「じゃ、先生。話を聞く前に、先ずは私にごめんとか申し訳ないとか、謝罪するの禁止ね」
「……分かった、物凄くきついけど善処するよ。まず始めに。――残念ながら、君の両腕両足はもう無い。瓦礫に潰された部分は勿論……肘と膝から上も、無茶な態勢で瓦礫を支えたことで相当な負荷がかかっていたらしい」
「でしょうね。――じゃ、この両腕両足は義手と義足ってことでいいのかな?」
無いならトルソーのような体になっているはずが、前よりスタイルが良く見えるような手足がついている気がする四肢に目をやる。
「その通りだ……けれど。それは単なる代わりの手足じゃない。君が生死をさまよう間に行った、極秘の人体実験の成果なんだ」
禁止してなければ、また謝罪の言葉を重ねていただろうことがありありと分かる程、先生の表情が悔恨で歪む。
「言い訳になってしまうけれど、これ以外に君を救うための手段が無かったんだ」
「ふむふむ。それじゃ、具体的にどう特別なのか教えて欲しいな?」
「うん。でも、ここから話はとても長くなる。だから、最初に答えを言って、後から説明する形でいこうと思う」
"前例のない義手義足の技術をイツキの体を使って無断で試した"――等ということを先生が罪だと思っていたとしたら、イツキは秒で否定してやるつもりでいた。
むしろそういう世界に飛び込んでいくことが夢で、エンジニアはその最も有効な手段、という考え方だったのだから。意識があったとすれば二つ返事で了承する以外有り得なかっただろう。
……等と、先生の思いとは逆に楽しさからの興奮を覚えていたイツキは、手足の動かない時間を使って徐々に理解させられていくこととなる。
ミレニアムの数多の天才たちさえ、訳の分からない存在と匙を投げる何かに、己がなっていたことを。
「――『セトの憤怒』。その謎を解き明かす研究の成果の一つが、今のイツキの手足なんだ」
――――先生を亡き者にせんと勃発した、あのクーデター未遂事件から半年後。
『イエーイ!皆ー!みってるー?』
「こいつ窓から……!?」
硝子を粉々にする派手な音と共に、スーツ姿の男たちが集うビルの一室に、ショットガンを背負った一人の少女が飛び込んだ。
『今日のゲストは、アヤシイお薬とお金を持ってコソコソしてたお兄さんたちでーす♪』
「…………何が何だってんだっ……!? 四 十 八 階 だ ぞ ! ?」
『そりゃーね、正面は警備厳重で面倒くさいし、ヘリ突撃させたらソッコーバレるしね。……ってなわけで、ボルダリング的なので一階から登って来ました! さあて、とっとと片付けて帰らなきゃなんだよねー、明日提出の課題のまっさら具合ヤバすぎてさー』
その時、少女の四肢に纏わりつく青白い稲妻に気付いた男の一人が目を剥いて叫んだ。
「カシラ、ブツ持って逃げて下せえ! こいつ"MOB"だ! 俺らじゃ抑え――」
ジャケットの内側にいち早く手を突っ込み何かを取り出そうとする男と、少女の距離は約10M。
大型家電を高所から叩きつけたような轟音が響いた次の瞬間、既に目の前に居た少女にただ「握られた」だけで、男の手は拳銃ごとスクラップと化す。
指の骨を砕かれ絶叫する男に怯んだ近くの男は無視し、何とか銃を取り出そうとする少し離れたところの男の元へ、またも人間離れした轟音を伴う"踏み込み"で肉薄。
勢いを殺さずただ体をぶつけただけで、大の男の体が斜め上に吹き飛び、天井の照明を壊して墜落して気絶。
ようやく銃を取り出した先ほどの"怯んでいた男"へと、ノールックでの背面撃ちを一発放って黙らせる。
傍らの長机をサッカーボールのように蹴飛ばす。それは出口に向かおうとしていた"カシラ"と呼ばれた男目掛けて飛んでいき、周囲を護っていた付き人ごと下敷きにした。
『……んよっ、と。そんじゃ証拠品も回収できたし、オサラバといきましょっかー。皆ー! 今日のスカイダイビングも楽しんでってねー!!』
目的のものを詰めたアタッシュケースを取ると踵を返し、増援らしき慌ただしい足音とは反対の方向へと駆けていく。
迷惑系から、私的制裁系動画へと転向した配信者MOB。
その正体たる東戸イツキは視聴者に呼びかけると、ガラスの割れて無くなった窓枠から勢いよく飛び出していった。
【東戸イツキ 性能】
武器種:SG
遮蔽物:×
攻撃:爆発
防御:特殊装甲
役割:STRIKER
ポジション:FRONT
クラス:タンク
学校:ミレニアム
市街適正:A
屋外適正:D
屋内適正:A
※人工建造物を利用した戦いを得意としている一方、それの無い屋外戦は不得手とする。
【愛用武器:WAS(ウアス) 】
黒い銃身全体が幾何学模様に覆われ、淡い水色で彩られた近未来的なデザインのミレニアム特注SG。
そのカラーリングは「セトの憤怒」と酷似する。
形状のモデルはドイツのコンバーティブルショットガン「サクソニア セミ・ポンプ」。