東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第六話】 楽しむ意味

シャーレ執務室を出てエレベーターに乗り込む帰り路、ネルとイツキは"趣味(たたかい)"の話に花を咲かせる。

 

 

「さて。お聞きの通りあまり時間は無いわけだが、対策は浮かびそうか? あの空崎ヒナを相手に」

 

「……それが何とも。軽く聞くだけでも、これまで戦ってきたどの相手とも戦闘スタイルが違うんです。ぴったりな練習相手が居ないんですよね」

 

「流石にその位は心得てたか。あたしを含めたC&Cの前衛はスピードで翻弄するタイプばかりだからな。固定砲台みたくドーンと構えてバ火力を垂れ流すタイプは初めてだろ?」

 

「はい……。普通そんな戦い方したら弾を食らいまくって力尽きます。でもあの人は頭を、こめかみを狙撃されても無傷だったと聞きました。数々の武勇伝からしても、私にはそれが誇張とは思えません」

 

 

ゲヘナで悪名高いテロリスト達も、彼女が現れたと聞けば誰もが逃げに徹するという。遠距離狙撃が誇張抜きにスナイパーの位置を教えるだけで終わってしまうのなら、その判断は臆病でも何でもない。

 

 

「狙撃の噂、あたしも直接見た事は無いが事実だろうな。あれはダメージの蓄積すら許さない……過去のお前の「バカ丸出しな戦い方」で、本当に勝ててしまえる奴かもしれねえ」

 

 

シャーレのビルから出ると、二人の行先は異なる。

別れ際に立ち止まり、会話の締めくくりを進めた。

 

 

「怪しい接触があれば知らせろとは言ったが、何も無ければお前は空崎ヒナとの戦いに備えることに集中しろ。ゲヘナの件はC&Cと先生で探りを入れとくから任せとけ」

 

「はい。何が出来るか分かりませんが……バカなりにあれこれ勝ち方を考えてみます」

 

「勝てない、って言わなかったな。最後まで」

 

 

弟子の成長を目の当たりにした師匠そのものの喜色を顔に表し、ネルが告げる。

 

 

「いい勝負、させてもらいましたから。ネル先輩と。最初から勝てない相手と決めつけて、私に食らい付かれたあなたの格を下げたくはありません」

 

 

生意気な笑みを浮かべ、敢えて挑発じみた言い回しでイツキが返すと、ネルは怒るばかりか一層笑みを深めた。怒り顔より恐ろしい悪鬼寄りではあったが。

 

 

「それでいい。お前は戦う事を楽しめ。楽しみ続けることが出来れば、格上の相手でも勝機はある」

 

「……? どういう事です?」

 

「自分でやって理解しろ。やるやらないも、お前の自由だ」

 

 

ネルは己の帰り路に向けて歩きながらそれだけ言い残すと、後ろ手に手を振って去って行った。

 

 

(楽しみ続けることが、どう勝ちに繋がるって話だったんだろう? 色んな戦い方を考え続けろってこと? まあ、自分で見つけろってんなら仰せの通りにやってみますか)

 

 

答えを教えて貰えず、指針だけ示される。

強くなるための、師匠からの課題ってところだろうか……と、根拠はないながらもイツキは推測する。

 

 

(……戦いは、良い)

 

 

【死闘の00】で己が戦うことを好いていると自覚したイツキは、その理由を、自分の価値を再認識できるからだと自己分析している。

普通以上に素晴らしい、改造人間としての体を手に入れられた事。

師に出会い鍛えられ、昨日の自分より強くなっている自分の事。

それらの喜びを、戦うたびに実感できるからと。言葉にして言われるより、ずっと信じられるから。

 

 

(目の前の敵に集中してるうちは、思い詰めないでいられる)

 

 

もう一つは、あれこれ考えずにいられるから。

一瞬の見逃しと判断の誤りが敗因を生む戦場に、雑念の挟まる余地はない。

 

 

(……一生背負ってくと決めた、私の罪の事も)

 

 

 

 

 

 

 

――遡る事数年。

物置と化した空き教室を崩し、三人のいじめっ子を巻き込んで事件を起こしてしまったあの日から数週間後。

休み時間、いつものように机で何をすることもなく空気と化していたイツキは、クラスメイトの談話を耳にして衝撃を受けた。

 

 

「――ねえ聞いた? 3組の上須(うえず)さんのこと、例の物置に潰されて入院したっていう」

 

「こないだ転校したって担任の話が嘘で、ほんとは病院で自殺してるってやつでしょ? 昨日も他所で聞いたけどガセじゃない? ソース(根拠)あんの?」

 

「それがヨっちゃんのお祖母ちゃんも同じ病院に入院してたらしくてさ。警察の車来てたって言うしガチっぽいよ」

 

「うわっ、じゃあほんとに死んでんじゃん。……けどさ、これ言っちゃダメなんだろうけど……何人も虐めてたっていうし、自業自得っていうか……」

 

「いいでしょ、マジでめっちゃ嫌なやつだったし。いっつも私はお前達とは違ってすごいんだーって感じで。お得意の陸上も全国には出る資格すらなかったくせにさ」

 

「今思うとマウント必死過ぎだったよねえ。自分が大したことないって分かってたんじゃない?」

 

 

その話題の関係者であるイツキは同じ教室に居るというのに、誰も話しかけない。

わざと無視する虐めですらない、誰一人関心を向けないという理由で。

この事も孤独感を深めると共に、一層自分を無価値な落第者と自覚する遠因となっている。

だが、当時のイツキはそれを嘆いているどころではなかった。痛い目にあえばいいと試したことで、結果その人物が死んだと分かって平静でいられる者の方が少ない。

 

 

 

 

 

 

 

――牢に入ったことのある二人の親友すら、誰かを自ら死ぬしかない地獄まで追いやったことはない。

――でも、私は。

 

 

自分を卑下することの無くなった今も、消えない過去の罪として、心に影を落としていた。

 

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