ゲヘナ学園とミレニアム学園の親善試合が突如決まり、ゲヘナの最終兵器ヒナの相手にイツキが指名される。
しかしこの催しには、不穏な勢力に対抗するための万魔殿の策略が隠されていた。
その勢力とは、キヴォトス中に潜伏し、普段は善良な市民として過ごす怪しき信奉者達。
彼らが口にする「Baal(バアル)」とは……?
※第一部完結当時、書くことすら決めてなかった頃に書いたプロローグになります。
一目惚れだった
神の御業たる破壊の雷
光に呑まれし全ての解放
共に在ることが叶わぬのなら
神に見えられぬ修道女が
思い描いた神像を創り
己が拠り所とするように
私はあなたを創り出す
御身より 雷 の名を戴き
その名に恥じぬ 帝 となろう
この身は卑しき人なれど
心はあなたの憤怒と共に
「――そもそも【列車砲シェマタ】は、奴が神と崇める『セトの憤怒』の雷を再現しようとしたものに過ぎない。それだけに飽き足らず、祈りを捧げる偶像を創る感覚で、奴は生み出し続けた。アレの織りなす破壊と嵐を体現する、唾棄すべき負の遺産を次々と……」
ゲヘナ学園、万魔殿・執務室。
通常、複数人の生徒の出入りが忙しくあるこの場所は、所謂生徒会長の立場にある議長によって人払いが行われ、二人きりの静寂に包まれていた。
「……ああ、お前には釈迦に説法だったな。とにかく、こいつが流出する前にシェマタを消せていたのは、不幸中の幸いと言うべきだったのかもしれん」
高価そうな執務机に座するは、黒い軍帽と軍将校のような黒いダブルのスーツを纏う銀髪の少女。
普段はトラブルメーカー側にあり笑んでいることの多い切れ長の目は、忌むべきものを見るように細められ怜悧な鋭さを増していた。
机の前に立つ小柄な少女にも見えるよう、万魔殿議長、羽沼マコトはノートパソコンの画面をそちらに向ける。
映っているのは、キヴォトスの誰もが知っている大手動画サイト。
その中で、青空に伸びる青白い柱のようなエネルギーと、それが十秒も経たず細くなり消え去る一部始終の動画がリピートで繰り返し再生されている。
「この映像のように、アレを映した複数の動画が流出・拡散をしている。動画サイトでは合成を疑うコメントで溢れているが、"奴ら"はすぐに理解して動き出していることだろう。奴らは、鍵が東戸イツキにあるとも把握しているだろうからな」
「それで、どうする気?」
ウェーブのかかったボリュームのある銀髪と捻じれた四本角、軍服のような制服とタイトミニスカートにロングコートを羽織った出で立ちの少女は、紫の瞳を宿す切れ長の涼しげな目を動画に向けつつ問いかける。
「興行を表向きとした試合を大々的に行う。ミレニアムの開催した『死闘の00』には連中を絞り込む一定の効果が見込め、とても参考になったのでな。あれと同じようにイツキを大勢の前で戦わせることで、信奉者共を炙り出し一網打尽にする為の秘策がある。だが、イツキもまたあの美甘ネルと渡り合う怪物だ。策を弄する時間を稼ぎ得る戦いを演じられる者は、このゲヘナでも限られている」
「それで私に出ろ、と言いたいわけね? マコト」
「フン、これは議長命令だ、断ることは出来んぞ空崎ヒナ。……あまり時間は残されていない。奴の撒いた種は既に、このゲヘナにも、トリニティにも、ミレニアムにも根を張り芽を出している――という下らん陰謀論は杞憂であると願いたかったのだがな」
マコトは話しながらノートパソコンを自分に向けなおすと、動画サイトを閉じて今度はパソコン内にあった動画ファイルの1つを開き、またもヒナに見えるよう画面を向ける。
「こいつは、生贄をセトを繋ぎ止める楔にすることを提唱し、改造にも携わったロクデナシだ。ミレニアムサイエンススクールにも関りが深い。尋問の為『あらゆる手を尽くした』が、捕らえた頃には既に人格は崩壊しており何れも効果を上げなかった」
「……変なポーズを取っているわね。合掌? とも違う」
「ああ。力ずくで止めさせるのは容易いが、隙あらばすぐこの体勢に戻る。そして今、何をしようとこの言葉しか発さない」
病院らしき部屋のベッドで仰向けに横たわるロボットの男。
その顔を映す液晶にはしきりにノイズが入って乱れが発生している。
上下逆に掌だけを重ね、斜め45度傾けたような奇妙なポーズを取っている。
両手で雷を表す記号⚡を形作るように。
『……Heil Baal……』
――バアル、万歳。
「――このマコト様の情報網が、キヴォトス各地で「バアル」なる謎のフレーズを拾い始めている。……確定事項ではないが、潜伏している雷帝シンパに関わりがあるとみるべきだろう」
『東戸イツキは改造人間である ゲヘナ疾雷編 Prologue』