東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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今回は本編ではなく、本作を読んだことのない人向けの短編を作ってみました。

既に20万字程度あるこの駄文を追ってくださっている方々にも、番外編かつ「おさらい」として読める仕上がりを目指して作成しております。(既に公開済みの第一部の"ある話"の前日譚となっています)













【番外短編:未読者向】六番目のC&C

分不相応な願いを捨てられずにいたせいで何も上手くいかず、まともに学生生活を続けられなかったばかりか、理解者が出来たこともない。

話し相手は、承認欲求をこじらせて始めた迷惑系動画配信の、顔も分からぬ冷やかしの視聴者だけ。

 

 

"君の「壊す」才能は、決して迷惑をかけることしかできないものじゃない。君が望む『創る夢』に振り向けることだって、出来るはずなんだ"

 

 

ヘマをして捕まった私を救ってくれたあの人は、その後も口だけじゃない沢山の応援をしてくれた。

そうして初めて自分に優しくしてくれた彼に、単純バカな私はあっさり恋心を抱いてしまう。

しかし、シャーレに集う才能も美貌も自分と段違いな他の生徒達を見て、「分不相応な願い」が何を齎すか知っていた私はすぐその恋心を仕舞い込むと決めた。

 

その後に起きた事件で、先生を庇って致命傷を負った時も恐怖はなかった。

バカで不器用な私を最後まで見捨てなかった、大好きな貴方に出来る精一杯の恩返し。

一秒でも長く、瓦礫を支える体をもたせる為。

全ての夢を叶えた幸せな未来を妄想しながら、四肢の殆どを失う激痛も感じなくなり、ここで私の人生は終わるのだと悟る。

でも、先生と出会わず孤独な不良生徒として生き続けるより、この方が幸せだったのは間違いない。

欲を言えば先生が私の事を、これからもずっと覚えていてくれたら……。

 

 

――そう思っていた過去の私に、『今』を語り聞かせてもとても信じなかっただろう。

ミレニアム生に憧れる切っ掛けになった、幼い頃テレビにかじりついて見ていたロボットアニメ以上のトンデモの中心。

そこを他でもない、私自身が歩き出すことになるなんて。

 

 

 

 

 

『コールサイン02より各員に通達。目標ポイントの南東で工事用車両の暴走騒ぎが発生。発生場所がマークしていた潜伏個所と一致することに加え、このタイミング……本命が学区外への逃亡を目指していると思われる』

 

「00了解、間抜けなりに一丁前の陽動作戦とはな。……こっちは後2分もありゃあたし一人でも片が付く。――ホシは学区内で仕留められるか、05?」

 

 

小学生と見紛う体躯、スカジャンを羽織ったミニスカートのメイド姿の少女が、先程撃破し黒煙を昇らせる敵戦車の上で胡坐をかいて通信している。

その鋭い目から織りなす悪鬼の如き強面、焔のように鮮やかな緋色の短髪に似合う赤い瞳が向く先には、ロングスカートのメイド服を纏う薄緑色の長髪の少女。

彼女は尋ねられた頃には既に、目標ポイントの方角目掛けスタンディングスタートに似た体勢をとっていた。

 

 

「05了解、問題ありません。……舐めすぎて一発貰ったりしないで下さいね、ネル先輩」

 

「余計なお世話だ、バカ弟子が」

 

 

尚もこちらを狙う気配はまばらにあるが、主力の戦車を一蹴された敵残党の士気は低く、二人の交わす軽口を隙とみて奇襲をかける気概も失っているようだった。

少女はチラリと己の『師匠』に目配せして微笑むと、後は目標を一心に見つめ、青白い稲妻を両足に纏う。

次の瞬間落雷の如き轟音が響き渡り、少女は消えた。

文字通り雷が落ちたような、焦げ跡と電光を残して。

 

 

 

 

ミレニアム自治区、南東。

違法改造されたブルドーザーが、信号待ちの車を幾つも跳ね飛ばしながら大通りを爆走している。

騒ぎを起こしてしまうと承知の上でこの車両を選んだのは、電子と情報のエキスパートが跋扈するミレニアム自治区内ではどのみち特定され、包囲されて詰むリスクが高いと判断したからだった。

 

 

(くそっ……虎の子の新型戦車を捨て駒にするのは痛いが、C&Cの美甘ネルまで出てきているなら仕方ない! いいさ、この機密文書の重大さに箔がつくってもんだ! こいつの報酬を元手に、もう一度成り上がって……!)

 

 

自治区を出て違法電波の飛び交うブラックマーケット界隈に潜伏すれば、位置の特定は難しくなる。

このブルドーザーはその直前に適当に乗り捨ててしまえばいい――

 

 

「――!?」

 

 

そう考えて自らアクセルを全開で踏んでいた『ブルブルヘルメット団』のボスは、次の瞬間フロントガラスに全身を打ち付けた自分自身の状況を理解できなかった。

慣性で体が吹き飛ばされた、その位は分かる。

しかし、シートベルト着用を怠った自業自得だとかそんなことを言ってる場合ではない。

警察車両の一台や二台平気で跳ね飛ばせる改造ショベルカーが、ブレーキを踏んでいないにも関わらず急停止しなければ、こんな事は起こり得ないのだから。

 

 

「――嘘、だろ……」

 

 

余所見をして滅茶苦茶に頑丈なオブジェに衝突したとか、そんな想像が出来る範囲の現象を目の前の現実は超えていた。

動けない程の全身の打撲の激痛が、少し忘れられ和らぐほどに。

 

 

「……ここはミレニアム学園の管轄区。車両の暴走は、ミレニアム生の数々の素晴らしき創造物の破損、そして何より尊きミレニアム生のお歴々を傷つけかねない。許しがたき、行い」

 

 

ここまで幾つも路上の車両を跳ね飛ばしてきたドーザーブレードに両手を突き立て、語り掛けるメイド服姿の少女が一人。

コンクリートの道路を両足で土砂のように捲れあがらせている光景は、正面突破力なら軍事車両に引けをとらないこの改造車を素手と足腰だけで止めたようにしか見えない。

 

 

(……まさか、こいつが……!)

 

 

ヘルメット団ボスも噂として耳にはしていた。ミレニアムには、四肢を取り換えて人外の身体能力を手に入れた改造人間がいる、と。

奇想天外なロボットやテクノロジーが湯水のように溢れるミレニアムなら、そういう輩もいるかもしれない程度にしか思っていなかった。

メイドの少女は両手でスカートの裾を摘まんだ優雅な姿勢のまま、軽々と己の身長の倍以上の高さにあるフロントガラスの前へと飛び乗ってきた。

噂の中の特徴は、薄緑色の長髪と、青と紫のオッドアイ――

 

 

「……化け、モン……がっ……!」

 

 

防弾仕様のガラスを素手の一突きで破るメイドの姿は、噂の改造人間の特徴と寸分たがわぬものだった。

胸ぐらを掴み上げられたヘルメット団のボスは、息も絶え絶えに悪態を呟くと意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「此方コールサイン05。文書は回収しました、主犯も確保しましたが連行しますか?」

 

『00了解、近くの連中に回収させっからお前はそこで奴を見張ってろ。……しっかし、居なくならねえな? でけえ乗り物に乗ればあたしら相手でも何とかなると考えるバカ共はよ』

 

 

通信端末の向こうから業務連絡ではない「雑談」が始まったのを耳にし、少女は予想通りあちら側ではとっくに制圧が終了していることを察する。

 

 

「まあ、生身より手間取るのは事実ですからね。私にはこういう「モノ」を壊すほうが取っつきやすいですが、時間を取られるのは確かです」

 

『そこまで計算の出来るマシな連中なら、あと五倍くらいは時間かけて楽しませてくれるだろうぜ。……んじゃ、あたしも面倒くせえ後始末があるから後でな』

 

 

【師匠】との通話を終了すると、C&Cのコールサイン05――東戸イツキは、その辺のコードで縛って転がしたヘルメット団ボスを見下ろす。

気絶したふりをして出し抜かれないようヘルメットは外してあるが、目覚める気配は無さそうだった。

 

 

「……化け物、か。我ながらその通り……というか、ちょっと嬉しいかも」

 

 

聞こえていない相手に語り掛けるように、イツキは呟く。

頭の悪い平凡な不良生徒に過ぎなかった自分が、化け物じみた力を手に入れられたことには悲観するどころか感謝している。

そもそも、先生を守るために四肢を失った自分が命を繋ぎ、憧れのミレニアム生になれたのもその化け物への改造の賜物なのだから。

【セトの憤怒】と名付けられる人知を超えた存在、それに執着するある研究者の、狂気に満ちた再現研究の副産物ということらしい。

 

 

(……回収に来るらしいけど、どのくらいかかるんだろ?)

 

 

まあ急いでいる用事もないし別にいいか、とイツキは己のスマホを取り出す。

 

 

(――あれ、ミカから来てる)

 

 

モモトークの通知をタップすると、好敵手(しんゆう)の一人である聖園ミカのトークページが開かれる。

 

 

≪ごめん、明日のパフェ食べにいく約束だけど奉仕活動入っちゃった。明後日に延期でもいいかな? 一応、ワカモちゃんからはOK貰ってる≫

 

 

無意識に口元を微笑みの形に緩ませながら、イツキは返事を入力していく。

 

 

≪いいよ、明後日楽しみにしてる≫

 

 

投稿すると、一分もかからず反応があった。

 

 

≪ありがとっ☆ あそこのパフェ、本当にとびきり美味しいから。絶対後悔させないからね、イッちゃん≫

 

 

片や元トリニティのトップ、ティーパーティーの一人にしてエデン条約を巡るクーデターの首謀者。

片や「災厄の狐」と恐れられ数々の襲撃事件を起こした脱獄犯、【七囚人】の一人。

そして、バカで不器用な改造人間でしかない自分。

 

道が交わる事の想像しがたいこの三人の交流は、シャーレの先生の抹殺を狙って起こされたとされる同時多発テロ事件から始まった。

イツキが四肢を犠牲に先生を守り抜いた現場に、妨害を押しのけ最初に到着し二人を救出したのがミカとワカモだったのだ。

そして、もう一つイツキのしでかした「ある事」に危機感を覚えた事で、ワカモの発案で三人各々がシャーレの先生と結ばれることを望む好敵手(ライバル)であると宣言。

今も立場は変わらないが、先生の関わらない所では敵対するどころか、相談をしたり共に遊びに行く好敵手(しんゆう)のような関係になっている。

……本音では、彼女達と対等な関係を名乗るなど烏滸がましいと今でもイツキは思っている。二人とも上澄みの中の上澄みの美貌を持ち、お洒落のセンスを始め自分では女としてその足元のつま先の垢にも及ばないのだから、と。

 

 

(……パフェ、か。食べた事ないんだけど、食べ方とかマナーとか、あるんだろうか……)

 

 

先生に出会うまで、ミレニアムに憧れを抱くだけの不良生徒に過ぎなかったイツキは、そういう青春やら女の子っぽいことやらには無縁の生活を長い間送ってきた。

先生に救われ惚れるまではろくに散髪もせず、不潔な茶髪が目にまでかかっているという有様だった程だ。

甘い果物とお菓子が盛り沢山のパフェなんて、食べようと考えた事も無い。

 

 

(……や、やばい不安になってきた。えっと、こういうのネットでしら、調べられるんだっけ? ど、どんなキーワードにしたらっ……!)

 

 

そんなたわいないことで逡巡していたイツキだが、そこに主犯の回収に向かっていた人員が到着。

そちらの対応に追われ、パフェに関するささやかな悩みは早々に忘れてしまう。

思い出したのは翌日、二人の好敵手(しんゆう)とパフェを前にしてからのことであった。

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