東戸イツキは改造人間である   作:空巳平吉

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【第八話】新米メイド、東戸イツキ

C&Cの5人が揃い踏みで練り歩く姿は、例え学内ではありふれた光景であろうと目を惹く。

 

 

「……でね! イツキのスカートはミニにするかロングにするかで真っ二つになって皆で盛り上がっちゃって! リーダーが入れるって話してすぐにだよ?」

 

 

アッシュグレーのスーパーロングヘアに抜群のスタイル、吊り目に蠱惑的な笑みを浮かべたミニスカートメイド姿の少女が大型犬のような人懐っこさを以てイツキに話しかけてくる。

一方、話しかけられた方は、目も合わせられない。

背を丸めて所在なげに両手を胸の前でもじもじとさせている様は、手錠をかけられパトカーに連行される容疑者のようだ。

ミレニアムの生徒そのものを尊敬しているイツキにとっては、この状況が嬉しくないわけではないが許容範囲を超え過ぎていた。箱推しのアイドルグループに囲まれ、その全員に名前を憶えられて好意的な感情を浴びせられながらお泊り会に連れ込まれようとしているファンのオタクのような状況。

急用を思い出したとでも何とでも言って、今すぐ逃げ出したい。

しかし、先導するネルにはキツく脅され釘を刺されている上、彼女を除いた四人のメイドに丁度四方を囲まれていて、はぐれたフリをして自然に抜け出すこともできない。

 

 

「っあ、あの、アスナ先輩……い、今からでも考え直した方がいいのでは……? 不器用すぎて家事もできない2年遅れの私(バカ)が入ったりなんてしたら、C&Cの経歴に傷が……」

 

「私も勉強は苦手で、数学の課題が出た日の放課後はいつも憂鬱だ……分かるよ。それでも何とかやっていける、頑張ろう」

 

 

艶やかな黒の長髪と濃い褐色肌に黄金色の瞳、エキゾチックな雰囲気のミニスカートメイド姿の少女が共感したようなことを語り掛けてくるが、そもそも住む世界が違い過ぎると思い込んでいるイツキは全く安心できない。

 

 

「その、カリン先輩? 励ましてくれてるの、気絶しそうな位身に余る光栄なんですけど、私まだ授業料のぶんは働くってだけで本入部と決まったわけでは」

 

「成程、留年とはC&Cの経歴に傷がつく行為なのですか。私も1年遅れの傷を帳消しにして余りある働きを為せるよう、邁進せねばなりませんね」

 

 

金髪を後頭部でアップに纏めたロングスカートメイド姿の少女が、無機質な表情に合う無感情な声色で得心したように語る。

己の卑屈な言動のせいでとんでもない飛び火を起こしてしまった、とイツキは真っ青になって言い訳を始めた。

 

 

「っあっ!? うぁ、ちっ違っトキせんぱっ……トキ、のことを言ってるわけじゃっ」

 

「私はMOBのチャンネルも2桁の頃から登録していましたよ、イツキちゃん? 独学であの掃除(爆破)を行える手腕、是非ともお話を伺いたいと考えておりました」

 

 

耳を急襲した己が黒歴史に、冷や汗を溢れさせイツキは折れんばかりの勢いで首を振ってそちらを見る。

眼鏡をかけストールを羽織るロングスカートメイド服、粒ぞろいのメイド達の中で最もメイドらしい柔らかな雰囲気を纏った少女が柔和に微笑み返した。

 

 

「あああアカネ先輩っ嘘ですよね!? その話は何卒ご勘弁をっ!! あの頃はバイトテロばりにしょうもないことばっかりしてて!!」

 

「……ったく、いつまでウダウダ言ってんだ。まだやめたいとか抜かす気なら、こっからはあたしが簀巻きで引きずってやろうか?」

 

 

何を使って、と口にする代わりにネルは背負った鎖をジャラリと鳴らす。

 

 

「――なんて、もう部室はそこだし意味はないんだがな。オラとっとと済ませるぞ、着方も教えてやっから。アカネも手伝ってくれ」

 

「…………はぃ」

 

「承知しました、部長♪」

 

 

じゃあ私達は終わるまで楽しみに待ってるね、と言うアスナ達3人を残し、前後をメイドに挟まれたイツキは蚊の鳴くような声で返答して扉の向こうへと連れられて行った。

 

 

 

 

 

 

一人で着れないほどではなさそうだが、いざ身に着けてみると見た目より複雑な構造なのだなとイツキは感じた。

サイハイと呼ばれるタイツのような非常に長い白のソックスを履く。

 

 

「……あー、違う違う。それは下からじゃねえ。後ろを開けて上から足を通すんだ」

 

 

口調こそいつも通りだが、着方を指導する際のネルの声色は、戦闘訓練時からは想像できない程穏やかだった。

言われた通り黒のワンピースの背面のジッパーを開いて両足を通し、袖のホックを外して、ワンピース全体をたくし上げながら腕を通す。

パフスリーブの部分に肩を収めたら、服全体の向きを整える。

白いレースのフリルスカートのような「パニエ」をワンピースの下から履くと、スカート部分がふわりと広がった。

 

 

「さっきのアスナ先輩の話の続きですけれど。結局は少ない方を増やそうという事で皆さん納得しまして、イツキちゃんのメイド服はロングスカートにいたしました。――先に言っておきますが、ミレニアム謹製のメイド服はスカートの丈で機動力を損なうことなど有り得ません。トキちゃんの服は状況に応じてパージできる構造になっていますが、あれは気分によるところが大きいですね」

 

「まあアカネの話は本当だ、やろうと思えばあたしもロングの方でいつも通り戦える。何なら今度の訓練で見せてやっても構わないぜ」

 

 

手を貸してくれるアカネとネルの話を聞きながら、白く大きなエプロンを広げて纏い、腰の後ろで蝶々結びのリボンとして結ぶ。

黒いエナメルの靴に履き替え、ストラップを留めて固定する。制服のローファーと違いヒールが高い。

襟に空色のリボンを通し、首元で蝶々結びにする。

滑らかな生地の白いグローブを嵌め、袖のホックを留め、最期にホワイトブリムと呼ばれる白いヘッドドレスを身に着ける。

 

 

「……その靴も勿論、ミレニアム謹製、我々C&C専用の特注です。ハイヒールなのに運動靴のように歩きやすいでしょう?」

 

「あ、ハイ……本当ですね、何故なんだろ……っえ、あ、あっ……!?」

 

「……んだよ、オバケでも見たような顔しやがって。自分のメイド姿があたしより恐ろしいってか?」

 

 

パニエで広がったスカートの重量感に戸惑いながら歩みを進めると、部室の隅に置かれた姿見に映る自分の姿にイツキは固まり、言葉にならない声をあげて真っ赤になった。

踝まで届きそうな丈の黒いロングスカートワンピースに純白のエプロンを纏い、同じく純白のグローブとソックスに手足を包まれたメイド姿。

踵の高い黒の靴は姿勢を自然に真っすぐに立たせ、薄緑のロングストレートの髪に着けたホワイトブリム、襟元の爽やかな青空色のリボンタイと共に清楚さを演出。青と紫の瞳が醸し出すミステリアスな魅力を更に引き立てている。

 

 

「チッ、盛大に揶揄って笑ってやるつもりだったんだがな。参ったなこりゃあ……どこもイジりようがねえぞ」

 

「あらあら……部長にそこまで言わせるなんて」

 

 

ネルが両腕を胸の前で組んで少々悔しそうに告げる隣で、アカネは己の頬に片手を触れさせ微笑んでいた。

 

 

「終わったー!? ……っわあっ、すっご! すっごく可愛いよイツキちゃーん!」

 

「これは……! 似合うのは間違いないと分かっていた。その想像さえ超えてくるとは……」

 

「その理想に程近い姿……これより行動を共にする同胞として、誇らしさすら感じます。メイドの中のメイドを目指す者として、私の方が何か学ばなければならないかもしれません、もっとあらゆる角度から観察を」

 

 

知らせるより早く扉を開け雪崩れ込んできたアスナ達も、その姿に思い思いの誉め言葉を口にし、取り囲んでイツキをもみくちゃにする。

 

 

「あ、あのっ、ネルせんぱっ…先輩! これで、これでもう袖は通しましたよ!? もう脱いでいいですよね!?」

 

「はあ? ダメに決まってんだろ。部活動はこれからだぞ05(ゼロファイブ)。忙しさでブチ殺してやるってさっきも言ったろうが」

 

「ぜろ……なん、何ですかさっきのコールサインとか冗談ですよねえ!? かんべんしてください、はずかしくてかおがもえるようにあついんです~っ!!!」

 

 

あと2年以上ある学生生活をメイド服で過ごすことになるだろうと悟り、遂に羞恥心の許容量を超えたイツキは悲鳴をあげるのだった。

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