『これはっ……イツキ選手後頭部に被弾! 例え耐えても激痛を伴う急所への禁じ手、ネル選手、荒々しい戦いを見せるイツキ選手同様に一切の容赦がありません!!』
空けられない仕事があった先生は現場での観戦を断念し、シャーレ内のテレビで二人の激戦を見守っていた。
「……わーお、イッちゃん物凄い顔してる。私達の時より強烈じゃない?」
「あれが本来の東戸イツキということなのでしょう。これまでのあの子はずっと、自信の無さでそれを抑え込んでいただけに過ぎませんわ」
そこに大勢の生徒が集う場に行き辛い事情を抱えたミカとワカモも加わり、先生を手伝いつつ三人でテレビ中継を見ている形である。
"言い切るね、ワカモ。何か心当たりがあるのかい?"
「論拠はありませんわ。……只、話は変わりますが自信の無さに繋がっていた"原因"に関して、初めて会った時からずっと引っ掛かっていたことはありました。まるでそれを対価にしたかのように備わっていた「破壊予知」とも呼ぶべき力が、セトの改造手術の前からあの子と共に在った件について」
イツキの血塗られた鬼の形相を目の当たりにしても、ワカモは意外ではなく当然と受け止めていた。
「私(わたくし)と同じく苛烈で暴力的な根を秘めていたのだろう」という心当たりはあったが、これを堂々と言い張るのは気恥ずかしさがあった為しれっと話題を変えて語りだす。
「これも確かなこととは言えないのですが……私はあの力が、例えばセト由来の特別なものではないのではと考えているのです。それも私たちだけでなく、キヴォトス外の出身である"あなた様"の世界にも存在し得る能力なのではないかと」
"……『サヴァン症候群』かな?"
「あなた様、何故それを……!?」
己の先を読んだかのような言葉が、これから説明しようとした相手から先に出たことにワカモは驚く。
"私も私なりに、あの子のことを知ろうとしていただけだよ。……勉強は苦手で不器用、しかしものを壊すことに関しての才能は天才的。苦手な分野では周りに劣る代わりに、特定の分野に突出した能力を発揮するソレと似ているとは前から思ってたんだ"
イツキ本人から聞く限り、その能力に振り回されて困っているという印象はなく、全て自分の為に使いこなせているように見えると先生は感じていた。
セトのような「別の意思」から与えられただけの能力なら、例えば不要な時も何かが壊れる映像を延々と見てしまうなどして、能力そのものに悩まされた事が一度もないのは不自然ではないかと。
"映像のように破壊の未来が見える、とも言っていたけれど、それも言語化の代わりに映像として頭の中に出力している、と考えれば一応の説明はつく。イツキ自身は自分で考えている自覚がないから、勝手に都合の良い情報をくれる外付けの能力のように思い込んでいる、なんてね"
更に、サヴァン症候群の対象者は共感覚という特殊な感覚を得ていることも多い。「数字が色に見える」「音に味を感じる」といった、ある刺激に対して異なる種類の感覚も自動的に生じる知覚現象のことだ。
確認されている限りで150種類以上にも及び、「すべてのものが幾何学的な図形として見えるようになった」男の実話も存在している。
ならば視覚や聴覚といった五感で得た情報から、破壊の未来を「見せる」共感覚も存在し得るかもしれない、と。
「それって、無意識に見たものの情報を分析して、どう壊れるかを予測してるってこと? 未来予知と変わらない速度と正確さで……!?」
つい最近、イツキと近接戦を繰り広げその厄介さを目の当たりにしたミカも会話の中に加わる。
"何一つ言い切ることはできないよ、そう考えるとしっくりくるというだけでね。……ただ、動きが速いだけじゃ戦闘でネルと渡り合うことは出来ないのは確かだ。考えるスピードが速くなければ、類稀な速度と適応力を併せ持つ彼女に一方的に翻弄されていると私は思う"
「……うん。私も戦ってみて、身体能力に任せたゴリ押しじゃないとは思ってた。あの時、私一人なら取り逃がしてたかもしれない場面もあったし」
その限定的な予知能力がサヴァン症候群由来のものだったとして、「だからどうした」という話かもしれない。
だが仮にこれが真実なら、ホシノにとってのホルスのような関係性が、イツキとセトの間には存在していないということになる。
"(正体なんて言い方、ホシノをホルスと定義する黒服達みたいで好きじゃないけれど。イツキのそれは、セトの器たり得る別の何かなのか……?)"