「二人は生き延びてくれ」と言い残して自爆した俺、呪いによって人知れずリスポーンする 作:似非自己犠牲マン
コヨミ包囲網は確実に縮まっていた。野盗――コヨミを狙う集団の数は時間の経過とともに増しているように思えた。
俺達は街道と並行になるように、森の中を北に進んでいた。しかし、野盗達もその動きを読んでいるようで、行く先々で出くわした。
時には俺が奇襲して野盗を殺め、ある時はコヨミの【幻術】で嵌めて難を逃れていた。
「ごめん……。私を助けたばっかりに、こんなことに巻き込んじゃって……」
そのまま食べられる野草を齧りながら、コヨミは俺に謝る。
俺達は複雑な形をした大木の根の窪みに、身を隠し、食事兼休憩を取っていた。
「気にするな」
「気にするよ……」
コヨミの顔には深い隈が出来ていた。最初に会ったときより、五歳ぐらい老けて見えた。
碌に食事や睡眠もとれず、定期的に【妖術】を使っているので魔力の消耗も激しい。やつれて当然だ。
「あのね……、私、ある種族の長の娘なの……」
突然、コヨミが今まで語ろうとしなかった、その出自について明かし始める。
「ん? 急にどうした?」
「だって……わけのわからないことに巻き込まれて……大変な目にあって……。カイルにはちゃんと話さないと。って思ったの」
コヨミはその切れ長の目を伏しながら、思い詰めたように続ける。
「私のお父さん、族長がね。最近、死んじゃったの。そしたらね、わたしに長の座を継がせよう。って人と、父さんの弟に継がせよう。って人が対立を始めちゃって……」
なるほど。後継問題がこじれて、コヨミは命を狙われているわけか。
「北に行けば、解決に繋がる何かがあるのか?」
コヨミは顔を暗くする。
「……逃げようとしただけ。港町ネレイヤから船に乗って遠くに行けば、追手も諦めるだろうって……」
たぶん、亡くなったコヨミの従者がそう言っていたのだろう。
「コヨミのお父さんの弟、叔父ってのはどんな人なんだ?」
「とても、執念深い人。ずっと、族長の座を狙っていた……」
「そんな奴が、船で遠くにいったぐらいで、諦めるかな? コヨミが死んだと報告を受けるまで、執拗に追いかけてくるんじゃないかな?」
野草を持ったコヨミの手が震える。
「どうしたらいい?」
「少し考える」
俺は野草を齧りながら、思考を廻らせる。森を彷徨い始めてから既に、四日が経とうとしていた。
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六日目。コヨミは限界を迎えていた。既に自分の力では歩けなくなり、俺に背負われている。
一方の敵さんは健全だ。被害を出さないように不用意な接近はしてこないが、遠巻きに俺達を監視していた。圧力を掛けながら。
敵はただ、俺達が力尽きるのを待てばよい状況になっていた。
北への進行速度は亀の歩みとなり、もう何のために進んでいるのかも分からない。このまま港町ネレイヤに辿り着くことは、間違いなくないだろう。
「カイル。もう……いいよ。私を下ろして。そして、一人で逃げて。貴方だけなら、なんとかなるかもしれない……。奴等の狙いは私だけなんだから」
ひどく弱々しい声が、背中から響く。
「コヨミみたいな可愛い子を一人、置いていけるわけないだろ」
「馬鹿……。こんな時に……」
コヨミは照れ臭そうに笑う。一瞬だけ、場が和んだような気がした。しかし、長くは続かない。
「このままだと、二人とも死んじゃうね。私のせいで」
「コヨミを助けたのは、俺の意思だ。だから、俺のせいだよ」
「カイル……」
背中からコヨミがすすり泣く声が聞こえ始めた。
コヨミはまだ十五歳だ。十八の俺よりも更に若い。なぜ、こんな子が大人の事情で命を狙われなければならないのか。ここ数日、感じていた怒りが、コヨミの涙によって一気に爆発した。
「コヨミ。どうせ死ぬなら、最後に賭けをしようぜ。俺達二人だけ死ぬなんて許せない。最後の意地を見せてやろう」
「……でも、どうやって……」
「何もない俺だが、実は一度だけ使える攻撃スキルを持っているんだ。それを使えば、奴等に大きな打撃を与えられる可能性がある」
唾を呑み込む気配が、背中から伝わってきた。
「……でも、一度しか使えないんでしょ?……」
「使わずに死んでしまったら、元も子もないと思わないか?」
「……うん……」
コヨミは泣き止み、俺の立てた作戦とも呼べない作戦に、耳を傾け始めた。