東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第十五話】油断大敵

≪ふむ。"小鳥遊ホシノ"一人に、これ程遅れを取るとはな≫

 

 

結果は、かすり傷一つさえ与えられない完敗。

それでも"暫定セト"の機械音声のような無機質な喋り方は変わらなかった。

 

 

「ありゃ、案外素直だね? でもこっちは結構綱渡りだったんだしさ、もうちょっと悔しそうにしてほしいかな~」

 

 

勝者の余裕と言わんばかりに飄々と告げるホシノだが、綱渡りだったのは事実である。

銃撃戦というものを知らず力に物を言わせるような、セトの雑で乱暴な戦い方。その隙を突く形で完封出来たが、完封しなければ勝てなかったかもしれないということでもある。己の盾を押し返すようなあの怪力に、一撃でも貰っていたら危なかった。

 

 

≪しかし度し難いな。何故なのか、理屈に合わん≫

 

「負けた理由が理解できない、ってこと? 悪いけど解説の時間はないかなあ? おじさんとしてはさっさとイツキちゃんに代わってもらうか、このまま撃って気絶させるかのどっちかなんだよね」

 

≪この次元での兵法において、経験に勝る小鳥遊ホシノが上回るのは必然。その理屈は理解出来る≫

 

「?」

 

 

話が嚙み合わない事に気付いたホシノが訝るように眉を顰める。

 

 

≪我が問うているのは、「器を壊されると都合が悪い」という話の方だ≫

 

 

俯せのセトに跨り銃を突きつけるホシノ……その頭上に展開される、雷光の如き青白い光。

 

 

≪確かに東戸イツキは我にとって価値ある器だ。だが、壊れたところでまた"作らせればいい"だけのこと。それを待つことに不利益は無い。この次元の者は憤怒を、嵐の如き破壊を為す力を求めずにはいられぬのだから≫

 

「……"作らせる"って、何言って……?」

 

 

頭上に再び顕現する【セトの憤怒の片腕】。

自分を器から退ける為のハッタリだと自身に言い聞かせたホシノだが、雷撃の威力に対する恐怖とは異なる寒気を感じて考え直す。

こいつは機械のように優先度の高い方を選択し、その為なら多少己が不利益になる犠牲さえも厭わない。

 

 

≪仕切り直しだ。身構えずとも小鳥遊ホシノをこの次元からは消さぬ。移動を封じた上で、小鳥遊ホシノの知己の者を片端から"破壊"する≫

 

「お前……っ!!」

 

 

最後の最後で、ホシノは自身が圧倒的有利と"思い込んでいた"この状況を捨てることを選ぶ。

だが、セトが曲がりなりにも器であるイツキの体を使って戦っていたことから、その体がセトにしても壊されては困るものだという推測を土壇場まで捨てきれず、それが判断を遅らせた。

器ごと叩き潰すように襲い来る【片腕】からは辛くも逃れられたものの、無理な体勢で飛び退くのが精一杯。

 

 

≪さすれば貴様は我と貴様自身を憎悪し、怒り、憤る。裏返り"Horus"と為る確率は上がる≫

 

 

次の瞬間襲い来るは、扇状に地を伝う雷撃。

盾を地面に突き立てる対応まで間に合わせることは出来ず、まともに浴びてしまう。

全身を襲う、気絶して逃げたくなるほどの脈打つような激痛。

だが、【片腕】そのものに叩き潰されたセトの器も只では済まない筈……そう言い聞かせ意識を保つホシノが見たのは、

 

 

≪ここで眠らせるとしよう。次に目覚めた時には全てが手遅れであったという状況に、この次元の存在は激しく憤ると聞く≫

 

 

あの獣のような四脚の構えで立ち上がるセトの姿。

此方は雷撃のみを浴びただけで動きに支障が出ているのに、腕が直撃したほうが何故涼しい顔で臨戦態勢を取っているのか。

ホシノにこの不条理な状況を分析している暇はない。

 

 

(動ける……けど、さっきまでのようにはもう無理か……! この状況で、あのスピードと渡り合うには……!)

 

 

折れることなく考えを巡らせるが、四脚になってからのスピードには無傷の時ですらついていけなかった。閃光手榴弾による奇策を講じたのもその為だ。

そして、余計なこだわりを見せず機械のように学習していくこの敵に、同じ奇策が二度通用するとは思えない。

手榴弾のような隠し玉も既に心もとない。治安維持の見回りと不良レベルの相手の排除までが目的だったホシノが、こんな怪物と戦い続けられるほど重装備な訳はなかった。手に負えないなら一旦退いてアビドスの面々やシャーレ等に報告するのが最善であり、装備を減らしていたことが間違っていた訳ではない。

一旦退く為に放置することも出来ず、救援も期待できないという状況が、只々理不尽なだけだった。

 

砂漠へと稲光交じりのクレーターが穿たれ、セトが瞬時にホシノの目と鼻の先へと出現。

あえて正面から、盾を押し切る膂力でゴリ押しする気だと察してショットガンで迎撃しようと構えると、砂煙と共にその姿が消える。

雷撃に鈍らされたホシノの体は後手後手に回らざるを得ない。

ホシノの真横5メートル程度の位置に移動したセトは、一跳びで今度こそ、未だこちらに付いてこれず銃口を正面に向けたままの彼女の背後を取ろうとして、

 

 

――両足から血を溢れさせ、半端に跳んだ体を砂の上に転げ落とす。

 

 

≪――何故だ≫

 

「――!?」

 

 

これはセトだけでなく、ホシノとしても想定外の事態だった。足にはまだダメージを与えていない筈。

しかし何であれ、この予想外の好機を逃す理由はない。

 

 

≪想定より足二本の限界が早い――早すぎる、何故……≫

 

 

尚も何かを語るセトに目掛け、盾を捨て飛び掛かる。ショットガンの全弾が命中し、最もその攻撃力を発揮する位置へ。

一方のセトは二本の腕で上半身を起こそうとしながら考えていた。小鳥遊ホシノからの攻撃、四脚の高速移動でかけた負荷、【片腕】による自爆を考慮しても、まだこの器に限界は訪れないという計算だった。

その計算に入れ損ねていた損傷のことを思い出す。Horusとの戦いに邪魔だからと不意打ちで無力化しようとした少女達の事を。

最も強く危険とみなした方を吹き飛ばした際、もう一人に即座に撃たれた。これを利用し、気絶したフリをして背後から一撃で仕留める機会を窺い、概ね成功した。

当時は僅かに足止めされただけとしか考えていなかった、「彼女」のサブマシンガンによる被弾。

 

 

 

 

≪……そうか。これは、一ノ瀬アスナの……≫

 

 

 

 

ホシノの『eye of horus』が標的を仕留める間際、その被弾個所の大半が【器の両足】だった事をセトは思い出していた。

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