東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第十二話】未知との遭遇

「――あれ」

 

 

構えたライフルの弾が出尽くしている。

――弾って、どうやって装填するんだったっけ?

 

 

「……」

 

 

またこれか、という諦めに似た感情。

記憶が途切れ思い出せなくなる。不安でたまらないこの状況をアスナは幾度も経験しているが、未だこの症状の事は分かっていない。

元に戻るには、1つ1つを手繰り寄せていくように思い出そうとするしかない。

手がかりを探して、ライフルを向けた先にピントを合わせると、

 

 

「――……え?」

 

 

廃ビルの壁にぐったりと背を預け、だらんと両腕を左右に垂らしたまま動かない、薄緑色の長髪が特徴的なメイド服の少女の姿。

 

 

「…………イツキ、ちゃん?」

 

 

もう一度、頭の中で状況を整理する。

構えたライフルの弾が出尽くしていて、

ライフルは"同い年の可愛い後輩"に向けられていて、

――その娘はまるで、一斉掃射の嵐を受けて真後ろに吹き飛んだ直後であるかのように、離れた壁にもたれて動かなくなっていて――

 

 

「――っあ、あ…………あ?」

 

 

瞬間、頭の中で閃光弾が爆ぜたようなイメージと共に、急激に記憶が蘇っていく。

任務を終えての談笑の中、突然耳を覆いたくなるような物凄い音がしたと思ったら、ネルが吹き飛ばされて。

考えるより早く私は引き金を引いた、吹き飛ばした奴に向けて。

 

 

「……わ、わたしはっ……」

 

 

――逃がした?

――誤射?

――犯人は?

 

過剰に繰り返す瞬きを自分で止められず、寒くないのに唇が震えてガチガチと歯を鳴らす。

 

 

「……ち、ちがう、でも、わたしっ」

 

 

違う。

記憶が間違ってなければ、逃がしてもいないし、誤射でもない。

だって、ネルがやられた時のあの『落雷のような轟音』は、今日何度も聞いた――

 

 

「……ぐっ、アス、ナ……」

 

「……ネル!!」

 

 

呼ぶ声に振り向くと、ネルが俯せに横たわっていた体を、自分で手をついて起こしていたところだった。

尋常ではない威力で叩きつけられていたその体の心配をしなければならないのに、後悔と不安が上回る。

助け起こそうとしながら、頼れるリーダーに縋りついてしまう。

 

 

「……どうしよう、どうすればいい!? 私、滅茶滅茶に撃っちゃった! イツキのこと!!」

 

「落ち着け、アスナ……あたし、でも、そうして、た……っくそ、頭が……!」

 

 

ネルは吹き飛ばされた際に頭をまともに打ち付けたらしく、髪の隙間から血を溢れさせている。

常人なら致命傷になりかねない所、その頑丈さから眩暈と軽度の脳震盪で済んでいたようだった。

 

 

「あたしでも、って……じゃあ、やっぱり、どうしてっ」

 

「知るかよっ、だが、あいつも、様子が――」

 

 

例の記憶障害に後輩をその手に掛けた現状が重なり錯乱している。

目の前のアスナがそのような状態だと即座に察したネルだが頭を揺らされたばかりで言葉が滑らかに出てこない。

それでも一秒でも早く宥めようと言葉を絞り出していたネルは、己を抱き起こすアスナの肩越しに彼女の背後を目にする。

 

 

――この惨状を引き起こした後輩が、音もなく立ち上がっていた。

 

 

「――――――逃」

 

 

"それ"は稲光のように、瞬き程度の刹那、廃ビルの中を青白い光で満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪……ふむ。この次元の民にしては……頭一つ抜けて頑丈なようだな、貴様≫

 

 

薄緑色の長髪が特徴的なメイド服の少女は、倒れ伏しながら己の足首を掴む満身創痍の橙髪の少女を見下ろし、淡々と告げた。

聞き覚えのあるイツキの声。

だが、それは喋り口調が違うばかりではなく、五十音を録音して1つ1つ繋ぎ合わせたような聞き取りづらい抑揚で、本人がこのような喋り方をしていたことは無かった。

 

 

「……る、せえっ……! 誰だ、テメエ……!!」

 

 

イツキの体だが、イツキじゃない。

この出鱈目な強さも、声も、言葉も。

自己評価が低くて、少し認めてやっただけで泣きそうになる位喜んでいた、さっきまでの大きな後輩は『コイツ』ではない。

――ましてや、傍らで意識を失い横たわるアスナを目にしながら、路傍の石ころを見たように感慨もなく立ち去ろうとするなど有り得ない。

 

 

(――また食らっちまった! もう三度目だってのに、何をされたのか分からねえ! 目にも留まらぬ速さとかじゃねえ、あたしの視界の外から"何か"をしてきやがったんだ……!)

 

 

不意を突かれて重傷を負いつつ未知なる脅威に翻弄されながら、それでもミレニアム最強としての意地と経験は早くもその未知を分析しつつあった。

 

 

≪貴様にかける時間は持ち合わせていないのだ。目と鼻の先に『お楽しみ』が現れたのでな、直ちに向かわねばならん≫

 

 

無表情の貼りついた顔の紫の瞳だけをネルに向けて見下ろし、少女は青白い稲妻のような光を全身に纏い始める。

 

 

「っ、待ち、やがれっ……」

 

≪……良い『憤怒』だ。次に見(まみ)える際は、より上質なものを我に捧げたまえ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、アビドスで日課である治安維持目的の見回りをしていた少女は、生活圏に近いとある廃ビルに向かっていた。

近隣住民から武装集団が巣食っていると耳にして、此方に近づいてくる前に排除しておこうといつもの巡回ルートから少し足を延ばしていたのだ。

目的地に近づくにつれ、漠然とした嫌な気持ちが纏わりつくように心の中を満たしていく。

 

 

 

 

――この僅か後、少女の青と黄色のオッドアイは、二度と見えたくなかったそれを捉える事となる。

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