸出しな戦い方は!!」

 

「ひっ……」

 

 

凄まじい膂力を秘めていた筈の体は、彼女に胸倉を掴み上げられ怒鳴りつけられてもろくに抵抗できない。

それは恐怖に支配され戦意を喪失していた事も有るが、彼女自身の膂力も人並み外れていたからだった。ある事件解決の際に靭帯が切れた状態で戦い、加えて10Gで上昇するエレベーター内で戦ったという、傍から聞いても意味の分からない戦績がそれを証明している。

 

 

「随分な力を振りかざしてご満悦だったようだが、戦い方がカスってもんじゃねえぞテメエ! 戦場ナメてんのか!? 今シメた奴らのほうが、何倍もマシだった!」

 

「……、ご、ごめんなさいっ。ネル、せんぱ……!」

 

「自己紹介は要らねえみてえだな? あと、あたしは謝れっつってるわけじゃねえ」

 

 

美甘ネルがこの戦場の鎮圧に入ったのはC&Cの業務で、偶々近くに居たから指令が入りそれを遂行したに過ぎず、イツキと鉢合わせたのは偶然だった。

最近ミレニアムに転入して来た輩が自警紛いのことをして暴れているという話は聞いていたが、いざ実物を目にするとその杜撰過ぎる戦い方に驚き呆れた。

しかしそれは、斯様な雑にも程がある戦い方でも有象無象なら圧倒できる、伸びしろだらけの原石であることも意味する。

丁度C&Cじゃ一番前のポジションに立てる奴がアタシ位しか居なかったな、と以前から気にかけていたこともその後の決断を後押しした。

 

 

「明日この時間、ミレニアムの特別訓練施設に来い。まさか逃げたりしねえよなあ、東戸イツキ?」

 

 

これが、イツキのその後を決める出会いだった。

 

 

 

 

 

「初めてイツキちゃんのことを聞いた時、『久々に叩き伏せ甲斐のある奴に会えた』ってリーダー笑ってた」

 

「ははは……私はサンドバッグ以下ってことですね、事実ですけど」

 

「リーダー……ネルは、本当に弱い子なら守ろうとするし、気に入らない子は黙って叩きのめして相手にもしない人だよ。口には出さないけど、見所があって鍛えるのが楽しいんだと思ってる。C&Cに入れようとまで言うなんて、よっぽどのことだもの!」

 

 

部室で制服からメイド服に着替える際、偶々一緒になったアスナとイツキの間でこんな会話になった。ネルからは既に準備を終えて集合場所で待機中、とモモトークで連絡を受けている。

 

 

「話は変わるけど、まだ先生に言っちゃダメ? メイドになったイツキちゃん、本当に可愛いから見せてあげるべきだって思うなあ!」

 

 

着替え終わると自然な動きで背後からアスナに抱き着かれ、その柔らかさと爽やかな甘い匂いに早鐘を打つ心臓に耐えながらイツキは必死に捲し立てる。

 

 

「あう……。わ、私から覚悟を決めて言いますから、今はC&Cのことも内緒でお願いしますアスナ先輩!」

 

「……むう。そこまで言うなら黙ってるけど、本当に勿体ないなあ。先生へのアピールにもなるはずだよ?」

 

 

そう、イツキがC&Cに所属していることは入部してしばらく経った現時点でも秘密にしている。

決して馬鹿にされたり引かれることはないと分かっている。寧ろ笑い飛ばすような人物ではないからこそ、この姿を見せるのが恥ずかしいのだ。

このまま例のプロポーズ絡みの話題に繋げられては恥ずかしさでオーバーヒートしてしまう、と慌てたイツキは話題の軌道変更を試みる。

 

 

「……っそ、そういえば今日は割と珍しい別の学区での任務なんですよね!? それも、アカネ先輩とカリン先輩、トキせんぱ……トキが別の任務で出てるから、三人で行くことになるとか!」

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