東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第四十五話】封じの一手

(頭がぐらぐらして気持ち悪くて集中できない、さっきのような「踏み込み」は暫く使えないか……!)

 

 

並みの生徒では脳震盪で暫く立てないという後頭部に弾を食らったとあっては、一瞬で長距離を詰めるあの技は使えないと判断。

一時は追い詰めたとさえ思えた状況から一転、頭上を取られ不利な戦いを強いられているとイツキは冷静に受け止めていた。

 

 

(動ける程度に衝撃は逃がせたが、流石に無傷とはいかねえよなあ……!)

 

 

一方で位置的有利を取れているネルも、先ほどの衝突を食らって全く無事とまではいかなかったことを把握している。壊されなかっただけで全ての衝撃をすり抜けさせることなど出来る筈はなかった。

ショットガンの弾一発と、バットのように殴られた一撃についてもダメージは体に蓄積されている。

現状、外から見て分かるほど機動力は奪われていないが、このダメージが徐々に我が身を消耗させていくだろうことを過去の経験から予見する。

 

 

(だが、今はまだだ。あいつが「出す」ように、付かず離れずの距離で焦らせる……!)

 

 

下から追ってくるイツキを、ネルは壁とオブジェクトを蹴って宙を舞いながらSMGで迎え撃つことを繰り返す。

近づいてくる標的から距離を取りながら狙撃する「引き撃ち」。絶えず動き続けながら撃つことでイツキの側の狙いを定めさせない。

ネルは生身で小技のごとく連発しているが、空中での引き撃ちなど紛れもなく離れ業である。着地を意識しつつ空中で銃の反動も想定した体幹制御をこなさなければならないのだから。

 

 

(此方から飛び込んでこい、って誘われてる……今、流れをコントロールしているのはネル先輩か……!)

 

 

思惑通り走らされていることを察知したイツキは歯噛みする。

遮蔽物に隠れる余裕もなくネルを「追わされている」体は徐々に避け切れない迎撃の弾で削られている。

しかし隠れて態勢を立て直そうとすれば、その間に更に距離を取られ、SMGの弾だけが届く間合いに拡大されてしまう。

 

 

(これなら……!!)

 

 

ショットガン「WAS」が火を噴くタイミングは、ギリギリ射程圏内であり間違っていたとは言えなかった。

だが、射程圏内であるだけではイツキの不器用さが枷となり、キヴォトスでも有数の機動力を誇るネルを捉えるには至らない。

散弾は一瞬前までネルが居た背後のオブジェクトと、角になっている強化ガラスの壁を叩いただけだった。

 

 

「――出したな?」

 

 

突如、オブジェクトの柱を蹴ってネルは自らイツキに肉薄する。

彼女の最大火力はSMGツインドラゴンの掃射であり、向こうから態々近づいてくる理由はないと考えていたイツキは虚を突かれた。

自動装填の弾がまだ残るショットガンを持つ敵に接近する肝も尋常なものではない。

 

 

(一体何を……っ)

 

 

自らネルに近づこうと跳んだばかりで、あちらからも急接近してくるとなれば相対速度は上乗せされとても次弾を放つ余裕はなく、何も出来ないまますれ違う。

弾をばらまかれさえしなかった事に違和感を覚えつつも、距離を離される前に一発でも食らわせなければと追いすがろうとして、

 

 

――手元の銃から伝わる重みと、金属音交じりの風切り音に気づく。

 

 

(鎖が、WASに!?)

 

 

銃身に何重にも巻き付く鎖と、その先にぶら下がる金色の竜が描かれたSMGの片割れにイツキは目を剥き驚愕した。

すれ違う一瞬の間に、銃の片割れを錘に見立てた【鎖鎌】の要領で銃身に鎖を巻きつけられたのである。

 

 

(武器を奪う気か!? でも、パワーで上回る私の手から抜き取れるわけ……!!)

 

 

握力だけで闘技場の床に指をめり込ませる膂力を持つイツキは、パワーだけならネルを上回るという確信がありそれは事実であった。

だがその事実が、悪化した事態の把握を鈍らせる。

銃の片割れを相手が手放していることなど、その状況に比べれば些細な有利でしかなかった。

 

 

「うあっ……!?」

 

 

上半身と顔面に、今までと比較にならないまともな被弾を食らったイツキは仰け反りながら、漸くこの非常に不味い事態を認知する。

本来、互いに動き回りながらの銃撃戦では体の何処かに当てさえ出来れば御の字で、急所を正確に狙う余裕はない。

しかし今、伸びきった鎖はイツキの持つ銃とつながっているため、鎖に沿うように撃つことで命中率は格段に上がっていた。

ならばこちらもその鎖を利用しようと考えたところで、少し鎖を引っ張られて銃身を揺らされるだけで、ただでさえ照準合わせの苦手なイツキに迎撃は困難となる。

加えてイツキは今、「銃を両手で持つことを強制されている」。手放せば即座に鎖を引かれて奪われてしまう……それは実質、四つ足での戦いを封じられていることを意味していた。

逆に巻き付いた鎖を引っ張ってもう片方のSMGを奪おうにも、その瞬間の「迎撃を捨てた無防備な体勢」をネルは見逃さない。

 

 

(背負ってる状態じゃあ、流石のあたしも鎖を絡めようとすんのはリスクが高かったからな。前に両手で持ち出してくれる、その瞬間を待ってたぜ……!!)

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