「二人は生き延びてくれ」と言い残して自爆した俺、呪いによって人知れずリスポーンする 作:似非自己犠牲マン
昼下がり。街道沿いの森から、一人の若い男が、まるで魂を引きずるように歩み出てきた。
その姿を認めた野盗たちは、ざわめきと共に動き出す。馬に跨った者は荒々しく拍車をかけ、仲間へと急報を伝えに走る。空気が張り詰め、緊張が大気に満ちていく。
その間も、男はゆっくりと歩き続ける。その両腕には薄汚れたドレスを着た、人の死体が横抱きにされていた。すでに温もりを失ったその身体は、風に揺れることすらない。
周囲に散らばっていた野盗達はあっという間に集まり、男を取り囲み始めた。その数は五十を超えている。もう、男が逃げ出す余地は全く残されていないように見えた。
男の足取りは次第に怪しくなる。フラフラと身体を揺らし、前に進まなくなった。
やがて足は完全に止まり、力尽きるように地面に膝立ちになった。両腕に抱えられていたドレスを着た死体も、地面に投げ出される。
男は深く息を吸い込み、空に向かって、怒りと絶望を吐き出すように叫んだ。
「見るがいい! これが、お前達が探していたコヨミの最後の姿だ!」
野盗達の中でざわめきが起った。それまで警戒して男を遠巻きにしていたが、もう力尽きる寸前だとわかり、徐々に包囲の輪を縮める。
「こんな若い子を跡継ぎ問題に巻き込み、命まで奪った。これが、お前達のやりたかったことか……!!」
男の啖呵に、集団の中でも最も体格のよい野盗が前に出た。野盗の首領だろう。
つかつかと歩いて、若い男と対峙した。
「ふん。手間を掛けさせやがって。この小娘がすんなり死んでいれば、こんなに長引くことはなかったんだよ! 俺達だって何人も死んでいるんだ! 全て、この狐人のメスガキが悪いんだ!」
首領は地面に転がるドレスを着た死体に、唾を吐きかける。
「お前達は、コヨミの叔父に雇われたのか?」
「あぁ、そうだよ! 金は幾らでも出すから、必ず殺してくれってな」
ニヤニヤ笑いながら、首領は男に近付く。
「で、どうやって死にたい? もう逃げられないと分かって出て来たんだろ? それとも、このガキが死んだから、自分だけ許してくれってか? お前、俺の仲間を何人も殺しているのを忘れたのか……!?」
首領は腰から曲刀を抜いて男に近付く。部下たちも時を同じくして、武器を構え、男を睨み付けた。
「俺にはもう、守る者がいなくなった。この世に別れを告げるよ。もう、逃げられないだろうしな」
男の言葉に、首領は笑う。
「随分とわかりがいいな。特別に、この俺様がお前の首を落としてやろう。あの世で、狐人のメスガキに自慢するといい!」
首領は曲刀を右肩に担ぐように構えると、大きく一歩踏み出した。
刃が陽の光りを反射しながら、大気を切り裂く。
間もなく、曲刀は男の首に達する。
その刹那、男はニヤリと笑って一言呟いた。
「【自爆】」と。
途端に大地は抉れ、球状に広がった力の塊が、触れるものを全て爆散させていく。
悲鳴を上げる時間すらない。野盗達はただ無言で小さな肉塊へと姿を変える。
時間にすれば、瞬きを二度、三度するぐらいだっただろう。
若い男を中心に起った爆発はほぼすべての野盗を呑み込み、その命を奪った。
唯一生き残ったのは、警戒の為に馬にのって集団から距離を取っていた者だけだった。
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魔力欠乏症から回復して目を覚ましたコヨミは大木の根元から立ち上がり、フラフラと歩き出した。
コヨミは汚れたドレスから、野盗が着るような粗末な服に衣替えしている。
少し進むと森から抜けた。遠くには街道が見える。
「カイル……。どこ……」
コヨミはカイルの名前を呼ぶ。何度も、何度も。風も、木々も、ただ沈黙を守るばかりだった。
しかし、答える者はいない。森と街道の間の平地にはコヨミの声だけが響く。
「なに……これ……」
森と街道のちょうど中間地点。まるで隕石が落下したように地面が抉れていた。その周りには、かつて人間だったと思われる肉片が無惨に散らばっている。
「これが、カイルの攻撃スキル? 一度だけ使える……」
フラフラとした足取りで、コヨミは進む。
「なんで? 野盗は倒したんでしょ? なんで、カイルは出てこないの?」
カイルがコヨミに話した作戦はこうだった。
ドレスを着せた死体を横抱きにして、カイルは野盗の前に姿を見せる。
野盗は警戒しながらも、カイルを遠巻きに包囲するだろう。
そこで、コヨミは【幻術】を使う。
カイルを包囲した野盗に対して、ドレスを着た死体がコヨミに見えるような【幻術】を。
囮を抱いたカイルに野盗が近づいたところで、カイルは攻撃スキルを発動し、敵を一網打尽にする――そして、二人で北へ向かうはずだった。
「カイル……。出てきて……お願い」
空しく声が響く。何度も、何度も。
その後、コヨミは街道を通った商隊に保護され、港町ネレイヤに向かうことになった。その瞳には、もう涙はなかった。ただ、深く、深く、何かを失った者の静けさが宿っていた。