『……ッ、はは。コメントの流れパねえ爆速っ、いいぞドンドコ拡散しやがれ! このMOB様の一世一代の炎上芸、キヴォトス全土を騒がせろってんだ! 凸も大歓迎、場所は……!』
(よし、場所まで全部言い切れた! 後は助けが来る望みに賭けて、あと何分持ちこたえられるか……!)
"……言ったじゃないか、迷惑系動画はやめろって"
身を挺して己を庇う大切な生徒に対して、口に出来たのは責めるような台詞。先生は自己嫌悪から顔をくしゃくしゃに歪めていた。
「あれー、そうだったっけー? はっは、メンゴだよ。センセッ♪」
"――これからの君に、そんなもの垂れ流す暇があると思うなよ。ミレニ…ムに入……君に…、学…なきゃ……ない事…山ほ…………だ……!!"
「そうだね、分かってるよ先生。私、頭悪いから、人の何倍も頑張らなきゃ追いつけない……」
口の中いっぱいに不快な血の味が広がり、熱く赤黒い液体が唇の端から漏れ出る。
途中から、こちらに必死に呼びかける先生の声も途切れ途切れにしか聞こえなくなってきた。
(っあー……、もう目も霞んできちゃったか。そろそろ……、か)
救出されたとしても、自分はもう助からないという予感がイツキにはあった。
(・・・先生は私の事、ずっと覚えてくれるかな……)
なら、せめて先生が助かるまで、最後に残った命と気力を振り絞ってこの体勢を維持しなければならない。
心を折らないために、必死に幸せな「これから」を思い浮かべて意識を保とうとする。
科学技術の最先端を行く憧れのミレニアム生徒として、授業に追いつくための山積みの課題に頭を抱えながら、充実した学園生活を送る自分の姿を。
先生に告白し、卒業後に付き合うことを約束して受け入れてもらい、愛する人の腕の中に飛び込む自分の姿を。
(……はは。良いよね……、もうそう、くらい、すきな、ように……)
混濁した意識が、妄想の中で告白をする自分とごちゃ混ぜになっていく。
建物一棟の決して少なくない割合の瓦礫をその身一つで支えながら、彼女はキヴォトスの生徒だとしても信じ難い時間を耐え抜いた。
イツキの賭けは功を奏した。
MOBの配信動画視聴者の拡散により、事件発生から把握までの時間は大きく縮まっていたのである。
居場所の特定はヴェリタスらの迅速な対応により秒で完了、シャーレ所属の生徒達へ緊急救援を要請。
だが、続々と現場に集結しようとする各分野のエキスパート達は、思わぬ妨害にぶつかった。
潜んでいた所属不明のパワーローダーや戦車が各所に出動、混乱を誘うように無差別攻撃を始めたのだ。
(ですが。この尋常ではない火力を惜しげもなくばら撒いている事こそ、この先に行かせたくない理由があるという証拠……!)
配下の傭兵団の一人に指揮権を一時譲渡し、焦燥を狐の面で覆い隠す少女は砲弾の雨を搔い潜って奥へと進む。
その反対方向からは、かつてティーパーティーのトップの一角であった少女が、兵器の物量に臆することなく押し進んでいた。
「誰だか知らないけど、シャーレの権力か混乱そのものが目当てのクーデターってところかな? 私より随分とお粗末だけど……本当さぁ……もう…………先生に、一体何してるの?」
この二人が要請を受け取り一早く駆けつけられたのは、言ってしまえば先生への恋心故だった。
偶然を装って先生と出会う為、わざと先生の近くに行けるように(且つ先生に悟られないような距離で)予定を組んでいたのである。
実行犯の面々にとってこの状況は、陣を敷いたど真ん中が爆発して二体の化け物が湧いて出たようなものだった。
≪ふ、ふざけるな……! 攪乱班は何をしているんだ、幾ら何でも早すぎる!! よりによって何で『災厄の狐』と『トリニティの魔女』が……!!≫
彼らは困惑の中訳も分からずなぎ倒され、長い時間ををかけて用意した高価な兵器たちも瞬く間に鉄屑へと変えられていった。
二人にとっては愚か者どもと鉄屑のその後など知ったことではない。
先生の危機と同じくらいに彼女達を焦らせているもの。
それは今なお思い人を庇い、文字通り身を呈している少女の存在。
このまま死なれてしまえば、きっと先生の心には彼女の事が生涯の傷として残ってしまう。
そうなってしまえば、例え先生を射止めたとして。一生自分とこの娘とを比べられることになりかねない。
シャーレ所属の他に接点がなかった筈の二人は、遭遇と同時に目の前の相手が同類であると気づく。
何故あそこで体を張っているのが自分ではないのか、そう己に腹を立てているのだと。
((勝ち逃げは……!!))
(許しませんわ!!)
(許さないじゃんね!!)
少女達は言葉を交わすことなく、竹馬の友であったかのように息を合わせて目的の瓦礫を消し飛ばした。