東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第四十三話】00の絶技

(追い詰めた……!)

 

 

銃をバットのように振りかざし叩きつけるという奇策は、相手の反応を遅らせることに成功したようだ。

自分の脚力なら、彼女が宙に浮いている間に追いつける――と、イツキは確信する。

だが、それを理解していない訳がないネルが歯噛みするどころか笑っているのもはっきり見えていた。

この状況から切り返す策でもあるのか、等とほんの一瞬揺さぶられるが、折り曲げ力を込める足は止まらないし止める気はない。

 

 

(――只真っすぐに体当たりを叩き込む、それだけだ。一度きりの手で掴んだチャンスなんだ、罠があろうと食い破ってその喉元に届かせる!)

 

 

迎撃対策に眼前で腕を交差させ守りの構えを取りつつ、銃口から飛び出すスラッグ弾を思い浮かべ、自身が今からその弾丸になるとイメージ。

――脚は火薬。

――意思は引き金。

何かに集中する為に雑念を払う時は、別の何かになった自分を頭の中で想像するといい――目前に見据えた師から賜った助言も、今はその師を狩る為に。

青白い稲妻が両足の周りを迸って間もなく――近場で落雷したような轟音と共にイツキが"消えた"。

闘技場を覆う強化ガラスが弾かれた様に激しく揺れる。

後のエンジニア部の証言によれば、強化ガラスの厚みが半分だったらこの一発だけで観客が危なかったらしい。

 

消えるほどの速さに自身さえ全てを見届けることは敵わなかったが、想定していた「着弾点」でイツキは確かに手ごたえを感じた。

ガードしたとしても、150センチもない小柄な体格の彼女は衝突の衝撃に吹き飛ばされ、体勢を整えることも困難な筈。更に畳みかけ仕留める。

 

 

――そう思った直後、地上に"居ない"と信じられない事態を知ったイツキの頭上で、緋色の髪の少女が舞う。

 

 

(……あたしを此処まで集中させた奴はそうそう居ねえぜ、イツキ。お陰で時間の感じ方が遅くなって、思いつけた――てめえの顔面を狙い撃つ以外の突破口を)

 

 

避けられないのなら、その力を利用してやればいい。

衝突する寸前に、痺れていないほうの腕で跳ね返すようにイツキを叩き、衝撃を後退に利用したのだ。

そのままでは勢いのまま地面に叩きつけられ大きな隙を晒してしまうところを、更に床を足で弾くように蹴る。

どちらも、一発で全ての衝撃を凌ごうとしてはならない――衝撃を受け止めたほうの手と足が耐え切れず壊れてしまうからだ。

尚全ての衝撃を逃がしきれない体は今度はガラスの壁に叩きつけられんと飛んでいく。

ならばその壁も蹴り、ついでに勢いをイツキの頭上に向ければ――

 

 

(最初に弾いたほうの腕はビリついて使えねえが、殴られた側の腕は"戻った"ぜ)

 

 

消えるほどのスピードにタイミングを完璧に合わせ、叩く角度を調整し衝撃を3回に分け分散させ、腕と足が壊れないギリギリにまで抑えるという、凄まじいまでの体幹コントロールと反射神経でも成し得るか怪しいほどの神業。

それらが見えていなかったイツキに分かったことは、追い詰めたはずの少女に背後かつ頭上を取られているということだけ。

上を取られていては、対面ではやり辛さを与える姿勢の低さに何の意味もない――否、それ以前に今度は自分が技を放った反動で宙に浮いている。

竜の片割れの咢が開くと見るまでもなくイツキは分かったが、自身を弾丸と化した最高速の体当たりを放った直後の体では、未だ勢いに翻弄され反応が間に合わない。

 

 

「っがあああっ!!?」

 

 

不安定な空中におけるSMGの発砲は、それにも関わらず的確にイツキの後頭部を穿っていた。

これは胴体やら体の正面といった、一部の丈夫な生徒では大事に至らない被弾とは訳が違う。

打ち所が悪ければキヴォトス人でも死を過る暗黙の禁じ手――殺しにかかるという宣言を嘘にする気など毛頭ないネルは、全く躊躇いなくそのカードを切った。

 

 

(ウチの精鋭連中でも、そこに食らったら脳震盪起こして立てなくなっちまうだろうな)

 

 

飛びそうになる意識を気合で留め、弾幕に釘付けにされることを防ぐべくイツキは体に捻りを加えて落下し床を転がる。

 

 

(……あぁ、痛い……すごい、ネル、先輩っ……!!)

 

 

後頭部への打撃で噴出していた鼻血が転がった勢いで顔の周りに散る。

金属の弾丸に殴られぐらついている頭に浮かぶのは痛みと、此方が完璧だと思った戦法を軽々と切り抜けられ逆に此方が追い詰められていることへの"喜び"。自分は何という傑物を師に持てたのかと。

気絶するまいと意識して見開く目と、喜びから自然と上がる口角。

視界は未だ滲みが混じるものの、まだ跳べる――と、先に駆け上がっていったネルを追うべく四つ足でガラスとオブジェクトを叩き蹴り上っていく。

 

 

(初めから、これで決着とは期待してなかったが……どうやらあたしは、思った以上の怪物を拾っていたらしい――!)

 

 

後頭部に食らって朦朧としている間にありったけの弾を馳走しここで仕留める――という選択肢も過ったネルだが、至近距離を維持することに悪い予感を覚え、地の利を得ることを優先していた。

あちらは距離を一瞬にして詰める機動力を持つ上、握力も桁違い。引き際を誤って手首を掴まれれば焼き菓子のように砕かれる――そのことを理解し、更にあちらは確実にまだ立ち上がってくると考えたからだ。

予感は的中し、頭が揺れた影響か多少跳び方が粗暴なものになりつつも難なく上ってくるイツキと視線が交差する。

 

 

 

 

――青と紫の眼を爛々と輝かせ、顔中血まみれで笑う鬼と。

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