東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第五十三話】惚れ込んだのは

(……この眺めも、4回目か……)

 

 

清潔な白に囲まれた病室の光景が目に入った時、イツキはすぐに自分が負けたことを察していた。

引き金を引けた記憶が無いからだ。無意識にそれが出来たと期待するほど楽観的ではない。

紙一重の差だったことの悔しさが、小さなため息1つで落ち着いてしまった己自身には少し驚いた。

これはミレニアム最強相手に、相手が最も得意とする近接戦で挑んで負けた、それが恥じるような結果ではないということも勿論あるだろう。

でもそんな納得感1つで、こんなに満ち足りたような気持になるものだろうか――と、過去の戦いを振り返ったイツキは違いに気づく。

力に酔って辻ヒーローをやっていた頃、戦いとは承認欲求を満たすための道具だった。

C&Cの任務は敵の無力化という仕事が目的で、ホシノと戦った時は自分の意思ではなかった。

ワカモ達と戦った時は逃亡の為仕方なく戦ったのであり、最後のセト召喚は全力などではなく、何もかも投げ出して消えようとと自暴自棄に走っただけ。

これら全ての戦いは、何か目的を達成するための手段であり、初めはネルとの戦いも償いの為の手段だった。

しかし途中から、そんなことは頭から吹っ飛んでいた。

「この人を壊したい」「壊して勝ちたい」という凶暴な己の欲望に呑まれ、戦う事そのものが目的になっていたのだ。

後に残ったのは、「やりたいこと……『戦い』をやり尽くした」という充足感。

 

 

「意外と余裕なんだな。負けたって分かった瞬間グズグズ泣き出すと思っていたぜ?」

 

 

3回目の入院までとの違いは、この個室には二つベッドがあること。

加えて、人二人分位を隔てた隣にあるもう1つのベッドに、死闘を繰り広げ壊そうとした相手が横たわっていることだ。

とっくに痺れは抜け切っておりいつでも任務に戻れるコンディションだが、医者から今夜一晩は安静にするよう厳命されたと面倒臭そうに言っていた。セトの電撃の影響の確認やらで手間取っているらしい。

イツキが気絶していたのは数時間程度のことで、今は日は沈んだがまだ日付が変わるまで余裕はある位の時間だった。

 

 

「……新しい発見があったんですよ、ネル先輩」

 

「はあ?」

 

 

離れたベッドの上で、互いに入院着姿で仰向けになり天井を眺めながらの会話。

イツキは己の抱いた充足感の正体をネルに告げる。

 

 

「私、戦うことが好きみたいです」

 

「そうかよ。うちに居るのそんな奴ばっかだな。好きで戦ったり壊したりしてねえの、カリンだけか? ひょっとして」

 

 

ネルの言葉を受け、イツキはメンバーのことを思い浮かべてみる。

破壊衝動持ちのリーダーに、それに張り合いやたらと挑発する後輩、趣味が襲撃のナンバーツー、趣味の感覚で爆破に手を出す爆弾魔。

 

 

「言われてみればそうですね。これではカリン先輩の負担が大き過ぎますので、さっきのは無しってことでいいですか?」

 

「あんな殺気と顔芸披露しといて通るわけねえだろ。……まあそれはさておき、今後もあいつの冷静な判断は大事にしねえとな」

 

「そうですね、私も、皆さんの話にしっかり耳を傾けて、ものにしていかないと。――私の取り柄は、この改造人間の力だけですから」

 

 

例えそれが、他所から与えられただけの力でも。

他の強者のようにたゆまぬ努力で培ったものではない『借りもの』だろうと、その力を使ってでも前に進む覚悟は出来ていた。

 

 

「……お前さ。――あたしがお前の事を誘ったの、その腕っぷし目当てでとか思ってんのか?」

 

「え? ……この力に鍛えがいがあるからとか、折角の力の使い方が見るに堪えなかったからとか、そういう理由だったんじゃないんですか?」

 

「まあそれもあるけどな。――あたしが惚れ込んだのは、お前の『根性』だっつってんだよ」

 

 

凄腕のエージェント集団に加えられる理由など、この改造人間としての戦闘能力以外に何があるというのか。

ずっとそう信じ疑っていなかったが故に固まっているイツキを無視してネルは続ける。

 

 

「お前が手足を失うことになったあの事件。もう使い物にならない位に潰れても、守ろうとしたものだけは守り切ったと聞いて、惜しい奴を失ったと心から思ったぜ。元気だったらゼッテー(絶対)うちに引きずり込んでやったのに、ってさ。だから後からお前が五体無事でミレニアムに居ると聞いた瞬間、こっちの心は決まってた」

 

「待って下さい。私とは、ミレニアムに入った後のアレが初対面だったんじゃ」

 

 

思わず上半身を起こしていたイツキは、あの時フルネームで名を呼ばれたことを思い出す。

当初はシャーレを通して聞いたのだろうとあまり深く考えていなかったが、それでも一方的に知っているだけだった筈の相手に名前を知られているのは妙だった。

配信は偽名の『MOB』を名乗っていて、話題になった当時とは見た目も大きく変わっている為、自然に『イツキ』と知る機会は無い筈。――向こうから調べようとしたなら、話は別だが。

 

 

「確かにあそこで鉢合わせたのは偶然だったが、お前を知らなかったと言った覚えはないぜ? 追い詰めた末に降参せずかかってきたのを見た時は、猶更気に入った。こいつは叩き伏せる度立ち上がり強くなる、いい根性の持ち主に違いないってな」

 

 

力の使い方の杜撰さに呆れたことが切欠で面倒を見てくれた……そう思っていた『恩人』の真実に、イツキはどうしていいか分からなくなり再びベッドに仰向けになる。

急に天井の照明が眩しくなったように感じて、手首の甲を押し当てて目を覆った。

 

 

「……弟子にしてもらってから、あなたは憧れでした。あなたみたいな強い心の持ち主になりたくて、ずっと……」

 

「改造人間だとかすげえ力とか関係ねえ。――このあたしと張るスゲエ根性の持ち主……こうと決めたら気絶しても折れねえ『東戸イツキ』を仲間にする日を、あたしはずっと待っていたんだ」

 

 

言葉が続かず、声を詰まらせる弟子には敢えて目を向けず天井を眺めたまま語るネルは、半ば呆れているようにも見える優しい笑みを浮かべていた。

 

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