東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第三十一話】初めから、ずっと。

『……最後に、一番気を付けてもらいたいことを言うわ。私はミレニアムを離脱している身。失踪していることになっていて、現状ではネルと先生以外にバレてしまうのは不味いのよ。だから当面は私に会ったことはないということにしてちょうだい。勿論、今のこの会話もあなたは「していない」ということよ』

 

「わ、分かりました……あ、でも、もしこんな感じで通話してる時に誰かが来たらどうしたらいいんでしょう?」

 

『人目がある場面で通話を試みることは無い……と言いたいところだけれど、緊急時は機械で声に細工をして別人を演じるわ。あなたは適当に合わせてくれたらいい』

 

 

未だにミレニアム最高峰の叡智の担い手と会話をしている事態に現実感を得られないまま、イツキは先生の立会いの下で何とか詳しい打ち合わせを終えることが出来た。

 

 

"……さて。リオとイツキがこうして知り合えたところで、イツキには教えておきたいことがあるんだ"

 

 

先生はここで、以前から時が来ればと企図していたことを実行に移す。

イツキは立ち直ってくれたとはいえ、未だマイナスからゼロに戻った位のことで、まだ少し危ういと感じていた。

憧れの生徒会長と会って話せたことで元気を取り戻しつつあるのは分かるものの、あと一押し彼女を元気づけ、前に進む理由を与えたいと考えていたのだ。

企図とは、ある真実を告げる事。

 

 

 

 

"イツキの愛銃【WAS(ウアス)】。これ、設計図を描いたのはリオなんだよ"

 

 

 

 

『……先生。その件は口外しないという約束だった筈よ』

 

 

口を半開きにして硬直しているイツキを尻目に、リオが苦言を呈する。

 

 

"それはリオの存在を知られない為、という理由が前提だし、あの時に言葉にして確認もした。約束通り、最初にイツキが私にあの銃を見せてくれた時は初めて見たフリをしていたさ。でも、知られた今は関係ないよね?"

 

『う……、あの不必要に思えた確認にはそんな意図が……?』

 

「…………え。………………ええっ!? ヴぇええっ!!??」

 

『……はあ。こうなったからには説明の義務が生じてしまうわね』

 

 

弾を抜かれた状態で立てかけてある愛銃を二度見、三度見、四度五度六度……とイツキは視線を先生と愛銃で目まぐるしく往復させる。

そのまま目を回して倒れそうな奇行に走っている様を知ってか知らずか、リオは渋々という気持ちが容易に読み取れる声色で語り出す。

 

 

『私が建造した要塞都市【エリドゥ】の防衛を担っていたドローン軍【AMAS】。そのSG(ショットガン)搭載型を開発するにあたって、先ずはSGを実際に設計して開発したのよ。基礎の理解無くして応用は有り得ない。故にドローンに最適化されたSGを開発する為には、開発者がその構造を理解していなければ始まらない。理解するには既存の図面と睨めっこするより、試作の体で組み立てながら学ぶ方が合理的と考えた、という経緯ね』

 

 

AMASの名を聞いた途端、イツキは視線の往復を止め、目いっぱい口を横に開いてわなわなと唇を震わせ新たな動揺の表情を露にする。

C&Cの先輩達からの伝聞でしか聞いたことが無い、ロボット(最先端技術)マニアにとっては垂涎もののドローン軍団。一度は生で見たい、出来れば動いて戦っているところが見たいし何なら攻撃を食らってみたい、とまで考えていたそれと、自分の愛銃に繋がりがあるという爆弾情報に理解が追いついてくれない。

 

 

『管理番号のような感覚でつけたから、申し訳ないけれどWASという名前に深い意味はないわ。"A" "M" "A" "S"の頭文字を除き、"M"を上下反転させて"W"に変えただけ。関連を分かり易くする為に、AMASと似た名前を付けたのよ』

 

「……で、ですがこれは、エンジニア部の先輩方が入学祝いにと作って下さったものです! それが嘘だったとは思えません!」

 

 

確かに凝った名前ではないが、名づけの経緯に筋道は通っている。

だが、とんでもない事実を受け入れられずにいるイツキは、己自身の思いと裏腹に疑うような内容を口にしてしまう。

 

 

『今あなたが持っているWASを開発したのはあの子達、それも事実よ。あなたが使うことを想定し、エンジニア部の子達が開発したくなるカスタマイズの余地を残したWASの設計図を、部の未開発の設計図を保管しているデータファイルに紛れ込ませた。一番に開かれて目に留まるよう、ウイルスプログラムで細工をした上でね』

 

"メールとかで直接依頼すればそれで済んだのに、高度で回りくどいことするよね"

 

『言ったでしょう。失踪した筈の私が居ると知られてはならないの。匿名で依頼しても怪しまれるし、正体を突き止めようと考えだす子が現れかねないじゃない』

 

 

この武器の設計者が会長であることを認識して間もなく、イツキは己にとって更なる衝撃の事実を察する。

今が互いに初対面と勝手に思い込んでいたが、それでは辻褄が合わないと気づいてしまったのだ。

 

 

「……いつから、ですか。会長は私のことを、いつから知っておられたのですか」

 

『あなたがシャーレに所属した頃から、かしら。あなたのミレニアムへの編入について、先生から相談を受けたのが始まりね』

 

"「確かに不器用だけど、イツキの目の付け所や発想は面白いし、構造上の欠陥を見抜く目を持ってる」……そう皆が言っていた、という話を覚えているかい? アレも少し私が言い方を変えたけど、君の頑張りをこっそり見守っていた、リオからの評価でもあったんだよ"

 

『先生! その事は……!』

 

"はて、これは言っちゃ駄目だって約束はしてないよね? それに数ある銃の中からSGを選んだのも、散弾や一撃の威力が高いスラッグ弾は、不器用なイツキと相性がいいというリオの考えで……"

 

『……っ、これだけは勘違いしないでちょうだい、イツキ。あなたの不器用さを補うカスタマイズをWASに施したのは、私ではなくエンジニア部よ。私は名前を付けてベースの作り方を書いただけ。そこまでしたのも、あなたがセトと深く関わる唯一無二の存在であるからに過ぎないわ』

 

"そうやって、怖がって最初から嫌われようとしなくても大丈夫だよ。リオ"

 

 

その理屈では、セトの実験体になる前から目をかけていたという事実と矛盾する。

自分より何倍も頭がいい筈の少女が、余程焦っているのか己の口走ったそれに気づいていない……という状況に先生は可笑しさで笑みを浮かべた。

 

 

『何を言っているのか説明――』

 

"――とっくに伝わってる。君の優しさは"

 

 

自分のことなど頭の片隅にも存在していないだろうと考えていた憧れの人物が、姿が変貌する前からずっと目をかけてくれていた。

逃げ出した時も肌身離さず持ち続けた愛銃が、彼女の設計したものだった。

その二つの事実さえあれば、裏にどんな理由があろうとも構わないと思った。

無意識に祈りを捧げるように胸の前で組んでいた指に、俯きその手を見る青と紫の瞳から雫が滴り落ちていく。

イツキは困ったような笑みを浮かべたまま、胸に満ち足りる暖かな感情に暫し身を委ね続けていた。

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