東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第九話】 采配の理由

連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)として機能するビルの別階には居住区が存在し、複数の設備を有している。

生活に関する設備が充実している他、トレーニング施設やゲームセンターのような娯楽施設まで。

ビル外に出る必要が無い為、先生も度々お世話になっている。食堂もその1つである。

 

 

"今日はアジフライ定食か"

 

 

白い丸テーブルとオレンジのスチールチェアで構成された食事スペース。

先生が定食の乗ったお盆を持ってきて座ると、既に座っていた二人と共に手を合わせて食事を開始した。

三人とも日替わり定食を選んだため、同じアジフライ定食をつついている状況になる。

 

 

(先生……一体どういうつもりで私を引き留めたの!? そもそも、よりによってあんな話した次の日に私とヒナをブッキングさせる時点でおかしいよ!?)

 

 

醤油をかけたアジフライを一見平然とした態度で齧るイツキは、表情を硬くして動揺を抑え込んでいた。

顔を突き合わせての食事など、今後連携して何かを成そうとする相方と親睦を深めるならともかく、そう遠くない未来にリングの上で殴り合うような相手と試合直前にやることとは思えない。

 

 

「……一体どういうつもりなの、先生」

 

 

頭で考えていた内容と同じことがヒナの口から飛び出し、イツキはまさか口に出してしまっていたのかと身を竦める。

 

 

"何がだい?"

 

「この状況もだけど、そもそも今日の当番の面子の事よ。これは本当に偶然?」

 

 

ヒナからの問いは詰問するようにも取れる内容ながら、声色は呆れの滲んだ穏やかなものだった。

イツキは落ち着こうと、ほどよく温かい程度まで冷めた味噌汁を取って啜り始める。

 

 

"ヒナが来れると教えてくれた日と、前から当番の予定があったイツキが同じ日に来るようになったのは偶然だよ。とはいえ、こちらでずらそうとしなかったのは事実だね"

 

 

想定内だったのか、先生はドレッシングのかかったサラダを頬張り飲み込んだ後、すらすらと答えを述べてみせる。

 

 

"まあ、更に白状するならさ。ミレニアムは今度の親善試合に、両校の親交以外に何か別の大きな目的があると考えて探っている"

 

 

気管に味噌汁を吸い込んでしまい危うくぶちまけるところだったイツキは、寸でのところで咽るだけに抑え込んだ。

昨日密談のような雰囲気で話したことをそのままタレ込んでいるようなものだった。

 

 

(ちょっ、それ言っちゃう!? ミレニアムからすれば密告されたことになるんじゃ!?)

 

「でしょうね。マコトもそちらに察知されてること位分かってるでしょう。それで?」

 

 

付け合わせのミニトマトを口にしてからそう促すヒナもまた、他愛ない噂話を聞き流しているが如く平然としている。

 

 

"ヒナ達の側で何を企んでいるのかについては、ぶっちゃけ私個人としては知りたいとは思ってないよ。例えば、他所の生徒を故意に傷つけようとしてるのなら話は別だけど、もうそんなことはしないと信じてる。マコトも私の心証を害するようなことはしたくないみたいだしね、言ってて我ながら何様って感じだけど"

 

「そうね。アレも本気で先生と手を結んで覇権を握る気のようだし、間違ってないと思う」

 

"だからまあ、私は変わらず特定の学園に肩入れするつもりはないってわけで。今日の当番はその意思表示も兼ねていたってところかな"

 

 

先生が特定の学園に露骨に肩入れし別の学園が不利となるよう立ち回ったとなれば、それだけで学園間の抗争の火種になり得る。

シャーレで権限を有するとは、それ程のことなのだ。

 

 

「なるほど。でもまだ何か目的がありそうな言い方ね」

 

"イツキに、ゲヘナの事を怖がってほしくなかったんだ"

 

「んぐっ!? わ、私!?」

 

 

落ち着くためイツキは炊いた白米を口にしていたのだが、いきなり話が此方に向いたのに驚いて今度はそれを一気に飲んで喉に詰まらせかけた。

 

 

"本人がミレニアム大好きってところもあって、イツキはこれまでゲヘナと関わる機会が無くてね。いきなりその代表と戦うことになって、万一ゲヘナを過剰に警戒するようになってしまったら勿体ないなって思ってさ。そんなことで世界が狭まってしまったらつまらないだろう?"

 

 

余計なお世話かもしれないけどね、と先生は冗談めかして付け加える。

 

 

「そんなこと――」

 

 

即座に否定しようとしたイツキは、仮にもし試合で相対する迄、ヒナと実際に会う機会が無かったとしたらと考えた途端言葉が出なくなる。

 

 

「――いや、もしかしたら先生の言う通り、ゲヘナの人たちと仲良くするのが怖くなってたかもしれない」

 

 

相手のことを調べて数々の武勇伝にプレッシャーを感じまくった挙句、気圧されない為に対戦相手に必要以上の敵対感情を抱いてしまっていたかもしれない。

戦いで容赦をしないのと、相手そのものに敵意を抱くことは違う。

 

 

「でもヒナは、出来ない私の事もよく見ていて気遣ってくれて、足手纏い扱いせず仕事を割り振ってまでくれて……正直、今でも呼び捨てにするのが恐れ多いくらい。こんな凄くて優しい人が居るって今日分かったから、これからもゲヘナの人たちを変な色眼鏡で見ないで済むと思う」

 

 

直後、ヒナの所から食事をする音が途絶える。

 

 

"そうか、でもやり過ぎたかな? 知り過ぎて逆に試合で手をかけることに躊躇っちゃったりなんて……"

 

「それは心配ないよ先生、戦う時はこっちが悪者になる勢いで全部ぶつける。この間のネル先輩との死闘でもそれはやり切れたし、というか私なんかじゃ自分を全部絞り出さなきゃ、試合にすらならないって思うし……」

 

 

と、ここにきてつい一人で夢中になって一方的に喋ってしまっていたとイツキは気が付いて言葉を切る。

口を挟む様子が無かったヒナはというと、

 

 

(へつらった様子もなくあんなことを平然と……心にもないお世辞、とは思えなかったな今の。まさか普段からずっとこんな調子で、先生にも……)

 

 

湯水のように溢れ出る問題児を抑えきれているとは言えないゲヘナの環境もあって、それを鎮圧する立場のトップであるヒナの自己評価は低く、正当な評価でも素直に受け取れないきらいがある。

だから、あまりにあっさりとイツキの口から出た自身への称賛の言葉を受け止めるまで時間がかかってしまった。

ストレートに褒められると動揺しがち、そこのところは相変わらずだなと先生はヒナを暖かな眼差しで見つめつつ思う。

 

 

("自己評価が低い辺りは実は似てるんだよね、この二人。そのせいで他の誰かの為に頑張り過ぎたり、思い詰めがちなところも")

 

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