挑戦者が「約束された勝利の象徴」へ先んじて一撃食らわせたという大波乱に、会場から驚愕交じりの大歓声が沸き上がる。
『先制したのは、イツキ選手!!』
(通用した!! まだだ! 更に叩き込む!)
イツキは己を鼓舞し、跳ぶ勢いのまま激突しようとするオブジェクトへと"横に"着地。すぐさまネルの居る方へ跳躍し、追撃を加える為だ。
これ以上裏をかく余裕はない故の、深追いとも言える見え見えの追撃。
しかし、散弾の直撃を食らいよろめいているだろう相手に立て直す隙を与えるのは更に愚か、とイツキは判断した。
例えその結果、真っ向から二頭の金龍の咆哮を食らうことになろうとも。
(反撃が怖くて、こんな私が、ミレニアム最強に迫れるわけないだろうが!!)
肉を切らせて骨を断つべく、突貫する方向に居るネルを視界に捉えたイツキは、
「!?」
余裕の笑みを浮かべて此方と目を合わせる彼女の両手が共に徒手になっていることを知る。
真正面から二丁のSMGの弾幕を食らう覚悟をしていたイツキには想定外の光景だった。
(――鎖!?)
標的を捉えようとネルばかり映して狭窄になっていた視野は、一手遅れて手前にぼやけて見えていた何かにピントが合い、それが横に伸びる鎖と気付く。
ネルの愛銃ツイン・ドラゴンを結んでいた鎖が、二つのオブジェクトに絡んで張り詰めていたのだ。
しかも5センチにも満たない幅の線の伸びる位置は、イツキが飛び込もうとしている高さと完全に一致していた。
次の動きを高さを含めて読みきり、被弾した瞬間に仕込んでいなければこの状況は有り得ない。
追撃を焦るあまり最大速度で跳んだ為に軌道を変えることは出来ず、このままでは顔面から鎖に激突する。何の策も無く直撃すれば体がどっちに転がって吹き飛ぶか分からず、逆に此方が致命的な隙を晒すことになる。
両手はショットガンを抱えており塞がっていて、鎖を掴んでやり過ごすにはこれを手放さなければならない。
(――駄目だ、撃てない!!)
止むを得ず発砲を諦め、銃床と銃身をそれぞれの手で持ち、顔の前で掲げることで顔面への鎖の激突を防ぐ。
衝撃は鎖の下方向へと逃がし、体を鎖と床の間に滑り込ませて着地するまでに、ネルはイツキの真横をすれ違って鎖を手にしていた。
(逃がすか、ネル先輩は銃を持ってない! 鎖を解くのに手こずってる間に――!)
床に足を滑らせながら体を半回転させ、すれ違った背後にいるネルを追おうと跳躍したイツキは――そこにまだあったはずの鎖が、彼女自身と共に消えていることに驚愕する。
(何、で、)
鎖の罠は見掛け倒しではなく、まともにぶつかれば只じゃ済まない位強く張り詰めていた……きつく結ばれていた筈なのに。
そう弟子が驚愕しているのが手に取る様に分かるネルは、オブジェクトの死角に身を隠し待ち構えていた。自分を追って跳んでくるだろう方向から僅かに脇にずれた位置で。
イツキとしては、目で確認する時間を惜しんで跳んでしまったことが裏目に出た形だった。
(結び方ってのは、ある方向に力を加えるとあっさり解けるやつもあんだよ)
自ら己が狩場へと飛び込んできた瞬間、ネルは自ら跳び出し迫りながらツイン・ドラゴンを掃射。
側面からの双頭の金龍の奇襲に、然しもの改造人間も為すすべなく弾幕を浴びて吹き飛ばされる。
「があっ……!!」
被弾した勢いのまま横転し床に叩きつけられそうになる体を、イツキは床を蹴りつけ強引に制御し浮き上がらせる。
(止められるどころか、カウンターまで……!)
今ショットガン「WAS」で応戦しても、適正距離を離れてしまっていて弾の無駄遣いになる。
装弾数はあと6発、WASの最大装弾数を彼女が知らないと考えるのは無理がある。試合中合わせて8発放たれたと把握された途端、装填する間を与えない猛攻を仕掛けて来るだろう。
考えなしの威嚇射撃に使う訳にはいかない、とイツキは宙でWASを背に戻し、手近なオブジェクトを蹴って別のものへと飛び移る。
(――そうだ、ネル先輩は強いんだ。私の動きを読んで、あっさり追いついて……初めて見せたこの戦い方にも、すぐに適応してくるんでしょう)
飛び移って腕で掴み、勢いのまま体を折り曲げずに横向きの「大車輪」のように体ごと円を描いて手を離して次へ。
足で蹴り次へ。
次も蹴る。
今度は片腕で弾く様に薙ぐ「腕の跳躍」。
ジャングルに生い茂る樹木のように場を埋め尽くすオブジェクト群を足場とし、目にも留まらぬスピードで次々飛び移りながら徐々に高度を上げていく。
(――来たか)
闘技場のギミックを見せられた時から、ネルはこの展開も予見していた。
しかし、読み通りだから楽勝というわけではなく、その逆だ。ここからが正念場。
(上から見下ろされる方が視界も広がり、此方の動きも読まれやすくなる。足場が安定してるからと、あたしも地上に陣取っているわけにはいかねえ)
ネルは闘技場を覆う強化ガラスの壁に迫ると、重力など存在しないように安定した姿勢で壁を走る。
瞬く間にイツキと同じ高さへ至り――凡そ従来の銃撃戦に存在しえない筈の「空中戦」の幕が上がる。