[newpage][chapter:ルリ視点:イッシュの危機とカントー遠征]
翌日、私はロケ地であるセイガイハシティへ到着した。
「着きましたね、マネージャー」
「ええ、そうね……」
だけど、マネージャーの眼は暗い。いや、その理由は分かる。だって、こんなに穏やかな波に綺麗な砂浜、そして抜群の天気……なのに、私たちは海に入ることが出来ないから。……水着を今からでも用意して、海へ飛び込みたい気持ちがちょっとある。
「いいわよね、ルリは。場合によっては、仕事で入れるかもしれないんだし……」
「そうだとしても……それは仕事なので」
おまけに、浜辺には付き合って間もないらしいカップルがいた。朝から浜辺で追いかけっこをしているとは思わなかったんだけど!
「そーれーにー……随分、ライブキャスターを拾って貰った子とは仲良くしているみたいじゃない。ずるいわよ、私に紹介しなさい!」
しかもそのせいで、私にも流れ弾が。
「いや、それはその……それから、声が大きいです」
マネージャー、人が少ないし、他の人も来ていないからいいですけど、やめてください、色々と。
「あぁ、ごめんごめん。つい、あれが目に入っちゃって。さ、切り替えて……と。じゃあ、早速着替えにいきましょうか」
いつもの服に着替えた後、セイガイハシティの新しいジムリーダー、シズイさんへインタビューを開始する。
「はーい!こんにちは、ルッコです!今日お訪ねしたのは、セイガイハシティのジムリーダー、シズイさんでーす!!」
「おお、よろしくたい」
「ポケモンリーグに一番近いジムだと思うんですけど、普段から挑戦者は沢山来られるんでしょうか?」
「んー……おいはなったばかりやから、どうとは言えんが……あまり多くないたい」
やっぱり、バッジの数が多くないと挑戦できないジムは来る人が少ないんだ。
「それでしたら、普段は何をされていらっしゃるんですか?」
「おう、海と繋がっているから、相手がいない時は海を泳いでいるたい!」
「そうなんですね。どの位の時間、泳がれるんですか?」
「時間は分からんが……数時間泳ぐ時もあるたい」
数時間!?
「そ、そんなに泳がれるんですね。凄い体力です。それから……映像などで見たんですけど、シズイさんと言えば、他の皆さんが驚くようなジャンプ力を持っていますけど、どうしてあんなに跳べるんですか。コツとかってあるのでしょうか?」
「マンタイン、というポケモンは知ってるか?水面を泳いでいる内にスピードが乗ってくると、そのまま波の上に飛び出すんよ。確か、別の地方ではサーファーの間で親しまれている筈たい。まぁ、おいにかかれば、島から島まで泳げるけどな。そんなおいだが、マンタインがいる海だったから、マンタインと一緒に泳ぐこともあったたい。そんで思ったんだ。いつか、マンタインよりも高く飛びたいと。子供の頃、一緒に泳いだマンタインを超えたかは分からんが、きっかけなんてそんだけよ」
「すごいです! できないとか考えずに、無心でやっていればできちゃうことも あるのかな?」
その後、セイガイハシティやジムの特徴などを簡単に紹介して頂き……最後の質問に移る。
「最後に、シズイさんはみずタイプの使い手ですが、水タイプの魅力について教えて頂けないでしょうか」
「おう。水タイプの攻撃はあらゆる物を押し流すと共に、あらゆるものを受け入れる柔軟性を持っているたい。そんだから、皆に親しまれているポケモンもおれば、子供が触れるには危険なポケモンもおる。けど、だからと言って恐れちゃいけない。どんなタイプのポケモンでも親しまれているポケモンもいれば、人にとって危険なポケモンもおるたい。だから、水タイプを扱うことで、ポケモンと人との距離感が分かってくるとおいは考えておる……こんなところでよかか?」
「ありがとうございます。はーい。こちら、ルッコでしたー!」
午前中の仕事を終え、昼食を取り終えた今は休憩時間。パッチールの毛繕いをしながら、セイガイハシティの風を浴びていた。
「あれ?」
ほどよく温かく、少し短めの体毛を持つパッチールだけど、よく見ると耳と耳の間に毛玉が出来ていた。ふとキョウヘイ君と話をした時を思い出し、普段使っている櫛を取り出して、ブラッシングを何となくやってみる。あまり上手だとは思わないけど、それでもパッチールは気持ちよさそうに私に体を預けてきた。ちょっと嬉しくなったので、他のポケモン達も同様にブラッシングする。
暫くブラッシングをしている内に、何時の間にか時間が進んでいた。よく見れば、あと十分程度で次の仕事場へ移動する時間になっていた。そんな時……
「マネージャー、大変です!!」
マネージャーさんのアシスタントが、息を切らして何かを報告している。最初は疑わしい顔をしていたマネージャーだったけど、唐突にテレビを付けた。今いる場所からテレビの画面が遠いから分からないけど、どうやら何かの緊急情報を流しているみたい。何があったんだろう。
「ルリ、ちょっと来て!」
促されるままにテレビの画面を見て驚いた。何で、ソウリュウシティが凍っているの!?
「嘘……ソ、ソウリュウシティの皆さんは大丈夫なんでしょうか?」
「今のところは……さっき、別のスタッフからまだ連絡はないけれど、シャガさんは無事らしいわ。さっき、中継している映像に、シャガさんが映っていたらしいの。暫くは難しいでしょうけど、この氷の問題が解決すれば、問題ないはずよ」
「で、でもこれ……何が、原因なんですか?」
自然現象でこんなことが起きるなど、とても思えない。
「今は分からないらしいわ。まぁ、ソウリュウシティに空飛ぶ船が現れて、それが何かを撃ち込んだと言っていたようだから、原因は間違いなくそいつらでしょうけど」
まさか、こんなことが起きるなんて……
「幸い、明後日以降は遠い地方だし、早めに移動しちゃいましょう。それから、他の皆もご家族には連絡しておくのよ」
「……はい」
「話によれば、被害はソウリュウシティだけみたいよ。だから、ご家族は無事なはず。とは言え、一応連絡はしておくのよ」
「はい」
次の仕事先は……カントー地方。大きな事件は数年前に終息したと聞くし、流石に続けて大きな問題が起きることはないだろう、と信じたい。
その後、家族に連絡したところ、全員無事だったこと、家には影響ないことが分かった。それはそれでホッとしたんだけど……もう1人、心配な人がいた。
「…………」
それは、キョウヘイ君のこと。ジムバッチを集める為の旅をしていて、既にかなりの数を集めているという。もしかしたら、ソウリュウシティの近くにもいるかもしれない。そうだったとしても、それだけジムバッジを集められているから強いトレーナーなんだと思うけど、不安になってしまったのだ。もし、何かの事件に巻き込まれていたかと思えば思うほど……けれども、自分からかけないとマネージャーと決めた以上、それを破って連絡することを躊躇ってしまった。
「うううう……」
結局、安全に旅が出来ていることを祈って何度か通話を試みたものの……移動中なのか、それとも忙しいのか、キョウヘイ君が通話に出ることはなかった。
翌日の昼には、カントー地方のヤマブキシティへ到着した。けれども、仕事のスケジュールを前倒しすることは出来なかったので、それまで待機。お月見山まで行くのにまだ時間が掛かることから、ヤマブキシティ周辺の道路を散策することにした。
「やっぱり、違う地方の道路は新鮮だなぁ……」
道路を見るだけでも、様々な違いがある。例えば、イッシュ地方の道路は人の手が多く入っているからか、整備されている道路が多い。反対に、アローラ地方の一部やパルデアなどはありのままの姿が残っており、代わりにポケモンが交通機関の役割を担っている。カントー地方の道路は……人が整備した道路と最低限の道は作っているものの、それ以外は大きな手を加えていない道路、と分かれている印象だ。どちらにもいい、悪いはあるけれど、それぞれが活きた道路を歩くのは結構楽しかったりする。
それから、以前の番組の商品として貰い、キョウヘイ君から使い方を教えてもらったダウジングマシン。これも使って道路を歩いていると、たまに反応があったりする。その時は、ちょっとしたお宝探しの気分だ。
「あ、草むらだ」
近くにトレーナーもいるけれど、今日の目的はあくまで散歩。視線を避けつつ草むらに入る。仕事柄、様々な場所へ向かう機会があるけれど、地方によって住んでいるポケモンが違うことは知っている。だからこそ、時間が出来た時は、近くの道路をなるべく歩くようにしていた。
「…………」
草むらに入った音で逃げ出してしまうポケモンもいれば、気になって近寄ってくるポケモンもいる。それの違いが性格の違いからなのか、ポケモンの種族的な特性なのかは分からないけど。
「……うーん」
それにしても、ここのポケモンは臆病な子が多いように見える。私が入って草むらを鳴らすと、サッサッサッと逃げていく音がする。ただ、その音とは別に、さっきから何かに見られているな……
「……!」
縦に細長い光……あ、ポケモンだ。
「いくよ、パッチール!」
パッと見た所、頭に小判を付けた猫っぽいポケモンだ。捕まえられるかな?
「ピヨピヨパンチ!」
あ、パッチールのパンチがポケモンの頭に当たって……ふらふらしている。もしかして、混乱したのかな。あ、自分で自分を攻撃して……もしかして、結構弱っている?
「お願い、入って!」
モンスターボールがポケモンに当たり、地面に落ちる。そして、何回か揺れた後、カチン、という音と共に動きが止まった。
「やったー」
捕まえたポケモンをボール越しから確認してみると、結構可愛らしいポケモンだ。イッシュ地方では見掛けなかったけど……マネージャーなら、このポケモンのことを知っているかな?
集合には少し早い時間だけど、余裕をもって戻っておく。マネージャーが椅子に座って私の帰りを待っていた。
「おっ、ちゃんと戻ってきたわね。てっきり、買い食いでもしているかと」
「そんな、毎回している訳じゃないですから!」
確かにこの前はヒウンアイスを食べようとして、あまりにも行列があったから断念したけど!
「それもそうね。それで、近くの道路にでも行ってきたの?」
「はい。それで、草むらを歩いていたら、この子が出てきて……」
モンスターボールから、先ほど捕まえたポケモンを出してあげる。
「あら、ニャースじゃない。へぇ、この辺りに出てくるんだ。丸いものとか光物が好きとか聞いたことがあるわ。それにしても、ルリはポケモンを捕まえる力があるわよね。私、ボールを当てるのも下手だから、一匹捕まえるだけでもかなり苦労するのに……」
「そ、そうですかね……」
あまり、実感はない。ただ、弟の初めてのポケモンやテツ君と交換するポケモンを捕まえたことがあるから、経験が多いだけだと思うけど……
「ま、気分転換は終わったってことね。それじゃあ、ニビシティまで行きましょう」
「はい!」
次の仕事はニビシティの科学博物館、それからお月見山の名所の月の石だ。ピッピは可愛いと評判だし、お月見山で見られるといいなぁ。
翌日、午前は科学博物館の紹介を、そこからお昼を挟んで移動して、夕方から番組の中継でお月見山の紹介だ。午前の仕事はつつがなく終え、今は待機時間。
「…………」
本番前だと言うのに、私はどうしようもなくそわそわしていた。というのも、私は本物のピッピを見たことがない。そんな私がお月見山のロケ……それも、ピッピがお月見山でダンスをするなんて、可愛らしい光景が見られるかもしれないんだから。事前にニビシティやお月見山付近にいた人から話を聞いた所、今日は見られるかもしれないという情報もある。
「…………」
とは言え、だ。仕事は仕事。バシッとかっこよく決めないと。そろそろ、中継が繋がるかな。
「ルッコちゃん、そろそろ繋がりますので、準備をお願いしまーす!」
「はーい」
合図が入った。じゃあ、事前の打ち合わせ通り、ゆっくりと山間部にある広場へ向かって……
「はーい。こちら、カントー地方のお月見山に来ているルッコでーす。ここではたまに、輪になって踊るピッピ達が見られるそうなんですよー」
「月の石を中心に踊るピッピは幻想的とも聞きますから、是非見てみたいですね」
「近くにいらっしゃる人たちからお聞きした情報によると、今日は見られるかもしれないって聞いて、すごくわくわくしていまーす。では、あちらにあるのがお月見山名物の……」
あれ、聞いていた話だと、広間の中央にある水辺から大きな石があるだけだと聞いていたのに……
「って、あれ?あれ、そうなんじゃないんですか?輪になって踊るピッピ達なんじゃないですか!」
可愛い!
水面に浮かぶ月を中心にくるくる回って……って、私たちに気付いて、逃げ出し始めちゃった!
「可愛いです。これがピッピ達のダンスなんですねー。もっと見ていた……って、ピッピさん達、ちょっと待ってくださーい!」
ああ、私に気付いて慌てて逃げ出してしまう。そうして瞬く間に、いなくなってしまった。
「あ、ああ……」
そのショックに、思わず膝をついて項垂れる。
「ああ……せっかくのお月見山のピッピのダンスが……」
「せっかくいい場面に巡り合えたのに、逃げられちゃうなんて……次回こそは頑張って、ルッコちゃん!」
中継が切れる。けど、もっと見たかったなぁ……ピッピのダンス。
「…………はぁ」
「まぁ、そんなこともあるわよ」
「マネージャー……」
「次はクチバシティのジムでステージよ。カントーで初めてのお披露目なんだから、気を抜かないでいくわよ!」
「はい!」
クチバシティ……確か、ジムリーダーのマチスさんは元軍人さんだとか。失礼にならないよう、気を付けなくちゃ。
翌日、新曲の披露もしたけれど、反応は今一つ……だろう。
何しろ、地方も違えば流行も違う。イッシュではポケドルの知名度は他の地方と比べて高いが、カントー地方ではポケドルの知名度自体がかなり低い。同期のテンマ君でさえ、知っている人がいない程なんだ。その理由として考えられるのは……他の地方と比較してもポケモントレーナーが多く、トレーナーであれ、普通の人であれ、ポケモンにかける時間が多いこと、なのだとか。
そんな状況だからこそ、ポケドルの新規開拓先としてカントー地方に注力している。私達以外の他のポケドルたちも挙ってカントー地方のロケに行くけど……中々、ファンが得られていない状態だ。道路を歩く人や街の人、看板などを見ても、ポケドルへの興味関心はそう高くないことがよく分かる。
「うーん、やっぱりポケドル自体の関心が薄いようにも見えますね」
「そうね。ここは昔からポケモンバトルが盛んで、そのポケモンバトルで有名になった人もいる。そうした影響は大きいわね」
「確か、一時期騒ぎになったロケット団でしたっけ。それもあるトレーナーが倒したとか」
「そうそう。私はその頃にジョウト地方からイッシュに来たから、話だけは伝わっていたわ。だからこそ、ポケモントレーナー自体が流行というか、トレンドなのよね。最近はコンテストのような催しも親しまれている、とか」
確か、ポケスロンだったっけ。あれはちょっと気になっていた。機会があれば挑戦してみたい。このように、カントー地方の人々は、ポケドルよりもポケモンと一緒に何かをするような催しが流行になる傾向が強い。それはラジオ番組なんかでも言える。ポケモンの捕まえ方講座、ポケモンについて語るラジオ、はたまたポケモングッズの紹介など。
そうなると、ここで固定ファンを獲得するなら……ポケドルとしての知名度と同等、それ以上に、ポケモンバトルの腕が必要なのかもしれない。
「そういえば、ライモンシティにはバトル検定が出来る施設があるんだっけ……」
「何か言った、ルリ?」
「あ、いえ、何でもありません」
そう言えば、キョウヘイ君がそんな話をしてくれた気がする。キョウヘイ君はポケモンバトルに詳しいみたいだし……行ってみようかな。