「二人は生き延びてくれ」と言い残して自爆した俺、呪いによって人知れずリスポーンする 作:似非自己犠牲マン
俺は初めての【自爆】の後、初めての【リスポーン】を経験しようとしていた。
我が身を爆散させてから二時間とちょっと。徐々に身体の感覚が蘇っていた。死んでからすぐはただの球体だった魂が、だんだんと人の形になっていた。
『もうすぐにゃんよ~。リスポーン地点を間違えると呪いをまき散らすことになるから気を付けるにゃんよ~』
『邪神的にはそっちの方がいいんじゃないのか?』
猫のような見た目をした邪神の使いに問い掛けると、「わかってないな~」と顔を顰めながら答える。
『あのにゃ~、呪い持ちが増えると、あちし等は管理で忙しくなるにゃん! もう限界にゃん! あちし一人で何人の呪い持ちの面倒を看てると思ってるにゃんよ! 呪い持ちは厳選して増やすことにしてるにゃん!』
語っている途中で徐々に熱が増し、肩を振るわせて大声を出す邪神の使い。俺が考えているより、大変な業務らしい。
『厳選して呪い持ちを増やすって、何か基準があるのか?』
『勿論あるにゃん。面白い物語が紡がれるか、否かにゃん』
邪神の使いは得意げに答える。面白い物語?
『つまり、俺が呪い持ちになったら面白そうだから、そうなるように誘導したってことか?』
『その通りにゃんよ。分かったら早く人目につかないような場所に身を潜めるにゃん! のろま!!』
急に言葉を荒げる邪神の使い。随分と情緒が不安定。忙しいというのは本当のようだ。
俺はダンジョンから遠く離れた森の茂みに身体を隠す。街道からも距離があるので、人目につくことはないだろう。
徐々に触感が戻ってきた。湿気を含んだ土の感触が足の裏と膝に伝わってくる。深く息を吸い込めば、森特有の土と草木の混じった匂いが鼻腔を満たした。嗅覚まで戻ってきたようだ。もうすぐ――。
『そろそろ、リスポーン完了にゃん。次に会うのは、またカイルが死んだときにゃん。精々、面白い物語を紡ぐにゃん』
そう言うと同時に、邪神の使いはいなくなった。いや、見えなくなったのかもしれない。俺が、完全にリスポーンしたから。
さて、二時間と少しでリスポーンし、再び身体を得た。違和感はない。たぶん、以前と同じように活動できるだろう。
エミリアとロダンについてはきっと大丈夫。ダンジョンから抜け出す途中、第二階層で二人の姿を見掛けた。もうすぐ第一階層という位置で。
第一階層と第二階層は何度も潜っていたし、俺が作った精度の高い地図もある。斥候役の俺がいなくても、きっと地上まで戻れる。
駆け出しではあるものの、二人とも才能に溢れる冒険者だ。ロダンは若くして剣スキルを幾つも覚えているし、エミリアは風魔法と回復魔法の才能を持つ。きっと、俺がいなくても大成する筈だ。
寂しいけれど、二人とはお別れ。二人に【リスポーンの呪い】を背負わせるわけにはいかない。邪神のオモチャになるのは、俺だけで十分。
「どうするかな」
茂みのなかで胡坐をかいて座り、考え込む。
俺は現在、裸である。このまま街道に出れば、大騒ぎになるだろう。
「何か、身に付けるものを探さなくては……」
立ち上がり、周囲を見渡す。森だ。ただの森。何もない。
「とりあえず移動するか」
俺はエミリアとロダンが拠点にしていたダンジョンの町から遠ざかるように、街道にそって北上することにした。ただし、目立たないように。基本的には街道を視界に入れながら、なるべく森の中を進む。
何か使えるものが落ちていないか、目を凝らしながら。
街道沿いの森は、野盗たちが好んで潜む場所だ。商人等の馬車を襲っては森に引き上げ、戦利品を整理する。いらないものはその場に捨てることだってある。
俺は野盗の捨てたものを目当てにしているわけだ。非常に情けないが、仕方がない。
「木から服が生えればいいのになぁ」
俺は進み続けた。
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「これは……」
もう陽が落ち始めた頃。森の浅い位置で人影を見掛けた。その人はジッとして動かない。たった一人で。
不審に思った俺はゆっくりと近づいた。足音を殺しながら。
そして、徐々に状況が分かってきた。
ピクリとも動かない人は、木の枝につるされた獣人の男の死体だった。身体に幾つも刺された跡があり、その衣服は血で染まっている。
周囲の気配を探るが、誰かいる様子はない。スキルはないものの、俺は何年も斥候としての経験を積んでいる。余程の手練れが潜んでいない限り、読み違える気はしない。
つまり、獣人は木に吊るされて、いたぶられて死に、放置されたのだ。何者かに。
俺は静かに近付く。腐敗した臭いはまだしない。獣人が死んだのは、今日かもしれない。
木の幹に縛られていたロープを解くと、ドサリと死体が地面に転がった。
「すまない。あなたの死が、無駄にならないように……」
俺は獣人の死体に祈りを捧げた後、その衣服を剥ぎ取った。そして死体を茂みの中に隠す。本当は土に埋めてやりたいが、素手では時間が掛かるし、体力を消耗するわけにはいかない。
「どこか、川か泉を探さないとな」
ロープと血のしみ込んだ衣服を手にして、俺はその場を立ち去った。
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一応名前はあるものの、冒険者の誰もが「新しいダンジョンの近くの町」とだけ認識している場所。
その町にある安宿から三人の若者がダンジョンに向けて出発し、二人が帰ってきた。随分と暗い顔をして。
店主の立つカウンターに近付き、軽く会釈をするだけ。剣士風の男が無言で右手を出し、店主から部屋の鍵を受け取ろうとする。
「よお、ロダン。今日は早めの戻りだな」
「あぁ……」
ロダンの声は沈んでいた。いつも響くような快活な声は影を潜め、掠れている。店主が眉を顰めた。
「……カイルはどうした? 奴は一緒じゃないのか……?」
「カイルは……」
ロダンは言葉を詰まらせる。グッと何かを堪えるように。
「うぅ……わぁぁぁああ……」
ロダンの後ろに立ち顔を伏せていたエミリアが堰を切ったように泣き始めた。彼女の小さな肩が震え、嗚咽が宿屋の静寂に響く。店主は目を丸くし、血の気を失ったかのように顔色が蒼くなった。
「まさか、死んだのか? カイルは……」
「奴は、俺達の代わりに、犠牲に……」
ロダンの瞳からも、止めどなく涙が零れ落ちる。ポロポロと頬を伝い、顎から滴り落ちていく。
「そうか……」
店主はすっかり項垂れてしまった。多くの冒険者を見てきた彼の顔にも、深い悲しみが刻まれる。ロダンは涙を拭い、なんとかエミリアをなだめた。その手が震えている。
やっと歩けるようになったエミリアを支えながら、ロダンは部屋の扉を開ける。簡素な部屋にはベッドが三台ならんでいた。
エミリアが崩れるようにベッドに腰を下ろす。リュックを床に置いたロダンは静かに告げる。
「ミノタウロスの魔石を売れば、かなりの額になる筈だ。あのダンジョンに潜るのは、もうやめにしよう」
泣き腫らした瞳で、エミリアはロダンを見上げる。
「……これから、どうするの?」
「街道沿いの北に行くと、港街で有名なネレイヤがある。そこなら、色々な依頼がある筈だ。しばらくはダンジョンから離れた方がいい」
「……うん……」
それっきり、二人は会話をしなくなる。それぞれ身を横たえ、空のベッドの主のことを思い浮かべながら、静かに涙を流し続けた。