画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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キョウヘイ視点8:楔を解き放つ1

[newpage][chapter:キョウヘイ視点4-1:楔を解き放つ]

 

 四日後、体調を整えた俺は急いでジャイアントホールへ向かう。本当は直ぐにでも行きたかったんだけど、ここぞというタイミングで体調を崩してしまった。きっと、プラズマ団との過度な連戦で疲れが祟っていたんだろう。

 翌日の夕方には熱も下がったけど、満足に動けるには時間が必要だった。その後に直ぐに向かおうと思ったんだけど、ポケモンセンターに到着した俺は疲れのあまり、ポケモン達の回復を忘れてしまっていた。一応、ご厚意で瀕死状態は治してもらっていたみたいだけど、改めてジョーイさんにお願いして回復をお願いした。

 その日の夜にヒュウから連絡があり、援軍がいるから俺の日程に併せて突撃するという連絡を貰った。とは言え、プラズマ団がいつ動き出すか分からない。攻めるなら、早い方がいい。

 

 「……じゃあ、二日後で」

 「分かった。しっかり体調を整えてな」

 

 回復を終えたポケモン達を受け取り、その日は早い時間に眠りについた。そうして諸々の準備を終えて、ジャイアントホールに一番近いセイガイハシティのポケモンセンターで一泊し、朝の日が昇るタイミングと共にポケモンセンターを発つ。朝日が昇りきる頃にはジャイアントホールに繋がる洞窟を自転車で走り抜けた。

 

 「さっむいな、ここ……」

 

 結果的に、体調を整えることが出来て良かったのかもしれない。疲れたまま突撃していたら、途中どころか動けなくなってボコボコにされていただろう。ここがジャイアントホール……って、ヒュウはもう来ていたのか。

 

 「こっち来いよ」

 

 俺もかなり急いで来た筈なんだけど、もういたのか。

 

 「どうやって来たんだ。ここへ来るまでに合わなかったけど」

 

 「カゴメタウンから直接ジャイアントホールに来た」

 

 「マジか、そんな道あったのか。というか、何で隠れるような真似を?」

 

 目と鼻の先にプラズマ団がいるのに、やけに落ち着いているよな、今日は。

 

 「ま、そこにいる元プラズマ団がちょっと話したいらしくてさ。昔の仲間を傷つけないよう、説得するんだとよ」

 

 意外だ。元とはいえ、プラズマ団関係者の人の言う事を聞くなんて。あれ、援軍というのはもしかして……

 

 「……──」

 「……!」

 「……──」

 「……!」

 

 ただ、元プラズマ団の人達を黒いプラズマ団が好ましく思っていないことなんて、俺から見ても分かる。聞こえる内容だけでも裏切者がどうだとか……聞く耳を持っていないよな、これ。

 

 「どうする?」

 

 「……駄目だな、行くぞ」

 

 ああ。こっちはもう、腹を決めている。

 

 「おい。お前ら、そこ通るぜ」

 

 「はぁ、お子様がこんなところまで来て……怪我したいの?」

 

 余裕たっぷりに立ちふさがっているけどさ。数日前に襲撃した俺たちの顔か髪を覚えていないのか。ナッシーとかハリーセンとか……散々言っていた気がするんだけど?

 

 「怪我か、そんなのはどうだっていい。誰が何と言おうと……俺は、お前達から奪われたポケモンを取り戻す」

 

 「はぁ~。何その、ご意見表明。それを言う為だけにここまで来たの?」

 

 それを言う為だけ、ね。お前達はそう言うが……それをここまで出来る奴が他に居たのか、今まで?

 

 「そもそも、他人の悪事に乗っかることしか出来ない小悪党の言葉なんか、聞く訳ないだろう!!」

 

 お、今のは効いたな。下っ端達の顔がだいぶイラついている。今にもポケモンを出してきそうだ。

 

 「ロットのじいさん、元プラズマ団。お前ら、何の為にポケモンと一緒にいるんだよ?」

 

 「……と、いうと?」

 

 あの表情は、本気で分かっていないな。見たところ穏やかな人だし、悪い人ではないんだろうけど……根本的なことを見落としている。相手は今、対話ではなく力づくで事を進めようとしている。そもそも、話を聞いて解決する段階じゃないんだ、もう。

 

 「大事なモノを守る為だろう。たとえ大切にしていても、その大切なポケモンが、自分の信念が傷ついても戦わなければならない時はある」

 

 ……以前のヒュウじゃ、絶対に元プラズマ団の人達の言葉を聞こうとしなかったし、言葉をかけることもしなかったはずだ。これはシズイさんの影響だろうか……変わったな、ヒュウ。

 

 「……そしてそれが、今なんじゃないのか!」

 

 ここまで来たんだ、俺も最後までやってやる。

 

 「けっ、お子様がかっこいいこと言ってんなよ。痛い目合わない内におうちに帰りなよ?」

 

 イラつきはしてないけど、言い返すだけの余力がある下っ端もいたのか。でも、ちょっと良くないな。黒いプラズマ団の下っ端達の敵意がヒュウに集まり過ぎている。ヒュウの目的はチョロネコを取り返すことなんだ。チョロネコを持っている奴に会えないと意味が無いのに……分散した方がいいか。

 

 「へぇ、お前達こそ帰るおうちが今から無くなるのに……何を言っているんだ?」

 

 「はっ、ガキが二人して格好つけんなよ!」

 

 「そのガキ二人に何度ものこのこと侵入された上……誰一人として、足止めにすらならなかったじゃないか?」

 

 「……お前達、まさか以前にも似たようなことを?」

 

 ロッドさんが少し焦ったような声を掛けている。はい、やりました。

 

 「てめぇら、あの時のガキ共か!」

 

 そっちはそっちでハリーセンとかナッシーとか言っていたのに、覚えてなかったのか。

 

 「どうせお前達じゃあ勝てないんだから、さっさとどけよ」

 

 どうした、ヒュウ。

 

 「……おい、いいのか。そんな挑発して」

 「変に時間を稼がれるより、こっちの方が楽だろ」

 「それもそうか」

 

 おっと、ポケモンを出して来たな。えーと……全部で六匹か。

 

 「じゃ、半分は頼んだぜ」

 「おっけー」

 「……──無理してかっこつけんなよ、ガキ共!!」

 

 幸い、挑発に乗ってはくれたけど無理して恰好つけている、か。我ながら上手くできたと思ったんだけどなぁ……

 

 

 バトルの方は、問題なく勝利。

 

 「畜生!」

 「何よ、こっちは数で多い筈なのに!」

 

 俺やヒュウも直接狙われたけど、下っ端達の統率の無さやポケモン達の迷いもあったのが幸いか。まぁ、俺も俺でヒュウの妹のチョロネコを見つけること、プラズマ団を止めるまでは躓いてなんかいられないけど。ただ、一つだけミスをした。よほど頭にきた黒いプラズマ団の下っ端の一人が負けるや否や援軍を呼びに行ったんだ。

 

 「お前達、ポケモンは大丈夫か。これを持って行きなさい」

 

 これは助かる。これから下っ端達とは次々戦うだろうし、回復出来るアイテムは幾らあってもいい。

 

 「……あんがと。って、また来やがった!」

 

 ……あれ、白いプラズマ団の人達が。

 

 「君達のお陰で目が醒めました。確かに、その少年の言う通りだ。こちらは私達で留めておきます。あなた達は先へ行って下さい!」

 

 これは助かった……ん、ロットさんがヒュウを見ている?

 

 「ヒュウ、だったか。こちらへ向かう間にお前が探しているポケモンを特徴を聞かせてもらたが……恐らくダークトリニティ、ジョウト地方やカントー地方にいる忍者みたいな連中の誰かが持っている、と記憶している」

 

 ここにきて有力な情報が……けど、よりによってあいつらか。

 

 「分かった。もし、取り返せたら……アンタらの罪滅ぼしだっけ。手伝ってやる!」

 

 ヒュウ……変わったな、けどさ。

 

 「それは取り返してから言うことだろ、行くぞ!」

 

 「ああ!」

 

 二人でプラズマ団の船へ押し入る、今度こそ全ての蹴りを付ける為に。

 

 

 

 ヒュウはダークトリニティの居場所を探る為に、甲板にいる下っ端の相手を引き受けてくれた。なら俺はプラズマ団の親玉を叩くのみ。とは言え内部にも下っ端達が沢山いる訳で……

 

 「てめぇら、ダークトリニティの居場所を吐け!」

 「知らねえよ。つうか、ウルセエ!」

 「侵入者だ、やっちまえ!」

 

 ま、ヒュウならあの程度下っ端達相手、問題ないな。

 

 問題は俺だ。侵入したはいいけど、さっきから異常警報と共に慌ただしい走る音がしている。

 

 「あいつだ!」

 「追え、挟み込め!」

 

 げ、数が多い。上からも下からも、下っ端達がわらわらと現れる。まぁ、厄介と言えば厄介なんだけど、数が多いからこそ上手く戦う方法もある。この船自体が寝泊りする拠点だからこそ、戦う手段だって無意識の内に抑えるはずだ。例え広い船の中、アイアントの巣を駆け巡るような戦いだとしても、やりようはあるはずだ。

 

 「くそっ!」

 「サンダース、電磁波」

 「がっ……」

 

 少し躊躇したけど、倒した後から五人十人と援軍を呼ばれるよりはマシだ。だから、下っ端が痺れて動かない間にさっさと走り抜ける。或いは……

 

 「いたぞ!」

 「道を塞げ!」

 

 「ウインディ、駆け抜けてくれ!」

 

 威勢の良い返事と共に、ウインディが一気に下っ端の壁を突破する。とは言えだ、下っ端達は俺を追うだろう。だからこそ、次の手だ。

 

 「そのまま、地ならしだ!」

 

 突然の揺れに下っ端達の足元がふらついている。よし、今なら畳み掛けられる。

 

 「ルカリオ、いわなだれで道を塞いでくれ!」

 

 「てめぇ!」

 「ちくしょう!」

 

 ポケモンの技だから何時までも保つ訳じゃないけど、時間稼ぎならこれで十分だ。

 時には隠れ、目晦ましをしてなるべく戦力を保ったままプラズマ団の中心機関と言える最奥まで辿り着いた。

 そこにはやはり、以前見たのと同じように動けないままのキュレムもいた。以前、カゴメシティから聞いてきたキュレムの話が本当なら、ここでこの装置を壊したとしても俺も危ない……誰か、来る。

 「その装置は壊せぬ。ということは、キュレムをそこから救い出すことは出来ぬ」

 

 この声は……ヴィオとか言う老人だったはず。

 

 「と言っても、諦めきれぬか?」

 

 「はい。粗雑な扱いをされているの、見て見ぬ振りは出来ないので」

 

 この人達とは決定的に相容れない。なら、戦って進むのみだ。

 

 「そうか。なら、引導を渡すのが私なりの優しさだ」

 

 ──よし、これまでの連戦や足止めで色々と疲れも出ていたから多少苦戦したけど、どうにかなる相手だった。

 

 「むう、またしても負けるとは……だが、最後に笑うのはプラズマ団である!」

 

 あぁは言っているけど、あの老人に邪魔する手段はもうない、か。ただ、さっき言ったことは事実らしく、ポケモンバトルの余波を受けてもびくともしていない。確かに、簡単には壊せそうにない。なら、別の手段を探さないと。見たところ、行き先は二つあるけど、片方は下っ端が立ちふさがっている。

 

 「そこ、どいて」

 

 「フン、この先に行きたければ、まずは反対側に行きな」

 

 威勢だけはいいようだけど……もしかしてこの下っ端、ポケモンを持っていない?

 

 「そっちには何があるんだ?」

 

 「あんたをご指名だとよ。あの先に行ったら離れてやるよ。もっとも、乗った先でコテンパンにされるだろうけどな!」

 

 ご指名……俺を知っている誰かがそこにいる、か。

 

 「分かった。戻ってきたら、通させてもらうからな」

 

 恐らく、次も戦いになる。まずはポケモン達の体力やPPを回復して、と。それにしてもこの先にいる誰かって誰だ。プラズマ団の中で、俺を直接知っている人がいるとしたらダークトリニティ、もしくは……

 

 

 

 

 その先は、誰かの部屋のようだった。一人に対して一室与えられているということは、今のプラズマ団の中でも相当に上の立場の人がいるんだろう。

 

 「ようこそ」

 

 敵意の色を感じないこの声は……やっぱり、そういうことだったか。

 

 「私は知り合いに頼まれ、研究を手伝っていました」

 

 「正直、貴方がこんなことをする人だとは思いませんでしたよ、アクロマさん」

 

 けど、そうじゃないと説明できないことが沢山あった。特に、イワパレスをどかせる道具を的確に渡すなんて出来ないから。

 

 「そうでしょうか。私の望みはポケモンの能力を完全に引き出すこと。それが出来るなら、手段は問いません」

 

 手段を問わないで能力を引き出す、か。

 

 「貴方方トレーナーのように、心と心の交流でポケモンの強さを発揮させても、プラズマ団のように無慈悲なアプローチでも」

 

 その結果がキュレムを使った船、か。

 

 「そして、その結果……世界が滅ぶとしても!」

 

 ……はい!?

 

 「それはさておき……私がイッシュの各地で数多くのポケモントレーナーと勝負をしていたのは。ポケモンの強さを引き出せるか……その資質を見ていたのです。そう言う意味であなたはとても優秀です!」

 

 何か高く買われているけど、世界が滅ぶことはそれはさておき……で、済ませられる話じゃないよ!?

 

 「さぁ、私の望む答えを持つのかを教えなさい!」

 

 

 

 

 あの……滅茶苦茶強かったです。今日戦ったどのプラズマ団よりも強かったぞ、この人。

 

 「……強い。やはり、やはり、あなたは強いトレーナーだ。そんなあなたに尋ねます」

 

 あの時のような問いかけか。今度はどんなことを……?

 

 「ポケモンとトレーナーは、分かり合う事で更なる高みを目指せると考えていますか?」

 

 ああ、分かり切った答えで安心した。ルカリオや一部のエスパータイプのポケモンのようにお互いの意志を同じ言葉で理解し合えるポケモンはいるけれど、それは少数だ。

 

 「はい。ポケモンとトレーナーは信頼を築きながら同じ時間を生きています。使うのではなく、共に在ることでトレーナーとポケモンは互いに信頼するんだと思います」

 

 勿論、それは全員ではないだろう。けど、各街のジムリーダーやヒュウ、他のトレーナーだって自分のポケモンを大事にして……信頼している。

 

 「だからバトルのような緊張する場でも、ポケモンは自分の指示を聞いてくれるんです。信頼しているトレーナーがいるからこそ、ポケモンは自分の力を疑わずに発揮することが出来るんです」

 

 負けることも、失敗することもある。けど、それが信頼しない理由にはならないと思う。だって、一緒に生きているんだから。

 

 「なるほど、あなたの返答は私にとっての理想。実際、あなたはその信念を以て、ポケモンと向き合い、力を引き出している」

 

 そう見えましたか。そうであって欲しい、とは思うけれど。

 

 「繰り返しますが、私はポケモンを強くするなら手段は何でも良いのです。人とポケモンの交流では届かない高みがあるのなら、そこに心は無くても化学的なアプローチのみで能力を発揮させてもいいのです」

 

 今まで研究者ってアララギ博士くらいしか知らなかったけど……とんでもない人もいるんだなぁ……

 

 「ですが、あなたは私に可能性を見せてくれました。あなたが勝つのか、プラズマ団が勝つのか。実はこの一連の戦いは、私にとって人とポケモンの関りはどうあるべきかを決める戦いでもあるのです」

 

 ちょっと待った、今の言い方はまるで……

 

 「あなたがそれを決めている訳ではない、と?」

 

 こんな、如何にも特別な部屋があるのに?

 

 「ええ。では、何処で決めるのか。もう一度囚われたキュレムの前を通り、反対側へ向かいなさい。では、ご武運を」

 

 なるほど。まだ戦いは続くってことか。

 

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