「二人は生き延びてくれ」と言い残して自爆した俺、呪いによって人知れずリスポーンする 作:似非自己犠牲マン
油断したわけではない。
新しく発生したダンジョンということもあって、十分な準備をしていたし、慎重に進んでいた。第一階層、第二階層までは問題なし。
初めて辿り着いた第三階層。奥まった通路で初めて見つけた宝箱。斥候役の俺は慎重に解錠し、中を確認した。
入っていたのは大きな宝石。振り返り、パーティーメンバーで剣士のロダンと、魔法使いのエミリアを呼び寄せた。
「すごく綺麗……」
「これを売れば、しばらくダンジョンに潜らなくて済むぞ」
ロダンが宝石に向けて、無造作に手を伸ばした。その時――。
カチリ。とダンジョンに響く音。続いて、壁の動く重い音。
突き当りだと思っていた場所は稼働式の壁だったらしい。そして、奥から出て来たのは――。
「ブモオォォォォォオオオオ……!!」
牛の頭を持つモンスター、ミノタウロス。B級に位置する強敵。とても駆け出しの俺達が敵う相手じゃない。しかも……。
「ミノタウロスが五体も!」
「カイル、逃げましょう!」
ロダンとエミリアが声を震わせ、すぐに駆け出す。
ミノタウロス達は、じっと俺を睨みつけている。地面に縫い付けられたように、俺の身体は動かない。
「何をしているの! カイル、はやく!」
エミリアの叫び声によって、やっと身体が動くようになる。勢いよく立ち上がり、そのまま反転して走り出す。
「ブモオォォォォォオオオオ……!!」
ミノタウロス達も動き出した。その巨体に地面が揺れる。
幸い、脚は俺の方が速いみたいだった。
徐々にだが、ミノタウロス達の背中への圧力が弱まっているのを感じた。
ロダンとエミリアにも、もうすぐ追い付く。
二人はT字路を左に曲がった。俺もそれに続く。
「えっ……」
「そんな……」
二人は立ち止まっていた。道は続いている。しかし、俺達を阻むための鉄柵が通路に嵌っていた。きっと、宝箱の罠と連動していたのだろう。何が何でも、ミノタウロスと戦わせたいらしい。
「どうしよう……」
「戦うしかない」
腰から短剣を抜いたロダンが俺の前に立つ。その向こうから、凶悪なハンマーを手にしたミノタウロスが五体。
追い詰められた俺達をみて、ニヤリと口元を歪めている。
俺は震える足を叩いて気合をいれ、ロダンの横に立った。
「俺がやる。俺の唯一のスキルを使う場所は、ここしかないでしょ」
「馬鹿野郎! カイルに【自爆】なんて使わせるわけないだろ!」
ミノタウロスを前にして、ロダンが俺を怒鳴りつける。仲間割れしたと思ったのか、ミノタウロス達はヘラヘラと笑っている。
「残念だが、普通に戦っても勝ち目はない。奴等が油断している今なら、チャンスはある」
「駄目だ……。カイル行くな……!」
自然と、俺の脚は動いていた。愉悦に満ちた赤い瞳が俺を歓迎する。「人間が、死にに来たぞ。肉塊にしてやろう」と。
「やめて……カイル……」
エミリアの声が俺の背中に貼り付く。しかし、振り返るわけにはいかない。決意が鈍る。二人が生き延びる道は一つ。俺が【自爆】を使うしかない。ミノタウロス達を倒せば、通路の鉄柵も解除されるだろう。きっと、そういう罠だ。賭けるしかない。
「出来るだけ、離れてくれ」
そう言いながら、さらに前に出る。ミノタウロス達は思い思いに巨大なハンマーを構え、俺を待ち受ける。
「やめるんだ!」
「嫌よ、カイル!」
ありがとうな。二人とも。
「いいから、離れろ!! 俺を無駄死にさせないでくれ! エミリア、愛してるぜ! ロダン、エミリアを頼む! 二人は絶対、生き延びてくれよ!!」
もう脚は震えていない。グッと地面を蹴り、一気にミノタウロス達に肉薄する。無慈悲な鉄塊が、俺の頭を吹き飛ばそうと、迫った。今だ――。
「【自爆】」
時間が引き延ばされるような感覚の後、視界が全て白く染まった。最後に聞こえたのは俺の名前を呼ぶエミリアの声だった。
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「カイル……どうして……」
エミリアはダンジョンの地面にペタリと座り込み、ついさっきまでカイルだった肉塊に触れる。その白い指先が赤く染まった。碧い瞳から粒の涙がこぼれ落ちる。涙は頬を伝って落ち、ダンジョンに染みを作り、広がった。
「ずっと一緒だと思っていたのに……」
カイルだったモノの周りには、その何倍もの質量のミノタウロスだったモノがある。角やその手に持っていたハンマーが形をとどめている程度で、あとは等しく肉塊へと化していた。
【自爆】の威力は凄まじかった。
爆心から一番近かったミノタウロスは一瞬で全てが爆散、その後ろの二体も続く。遠くにいた残りの二体も爆風が届いた瞬間に四肢がバラバラになり、直ちに細切れの肉片へと分解された。
「カイル……私はどうすれば……」
エミリアの慟哭に反応するように、ミノタウロスだった肉塊が煙になって消え、大きな魔石が五つだけ残った。
俄かにダンジョン自体が揺れる。エミリア達の行く手を阻んでいた鉄柵が、ズズズと音を立てながら、壁の中に引っ込んでいった。
「エミリア……」
短剣を下ろしたロダンが、泣き崩れたままのエミリアに近付く。
「カイルの死を無駄には出来ない」
「……」
エミリアは答えられない。まだ、その事実を受け入れられないかのように。
「俺達は絶対に、生きて帰らなければいけない。それが、カイルの望んだことだから。最後の願いだったのだから」
「……うん……」
ようやく、エミリアは立ち上がった。手で流れる涙を拭うと、幾分か顔つきがマシになる。
その様子を見てロダンは軽く頷く。ミノタウロスの魔石を手早く拾ってリュックに仕舞うと、短剣を構え直した。
「生きて帰ろう。そして、カイルの勇姿を冒険者ギルドの皆に伝えるんだ」
「……うん……」
エミリアは投げ出していた杖を拾い、ギュッと握った。その意志をかためるように。
「俺が先に行く。エミリアは後方に注意してくれ」
「わかったわ」
二人は進み始めた。やがて、姿が見えなくなる。
ダンジョンには静寂が広がった。カイルだった肉塊だけが残っている。
やがてこの肉塊も、ダンジョンに取り込まれてしまうだろう。そして、カイルが存在していた証拠は何もなくなる。普通なら――。
『へえ、これがリスポーンの呪いかぁ~。死んだ自分の肉塊を見下ろすの、変な感じだな~』
魂だけになった俺が呑気に呟くと、すぐ近くをふわふわと浮かぶ、猫のような見た目をした邪神の使いが口を開いた。
『みんな最初はカイルみたいな反応をするにゃんよ~。何度か死んだら慣れるにゃんよ~』
邪神の使いは「うんうん」と頷きながら続ける。
『あと二時間ぐらいでリスポーンするから、早く移動した方がいいにゃんよ。リスポーンの呪いの件がエミリア達に知られたら、呪いがうつるから、気を付けるにゃんよ~』
『わかっているよ。俺だってそれで呪いを受けたんだから』
俺は魂だけで移動を始める。自分の身体はないのに、意識だけが球体のようなものに閉じ込められて、ふわふわと宙を浮いている感じだ。それなのに、視覚と聴覚だけはちゃんとある。
『これ、壁とか抜けられないの?』
『出来るにゃんよ~』
そう言って、邪神の使いはスッとダンジョンの壁の向こうに消えてしまった。これが出来るなら、真っすぐ地上を目指した方が早いな。二時間で出来るだけ遠くに行かなければならない。
俺はダンジョンの天井を見上げる。そして、一気に地上を目指した。