「この写真……」
「それか。コユキを捕まえにいった任務だな。ユウカが損害賠償の出るようなやり方やめろって煩くてよ、チンタラと進めるしかなくて苦労したぜ」
その日の業務が終了し、全員で休憩をしていたC&Cの部室。
イツキが目を止めた一枚の写真から、ネルが当時を振り返ったことでこんな会話が始まっていた。
「従業員が全員バニー服だったから、私達もそれに変装したんだ。捕まえた後、ユウカへの報告も兼ねて先生に撮ってもらったのがこの写真で……。どうかしたのか、イツキ?」
「……いえ。見てるだけです、どうもしないですカリン先輩」
豪華客船のデッキ上らしい場所のプール前。
白いジャケットを羽織ったマジシャン風のバニースーツ姿のコユキが、真ん中で簀巻き状態で座らされ泣き顔を晒していた。
その両側に並ぶのは、バニースーツ姿のC&Cの面々。
小柄ながらハイレグカットから覗く生足と深紅のハイヒールが眩しい赤バニー姿のネル。
肉付きのいい褐色の両脚を艶めかしい網タイツで締め上げた黒バニー姿のカリン。
耳から手袋、スーツにタイツ迄眩しい純白に統一した白バニー姿のアカネ。
爽やかな空色のボディスーツと黒タイツのコントラストが目を惹く、白い長耳の青バニー姿のアスナ。
(…………えっっっっっっっっっっっっっぐ!!? ふざっっっけんな顔面偏差値えぐいにも限度ってもんがあんでしょ先輩方! いや知ってますけど!? 何なら入学する前からとっくに上澄み中の上澄みの美女しかこの組織にはいないって存じ上げてましたけどね!? それにしてもさあ、もっと手心をというか!? 顔とスタイルだけでお金貰える人種にしか着こなせないような衣装をこうも易々と……!! っていうかもう誰もかれも何これ、)
「イツキちゃん?」
見開いた眼を血走らせ、鼻息を荒げて写真を凝視した姿勢のまま動かないイツキに声がかけられる。
「足なっっっっっっっっっっっっっっがっっっっっっっ!! …………あ」
声の方に振り向いたと同時に、頭の中の叫びが口に出てしまったと気づいた時には既に遅し。
顔を合わせた目の前で奇声を食らう形になったアカネは、しかしそのような突発的状況にも微笑みを浮かべたままだった。
「…………イツキちゃん?」
「…………あの。大きな声をあげてすみませんアカネ先輩。ですが撤回はしません。普段はその優雅なスカートに覆われて目立ちませんが、あなたのおみ脚もこの上ない美脚と考えます」
「褒めているのかセクハラかよく分からない発言は自重して下さい、反応に困ります」
「ひっ」
困ったように眉を下げた微笑みを浮かべるアカネは言葉通り反応に困っているだけだったが、イツキはそんな細やかな窘めに対しても声をあげて震え上がる。
不得手なメイド業務の不出来なところを指摘される時なども、このような具合で笑いながら穏やかに、というのが常だからだ。
最早イツキにとってアカネはネルの次に恐れている人物である。
勿論それは道を正してくれる恩師に向けるような、尊敬と感謝の入り混じった恐ろしさであるが。
「……とはいえ。他でもない貴女が特別なもののように言っているのは腑に落ちませんね。それ程劣っているとも思えないのですが」
「はい? それはどういう――」
「まーそりゃ道理だな。あたしが鍛えてやってるケツと脚がだらしねえことになるわきゃねえ」
本気でアカネが何を言っているのか分からなかったイツキは、割って入ったネルの言葉と二人の視線の先にあった己の下半身を見てようやく理解する。
「…………こんな歪な付け焼刃の二本のゴミを比較するなど恐れ多くあ"痛"だだだだだだっ!!」
「お前そうやって自分下げまくること喋るなってあれ程言ってるよなあ? 鍛えてるあたしがゴミを作ってるって言ってることになんだよ、マジでいい加減にしろよコラ」
イツキは怖気づいて否定を口にしようとするも、ネルに尻を抓られ悶絶。壁走りを含む立体起動をしながら銃撃戦も容易くこなす握力は、分厚いメイド服のスカート越しでも容易く肉迄到達し掴み上げていた。
「残念ながら今度ばかりはリーダーの言う事は正しいですよ、イツキ。あなたはまだまだ己を客観的に見つめる力を養うべきです」
後頭部にシニヨンでまとめていた淡い金髪を下ろし、紺色の兎耳とスーツでバニーガールに扮したトキがいつの間にかそこにいた。
「お前は毎度一言余計なんだよ後輩。っつーかいつ着替えた、もう帰る前だってのに着替える意味ねえだろうが」
「いつからと言えば、この写真についてのお話が始まってからです。当時参加することは叶いませんでしたので、今こそこの私のパーフェクトなバニー姿を披露する必要があると判断しました」
つい先程業務をやっていた頃迄はいつものメイド服姿だったにも関わらず、下半身の白いハイソックスや紺のハイヒールといった装身具迄完璧に身に着けている早業である。
「それで。私のバニーガール姿は如何ですかイツキ。似合ってますか? ネル先輩以上に似合っていますか?」
「ち、近い! 近いよトキ!!」
似合ってるに決まってる。
陽光に照らされた海のような透明感のある瞳、端正で怜悧な顔立ち。
完璧すぎて逆に作り物のように感じられてくる美貌と、細く引き締まっていながら出る所の出たスタイルを強調するようにビッチリ張り付く艶めかしいバニースーツのギャップ。
見ただけで目を奪われる要素に事欠かないと言うのに、何を考えているのか更に目を合わせて迫ってくる事態にイツキは脳の処理が追い付かない。
「C&Cで最も華麗に着こなせていますか?」
「ちょ、まっ……」
後ずさりは長く続かず壁に追い詰められ、一歩間違えば唇同士が触れかねないばかりに肉薄されて混乱で意識が飛びかけた瞬間、
「何なにっ、誰のバニーガールが一番かって話!?」
見た目通り兎の如く、アスナが軽快に間に飛び込んできたことで距離は離れる。
そう、彼女もまたメイド服ではなく、写真そのままの青バニー姿だった。
しかもトキのように、話題に出た途端に早着替えしたというわけではなく……。
「今朝も言ったが、お前は何でその格好なんだよアスナ? いつものメイド服も制服もあったろうが」
「何でって、着たかったから着ただけだよ? これ可愛くて動きやすいし! 今日の任務も上手くいったでしょ、リーダー!」
「……確かに標的のスケバン連中、お前見て混乱してたおかげでやりやすかったけどよ……」
わけがわからないまま掃討されていったスケバン達に、イツキは少し同情の気持ちを感じていた。
メイド服も大概だが、美麗なバニーガールが「ボディスーツから零れ出んばかりのロケット型の膨らみを揺らしながら」飛び出してくるなどそれを上回って否応なく目を惹く奇特な出来事だ。
それが予告なく発生した時の混乱となれば、想像するに余りある。
「それでどう思う、イツキ? 誰のうさぎさんが一番似合ってると思う?」
「へ!?」
解放されたと安心したのも束の間、天真爛漫な青バニーから飛び出した特大の飛び火がイツキに燃え移る。
「大丈夫大丈夫、恨みっこなしだから♪ 言っておくけど『皆』はダメだよ?」
「アスナ先輩の言う通りです。自信はありますが、私も回答者の意見に従う覚悟を以て臨んでおります。是非本音をお聞かせください」
「そっ、そんなこと言われたって……!!」
こちらに迫ってくるバニーが一人増えて、さっきより悪化している。などと認識するのが精一杯なほど慌てるイツキ。
「まあまあ、今はまだそれを話せる状況じゃありませんよ、アスナ先輩。トキちゃんも」
隣に立ち、そう述べて二人を牽制してくれるアカネが、当時のイツキには掛け値なく救世主に見えた。
「審査するべき人がもう一人、ここにいるのではありませんか?」
そう言われて、ポンと肩を叩かれるまで。
「………………………………………………………………………………………え?」