東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第十話】コールサイン05初任務

「今回の任務は、盗まれたミレニアムの機密情報の奪還……という建前の『掃除』だ」

 

「建前? ……っ痛、目に砂? がっ」

 

「本当に盗まれてちゃ、ヴェリタスらセキュリティ担当が間抜け過ぎるだろ? 『巣』を炙り出す為に、偽情報をわざと掴ませて持ち帰らせたんだよ。既に『巣』の特定も敵勢力の解析も終わってっから、あたしらはそこにカチ込んで連中を潰せばいいだけだ」

 

 

入部させられて以降、表向きの業務を手伝って仕事を覚えることはあったものの、イツキがC&Cの戦闘要員……エージェントとして現場に出るのはこれが初めてだ。

辺りに広がる砂漠に今にも沈みそうなビル、目の前のその中に標的は潜伏しているらしい。

 

 

「今回は戦車やパワーローダーのような歯応えのある兵器もねえし、人数も10人程度。あたし一人でも欠伸が出るような仕事だが、この機に実戦経験を積ませてやるから気張れよ、イツキ」

 

 

銃火器で武装した10人の敵相手に欠伸とは馬鹿にし過ぎ……と思う者はこの場に居ない。それを言っているのはこのキヴォトス全体でも五指に入る最強格と名高い、美甘ネルなのだから。

 

 

「でも、情報を盗んだのなら、近くに住んでる人には失礼ですが……どうしてこんな不便な所に隠れるんでしょう? 真っすぐキヴォトスの外に出たらいいのでは、って思っちゃったのですが……」

 

「うーん、その辺りのことは特に説明なかったけど……引き渡し場所が此処なんじゃないかな? 自然に外に出れる人への引き渡し場所が此処、ってパターン。あとは犯人が元々キヴォトスに居て、どこの所属か攪乱したいとか!」

 

 

作戦開始地点に移動するまでにイツキが零した話に、同行するアスナが割って入る。

元々はネルとイツキの二人だけで遂行する予定だった任務。本来カリン達と別件に向かう予定だったアスナが此方に合流したのは、本人たっての希望からであった。

ネルは驚きこそしたものの反対はしなかった。アスナの一見このように突拍子もない判断は……事実根拠もない筈なのに、最善の選択になるのだという。

 

 

「この辺、生活圏の治安はマシになったとはいえ、ちょっと離れただけでも廃墟だらけだからな。面倒だろうが、後ろ暗い連中には格好の潜伏先ってわけだ。この廃ビルもそういう連中に人気で、前もドンパチやったことがある。見えるだろ? 弾の痕」

 

 

弾痕や爆破跡でボロボロになり、全てのライフラインが絶たれているはずの廃ビルからは、確かに灯りなど人の気配がする。

 

 

「あたしらのことは気にし過ぎず、教えた通りに動け。弾避けになる必要はない……お前が盾を試した時は悲惨だったしなぁ、はははっ」

 

「うう、返す言葉もございません……」

 

 

訓練場で試した際、そこでも不器用が足を引っ張って切り替えの際に盾や武器を取り落とす、あべこべに構えてフリーズするなど喜劇になってしまった自分を思い出してイツキは縮こまる。

 

 

「ハイハイハイ小さくなってんじゃねえ、仕事終わんねえだろが。タンクの最大の役割は「注意を引き付ける」ことだ。必ず攻撃を受けてやる必要はない……思い出したか?」

 

「……はい」

 

 

実際、タンク役で盾を持たないやり方も珍しくはない。

例えば同じミレニアムのセミナー会計担当『早瀬ユウカ』は、12桁以上の数字を扱うことも苦にしない類稀な計算能力を活かし、タンクとして敵を引き付けながら弾道を予測して悉く避けてしまうのだという。

勿論、バカを自認するイツキに頭脳明晰な先輩と同じことは出来ない。

だが、逆に彼女に出来ないやり方で、彼女に似た所謂『回避盾』のような役割は出来る……というのが『バカ丸出しな戦い方』から脱却するための、師であるネルからの提案であった。

入部後は特別訓練所で殺意むき出しのネルに追い回され泣きそうになりながら、死ぬ気でその役割を果たせるようになる為特訓していたのだ。

出口を施錠され時間まで絶対に逃げられなかったあの地獄を思い出すと、イツキは頭が冷え、目の前の扉の欠けた入り口に転がる紙屑まではっきりと見えるようになった。

 

 

「なら、行け。バレても痛くも痒くもねえ、ド派手にかましてやりな!」

 

「私もしっかりサポートするからね! ドーンといっちゃえ、イツキちゃん!!」

 

「……ありがとうございます。――では、ご期待に添えますように」

 

 

『踏み込む』為に軽く膝を曲げ腰を落とす。

ふわりとメイド服のロングスカートが空気抵抗を受けて僅かに膨らみ、その下では高いヒールの靴を履いた両足が青白い稲妻を纏っていた。

ミレニアムの叡智を結集して作られたというC&C専用のこの靴は、見た目にも優美でありながら何故か不安定さを着用者に与えない。

 

 

 

 

――落雷の如き轟音がオンボロの廃ビルを『音』で揺らし、戦いの始まりを告げた。

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