東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

55 / 83
エピローグ
【第五十四話】愛学園主義の狂犬


贖罪に関しては、「そういえばそんな約束もしてたな」というノリであっさり受け入れられた。

『本気で殺し合う死闘』を贖罪の条件にした張本人曰く「あれを本気と言わねえわけねーだろ」とのこと。

退院の日にはC&Cの4人が迎えに来て、これまでのことに関するイツキからの謝罪も、その時に頭を下げて詫びただけで終わってしまった。

――心配をかけた事などへの怒りは全部リーダーがあの死闘に持って行ってしまったから、そのリーダーが許している以上、私たちにこれ以上償いをさせる理由はない。これが4人の総意だとのことだった。

 

キヴォトス全域に公開した「セトの腕」については、対外的にはミレニアムで開発中の秘密兵器ということになっているらしい。これについてはエンジニア部や実態を知るシャーレ所属生徒達関係者で口裏を合わせる手筈も整い済。

実態を説明しようにもその正体を知っている者にさえよく分かっていない有様なので、無用な混乱を避けるべくそういう形で公表したのだそうだ。

 

こうして、ミレニアムに復帰してから、取り立てて大きく語るようなことはない。

物語としては「ミレニアムサイエンススクール1年 C&C所属 東戸イツキ」として新たな一歩を踏み出した、私の青春は始まったばかり、とでも締めくくってお終い。

これから語れることといえば、こんな他愛のない、日常のほんの一片である。

 

 

 

 

 

 

「――お会いできて光栄です、ゲーム開発部の皆々様」

 

 

人気のない廊下を駆けていた四人の少女が、その先に現れたものを見て急停止する。

長い薄緑の髪の少女は、客人に挨拶するが如くメイド服のロングスカートを軽くつまんで会釈した。

 

 

「げげっ!? イツキ!?」

 

「ど、どうして……!? C&Cは全員、任務で学区外に出てる筈……!」

 

 

桃色と緑色、ネコミミ形のヘッドホンカチューシャをそれぞれ身に着けた二人の少女が狼狽しながら銃を構える。

二人は色は所々違えど髪型や髪の色に顔立ち迄そっくりで、例え素性を知らない相手からだろうと血縁者であることを想像するのは容易い。

 

 

「よくご存じですねミドリさん。あちらは手隙になりましたので私だけ先回りをと。速いだけのこの脚は数少ない取り柄なもので」

 

 

アカネに散々鍛えられようやく形になったカーテシーの所作を解き、イツキは身構えることなく臍のあたりに手を重ねたメイドらしい姿勢で語り掛ける。

他の二人を含め、四人に各々の銃口を向けられても動じない。

イツキはいつ撃たれてもおかしくない状況に気を悪くするどころか、彼女の「メイドとしての師匠」を思い起こさせる柔和な笑みを崩さない。

 

 

「詳しい事情は聞かされていませんが、大変お怒りのネル先輩からあなた達全員の拘束を命じられています。但し『ネル先輩の到着まで待機』でも結構です。武器を収めて頂けるなら、私も一切の手出しはいたしません」

 

「もー、相変わらず堅苦しいなあ。同級生なんだし実際はネル先輩と同じ年上なんだしさ、もっと気楽にタメで話してほしいなあー、なんて……」

 

 

まだ誤魔化せるかもしれないという微かな希望が潰えたと悟り、桃色のカチューシャの少女は笑みを引き攣らせながらも話しかける。

構えも取らず無防備だからと言って本当に発砲するわけにはいかない。先制攻撃を仕掛けてはあちらに戦う理由を与えてしまうからだ。

その程度で反撃する暇を与えず鎮圧できるような輩でないことを、観客席で死闘を見届けた彼女は知っている。

 

 

「モモイさん。例え同級生だろうと年下だろうと、私はあなたを含め、全てのミレニアム生徒を尊敬しています。無論、次代のエンターテインメントの担い手となられるであろうゲーム開発部の事も、改めて口にするまでもなく」

 

「お、重い……そこまで考えてない……! 私はただ、ゲームが好きなだけで……!」

 

「諦めて慣れようよ、ユズ。多分イツキは卒業までこんな……ミレニアムの狂信者って感じなんだと思う」

 

 

額を大きく出した赤い髪の少女が、小柄な体躯を更に縮み上がらせながらたどたどしく口にするのをミドリが宥める。

 

 

「あっ、あのさあイツキ。私達と取引しない? 一芝居付き合って私達のこと見逃してくれたらさ、いの一番に出来たゲームやらせてあげるし、非公開のやつもいくらでもさせてあげるよ? 見逃してもらう時も、イツキにも迷惑かからないようにするから、ね?」

 

 

冗談じゃない、本気のネル先輩と対等に殺し合える化け物と交戦なんて出来るか――という心の叫びを押し殺した笑顔で、首筋に冷や汗を伝わせながらモモイは交渉に打って出る。

その提案に思わずイツキは青と紫のオッドアイを輝かせるも、すぐさま冷静さを取り戻して瞼を閉じた。

 

 

「大変魅力的です。不条理を生理的な感覚に訴えかけてくる、TSCの空前絶後の味わい深さを最前線で楽しめると。――しかし、それは出来ません。この場の雑談には喜んでお付き合いしますが、任務を放棄し、C&Cの皆を『また』裏切ることだけは出来ない。――例え、相手が尊敬して止まないあなた方でも」

 

 

イツキはそう言うと『左腕のステルス迷彩』を解き、備えていた武装を展開する。

夥しい数の親指大の金属が虚空から滲み出るように現れ、完全に実体を表す前に青白い稲妻を纏いながら左腕へと纏わりつくように組みあがっていく。

意思を持つ風が淀みなく組み上げるジグソーパズルのような光景の果てに出来たのは、スポイトに似たシルエットの、しかしイツキの身長を超える大きさのライフルともバズーカともつかない重苦しい光学兵器らしき何か。

 

 

「……美しい……♡」

 

 

その光景を眺めるイツキは周囲を忘れたように呟きつつ、終始発情したように頬を染め恍惚とした笑みを浮かべていた。

釣り目勝ちの眼尻をだらしなく下げ、涎すら垂れ流しそうになってようやく我に返り、慌てて居住まいを正す。

 

 

「……っとと、この素晴らしい代物はエンジニア部からデータ収集を依頼されている、新たな光学兵器のプロトタイプです。このように持っていないと見せかけての奇襲も可能。本来巨大なバッテリーが必要な兵器も、私の場合は改造人間としての「電力」でエネルギーを賄えます。そのせいか、新兵器モニターのスケジュールはギッシリで新規は3か月待ちなんですよ」

 

 

光が迸り銃口に光弾が膨らみつつあるのを見た三人から短い悲鳴があがる。

今だけとはいえミレニアムで未だ世に出ていない最先端の技術が己の手の中にあるという事実に、イツキは脳内が幸福で満たされ塗りつぶされていく。

――撃たない、等という自制の選択肢など残る筈もない。

 

 

「そして意思を引き金として充填・発射が可能。何れキヴォトスの最先端を担うであろうミレニアムの叡智、その開発に携われるどころか真っ先に扱える。嗚呼、私は何て幸せな実験体なのでしょう……」

 

「ち、ちょちょちょっと待って待って待ってっ!! それどう見てもカイテンジャーの合体ロボットとかにぶっ放すやつ!! 人に向けていいものじゃない!!」

 

「アリスの光の剣と似ています! ――アリスは人に向けてたくさん撃ったことがあります。あの時、ペナルティが発生していたのでしょうか?」

 

 

長い黒髪をサイドアップにし、四人の中で際立って重々しいレールガンを抱えた少女が問う。

彼女だけが唯一、この状況に怖気づいておらず反対に前に進み出る。

 

 

「間違ってない! アリスは何も間違っていないからっ! あああああ明らかにやばいエネルギーがめちゃくちゃ膨らんでってるうううう!!? 兎に角、今はアリスの光の剣が唯一の希望!! 私達三人もサポートするからアレ何とかして!! 最大威力でぶっ放して押し勝ってえええええ!!!」

 

 

泣きながら最後の希望に縋るべく絶叫するモモイ、涙目で歯を食いしばるミドリ、青白い顔で唇を震わせ何かを呟いているユズ。

三者三様にとっくに発砲を開始し弾幕の雨を降らせているのだが、その最中にいるイツキは時々妙に艶やかな悲鳴をあげるだけでフラつきもしない。

 

 

「了解しました! 充填開始! 目標、ボスの第二形態!!」

 

「あはっ……♡ 正確には中ボス、ですよアリスさん。――否、私はC&Cの05の称号を賜ったばかりの末席。最初に戦う最弱と見知りおいて下さい」

 

 

かくして、双方から同時に斉射された光の奔流は、ぶつかった衝撃と妨げられたエネルギーを四方八方へと飛び散らせる。

とどのつまり、純白の大爆発である。

十階建ての集合住宅程度、難なく飲み込む規模の。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。