東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第三十話】これから

「――覚悟は出来てるよ、先生」

 

 

感情の発露を終え、呼吸の整ったイツキは、未だ涙による頬の腫れを残したまま微笑み言った。

 

 

「これから私はどうなるのか、先生はそれを知ってるんでしょう? 今、聞かせて欲しい」

 

"……分かった。今ここで全て話すよ"

 

 

願いを聞いた先生は頷くと、それまで彼女を受け止める為柔和な微笑みにしていた顔を真剣な表情へと変える。

 

 

 

"先ずは君自身の状況について。……残念ながら、イツキが今後暴走しない理由を合理的に説明することは、現状では出来ない。だからといってそれまで閉じ込めておくのはあんまりだと、実際に君と戦ったホシノや、ネル達C&Cの皆……勿論、君の好敵手二人も同意してくれた。ここだけの話、極秘でシャーレと三大校の首脳間で君の処遇を決める議論も交わされている。結果、君の自由は保障されたけど、それには幾つかの条件がかかってしまうことになった"

 

「当然だね」

 

 

それどころか、当分今の病室のような何処かに閉じ込められるだろうと考えていたイツキは内心驚いていた。さらりと触れられた「三大校首脳」という言葉に、己が如何にとてつもない影響力を秘めたものを宿しているのかを改めて自覚する。

 

 

"今、君が身に着けている首輪は、君の状態を監視施設と言うべき所に共有するためのものだ。これから当分……君が暴走しない理由を完全に証明できるまで、それを外すことは許可されない。水や衝撃等からのあらゆる耐性に加え、セトの電撃にも耐性を持たせるべく君の為に開発された特別製だ"

 

≪ふむ……解析したところ法螺話ではなさそうだ。電気による干渉は迷路のように複雑奇怪、我でも外部からはともかく、装着された状態でこの首輪の解体は厳しいだろう。この次元にこれ程の機構をくみ上げられる技術者が居るとはな≫

 

 

補足するように、セティがイツキの脳内に語り掛ける。

ミレニアムの生徒が身に着けているヘッドギアと色合いの似た、青いランプを灯す白い首輪にはイツキも気づいていた。しかし、鏡で見たそれは猛獣の首輪というよりドレスのチョーカーのように洗練されたデザインで、身に着けていることでの重苦しさもない。彼女自身はお洒落でかっこいいとさえ感じていた。

 

 

"更にその首輪には、着用者に特殊な超音波を骨伝導で送り、弱らせたり気絶させる機能も備わっている。万一君が暴走した時には監視施設に知らされ、そこから使われることになる"

 

 

いつでも起爆させられる爆弾を身につけさせられているようなもの、ということを説明する先生の面持ちは沈痛だった。

 

 

"その上で、関わる人間にも戦闘能力の高い者が多い所に君も所属して貰うのが望ましい、ということになった。有事の際の自己防衛や周囲への被害の抑制……ミレニアムで最もそれに長けているC&Cに、イツキには改めて所属してもらう。これは既にメンバー5人全員に説明し、同意を得ている"

 

 

「……分かった。それで、他には?」

 

"いや、説明はこれで終わりだよ。答えられる範囲なら、質問もしてくれるといい"

 

「………………ええと。私へのデメリットは?」

 

"……………………へ?"

 

 

重苦しかった雰囲気が、先生の間の抜けた声で吹き飛んだ。

 

 

「ミレニアムに復学出来て、C&Cにも戻れて、また暴走したとしても"気絶させてもらえて"、皆への被害を抑えて貰える。……私への罰というか、デメリットは何なのかな、って」

 

"……ええと、首輪のこととか、ある程度の監視下に置かれることとか、所属を強制されることとか……それをデメリットと思わないのなら、無いということになるね"

 

「…………マジですか。こんなの、私なんぞを"見守って"くれる人に申し訳ないよ……あ、そういえばその人って誰? 先生やネル先輩達にはそんな余裕は無さそうだし、私の会ったことない誰かだよね?」

 

"うん。その首輪の開発者でもある人だ。仕組みを最も理解している開発者が行うのが最も合理的だからと、役割を買って出てくれた――、っと"

 

 

通信端末共通の控えめなバイブ音に気付いた先生が、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し操作する。

 

 

"もしもし。……分かった、挨拶をしたいってことだよね? 今スピーカーに切り替えるから、ちょっと待ってて"

 

『説明は先生が済ませてくれているみたいだから、同じ話をするのは非合理的。今はそう……先生の言う、"挨拶"だけをさせてもらうわ』

 

 

落ち着き払った女性の声に、イツキは理由が分からないまま身構え背筋を正していた。

 

 

『【セトの憤怒】再現研究の実験体である東戸イツキ、その監視を担当する調月リオよ。あなたには肩身の狭い思いをさせるから、その意味で長い付き合いにならないことを祈っているわ』

 

「……………………………………………………え?????」

 

 

名前だけは、イツキもMOB活動時代から聞いたことがあった。

ミレニアムの生徒会に当たるセミナーの生徒会長。

同学園で技術力や知性は頂点とされ、機械工学、薬学、電子技術など様々な分野にわたって一流の才媛。

今はとある事件により生徒会長を辞して失踪しているが、最先端技術を扱うエリートの集うミレニアムのトップに相応しい人物と考える生徒は少なくなく、当然イツキもその一人。

 

 

「……あ、……え? うそ、なん……え?? まさ……か、かいちy」

 

 

ロボットが大好きなイツキは、極めて独創的と多く称される「アバンギャルド君」にも一目見た時から魅入られていた。C&C任務の合間にその開発者について聞いた時、ネルが苦笑いしながら名前とその人となりについて説明してくれたことは昨日の事のように覚えている。

死ぬ前に一度でいいからあれを作ったお方に会ってみたい、でも会ったところで何を話したらいいか分からない、そもそも超絶バカの私では彼女にとって有意義な話なんて出来る訳がないのだから、会えなくていいのかもしれない……。等ということまで考えていた。

自己肯定感の低いイツキにとって、憧れのミレニアム学園、そのトップを務めそれに相応しい叡智を秘めた人物ともなれば自らが信仰する神そのものに等しい存在だったのだ。

 

 

『誤解しないでほしいのだけど、決して私個人があなたと話したくないということでは……? 電波状態が悪いわね。言葉が途切れ途切れにしか聞こえないから、もう一度話してもらえるかしら』

 

 

まさか調月リオという己自身がイツキの錯乱の原因と思わず、これを機械の不調と断じて平静に呼びかける。

 

 

"……いや、電波のアンテナは全部立ってるよ。とりあえずイツキのこと落ち着かせるから、ちょっと待っててね"

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