「二人は生き延びてくれ」と言い残して自爆した俺、呪いによって人知れずリスポーンする   作:似非自己犠牲マン

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第4話 狐人の娘とカイル

 俺は一睡もせずに、ひたすら「どうやってこの状況を説明するのか?」について考えていた。

 

 この状況について端的に説明するなら、「全裸の男の胸の中で育ちの良さそうな獣人の娘がスヤスヤと寝ている」である。

 

 事の発端は俺が潜んでいた湧き水の泉に、この髪の白い獣人の娘がやってきたことだ。

 

 娘は水を飲むと、そのまま地面に転がってしまった。しばらくすれば、起き上がるだろうと思い、遠巻きに観察していた。しかし、いつまで経っても目を覚ます気配がない。

 

 おかしい。

 

 そう思い、真っ暗な森の中を足を忍ばせて娘に近付いた。樹々の合間から漏れる、月明りを頼りにしながら。

 

 女の息は荒かった。そっと額に触れると、ひどく熱い。風邪をひいたか、それとも魔力欠乏症か。

 

 流石に放置できない。

 

 俺は獣人の娘を横抱きにすると、一旦湧き水の泉に移動。手で掬った水を何度か飲ませた。意識を朦朧とさせながらも、娘は水を飲み下す。

 

 少し熱が落ち着いたところで大木の根元まで連れていき、寝かせる。寝かせたはいいのだが、娘は無意識のうちに俺にピタリとくっついて離れない。

 

 次第に完全に身体を預けるようになり、俺の胸元に顔を埋めて寝息を立てるようになった。

 

 朝になるまでの間に何度か湧き水の泉につれていったが、意識ははっきりせず。

 

 陽が昇ってしばらく経ったが、依然として俺の胸元から「スース―」と息が聞こえている。

 

 ただ、焼けるように熱かった額が随分と落ち着いている。もう、熱は下がったらしい。この様子だと、魔力欠乏症だったようだ。

 

 本当に冒険者になりたての頃のエミリアが魔法の使い過ぎでよく魔力欠乏症にはなっていた。その時の症状に、よく似ているのからだ。

 

「……ん……」

 

 やばい。そろそろ、目を覚ましそうだ。どうしよう。

 

「……んん……」

 

 娘は目を瞑ったまま鼻を俺の胸にすりつけ、「ふぅー」を息を吐いた。

 

 あぁ~、これは起きますね。分かります。目覚める時の動作です。どうせなら、こちらから声を掛けて起こそう。

 

「大丈夫か?」

「……えっ……!?」

 

 獣人の娘はハッと目を覚ますと、俺の胸から顔を上げて驚いた顔をする。よし、先に話してしまおう。

 

「森を全裸で歩いていたら、君が倒れていたので、水を飲ませて介抱した。魔力欠乏症のような状態だったが、一体何があったんだ?」

「えっ……!? 全裸……!?」

 

 自分が全裸だと勘違いしたのか、娘は驚いて自分の身体を見る。

 

「安心してほしい。全裸なのは俺だ。俺が全裸で森を歩いていたら、君が倒れていたんだ。それを、介抱して今に至る。一体、何があったんだ?」

 

 娘の表情が曇る。何かを思い出したようだ。そして、俺が全裸であることが不問となった。作戦、成功である。

 

「私は……従者と一緒に馬車で街道を北に進んでいたの。そこで、野盗に襲われて……。馬車は森へと逃げたんだけど……、結局追い付かれてしまい」

 

 となると、木に吊るされて殺されていたのはこの娘の従者か。

 

「従者は捕まったんだろ?」

「うん……。何故……それを?」

 

 娘は恐る恐る尋ねる。最悪の結果を予想済みのように。

 

「森の浅いところで殺されていた。きっと、君を庇って逃がしたんだろ?」

「うん……」

 

 切れ長の瞳に涙が浮かぶ。

 

「一応、遺品は回収している」

 

 そう言って、もうすっかり乾いた服を指差す。

 

「ありがとう……」

 

 野盗の仲間かと疑われるかと思ったが、今のところその心配はなさそうだ。

 

「ところで、相談なのだが、そろそろ服を着てもいいだろうか?」

「えっ……!? いいけど? 私?」

「そうだ。君の許しを得られるなら、あの服を着ようと思う」

 

 そう言って、従者の遺品を再び指差す。

 

 娘は少し考えてから、首を縦に振った。何処か、釈然としていない様子だった。

 

 

#

 

 

「なるほど。だから、魔力欠乏症になっていたのか」

「うん」

 

 俺と狐人族の娘は周囲を警戒しながら、森を進んでいた。娘から、こんな事態になった経緯を聞き出しつつ。

 

「しかし【幻術】を実際に使える人にあったのは初めてだよ」

「狐人族の中でもごく一部しか使えないんだ」

 

 少しだけ、娘は得意げにした。

 

 野盗に馬車を襲われ、森に逃げ込んだ娘達。従者は野盗の足止め役を買って出たそうだ。しかし、多勢に無勢。

 

 少なくない人数が娘を追いかけてきた。そこで【幻術】を使って、上手く野盗を撒いたのだが、本人は魔力欠乏症になって倒れてしまった。という顛末だった。

 

【幻術】は強力なスキルである分、魔力の消費も激しいようだ。

 

「今のところ、追っての気配はないな。まだ、【幻術】が効いている可能性は?」

「たぶん、外から刺激を与えられない限り、【幻術】から醒めることはないよ?」

「そうなのか……」

 

 恐ろしいスキルだ。この娘が敵に回らないように、細心の注意を払わなければ……。

 

「街道に出るまで、野盗に見つからなければいいんだけどな」

「うん……」

 

 街道に向けて、ただひたすら森の中を進む。

 

「ところで、あなたの名前は?」

「カイル」

 

 あっ、やば。偽名を使うつもりだったのに、思いっきり反射で本名を答えてしまった……。

 

「私はコヨミ。よろしくね」

「あぁ、よろしく」

 

 仕方がない。短い付き合いだろうし、なんとでもなるだろう。コヨミがエミリアやロダンと接触することは、まずないだろうし。

 

 少し冷や汗をかきながら、さらに森を進む。

 

 徐々に樹々の密度が低くなり、視界が開けてきた。それまでは見えなかったものが、見えてくる。

 

「あれ、野盗じゃないか?」

「……」

 

 無言の肯定。

 

 森と街道の間に馬に乗った人の姿がある。一つではない。いくつも。

 

 それは、コヨミの包囲網に思えた。

 

 普通の野盗が、ここまでするとは思えない。確実に、コヨミの身柄を狙った動きだ。そもそも、野盗かどうかすら、怪しい。強行突破を狙うのは、かなり危険だ。

 

「森の奥へ戻ろう」

「……うん……」

 

 何か策を考えなくては……。俺は不安そうに身体を震わせるコヨミの手を引きながら、静かに森の奥へと戻った。

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