東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【最終章】00死闘編
【第三十二話】果たし状


『――兎に角、今この場で伝えるべきことは伝えたわ。長い通話には不正傍受のリスクが伴うし、一旦通信は終えさせてもらうわよ』

 

「あの、リオ会長!」

 

『何かしら。もう会長じゃないのだけれど?』

 

 

涙を拭ったイツキは、慌てて呼び止める。

少し前までの自分なら、こんな自分が話しかける等烏滸がましいとでも考えて、何もしなかっただろう。

しかし、今はそれではいけないとハッキリ言える。リオが優しくしてくれた自分の思いをないがしろにすることは、リオをないがしろにするのと変わらないのだから。

 

 

「っその、肩身の狭い思いをさせるって最初に言われたことです。私はそうは思いません。っだ、だからその、こんなバカな私で良かったら、長い付き合いにしたいです! 首輪とか関係なしで! っうあ、ええと、つまり何が言いたいかっていうと!」

 

 

迷惑配信をしていた時の自分をも思い出して詰まりそうになる言葉を紡ぎ、冷たくあしらわれるかもしれないという恐怖を無理やりねじ伏せてイツキは言う。

 

 

「私と、またお話してくれませんか!?」

 

 

先生だけは、端末の向こう側に居る少女が息を呑んでいることを感じ取っていた。

相槌も無い沈黙。

イツキには本来の時間の何倍にも体感した。

 

 

『……こんな私とただ話したいなんて、理解に苦しむけれど……あなたがそれを望むなら』

 

「っ――ありがとうございますっ!!」

 

 

感極まり上擦った声で謝意を表した直後、今度こそ通信が途絶える。

 

 

「先生、教えてくれてありがとう」

 

"良いんだよ。それにこれはリオの為でもあったから"

 

「え? どういうことですか?」

 

"それは言えない。為になっているかどうかは、私の推測でしかないからね"

 

 

リオの周りに居るのは、その人となりと所業を知り許しを与えようとしてくれる人ばかりではない。その叡智を尊敬し、これからリオという人物を知り親しくなりたいと願う人だっている。

自分の愛銃がリオの設計であると知り文字通り泣くほど喜んだ、今日のイツキのように。

セミナーの会長ではなく、【調月リオ】と関わりたいと願う後輩だっているのだと――これを知ることが、リオが学園に戻る一助になればという、先生にとっても根拠の薄いお節介だった。

 

 

"……ああ、そうだ。君自身の処遇とは別で、伝えなきゃならないことがまだ一つあったんだ……危ない危ない、忘れてたら私と言えど殺されていたかもしれない"

 

「え?」

 

 

苦笑いする先生が少しだけ青ざめているように、イツキには見えた。

 

 

"此処に入れられる人からは、出られるまで外部との連絡手段を取り上げられるからね。それまでは待てないからと伝言を頼まれたんだ……ネル、から"

 

「…………………………………………あっ」

 

 

憧れの先輩との繋がりを持て、暖かくなった心に大量の氷水を流し込まれたようだった。

 

 

"内容はシャーレで録画した、所謂ビデオレター形式だ。見てくれるね? お互いの命の為に"

 

 

0点のテストを隠していることがバレた子供のように蒼白になりながら、イツキは頷かざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

『よお、ブラックマーケットの旅は楽しかったか? 東戸イツキ。お前を探すために、あたしらC&Cをこき使ってくれてありがとうよ? あたしはなあ、御蔭でただでさえヤバかった出席日数がもっとヤバいことになってて、その救済措置という名の補習で寝る時間もゴリゴリ削られてんだわ。ああ、これ名前ネタだぞ。つまらねえダジャレだなあって大爆笑していいんだからな? はははははっ!』

 

 

小柄な体型とは裏腹な美人寄りの整った笑顔で青筋を立てる、いつものメイド服姿のネルを映し出す映像は僅かにガタガタと震えている。

それが録画機器の不調でないことを、今まさに青ざめガタガタと震えているイツキは体で理解していた。

 

 

『……っとまあ、お前への恨みつらみは今吐き出したのが全部だ。どうせお前、あたしらにどう謝ろうかとか考えてるところだろうからな。だからこれから言う事をよく聞け。詫びはそれ以外聞く耳持たねえし認めねえ』

 

 

一転、冷静になったネルはそう前置きすると、一呼吸おいて告げる。

 

 

 

 

『あたしと勝負しろ。どっちかがくたばるまでの、無制限一本勝負でな』

 

 

 

 

「っ」

 

 

彼女が何者であるかを知った上で、これを死刑宣告と同義と思わない強者など、このキヴォトスに数える程しか居ないのではなかろうか。

白い骨が浮き出る程に握りしめられ手汗の吹き出すイツキの拳を他所に、録画の中の"戦いの師"は話を続ける。

 

 

『戦闘開始はお前がそこを出る日の三日後の17時。15分前には来い。場所だがいつもの訓練施設じゃないから間違えて入るなよ? その傍に地下行きのエレベーターがあるから、その入り口の前で待っていればいい、案内する。……あたしの知らない戦い方も、セトとやらの力も、持てるカードは全部使って本気であたしを殺しに来い。このあたしが、手加減されていることに気付かないだなんて思うんじゃねーぞ? 舐めた戦いを見せた時点で、お前の息の根を止めてやる。そのままの意味でな』

 

 

普段から物騒な言葉を吐いてばかりいる彼女だが、静かにブチ切れている時でも彼女の口から「息の根を止める」という表現をイツキは聞いたことは無い。

それがどうしたという話ではあるが、何故かイツキはそれが殺すと言われるより何倍にも重く感じた。

己が半端な覚悟で臨めば、この人は本当に此方の命を奪うだろう、と。師匠を名乗った責任を果たし、愚かな弟子の始末をつける為に。

 

 

『これはお前への苛立ちと憤りの発散も目的だからな、あたしが訓練の時のように"優しく遊んで"やると思うなよ? もう察してるだろうが、その日の"コールサイン00"はお前を敵だと思って殺す気で襲い掛かる。……有り得ないとは思うが、億が一バックレやがった時には、アビドスの砂漠の果てだろうと追い詰めて、死んだ方がマシな地獄を見せてやるからな? ……お前に拒否権がないことを十分に理解できたなら、武器も体調も戦術も、万全に備えて来い。以上だ』

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