東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第十一話】蹂躙、疾風迅雷

「――なっ、お前――」

 

 

1F入り口付近の柱の陰で暇そうに蹲っていたフルフェイスヘルメット姿の少女をショットガンで吹き飛ばした後、何かを言おうとした近くのもう一人も同じくショットガンで沈黙させる。

彼女達にしてみれば、前者はそもそも襲撃があったという認識もないまま吹き飛び、後者も轟音と共に見知らぬメイドが目の前に現れたと思ったらゼロ距離でショットガンの雨に撃たれたという状況だった。

一人を相手している間にもう一人が死角を突ける、単純ながら有効な見張りの配置。だがそれは、10メートル以上を一足で詰める相手など想定すらしていない。

 

 

「ックソッ、C&Cか!?」

 

「集まれ、袋叩きだ!!」

 

 

2Fから声と慌ただしい足音。

老朽化した廃ビルは数階に渡って中心に大きく穴が広がり、歪な吹き抜けのようになっていた。

1Fの中心に『敢えて』躍り出たイツキを迎え撃つべく、同じ色のヘルメットを被った少女達が上階から取り囲むように銃を構える。

高低差の御蔭で頭を狙いやすく、同士討ちをする心配もない、圧倒的にヘルメット団に有利な状況。

 

 

(――遅いなあ)

 

 

――並大抵の相手なら。

 

 

「っが、あっ……!?」

 

 

雷が落ちたような轟音が鳴り響いた直後、1F中央に居た緑髪のメイドが消え、スナイパーライフルで狙撃しようとしていたヘルメット団員が吹き飛んでいた。

 

 

(……ネル先輩なら、これに合わせて後ろをとる位する)

 

 

既に上階でヒールの固い靴音を響かせるイツキに対し、ヘルメット団は未だ1Fに銃を向けている者までいる始末。

もう一度『雷鳴』を響かせて最も近い距離に居たヘルメット団を吹き飛ばしたところで、ようやく上階に迫ったイツキに対応しようと動き始めていた。

 

 

「イツキの『踏み込み』は直線だ、来る位置が分かってりゃその斜め後ろに飛べば簡単に背後を取れる。だから使用後の隙を対策させる為に、あたしが背中を痛めつけまくってたんたが……あいつらにはその位のことすら出来なさそうだな」

 

 

『踏み込み』が来るタイミングを見切り、イツキの目線・戦況・足場・地形等を考慮して『来る位置』を予測。

仮にここまで出来ても、移動が終わった直後の僅かな時間に正確に狙いを定め引き金を引けなければ、次の『踏み込み』や攻撃に間に合わない。

これら全てをこなせる練度の敵は居なさそうだ、と判断したネルは指示する。

 

 

「アスナ、予定通りイツキに続いてくれ。あたしは裏に回って逃げた奴を叩く」

 

「了解っ、いってきまーす!」

 

 

散開。

ネルは建物の外側から裏側へ。

アスナはイツキの切り開いた入り口から突貫。

激痛に咳き込み震えながら武器を取ろうとしていた見張りの兵に、すれ違いざまアサルトライフルの弾を撒いて意識を刈り取っておく。

 

 

「新手だっ、またメイドだぞ! 撃て! 近づけさせるな!」

 

 

C&Cを知る者たちにとって、この状況での「メイド」とは給仕係ではなく歴戦の猛者である。

まだ1Fに居るアスナに対しては高低差という地の利がある、有利なうちに迎え撃ちたい、という狙いでリーダー格のヘルメット団が声を張り上げる。

応じた別のスナイパーがアスナをスコープ中央に収めようとした途端、またも『雷鳴』が響き渡った。

 

 

「……ひっ……!」

 

 

――次は何処に行った? まさか、私の所に?

疑心暗鬼のまま咄嗟にスコープごと音がした方向を振り向くと、緑髪のメイドは吹き抜けの向こう側で別の仲間をまた一人仕留めているところだった。

まだ戦えるヘルメット団には既に、「"あの音"がする度にあのメイドが誰かの傍に瞬間移動し、撃たれる」という恐怖が植え付けられていたのだ。

 

 

(……駄目だっ! あいつなら一跳びでここまで来る!)

 

 

それに、今なら別の仲間を狙っていて隙だらけだ、と狙いをイツキに変更する。

――有利なうちにアスナを狙い撃てる、二度と来ない機会をドブに捨てて。

 

 

「馬鹿、そっちじゃない!! 1Fの――」

 

 

ヘルメット団リーダーの必死の軌道修正も空しく、アスナは華麗なスライディングを決めてまばらな弾幕を潜り抜ける。

スナイパーは一発引き金を引いた後で誘導されたことに気付いて青ざめ、今度こそ1Fの新手を仕留める為に狙いをつけようと……

 

 

「やっほー! 誰を狙ってるのかな~?」

 

 

軽やかに瓦礫の階段を跳ねてスナイパーの眼前に躍り出たアスナが、そのままアサルトライフルで蜂の巣にする。

直前の最後の一発も、結局は既に移動し終えた場所を穿つだけの無駄撃ちに終わっていた。

訓練で踏み込み直後の背中をネルに狙われ散々苦しめられたイツキは、この隙を潰す動きを何通りも体に叩き込んでいた――その成果が出た形だった。

 

 

「もっと遠くから狙えるスナイパーが居たら、もうちょっと苦戦したかもねー?」

 

 

三十秒も経たないうちに、仲間の半分を仕留められ、しかも今は地の利も失われた。勝ちは万に一つも拾えない、と判断したリーダーは決断する。

 

 

「――裏から退く、下がれ! 下が――」

 

「裏ってのはこっち?」

 

 

リーダーの指示の声を遮る『雷鳴』の直後、裏の出入り口の反対側を封鎖するようにイツキが既に回り込んでいた。

 

 

「ごめんね。……でも、一人でも逃がしたら、先輩に殺されちゃうかもしれなくて」

 

「――っ、ち、ちくしょ――」

 

 

この状況を切り抜ける術は、と「イツキを突破する」方に思考が偏った一瞬を、アスナは見逃さない。

対峙した時点でこのリーダーがヘルメット団の連携の起点であると即座に判断し、他を相手しつつ自身から意識が逸れる機会をずっと窺っていたのだ。

ライフルの掃射音と共にリーダーの体が宙を舞い、吹き抜けから1Fに転げ落ちていく。

指揮官を失った烏合の衆は、その後悉く弾丸を贈られ5秒も持たず全ての反撃の芽を摘み取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだもう終わっちまったのか~。ミレニアムに喧嘩売る根性ある奴らだし、もう少し足掻いてくれると思ったんだがなあー」

 

 

制圧完了の連絡を受けて裏から合流したネルは弾を吐き出せなかった二丁のサブマシンガンを引っ提げ、つまらなそうに気絶したヘルメット団を見下ろした。

例えイツキを突破しアスナを振り切ったところで、裏口に待ち構えていたのは任務成功率100%のコールサイン00(ダブルオー)。

――身もふたもない事を言ってしまえば、彼女達がここに辿り着くのを許した時点で勝負はついていたのだ。

 

 

「"喧嘩を売った"のは匿名の依頼主で、この子たちはアルバイトだったんじゃない? これを引き渡せば報酬を払うと言われてただけ、って」

 

 

程なくして見つかった情報記憶端末を手にアスナが推測する。

 

 

「そんなとこだろ。こんな失敗上等の『トカゲの尻尾』をシバいたところで"元"の情報は期待できなさそうだな。――おいイツキ! 今回は敵が弱すぎたんだから、上手くいったからってあんまり調子に乗るんじゃねえぞ!?」

 

「あ、はいっ、勿論です!」

 

 

激を飛ばしながら此方に迫る師匠を見て、また胸倉を掴まれて喝を入れられる、とイツキは反射的に身構える。

 

 

「――とはいえ、さっぱり被弾してねえのは成長だな。もうお前の戦い方は、バカ丸出しなんかじゃねえ」

 

 

伸びた手は軽くイツキのエプロンを叩き、ついた煤を払っただけだった。

日頃は増長しないようにと厳しい言葉を浴びせられているからこそ、認めてくれた言葉にはお世辞とは比べ物にならない重みがある。

 

 

「――ネル、先輩……」

 

「イツキが大体引き付けてくれてたから、すぐ片付いちゃった! 次はもっと凄いことやろうねっ、カリンもアカネもトキも、皆で一緒の任務、楽しみにしてるから!」

 

 

アスナからのそれは、イツキがタンクとしての役割を全うしてくれたという意味の誉め言葉に他ならない。

じんわりと胸を満たす、認めて貰えた温もり。かつて正義の味方気取りで浴びていたその場限りの喝采とは訳が違った。

幾ら何でもチョロすぎるだろうと目に込み上げてくるものを必死に抑え込むイツキ。

 

――だったが、次の瞬間即座に胸倉を掴まれ身長差を埋めるように引っ張られ、眼前に広がるのは訓練で見慣れた狂暴な笑み。

 

 

「っつーわけで、ミレニアムに帰ったら寝る前に特別訓練所で復習だ! 実戦で得た動きは熱いうちに定着させねえとなあ!」

 

「――はいっ!? ちょ、此処アビドスですよ!? 今から戻ったら夜何時になると」

 

「うるっせえ!! こっちは一発も撃ててなくて溜まってんだよ! あ"ぁーこんだけ弾の音聞いといて何もブッ壊せねえとか有り得ねえ! だからお前撃たせろ! 動き回るターゲットを仕留める快感を味わうまで今夜は眠れねえ!」

 

「流石にヴァルキューレに通報していいですか、先輩!!? アスナ先輩もこれ笑う所じゃないですよ!?」

 

 

メイド服の胸元を掴む手を両手で必死に引き剥がそうと口をヘの字に曲げて抵抗するイツキを見て、アスナは腹を抱えて笑っていた。

 

 

「……あ? イツキ、お前……」

 

「おまわりさーん!! 後輩虐待で……何ですか、今夜はまっすぐ帰って課題も消化したいんですけど。あと首疲れてきたのでいい加減離してくれません?」

 

 

顔を横半分に割らんばかりにざっくり笑みの形に裂けていたネルの口が、急に元に戻った。

 

 

「ああ、それは仕方ねえが……。さっきから何か引っかかってたのがやっと分かった。――お前、目の色そんなだったか?」

 

「へ? そういえば戦う前から砂が入ったっぽい目がずっと痒いというか痛いというか……充血しちゃってます?」

 

「いや、オッドアイだったろお前の目。今見たら両方とも紫色に――」

 

 

本来青い瞳だった、今は何故か右目と同じ紫色になっている左目にネルが手を翳す。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後のことを"イツキ"は覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――否。全てが終わった後で、思い出せた。何をしてしまったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

落雷のような轟音と共に薙ぎ払われ、コンクリートの壁に叩きつけられ、1メートル以上跳ね返って倒れ伏す少女。

 

 

何かを叫び、既に銃の引き金を引いているもう一人。

 

 

その銃口の先には――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪H O R U S≫

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