東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第二十話】 迫る死闘試合

アスレチックスタジアム。

キヴォトス最大級の合同体育祭「晄輪大祭」の会場にも採用された、広大な競技用の敷地を有する陸上大会の聖地。

本来であれば先述した競技に使われているが、この日はゲヘナ学園とミレニアムサイエンススクールの共同出資で貸し切られていた。

それは親善試合と称した、両校の代表戦開催の為。

 

 

「――にしても、よく此処でマジもんのドンパチ許可出たよな。ヒナがガチ暴れするんだぞ、ここ丸ごと滅茶苦茶になるんじゃね?」

 

 

観戦に来ていたゲヘナの武闘派スケバン組織、武龍陰破流守(ブルーインパルス)の構成員は何の気なしにそう言った。

前の空席に足を乗せ座っていたチームメイトが、そちらを見ないまま話を拾う。

 

 

「ミレニアムのほうはデータが取れるってんで破壊も大歓迎だそうだ。それに、万魔殿もだいぶ金を注ぎ込んだらしい……一番上のええと、誰だっけ」

 

「毎度のことながら、うちのトップはどこからンな大金引っ張り出してくんのかねえ。名前知らんけど」

 

「……ぶっちゃけ、どっちを応援するよ?」

 

「あ? 何だ急に。おめーそういうの気にする方だったか?」

 

「いやどうでもいいけどさ、暇じゃん。嫌なら何か面白いこと言え」

 

「その二択は狡くね? ……おめーと同じだよ、どっちでもいいじゃん。バカスカ撃ちまくってんの見れりゃさあ」

 

「ってかそれが最期の光景になるかもしれねんだよなあ。ヨユーで届くだろここまで、ヒナの弾とかビームとか」

 

「ぎゃはは、分かっててここに座ってんだろ?」

 

 

開始予定時刻まで既に30分を切っていたが、客席の埋まり具合は芳しくない。

彼らの話は的を射ており、客席での観戦は非推奨となっていた。流れ弾による如何なる被害の補償もされない、と。

その代わり、ミレニアム製のカメラ搭載ドローンが至る所に配置されている。無人航空機型のものも、既に何機も上空で待機していた。

これは如何に撃墜されず迫力ある映像をお届け出来るか、というミレニアムの技術コンペとしても機能している。

 

 

「……あたいは……ヒナを、応援、する、かな」

 

「っ総長!?」

 

「っすんませ、気づかなくて! お疲れ様ッス!」

 

 

陰鬱な声色で話に割って入られるや否や、下品な談笑をしていた二人の構成員は即座に其方に向き直り居住まいを正す。

 

 

「そりゃあ……あたいらを無茶苦茶にぶちのめしたヒナが、痛い目見てんの拝めりゃスカッとする……けど」

 

 

がっしりとした体躯のスケバン「武龍陰破流守」総長は、強面を声色通りの影の落ちた表情で静かに語る。

 

 

「……そうなったら……さ。そのヒナに……ボコボコにされた、あたいらって、どうなんだ、って……」

 

 

途切れ途切れに話す総長の言葉に、構成員たちは頷く。

 

 

「確かにそッスね」

 

「まあ一方的にボコられでもしたら、そっちに手も足も出なかった私らは何なんだって話ですよね……自分で言っててありえねえって思った」

 

「だな。相手のイツキってやつも頭おかしい武勇伝飛び交ってるけどよ、ヒナ相手じゃおしまいだわ。もしかしたら試合を建前にしたお仕置きなのかもしれねえぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな感じでなんだかんだ言ってゲヘナの連中、大半はヒナの方を応援するだろうし、勝ちも疑っちゃいないだろうな」

 

 

遠く離れた別の客席に座るネルは、場内を眺めながら隣の後輩へと話す。

 

 

「そういうものでしょうか。私としては、ネル先輩のご尊顔がなぶられて福笑いになれば大爆笑できますが」

 

「今お前が福笑いになりてえか? パーツの足りねえ粗悪品によ」

 

 

トキは青筋を立てる先輩に低い声で告げられても、何を考えているか分かり辛い無表情を崩さない。

スタジアムに来ているC&Cメンバーはこの二人だけで、所属を示すいつものメイド服を着ている。

他のメンバーはスタジアム外でアスナの指揮の元、スタジアム外の不審な動きに目を光らせていた。

直感的な行動で周囲を振り回すこともあるアスナだが、そこはリオやネルと同期の古株。後輩たちのまとめ役足り得る経験値は備わっており、彼女を第二のチームリーダーにする事に異を唱える者はいない。

 

 

「タラコ唇になったネル先輩の顔にツボったのはさておいて」

 

「なってねえよ想像すんな」

 

「その仮説が本当だとしたら、今のイツキは完全にアウェー状態、ということですか」

 

 

トキが見渡す限り、観客席にまばらに見られる少ない観客は、ゲヘナ学園生か所属不明の不良のどちらかだった。

ミレニアム所属らしき生徒は、自分達二人を除いて現状誰もいない。

ドローンからの生中継を、安全な場所で観るつもりなのだろう。

 

 

「概ねそんな所だろうよ。他人の目を気にしすぎる悪癖のあるあのバカが、下らねえ陰口で変に委縮しなきゃいいんだがな」

 

「では私がこの拡声器で超ポジティブなエールを送れば解決と」

 

「当たり前に近所迷惑で禁止だバカ二号」

 

 

どこから取り出したのかいつの間にか現れていたメガホン型の機械を、トキの手から叩き落とすネル。

 

 

「……それに、どうやら要らねえ心配だったらしい」

 

「?」

 

 

機械を拾おうとするトキの手の上に足をかざして「それ使おうとしたら踏み潰すぞ」と言外に脅しつつ、ネルは競技場の中心にいる弟子を見つめている。

 

 

「あの顔と眼。今のアイツはもう、ここの非常ベルが全部作動しようと……気づきやしねえだろうよ」

 

「ネル先輩。それは一体どういう――?」

 

 

実際に彼女と死闘を繰り広げた身ではないトキには、見ただけで何かを察したようなネルの言っている意味が分からない。

 

 

 

 

 

ゲヘナ学園選抜代表、風紀委員長「空崎ヒナ」。

 

ミレニアムサイエンススクール選抜代表、C&Cコールサイン05「東戸イツキ」。

 

武装の持ち込み自由、ラフプレー上等の一対一(タイマン)。

 

試合開始時刻、――五分前。

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