朝にカゴメシティを出発し、ビレッジブリッジのあちこちにいるトレーナーと戦っていると……何時の間にか昼を過ぎていた。
「やっべ、このままだと今日中に挑戦出来ないぞ」
なので、急いで自転車を走らせて橋を駆け抜ける。そして、昼過ぎにソウリュウシティに到着した。
「トレーナー多くない、この橋。気のせいかな」
第一、橋の上に文字通り住んでいる人が居るとは思わなかった。それだけ由緒ある橋だから、人も多く集まる……のかもしれない。
さて、挑戦する前にまずはポケモンセンターへ行こう。
「……あれ?」
……と思ったんだけど、何処かで見覚えのある人物が俺へ手を振っている。
「やっほー。ヒウンシティ以来だね。ひょっとしてあたしのおじーちゃんに挑戦?」
あぁ、アイリスちゃんか!
「そのつもりだよ。ということは、ジムリーダーはシャガさんなんだ」
「うん。シャガはあたしのおじーちゃんなの。といっても、血の繋がりはないんだけどね!」
アイリスちゃんにとって、シャガさんは自慢のおじいさんって感じか。
「でも、ここまで来たんだ。簡単に負けるつもりはないよ」
「良かった……あっ、ジムはあっち。それから……挑戦する前に9番道路に行くのもいいかも!」
ふとベルさんから聞いたことを思い出す。ポケモン相手に自らレスリングするような人って最初空手王みたいな人とかを考えていたけど……よく考えたらシャガさんってドラゴンポケモンの使い手だよね。つまり、ドラゴンポケモン相手にレスリングしているってことだよね?
……急いで挑戦するより、しっかり準備した方がいいかもしれない。
「それにしても、おにいちゃんってポケモンに慕われているのね。ボールの中からでも嬉しそうな気持ち、伝わってくる!」
そういうのは分かるモノなんだろうか。羨ましいような、羨ましくないような……
「じゃ、がんばってねー!」
……ん、どうしたんだ皆。あぁ、そういうこと。
「……そうだな。シャガさんはドラゴンタイプの使い手だし……もう少し、鍛えてからの方がいいか」
考えてみれば、ドラゴンタイプ自体が隙の無いタイプだ。氷とドラゴン技以外は等倍で受けることが出来るし、更にはドラゴンタイプのポケモン自体が様々なタイプの技を覚えることが出来る。
※【BW2時点ではフェアリータイプがありません】
「……9番道路、行くか」
あ、そうだ。後でイチミさんとミライさんに連絡しておかないと。
あの後俺は、アイリスちゃんの助言通り9番道路で自分のメンバーを鍛えていた。特に重点的に鍛えていたのは、まだ進化させていないガーディだ。アーティさんとの戦いでは大変助かったが、以降のヤーコンさん、フウロさんでは目立った活躍をさせられないままここまで来てしまった。良い技の重要性を今までの旅の中で散々知っていたから、これと思える技を覚えるまではうまくやっていこうとここまでやってきた。
きしかいせい、かえんほうしゃ、かみくだく、ねっぷうと強力な技を覚えてくれたけど、あともう1つ。出来れば炎タイプの物理技か、特殊の炎タイプ以外の技を悪タイプ以外で覚えさせたい。
昨日と今日で特に力を入れて育てたからか、他のメンバーと近いレベルになった。だから、進化させてもいいだろう。実際、炎の石は既に持っている。進化させるタイミングは此方で選べるけど……石による進化は、能力の上昇と引き換えに技を覚えられなくなるというデメリットもあるとチェレンさんから聞いている。
「うーん……進化させるか、させないか」
相手はドラゴンタイプの使い手。しかし、今のパーティはタイプ相性として有利な訳ではない。強いてこちらが強いと言える点は……ふぶきを覚えさせたダイケンキくらい。だけど、ふぶきは安定して当たる技じゃない。そう考えると、ダイケンキ以外で張り合えるメンバーがもう一匹欲しい。ウォーグル、ゾロアーク、ルカリオでシャガさんの手持ちの1匹ずつ倒せればいいけど、そう上手く試合を進められるとは思えない。
「それに、手持ちの数が4匹だったら……今のメンバーだときついよな」
7人目にもなったんだし、それくらい手持ちがいても不思議ではない。うーん……2匹でシャガさんの手持ちポケモン1匹を倒す作戦でどうだろうか。勿論、吹雪を覚えているダイケンキには1匹以上頑張ってもらうつもりだけど。それなら4匹いたとしても、ぎりぎり対応出来るのでは?
「……でも、サンダースとガーディはドラゴンタイプのポケモンに対して有効打がない」
まぁ、サンダースは電磁波を当てて素早さを落として、ボルトチェンジで撤退すれば援護は出来るから、安定して先制行動を取れるのはいいことだ。だけどやっぱり、気になるのはいかくのガーディ。今までは何とか他のポケモンを回して頑張ってきたけど、今回ばかりは想像以上に厳しい戦いとなる。格闘タイプのきしかいせいはあるけれど、最近戦うトレーナーも最終進化を手持ちに入れていることが多い。せっかく威力が上がっても、一回の攻撃で倒されてしまっては意味がない。
「もう1レベル……もう1レベルだけ上げて考えよう……」
迷った末、空が暗い藍色になるまで他トレーナーと対戦してレベル上げすることにした。その成果もあり、日が沈んだ頃にレベルアップした。
「そろそろ、捨て身タックルとか覚えたらいいんだけど……」
以前、かたきうちという技を覚える機会はあったけど、忘れさせちゃったからなあ。結局、あの技の真価を出しきれないまま忘れさせてしまったのは、ちょっとした心残りだ。だからこそ、覚えさせるわざを覚える機会がもうないのなら、じっくりと考えて選びたい。それに、俺の勘だけどそろそろ何か技を覚える予感がある。
「ん、どうしたガーディ?」
変わった動きをしている。こう俺にじゃれつくようで自分を見て欲しいと言わんばかりの動きだ。
「もしかして、新しい技か!!」
実際、ガーディが今までとは違う動きをして……こちらに何かを見せつけている。うん、やっぱり何か技を覚えられそうだ。よし、ポケモン図鑑、ポケモン図鑑っと。
「え……」
ガーディの動き、纏っている色、そしてポケモン図鑑で検索して返ってきた技名を見て、思わず大声が出る。けど、これは仕方ないよね。だって、今一番欲しかった技を覚えてくれたんだから。
「よし、決めた。今こそ、ほのおの石の使い時だな……ガーディ!」
今までポケモンバトルを連戦していたから少し元気はないけれど、こっちを見た。
「今までお預けしていたけど、そろそろ進化させたいと思う……いいかい?」
グォン、と元気な返事が返ってきた。
そして、ドキドキの進化の時。ウィンディになるらしいけれど、実際に見たことはない。
「うお、おおおおお……」
まさか……倍以上の大きさになるとは。石のエネルギーって、凄いんだな。
「うおお、おっきい。背中にも乗れるのかな?」
うん、頼もしい。寒い時もウィンディがいれば、あったかく眠れるんじゃないだろうか。
「って、そうだそうだ」
進化した感動で忘れていたけど、早いところ戻らないと回復が明日になっちゃう。急いでポケモンセンターに戻らないと。
翌日、太陽が昇って暫くした頃にジムの門をたたく。ソウリュウジムの中に入ってまず思ったことが……
「なんだこの仕掛け……」
いや、フウロさんのジムも大概だった気がするけど……え、どうするの、これ?
とりあえず石像に乗ればいいのかな?
えっと、脚で踏むタイプのボタンがあるようだけど……いや、まさか。物は試しで踏んでみると……
「うお、うおおお……」
乗っていた石像がゴゴゴと動き出し、上へ移動する。
「どんな仕掛けだ、これ……」
シャガさん以前に、ジムの仕掛けに圧倒されてしまった。フウロさんのジムでもだいぶぶっ飛んでいると思ったんだけどなぁ……
数人のジムトレーナーを倒して、ようやくシャガさんと戦える場所まで来た。皆のコンデイションを見る為に全員で戦わせて見たけれど、調子は悪くない。時間は昼前だけど、よし、気合を入れていくぞ!
「よくぞ参られた」
それにしても、威圧感がある。挑戦者として見ると、高い壁のようにも感じる。
「私はソウリュウポケモンジム、ジムリーダーのシャガである。市長として街の発展に尽力し、トレーナーとしてただ、強さを追い求めた」
何だろう。ヤーコンさんのように言葉の一つ一つから重みを、一人のトレーナーとしての強い自信を感じる。
「そんな今、私が求めるのは明るい未来を見せてくれる若いトレーナーの存在!」
ジム内の空気が揺れるような、強い声だ。そして同時に……俺の内から、一人のトレーナーとしての闘争心を強く自覚する。ああ、この人に勝ちたいのだ、と。
「君がアイリスのように、私に未来を見せてくれること望んでもいいのだろうか!」
……そうだ。ここまで来たんだ。旅をして、色んなポケモンを捕まえて、何かアベニューの経営を任されて、ヒュウの手助けとしてプラズマ団と対峙してここまでやってきた。でも、その様々な経験よりも、この強いトレーナー相手へ挑戦する時のこの高揚感には勝らない。
「はい、勿論です!」
「では行くぞ。クリムガン!」
だけど、相手はジムリーダー。燃える気持ちは大事にしつつ、冷静に戦わないと。まずは手持ちの確認……シャガさんは3匹使ってくるのか。思ったより余裕はあるけれど、油断は出来ない。それから、クリムガンは抜群が取れない相性だと一回の攻撃で倒せない印象がある。相手から一撃を貰うことは覚悟しないと。
「行くぞ、ルカリオ!」
「ふむ、君のポケモンは……目に力が宿っているな。実に、楽しみだ」
「……いきます!」
一瞬の沈黙の後、互いの指示が飛ぶ。
「ルカリオ、はどうだん!」
動きが鈍いはずのクリムガンがわざわざはどうだんへ当たりに行っている。ものすごく、嫌な予感がする。
「クリムガン、リベンジ!」
しま……いや、そうだよな。効果抜群だし、耐えきれないよな。
「ありがとう、ルカリオ」
でも、体力の半分は削ったはず。
「先発を落としたにも関わらず、冷静ではないか」
「ジムバッチを集めて、ここまで来たんです。最初でミスをしたとしても、取り返して見せます。今までも、そうやってきたんですから」
「ふふふ、言うではないか。では、次のポケモンを出すといい」
サンダースでは厳しいか。かと言って、ここでゾロアークやダイケンキを使うのは早いだろう。なら……
「いくぞ、ウォーグル。きりさくだ!」
「リベンジ!」
やはり、リベンジ。だけど、さっきのルカリオのはどうだんが効いている筈だ。
ウォーグルの脚の爪がクリムガンをきりさいて……
「む……流石によく鍛えている」
想像通り、クリムガンは戦闘不能になった。結果的に、ウォーグルはリベンジを喰らうことなく、ピンピンしている。
「なるほど。初めから2匹で私の1匹を相手する腹積もりだったかな?」
「さぁ、それはどうでしょうか」
流石に戦い慣れている人だ。こっちの考えを簡単に見通してくる。
「うむ。まだまだ行くぞ、フライゴン!」
フライゴンは最終進化しているポケモンだ。タイプ相性を突けない以上、一回では倒せないはず……
「ウォーグル、ビルドアップ!」
「ドラゴンテール!」
その技は一体……え?
「さぁ、誰が出てくるかね?」
ウォーグルがボールに戻されて……しまった。ウォーグルがボールへ戻った振動で、別のボールにぶつかった。
「くっ……」
吼えるみたいな技で、別の相手を強制的に出させる技か。
「……今の技は?」
「ドラゴンテール……技を受けたポケモンを強制的に戻し、別の相手を出させる技だよ」
「……なるほど、受けてみると焦りますね、これは」
が、不幸中の幸いか。ウォーグルの代わりに出てきたのは、吹雪を覚えているダイケンキだ。プランが崩れたけど、これはラッキーかもしれない。
「ダイケンキ、吹雪!」
「フッ……」
あっ、読まれている。吹雪の範囲外へ逃げられて……
「もう一度、だ。ドラゴンテール!」
「うわっ!」
ダイケンキが強制的に吹き飛ばされて出てきたのは……ダイケンキ……あ。
「厄介だな。2匹も育て上げていたか」
……違うんです。けど、今の内に出来ることもある!
「ダイケンキ、辻斬り!」
「大地の力!」
耐えて欲しい所だけど……どうだ?
「……何と、別のポケモンに化けていたのか!」
さっき、ゾロアークがダイケンキに化けた状態で出て来なくて本当に良かった。もし、ゾロアークだったら、全体気付けなかったぞ。さて、先制したはいいけど、ゾロアークに余裕はなさそう。
「大地の力!」
「辻斬り!」
くっ、攻撃の届く範囲の差か。戦い方がうまい。近寄ればドラゴンテール、離れれば大地の力。そして、フライゴンは移動手段に秀でているから攻撃も避けやすい、か。
「戻って、ゾロアーク」
「驚いたよ。てっきり、同じポケモンを育てているかと思ったからな」
それにしても、シャガさんの目でも攻撃しない内は騙せるのか、凄いなゾロアーク。
「こうして出てきたのは予想外でしたけど、意表をつけて良かったです」
「全く、これだからポケモンバトルは奥が深いのだ。それで、次は誰を出すのかね」
ゾロアークは辻斬りが一回入っている。とは言え、相手は素早い。なら、素早く動けてダメージを与えられる……
「いくぞ、サンダース!」
相性は悪い、でも!
「素早さで確実に先制する気か。そうはさせんぞ!」
凄い傷薬、ここで使うのか!
「サンダース、シャドーボール!」
ここ、もう一回先制して倒せるか?
「もう一度、シャドーボール!」
「大地の力!」
しまった。まだ体力に余力があったか……
「ふむ、少し焦りが出たようだな」
シャガさんの言う通りだ。だけど、シャドーボールが二回入っているんだ。体力はかなり削っているはず。これなら……
「いくぞ、ウォーグル!」
ここは、攻めるしかない!
「フライゴン、いわなだれ!」
「きりさく……まず!」
岩技も持っていたのか……フライゴンを守るようにいわなだれを起こしていることもあり、切り裂くはは通らなかったか……
「さぁ、次はどうするつもりだ!」
残りはダイケンキと……まだ、シャガさんには見せていないウィンディ。あと一匹が分からないし、ここは……
「いくぞ、ダイケンキ!」
「迷いがあったな。それで良かったのかね?」
「ええ。これで、いいんです」
美味しい水すら喉を通らないような、緊張の一瞬。俺が選んだ指示は……
「ダイケンキ、アクアジェット!」
「フライゴン、大地のちか……なるほどな」
よし、これでフライゴンは戦闘不能だ。
「フフフ……」
こちらはようやく残り1匹まで追い詰めたというのに、シャガさんは不敵な笑みを見せている。他のジムリーダー達でも、追い詰められれば追い詰められるほど楽しそうにする光景はみたことあったけど……
「老いてなお血が滾る。まだまだ戦おうぞ!」
この人はこの状況で尚、声に、目に一層力が入っている。……本当の勝負はここから、ということなんだろう。
「うむ……いくぞ、オノノクス!」
シャガさんの最後の手持ちはオノノクス……見るからに強そうだ。ポケモン図鑑の番号はオノンドの次……つまり、最終進化形態だろうか。
「ダイケンキ、切り裂く!」
「龍の舞!」
よし、入った……って、竜の舞だって。まさか、吹雪を舞でかわすつもりだったのか?
「吹雪ではない……か。オノノクス、切り裂くだ!」
「ダイケンキ、吹雪!」
「……な」
ダイケンキが吹雪を放つ前に切り裂くが入り、戦闘不能になった。これが、オノンドが進化したポケモンの攻撃力、竜の舞で攻撃力が上がっていることを含めても……かなり、攻撃的なポケモンなんだろう。けど、さっきのきりさくでそこそこ体力を減らしているはずだ。それにこっちには……今回のとっておきがまだ残っている!
「頼んだ、ウィンディ!」
よし、オノノクスがちょっとひるんだ!
「む、いかくか。ここまでとっておいたか。だが、有効打はあるのかね?」
勿論です。その為に、取っていたんですから。
「オノノクス、切り裂くだ!」
「一気に決めるぞ、げきりんだ!」
「何と!」
よし、事前に切り裂くが入っていたこともあって、何とか戦闘不能に出来た。……ああ、ガーディがげきりんを覚えて本当に良かった。
「敗けて湧き上がる悔しさ……その思いに屈せぬ心こそ、生きるエネルギーというもの。素晴らしい戦いであった!」
決着がついたので、ウィンディをボールに戻し、シャガさんと握手する。
「ありがとうございました」
「こちらこそだ。素晴らしかったよ。君と出会い、戦えたことに感謝する。他者と力を合わせ、困難に挑む。ポケモン勝負がもつ意味を改めて思い出せたよ……さぁ、私に勝利した証を渡そう」
「はい、ありがとうございます」
よし、これでバッヂはあと1個。
「さて、アララギの娘から聞いた。イッシュを造った伝説のドラゴンポケモンを語るのだ、と。では、外で待っていてくれ」
おっと、すっかり頭から抜けていた。
「ありがとうございます!」
石像のボタンを押してジムの外へ出る。すると先回りしていたのか、シャガさんが外で俺を待っていた。え、ジムの仕掛けよりも早く降りてきたんですか?
「家まで案内しよう。私についてきなさい」
「あ、その前に……ポケモンセンターで回復してきても良いですか?」
「構わない。先程のバトルでも感じてはいたが、君はポケモンを大事にしているのだな」
「はい。一緒に旅をしてきた、大事な仲間ですから。傷ついているんですから、早めに休ませたいんです」
最近はプラズマ団に絡まれることも多いし、尚更だ。
「分かった。それでは、昼過ぎに噴水の前で待ち合わせでどうだろうか」
「はい、それでお願いします」
「では、行ってきなさい」
ポケモンセンターで回復を終え、時間より少し前に噴水前に到着した。けれども、シャガさんはまだ来ていないらしい。ソウリュウシティの市長でもあるし、きっと忙しいのだろう。程なくして、シャガさんが迎えに来てくれて、家へ案内してくれた。
「では話そう。長くなるから、昼食を取りながら聞いて欲しい」
遅めの昼食を頂きながら、シャガさんの話を聞く。イッシュ地方の伝承や歴史、それから英雄の話などを自分にも分かり易く話して貰った。その中で、ゼクロムとレシラム以外にもう一匹……キュレムというポケモンについて聞くことが出来た。このキュレムが本当にいるかどうかは分からないけど……もし、生まれているのなら、何処で何をしているんだろうか。
「わざわざ見送りもして頂いて、ありがとうございます」
「何、当然のことだ」
さて、これから最後のジムバッジがある街まで……
ブゥン……
「今の音は……」
ソウリュウシティを見渡したけれども、一見して平穏だ。何か異常が起きているようには見えない。にも関わらず、異音は続いている。
「はて、何の音だ?」
ふと、カゴメシティで会ったプラズマ団を思い出す。街を襲撃するような集団なんて、今までイッシュ地方を旅してきた中ではあいつらしかいない。でも、いつもみたいに下っ端が近くに居ない。じゃあ、何処に……?
「何事だ……?」
「あ、あれ!」
は、あれって、PWTで見た船のはず……なんだけど、空を飛んでいる!?
え、何か光って……。
「危ない!」
「うわっ!?」
ポケモンが使う地震の比ではない揺れが俺たちを襲う。何度も何度も、冷凍ビームよりも強力な何かが発射され、その度に地面が揺れる。ビームがソウリュウシティに撃たれたことで、たちまち周辺が異様に冷え始めたけど、ビームを撃ち込まれたことによる異常な揺れのせいで、立ち上がることすら出来ない。
「…………」
ようやくビームの連打が収まったから、何とか立ち上がって周囲を見渡した。
「……は?」
が、あまりの変貌に顎すら落ちる。
雪が降る事で街の地面が凍ることはある。だけどこれは……街そのものが氷に飲み込まれてしまったみたいだ。なんだよ、この氷の世界……氷タイプのポケモンの吹雪でも、こんなにはならないぞ。
「って、あいつら!」
あの船から誰かが下りてくる。やっぱりあいつらの仕業だったか、プラズマ団。だけど今度は一体、何をするつもりだ。
その後、プラズマ団の下っ端や相変わらず意味不明なことを言う老人含めて、ソウリュウシティに降り立ったプラズマ団を倒して回る。ソウリュウシティを走り回って何とか倒した俺は、シャガさんにあの船から降りてきたプラズマ団の下っ端達を一通り倒したことを伝えた。
「むむむ……少し待っていて欲しい」
すると、ジムへ戻っていったシャガさん。あの意味不明な老人から、今回の目論見を聞いていた訳だけど……どうするつもりだろうか。
「待たせたな、キョウヘイよ。君にこれを預けたい」
まさか、これは一族の家宝だって言っていた……
「いいか、キョウヘイ。遺伝子の楔とはこれだ!」
「それが……」
確かに今の状況だと、アララギ博士とも連絡が取れる自分に預けるのが一番いい。
「これがあいつら……プラズマ団の手に渡らなくて本当に良かった!」
とは言え、責任重大だ。特にプラズマ団相手には負けられなくなった。
「目的は分からぬが、間違いなく良からぬことを企んでいるだろう」
「君にこれを……」
何か今、影のようなものが……は?
「案の定、ジムが隠し場所だったか。なるほど、よく考えている。シャガがいなければ入れないし、いれば最強の番人となる。ポケモンジムを改装したのも、それが理由か」
「えっ!?」
遺伝子の楔が……消えた?
「ですが、遺伝子の楔は今、私が頂いた」
まさか、ダークトリニティ!
「まさか七賢人すら利用して、楔の在処を探るつもりだったとはな!」
「……ええ。ですが、どんな手段を使ってでも目的を達成します。私達には、N様のように民の心を奪う求心力がない。だからこそ……代わりに圧倒的な力で人々を屈服させる。その為の2年は存外、長かった」
「待て!」
んな、屋根や地面が凍っている状態で、民家や大きな建物すらジャンプで飛び越えるって、どういうこと!?
「捕まえられるものなら、捕まえてみるがいい!」
くそっ、逃げられた!
「奪われたら奪い返すだけだ、行くぞ!」
「はい!」
今、何か音がしたような気がしたけど、そんな場合じゃない!
シャガさんと手分けしてソウリュウシティを探し回っから、何とか見つけることは出来たけど……
「……残念。遺伝子の楔を持っているのは他の仲間。そう……時間稼ぎはできました。それではごきげんよう」
結局、逃げられてしまった。
「くそっ!」
「キョウヘイ、そちらにいたのも時間稼ぎの者だったか」
「すみません、取り返せませんでした」
「いや、君は君に出来ることをよくやってくれた。それならば、わざわざ外で家宝を預けようとした私に責任がある。君はよくやってくれた」
「ですけど……」
だけど、チェレンさんから2年前のことを聞いている。そして、これまでの旅でプラズマ団と多く関わってきたからこそ、このままにしてはいけない。
「む、キョウヘイ。お前の端末から何か、音が鳴っていないか?」
「えっと……」
……あ、俺のライブキャスターから連絡が。えっと、繋げて……と、ヒュウ!
「キョウヘイ!」
それに、チェレンさんも!
「ソウリュウに、変な船が飛んでいったろ!?」
「僕もそれを見た。今、向かっている!」
ヒュウとチェレンさんにも見えていたんだ!
「チェレンさん。あれって、プラズマ団の船だよな?」
「うん、間違いない。とにかく、もう直ぐ到着するから」
「じゃ、お任せします」
おい、ヒュウ……プラズマ団関係なのに変に冷静だぞ、何するつもりだ?
「そうだ、キョウヘイ。困ったら俺に連絡しろよな!」
それだけ言って、ヒュウのライブキャスターから接続が切れた。
「ぐぬう……私の体が二つあれば、街を守りつつ、あいつらを追いかけられるのに!」
今回はソウリュウシティだったけど、俺もアベニューが攻撃されたらと思うと……こんな自由には動けなかったはずだ。うん、やっぱりプラズマ団をあのままにはしておけない。
「あれ、向こうから誰かが来て……」
あの見慣れた服は……
「キョウヘイ……あっ、シャガさんもご無事でしたか、良かった!」
チェレンさん!
「チェレンではないか。すっかり逞しくなったな。今はアロエに代わり、ヒオウギのジムリーダーだったか」
「ありがとうございます……いや、挨拶はまた今度で。実は逃げたプラズマ団ですが、潜伏場所は大体分かります」
「それは一体、何処なのだ?」
え、ほんと?
「イッシュ地方で今、一番気温が低い所……セイガイハシティ付近です。僕とヒュウがプラズマ団を調べますので、シャガさんはソウリュウを守って下さい!」
そういうことか。もしかしてここにヒュウがいないのは、先にセイガイハシティへ行っているから、かな。
「……そう言ってくれるか。分かった、其方は任せる。だが、決して無理はするなよ!」
「キョウヘイ、出来れば君も来て欲しい。何と言っても、プラズマ団とも渡り合える凄腕のポケモントレーナーだからね」
探せばきっと、適任は他にもいると思う。だけど自由に動けて、かつ信頼できる人はそういないだろう。それに、今回の被害を見ても、ただ信頼できる人じゃなくてポケモントレーナーとして相当戦える人じゃないと来て欲しい……なんて、言えない筈だ。
「はい、任せてください!」
「それにしてもセイガイハシティか。サザナミタウンから北に何がある……?」
セイガイハシティ……行ったことはないけれど、リゾート地なんだっけ?
「キョウヘイ、プラズマ団からポケモン達を守ってくれぬか。ポケモンと人との交わりはどうあるべきか、どうすべきかは、それぞれが考えることだ。あいつらプラズマ団が独善的に決めることではない!」
「はい!」
そうだ。プラズマ団が人のポケモンを勝手に奪った結果、ヒュウの妹は塞ぎ込んだ。そして、ヒュウはプラズマ団に強い憎しみを抱くようになった。プラズマ団が良いと考えることが、必ずしも全員にとっていい訳ではない。ましてや、ダークトリニティは何と言ったか。圧倒的な力でイッシュ地方の人々を屈服させる、と。ならばきっと、プラズマ団が人とポケモンとの在り方について語ったそれは、口先だけなんじゃないか。
「では、シャガさん、行ってきます!」
夕日が沈みかけている頃、ようやくサザナミシティへ到着した。
本当だったら、チェレンさんに案内してもらう形でセイガイハシティまで空を飛ぶ、で行けたら良かったんだけど……チェレンさんはプラズマ団の対策で必要なことがあるらしく、別行動になった。その時に、『マリンチューブが開通されたはずだから、息抜きがてら通ってきたらどうだい』とも言われた。うん、チェレンさんの勧めだし、行ってみよう。
「さて、どうやってセイガイハシティまで……」
ただ、ここからセイガイハシティへ行きたいんだけど……おや、またライブキャスターから通信が。
「キョウヘイ、今、何処にいる?」
「今、サザナミについた所、マリンチューブに行きたいんだけど……」
「それなら、青い建物があるだろ。そこがマリンチューブだ。そこを通って、セイガイハシティに来いよな」
「助か……って、切るの早!」
まぁ、いいや。どう行けばいいのか、分かっていなかったし。それにしても、サザナミシティの北って、そう行くんだ。何か、他にも方法がありそうな気がするけど。
受付を通って、マリンチューブ内へ入る……と、そこには。
「うおっ、すっげー」
文字通りの海の世界が広がっていた。マリンチューブとはなるほど、まさに文字通りだ。これに沿って歩けば、セイガイハに着くのかー。
「あ、バスラオにマンタインだ!」
マリンチューブの外からは、見たことあるポケモン達が悠々と泳いでいる。
「へぇ~……水中だとあんな動きをするんだ」
こうして歩くだけでも、新しい発見が尽きない。水ポケモン……特に、海に住むポケモンがあのような動きをするのか。
「ここも直ぐに、新しい観光スポットになるんだろうなぁ……」
開いたばかりだからか、まだ人は少ない。けれども、この光景の良さが広がったら、直ぐに入場規制が起きそうな気がする。まだ見ぬセイガイハシティやサザナミタウンとかで、ママンボウパンケーキとか作ったら売れるのだろうか。
何か、ボールが揺れてる……何、ルカリオ?
え、ブルンゲルパンケーキの方がオスとメスで色が違うし、売れそうだって?
いや、その通りなんだけどさ。ブルンゲルって、図鑑の説明が怖いんだ……
「……」
ここは静かで……人の声も不思議と響かない。見た目以上にガラスが厚いからなのだろうか。ポケモンが海の中を潜るように……あるいは、昇るように泳ぐ様子が微笑ましく思ったからか、気が付けば足が止まっていた。
「……」
最近は必要性に駆られて、慌ただしく動いていた。ただ、こうして立ち止まってこれまでのことを振り返ると……やることが増えすぎたのでは、と我ながら思う。ポケモン図鑑の完成、イッシュ地方のジムバッチ全種類獲得、アベニューの経営、プラズマ団との因縁。
「……」
1分も経っていないのに、これだけの物事が浮かぶとは。改めて、色々なことに関わってきたなぁ、と思わず苦笑い。折角だ、一つずつ整理していこう。
「……」
浮かんできた中でも……図鑑は焦らなくてもいいかな。正直、まだまだ埋まっていないしページも多いし、焦っても仕方ない気がする。それに、まだまだ行っていない場所にしかいないポケモンもいるだろうし。それよりも、プラズマ団とのごたごたを終わらせないと、図鑑を集めることも出来ないか。ジムバッチについては……そういえば、セイガイハシティがそうだったんだ。大丈夫、シャガさんにも通用したんだし、しっかりと戦略を練れば通用するはずだ。
「……」
アベニューの経営と言えば、最近はどうしているんだろうか。イチミさんとミライさんが優秀でも、定期的に連絡を取った方がいいはずだ。店の数も増やして欲しいという要望もあったし、アベニューへ来る人も増えたことで、処理することが増えたという話も聞いたような。本当は連絡を取りたいところだけど……今はちょっと、プラズマ団のことで手一杯だ。あ、それでも、今日のこと位は連絡しておかないと。
最後に……プラズマ団。まさか、ソウリュウシティをあんな風にするとは思わなかったし、チェレンさんやシャガさんにもお願いされている、何とかしないと。それに、ヒュウも心配だ。暴走すれば、大人数のプラズマ団の下っ端たちに向かって一人で突撃するだろう。まぁ、それでいて割と冷静に判断が出来るんだけど…チョロネコのことが話題になれば、チェレンさんの静止すら効かないだろう、と容易に想像がつく。
「ふぅ……」
少しだけ、整理できた気がする。誰かとポケモンバトルする時は、そんな悩みもしんそくのように消えていくんだけど……流石にずっとそういう訳にもいかないよね。
「あれ」
少し余裕が出来たのか。さっきまで気が付かなかったけれど、開通したばかりのマリンチューブを歩く人がぽつぽつといることに気が付いた。一人で来ている人もいれば、友人と一緒に来ている人もいるらしい。誰かと一緒に名所や珍しい場所へ行く……か。
「今はどうしているかなぁ……」
そこで脳裏に過ったのはルリさんだ。聞くところによると、仕事が忙しいらしいし、繋がる時と繋がらない時もある。そんなルリさんとは、どんな間隔で連絡を取ったらいいんだろうか。普段の会話からすると、俺とヒュウのような気軽に話し合える相手も少ない印象だけど……気軽に、かつポケモン以外の話でも長続きするのは……結局、ルリさんだったりする。そう言えばルリさんは、このマリンチューブの光景を既に見たんだろうか。もし見ていないなら、どういう反応するんだろう。
「また、ここへ来ようかな」
何か、すっきりした。やっぱり、イッシュ地方を冒険していただけなのに、トラブルとかに巻き込まれすぎなのでは?
「……あ」
途中、立ち止まったりしてゆっくり歩いていたはずだけど、気が付けばもうセイガイハの近くまで来ていたらしい。
「……よし、行くか!」
セイガイハシティへ到着した時には既に日が落ちて辺りが暗くなっていた。思ったよりも距離があったのか、それとも、振り返りに時間を使っていたんだろうか。だとしても、ジムの場所を確認しないと。今日はもう空いていないだろうけど……あ、ヒュウ。
「来たな。あの後チェレンさんから聞いたけど、遺伝子の楔は絶対に取り戻すぞ。というわけで、お前はまずジムリーダーに勝て!!」
まぁ、そのつもりだけどさ。
「どうして今回に限って、ジム戦を急かすんだ?」
「あぁ……チェレンさん達もプラズマ団との最終決戦をした時はジムバッチを8つ持っていたらしいからさ。やっぱり、それくらいの強さがあるって、分かり易い指標があった方がいいだろ」
「そうならそうと言いなよ……それで、プラズマ団の方はまだ出てきていないんだよな」
「ああ、俺はその間にプラズマ団を探してみるからよ!」
「おっけー」
ヒュウはああ言っているけど、何処を探すつもりなんだろう。
近くにあるポケモンセンターに入り、今日はそこでゆっくりと休むことにした。別れ際に聞いたけど、シズイさんは水タイプの使い手らしい。タイプ相性で考えれば、サンダースで上手く戦うのがポイントになる、かな。
ポケモンの回復を終えた後、体を休める為に休憩室に入る。備え付けのベッドに座った瞬間、急激に眠気が襲ってきた。
「あぁぁ…………ね、眠い」
どうやら、プラズマ団の件で相当以上に体力を消耗していたらしい。体の疲れに耐え切れず、倒れ込むようにベッドへ横になった。