聖女にTS転生したつよつよ死霊術師は、かつての仲間を曇らせる。 作:モツゴロウ
「よくぞ集まってくれたな、お前たち」
翌日。
朝起きてすぐ、私はこの国の王であり父である……ナントカ・リゼガルドに呼び出された。
謁見の間というやたらと荘厳な空間。
その中心にある豪華な玉座にはガタイのいい白髪のおじさん。そしてその隣に若い男が立っている。
二度寝を決め込もうとした私だったが、ファリィに無理やり連れ出されて今に至る。
どうやら昨日のことで話があるようだ。確か王都の近くで闇魔術が行使されたのだなんだの。
最初はあまり興味がなかったが、よくよく考えてみると私の目標にも大きく関わる事件であることに気付いた。
このまま王都の警備が厳重になれば、外出することもままならない。
いくら私が「大丈夫だ」と言っても、アイリスとファリィを説得できるとは思えないからな。
「――詳しい説明は調査をした人間からしてもらうことにしよう。クローウェル、前へ」
「はっ」
厳粛な面持ちで出てきたのは、まだ年若い騎士であった。私たちに一礼してから、事の顛末を語り始める。
森の中に魔物の変死体があったこと。
闇魔力の残滓があったこと。
なにかしらの脅威が、リゼガルド神聖帝国に迫っていること。
……それはいいが、話が長いなこいつ。
「――以上です」
「よし、下がれ」
話を終えた騎士が一礼をして下がる。ふぅ、やっと終わったか。
昨日アイリスとファリィから聞いた話とほとんど変わらない話だったが……その中には興味深い話もあった。
特に魔物の変死体については、間違いなく闇魔術によるものだろう。
昨日はこのあたりが詳しく聞けなかったゆえに確信が持てなかったが、かなりの使い手の闇魔術師が存在するのは間違いさそうだ。
そしてもう一つ、気になることがある。
アイリスに呪いをかけた人物だ。もしこれが同一人物なら、明確にアイリスに対して敵意を持っているといえる。
ふむ。
これは今夜、現地に行って確かめてみる必要がありそうだ。
闇魔術がこのタイミングで行使されたことにはなにか意味があるはず。
「ふぁぁ……」
そんなことを考えていると、私のものではないあくびの音が聞こえてきた。
隣を見る。そこには真剣な表情で話を聞くアイリスと、あまり見覚えのない女が立っていた。
アイリスがあくびなどするはずがないから、あくびをしたのは見覚えのない女の方だろう。
こいつは確か……私の姉だっただろうか。
そいつは話を聞いているのか聞いていないのか、興味なさげにぼんやりとナントカリゼガルドを眺めていた。
「リリシア、もしかして眠いんですか?」
アイリスが小声で聞いてくる。
いや、あくびをしたのは私ではないが。
「……」
「遅くまで起きてるからですよ? 今日は早く寝ましょうね?」
……まぁいい。
今夜あたり、こっそりと抜け出すつもりであったから、寝不足だと思われてる方が都合がいいだろう。決して反論するのが面倒なわけではない。
「――話は以上だ。みな、戻って良いぞ」
最後にナントカさんがそう告げ、早朝からの報告会は終了。
ふぅ、やれやれ。人間というのは話が長くていかんな。短い人生なんだからもっと効率的に生きた方がいいだろうに、やたらと格式ばったことばかりする。
そんなことを考えながらアイリスと共に謁見の間を後にしようとした私の前に、先ほどまで一緒に話を聞いていた女が立ちはだかった。
「久しぶり、リリシア」
そう気安く話しかけてきたが、あいにく名前が思い出せない。
マトンだからミトンだか、そんな雰囲気の名前だったような気がするが……。
隣ではいつのまにかやってきたファリィがビクビクと小動物のように縮こまって、さらにその隣ではアイリスも気まずそうに目を伏せている。
「ええと……たしかリリシアの神託の儀以来だから、だいたい半年ぶりくらい?」
もう一度その女の姿をよく見てみる。
私たち姉妹に共通する銀髪をくるくると巻いた特徴的な髪型、そして煌びやかな宝石に飾られた修造服。あまり聖女らしくない見た目である。私も人のことは言えないが。
「…………」
「もしかして私のこと、忘れちゃったの?」
黙っていると、ずい、と顔を覗き込まれる。
その瞳はまるで獲物を狙う蛇のような鋭さがあった。
「……ぅぃ」
名前が思い出せないのは事実。頭を縦に振る。
「え〜、残念。私はリリシアのこと大好きなのになぁ?」
いや、全然残念そうには見えないが。
むしろなぜか嬉しそうというか。
「…………」
「ふふ、リリシアは変わらないね。その
そのセリフを聞いて思い出した。
こいつは私たち四姉妹の長女、ミトス・リゼガルドだ。つまりアイリスにとっても姉ということになる。
アイリス曰くかなりの天才で、一度目にしただけであらゆる神聖魔術を使えるようになったとか。あれほど難しい神聖魔術を使いこなすとは、なかなかやるではないか。
しかも、会うたびにこうやって私のことを
「……あの、私の話、聞いてる?」
ちなみに
その歴史は古く、いわゆるアンデッドといえばこのことを指すことが多い。別名、【最古のアンデッド】。
我がエリュシオンにもたくさんの
そんな由緒あるアンデッドのようだなんて、至上の褒め言葉である。
かつての配下たちからもよく「ネロ様は人間とは思えないくらい表情が死んでいますね。まるで
ふむ。私のことをよく分かっているではないか。
こいつなら我がエリュシオンに迎え入れてやってもいいかもしれない。そのためには一旦アンデッドになってもらう必要はあるがな。
せっかくの機会だ。聞いてみるとしよう。
「アンデッドにしてやろうか?」
「えっ? あ、アンデッド……? 急に何……?」
「うむ。アンデッドだ。興味あるか?」
「い、いや……興味はないかな……なりたくもないし……」
なんだ、つまらん。
隣ではアイリスとファリィがまるで夜中にアンデッドをみたような顔をしていた。そんなに私が喋ることが珍しいのか?
「そ、それで? リリシアはそろそろ浄化魔法の一つでも使えるようになった?」
ふん、あんなもの使えるようになっているわけがなかろう。私は【屍王】だぞ。赤ん坊が逆立ちで歩き出すくらいありえないことだ。
私は自信満々で首を横に振る。
「へぇ、そりゃ残念。アイリスの教え方が悪いのかな?」
いや多分、教え方の問題ではない。私に神聖魔術の才能がないだけの話だ。アイリスは関係ない。私は堂々ともう一度首を横に振った。
「リリシア……」
アイリスが小さな声で私の名を呼んだ。
ふん、私は自分ができない理由を他人に押し付けるようなことはしないのだ。
「リリシアは優しいんだねぇ。そんな落ちこぼれを庇うなんて」
「…………」
落ちこぼれ? それをいうなら私の方がよっぽど落ちこぼれなのだが? 私の全力の神聖魔術を見せてやろうか?
無言の圧を飛ばしているとミトスはつまらなさそうに、
「はぁ、やめやめ。やっぱりリリシアと喋ってると人間と会話している気がしないや。ま、せいぜい頑張ってね〜」
そう言い残して、手を振りながら去っていくミトス。
人間と話している気がしない……ふん、悪くない言葉だ。それだけ私に威厳があるということだろう。
ミトスとの会話に満足しながら横を見ると、ファリィが去っていくミトスの背中に向かってあっかんべーをしていた。
「もう、ミトスさまはひどいです。リリシアさまはこんなにも可愛らしいのに」
私の頭を撫でながらファリィが呟く。
いや、こんな無表情な人間が可愛いわけがないだろう。ミトスの意見の方が正しい気がするが……。
「……ありがとう、リリシア」
そしてアイリスはなぜか泣きそうな顔をしているし。まったく一体なんなのだこいつらは。
そんな二人と一緒に部屋に戻った私は二度寝を決め込んだ。
いつもは口うるさい二人も、今日はなぜか二度寝を咎めることはなかった。
よし。
たっぷり寝て、夜になったらさっそく動き出すとするか。