東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第十三話】行き違いの果てに

先生が、シャーレ専属の話をイツキに持ちかけた理由。

それは彼女の意思を尊重し、その先を見届ける責任を果たす為。ざっくり言えば見守れるようにする為ということだ。

 

だがもう1つ、今は会わせたくない生徒が一人居る為でもあった。

セト由来の体を持つイツキが「彼女」に近づいてしまう事は、何も分かっていない現状では絶対にあってはならない。

二人にお互いのことを話して「この生徒には近づくな」と告げることも当然考えたが、出来なかった。

そうしてしまってはいざ会って話せた際、この二人が互いに向ける感情に「近づいちゃいけないって言われていた事あったな」などと不信感が挟まることになる。

幸い、活動する学区は大きく離れており、「彼女」もシャーレの管轄である。直接伝えずとも、シャーレでイツキと「彼女」の動向を把握していれば、裏から手を回してこの二人が不用意に遭遇することは防げるだろう、という考えだった。

勿論これは一時的な措置であり、このまま問題の先送りを続けるつもりはない。あらゆる可能性を想定し準備を整えた上で対面してもらい、懸念事項を潰すつもりだった。

 

しかし、この考えには落とし穴があった。

専属とはいえ「生徒」として扱う以上、通う学校やその部活を制限することまでは出来ないのである。

先生自身、可能な限り他の生徒と同様に学生生活を謳歌して欲しいと考えており、そこまで縛ってはならないと考えていた。

メイド服姿で会うのは恥ずかしいという可愛らしい羞恥心から、C&Cに所属したことをイツキは未だ先生に伝えていなかった。

もし、この時が来るまでに先生の耳に入っていれば、その後の展開は変わっていたかもしれない。

 

 

――東戸イツキは、先生のあずかり知らぬ所でC&Cに所属し、初任務でよりにもよってアビドスの廃ビルに向かっていた。

 

――会ってはならない「彼女」はこの日、近隣住民からの情報でならず者を排除すべく、同ビルに向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

只事ではない。

夜の帳が下りた空間ではあまりにも目立つ、青白い光。

快晴の夜空の下で、落ちるわけがない雷が離れた目的地で見えた理由に心当たりがあった少女は、杞憂であってくれと願い足を急がせる。

しかし、急ぐ必要はなかった。

廃ビルから逆さの流れ星のように光が尾を引いてビルから飛び立ったかと思うと、凄まじい速度でこちらに向かってきたのだから。

桃色の髪の小柄な少女は考えるより早く巨大な盾を眼前に翳す。

間髪入れず手首と肘と肩を押し潰さんとする衝撃が迸る。

踏みとどまろうとする両足が砂漠の砂を抉り取り、電柱を超える高さの砂煙を上げて数十メートルはあろうかという「電車道」を作り出した。

衝撃が僅かに収まり始めたタイミングで、盾に隠してショットガンを構える。しかし想定した追撃は無く、襲撃者は飛び退き距離を取っていた。

 

 

(……速すぎる、殴られたのか蹴られたのか、どちらでもなかったのかさえ分からない……!)

 

≪防ぎきるとはな。戯れでは挨拶にもならんか、Horus(ホルス)――否、今は小鳥遊ホシノであったか≫

 

 

襲撃者はロングスカートのメイド服を纏う、長い薄緑色の髪の少女の姿をしていた。

紙に書かれた言葉を読み、意味も分からず口に出しているような喋り方。

それでいて滑舌は良い……というより、1音ずつ全てはっきりと声に出しているせいで、逆に機械音声のようで無機質さが増している。

メイド……C&Cにこんな娘が居ただろうかと考えを巡らせかけたホシノは、その顔つきを見て思い出す。

戦場では僅かな情報の多寡が生き残りを左右する。例えば、敵兵士の顔や名前とその役割を頭に叩き込めていれば、そうでない場合と比べての戦いやすさは雲泥の差だ。

キヴォトスで長らく戦いに身を置く経験豊富な彼女は、髪と瞳の色が変わった位で一度見た顔を誤魔化されはしない。

 

 

「貴女、イツキちゃんだよね? 先生を助けてくれた、あの配信の」

 

≪この"器"と貴様に面識は無い筈だが……まあどうでも良い。やはり貴様の『憤怒』は実に我に馴染む≫

 

「……で? 『君』は誰? あの時のお礼を言いたいと思ってたから、さっさと"代わって"くれないかな?」

 

≪この次元での名など存在しない。――が、そうだな。貴様はこれで満足か≫

 

 

終始感情のない紫色の冷たい瞳をホシノに向けながら告げると共に、虚空から雷光の如き青白い光を伴ってそれはイツキの頭上に現れた。

幾何学模様が刻まれた石の輪。

輪を出入り口と見立てたようにずるりと顕現する、雷そのものを無理やり型に嵌めて作ったかのような三本指の腕。

 

 

「その腕……!」

 

 

ホシノ達がかつて戦った『セトの憤怒』は、片腕だけでも5、6人分はある威容を誇る巨大な化け物だった。

それに引き換え、今ここに現れたその片腕だけの姿は、精々一人を握り込めるかという程度。

 

 

≪Horusを前にしているというのに、今はこの程度の片腕が限界か。やはり貴様を"裏返さねば"、我が憤怒は欠片も満ち足りぬらしい≫

 

 

それでも、安心できる要素など何処にもない。

制約を解除し先生の指揮の元、皆の力を結集して辛うじて退ける事の出来た怪物。

世界を滅亡させたと「もう一人のシロコ」が証言する、二度と此処に在ってはならない存在。

もしも何かの間違いで、完全にその全てが顕現してしまうことでもあれば――

 

 

≪――さて、如何にして裏返したものか。貴様の目玉でも抉り取るか――はたまた"小鳥遊ホシノの友"をこの手にかけるか、試してみたいのだが構わないかね≫

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