それにしても、こんなことになるなんて……
若きポケモントレーナー、キョウヘイは悩んでいた。ライモンシティへ向かう途中、プラズマ団を名乗る謎の髪型をしたアクロマという科学者とポケモンバトルをした後、ライモンシティへ到着する直前の建物ではジョインアベニューという商店街の責任者になってしまった。
正確にはこの施設を建てたオーナーがいて、俺はこの場所を発展させる役割らしいんだけど……え、色々な意味でそんな話ってあるのか?
各地のポケモンジムを回りたいと思っていた中で予期せぬ足止めを喰らってしまった気分だ。つけてくれた秘書2名からはたまに戻ってきて確認する程度でいいと言ってくれたから、各地でバッジ集めをしながらやっていけばいいと思えば少しだけ気持ちは楽になる。
「そう言えば……」
最近、こういうことが多いな。
タチワキシティではリオルを手持ちに入れていたからポケウッドに出演しないかと言う話もあったし。いや、ジムリーダーに勝ててリオルを持っていれば誰でも良いのではと思ったけど、ホミカさんのお父さんを納得させないといけなかったから止む無くなんだけど。ハチクマンだけは正義の味方役のリオルマン君には役者の才能があるとか言われてご機嫌なままにヒウンシティまで送迎してくれたけど、心当たりはない。というか、映画ってそんな簡単に出来るものなのか。
結局断り切れず撮影することになったハチクマンは、ベースが殆ど出来上がっていたこともあって盛り上がりのシーンと会話を挟むだけで終わった。ただ、本来はもっとかかる筈……だと思うんだ。それとも、単発ものだと違うのかな。
見せて貰った台本だと、映画のタイトルがハチクマンと呼ばれているように、正義の味方側のリオルマンと同等にハチクマンへ焦点が当てられている。ハチクマンの生い立ちから始まり、如何に彼が狂気と妄執に囚われ、現実と幻想の怪人を名乗るかを見せつけられる。彼の悪のスタンスが次第に注目を集めるようになっていく。一方、新人ヒーローのリオルマンは様々な悪事を働く怪人たちの中から、ハチクマンの動向を追っていく内にその生い立ちを知ってしまう。多くに裏切られ生きていたからこそ、馬鹿正直な程に真っ向から向かえば止められるのではないかと判断し、終盤の遊園地で対峙するに至る。
……シナリオを見た時、目が眩んだ。きっと、ヒュウを思い出したからだろう。もしヒュウがチョロネコをプラズマ団へ奪われた怒りのまま、俺やヒュウの妹の反対すら押し切って旅に出てしまっていたら。
ふと、在りもしないことをそう思った。
そのせいか、妙に様になっていたらしい。完成した映画を観たホミカのお父さんはご機嫌なままヒウンシティまで送り出してくれた。
おまけに、ポケウッドにいた他の人達からも別の映画にも参加してみないかと言われた。先に進んだヒュウを追う必要があったからまた今度と断ったつもりだったんだけど、時間が出来たらと食い下がられてしまった。
「……どーしたもんか」
気負うことはヒュウの事だけだと思っていた。それがまさか、ポケウッドでの役者や商店街の責任者を兼ねるだなんて、想像すらしなかった。
まぁ、ポケウッドはまだいい。映画ってそんなにポンポン作るモノじゃないと思うし。だけど、商店街の責任者は違うはずだ。ある程度はやってくれると言う秘書2人に、全てを任せるのもどうかと思う。
そうなると、定期的に戻ってくる必要があるだろう。ただでさえプラズマ団に絡まれている上に、ヒュウがプラズマ団のことで暴走しかねないという状況なのに、そんなことをしている余裕があるんだろうか。秘書の人達はいつも通りの無茶振りなので、動けないようならば私達で何とかしますとは言っていたけど、受けてしまった。何もしないのは罰が当たりそうだ。
「それはいったん置いといて、まずはライモンシティの……」
妙に考えさせられる出来事を振り切って、ベンチに座ってライモンシティ眺める。イッシュ地方の歓楽街、あちこちが明るいせいか、夜のない街だと他の地方で言われることがあるらしい。確かに、遊園地の他にもミュージカルやスポーツ施設もあって、華やかさが消えることはない。実際、イッシュに来た多くの観光客はこのライモンシティに行くのだとか。ヒオウギは最近発展した街だから人には慣れていると思っていたけど、想像以上に人で人酔いしそうになるとは思わなかった。
まぁ、そんなだから人の減り始めた遊園地コーナの噴水辺りのベンチに座って、ポケモン達の自由時間にしていたんだけどね。
「……お」
ポケモン達が戻って来た。ベルさんから貰ったフタチマルは噴水近くにいたのか、ちょっと濡れている。それから、アーティさんとの対決では大活躍した捕まえたガーディは何かを咥えていた。構って欲しそうにしていたので、頭を中心に撫でてあげながらそれを確認する。見た所、かみなりの石だ。皆が戻ってきたらバッグにしまおう。それまでは、ガーディの好きにさせておこうかな。
それから、空からやってきたのはこの辺りでは見かけないというウォーグル、ヒウンシティの小さな草むらで出てきたイーブイ、最近進化したばかりのルカリオ……も何かを持っている。
「ルカリオも何かを拾ってきたのか」
ルカリオから受け取ったそれは、ライブキャスター。昨今のイッシュ地方では多くの人が持っているけれど、これは最新型かな。詳しくないけど旧式とは違う気がする。
「買ったばかりの人が落としちゃったのかな」
さて、交番に届けようかと思った時、そのライブキャスターから軽快なPOPミュージックの着信音が鳴った。
「うわっと。えっと、出た方がいいよね?」
見れば、そりゃそうだろ、と言わんばかりにポケモン達が黙って頷いていた。性格違うはずなのに息ぴったりだな、お前達。
「あの……もしもし……」
「は、はい。えーっと、このライブキャスターを落とした方ですか?」
画面は砂嵐。拾ったライブキャスターの映像機能はONだから、向こうの端末設定かな?
「あっ、はい、そうです。わたし、そのライブキャスターの持ち主なんです……今は古いライブキャスターから連絡しているので、音声だけでごめんなさい。拾って頂いてありがとうございました」
声は女性。声の感じから、落としたことで焦っているのかな。
「実は……直ぐにでも受け取りに行きたいんですけど……私、仕事をしていまして今受け取りにいくことが出来ない状態なんです。よろしければ、暫くの間そのライブキャスターを預かってもらえないでしょうか?」
さて、どうしたものか。これ以上の面倒なんて抱えたくないと思ったけど、落とし物をただ預かっていればいいだけだ。どうせ、ライモンシティ近くにあるアベニューには定期的に行くことになるし、ポケウッドやアベニューの責任者と比べて大した話じゃない。ルリさんもルリさんで、仕事が忙しくて交番すらいけないのなら、どこかの施設に預けるよりも誰が持っているかが分かっていた方がいいのかもしれない。逆だと思うけど。
「いいですよ」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます。そうでした、名前を……わたしはル」
ルさんか……いや、違うでしょ。
「いえ……ルリって言います。あなたは?」
「キョウヘイです」
今更ながら、ボイスチェンジャーを使っていることに気付く。どういう人なんだろう。
「はい、キョウヘイさんですね。仕事が落ち着いたら受け取りにいきますので、しばらくの間よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「あと、こちらの状況が分からないと心配ですよね。なので、こまめにキョウヘイさんのライブキャスターへ連絡させていただきますね。番号を教えて頂いても宜しいでしょうか」
そうなると、今の番号をライブキャスターに登録した方がいいな。まずは俺の番号を伝えてっと。あぁ、そうか。ルリさんの番号は拾ったライブキャスターと同じだから問題ないのか。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
通話が終わり、預かることにしたライブキャスターをバッグに入れる。気付けば、皆からまたかと言う目で見られてしまう。全く以てその通りである。
「まぁ、とりあえず持ち主がいて良かった……で、いいか」
さて、えーと……
「どうしたルカリオ?」
ルカリオが何かを指さすように向けた先はポケモンジム。あぁ、そうだった。ライモンジムの対策を考えようとしていたんだ。
「ああ、そうだった。ライモンジムの対策を続けないと。カミツレさんはでんきタイプの使い手って言っていたし、リゾートデザートに戻ってじめんタイプのポケモンを捕まえた方がいいかな」
フタチマル、ウォーグルではどうしても荷が重い。恐らく、ルカリオ、ガーディ、イーブイの三匹で挑むことになるだろう。ルカリオは兎も角、ガーディやイーブイでは不安が残るし、今のメンバーは地面タイプの技、地面タイプのポケモン自体がいない。何かしら手を打った方がいいだろう。
「…………」
直ぐにでもジムに行きたそうな様子を見せるルカリオに、色んな遊具に目を輝かせるガーディ、同じく興味を持ちつつも控えめに周囲を観察するイーブイ。
「今のメンバーはでんきタイプの攻撃を何回も受け続けられる訳じゃあないから……」
せっかちなルカリオは急かすけど、やはり新しいポケモンを捕まえに行く必要があるだろう。だけど、ジムリーダーは各地方におけるそのタイプのエキスパートだ。幾ら地面タイプが電気タイプに有効だからとは言え、捕まえたてのポケモンでジムリーダーと互角に戦えるかは別だ。
「と、なると……」
幾つか方法はある。地面タイプの攻撃的な技マシンを見つけること。勿論、今のメンバーで覚えられるかと言う問題はあるけれど、買うと高いんだよなぁ。それから今いるメンバーを強化する。特に、ルカリオを中心に戦わせるなら前後や他の道路で経験値を積ませることも1つだろう。チェレンさんから多種多様な技を覚えられるポケモンだと聞いたから、もしかしたら地面タイプの技をその内に覚えてくれるかもしれない。もう1つはポケモンを進化させること。ガーディなら炎の石で進化できるけど、そう言えば……あれ?
さっき、ガーディが何かの石を持ってきたような……
「あ、こらガーディ」
やんちゃ盛りだからか、さっきからガーディは雷の石を放り投げてはキャッチする遊びをしている。夢中になっているし、タイミングを図って確保しないとまた追いかけっこが始まるからな……よし、今だ!
ガーディが雷の石を放り上げたのを見計らって手を伸ばす。だけど、それを察知されてしまい、ガーディは咄嗟に前足で石を弾いた。そして、俺達から一歩離れて周囲を眺めていたイーブイに向かって飛んでいき……
「あ……」